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局長と秘書!

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 研究所内の局長室では二人の人物がいた。

「そうですか。やはり、彼女はあの文字について知っていましたか」
「はい。なので精霊から本を借りたのは彼女でしょう」

 局長はヒューバートから教会の地下室での出来事の報告を受けていた。
 その中で特に興味を示したのは、ヴァージニアがアートルム語を見た際の反応だった。

「……今まで何も目立った行動はしていなかったのに、転移魔法テレポートで海上に行ってから普通じゃなくなりましたよね」

 ヴァージニアだけでなく、どのギルドのギルド員でも国から監視されている。
 彼らの身の安全を守るためとの名目だが、危険人物がいないかを探るためでもあった。
 ヴァージニアは合成生物と遭遇したり、本の精霊に気に入られたり、その他に複数の妖精と会話していたとの報告があった。
 どれも普通の出来事ではなく、しかも短期間で連続して起きた。

「海で何があったのでしょうか?」

 ヴァージニアは海の上を移動した後、近くの大陸に転移魔法テレポートしている。
 漂流しいる間に魔力の回復をして移動したのだろうか。
 どこで少年と出会ったのかも不明だ。
 海の上なのか大陸なのか……。
 何故連れ帰ったのかも分かっていない。

「それで、噂の少年には会えましたか?」
「残念ながら少年は教会に来ていませんので会えておりません」
「はぁ、だから直接ギルドに行けと言ったのです」

 局長は完全に呆れた顔をしていた。
 机に肘をついている方の手は、軽く握られ額に付けられていた。

「しかしですねぇ、私が少年に会いに行くのはとても不自然なんですよ」

 面識のない人、ましてや子どもに会いに行くのは怪しまれるだろう。

「適当に理由を見繕えばいいのです。子どものギルド員がどんな様子で働いているのかを見に来たとか色々あるでしょう」
「え、それって局長の秘書の役目ですか?絶対に怪しまれます。嫌ですよ。私だって結構傷つくんですから」

 ギルドの本部の職員なら分かるが、研究局長の秘書が来たら首を傾げる人は多いだろう。

「どんな危険人物かも分からないのに、そんな悠長なことを言ってる場合ですか?」
「私はこう見えて繊細なんです。そんなに気になるのでしたら、ご自分で直接少年に会ってくればいいじゃないですか」
「私が嫌がらせを受けていて王都から出られないのを知っていて言いますか。そうですか」

 局長は一部の貴族から嫌われているので、自由に王都の外に出られない。
 出るにはいちいち許可を取らねばならないのだが、許可を出すまでわざと時間をかけているらしく、他の人に用事を言いつけた方が遥かに早かった。

「出ようと思えば出られるのでしょう?」

 王都に貼られている結界は局長を外に出さないように細工されているが、誤魔化そうと思えば出来てしまう。
 それだけの力を局長は持っている。

「調べればすぐにバレてしまいますよ。後でネチネチと追及されるされるのは嫌です」

 しかし、出たか出ていないかは魔力を追跡すればすぐに分かってしまう。
 なので局長はしない。
 勝手に王都から出たのを好機として責められるのは避けたい。

「ちょっと威圧すれば大丈夫ですって」

 身に纏うオーラをより大きく、かつ濃厚にすれば大体の生き物には効果がある。
 圧倒されて萎縮してしまうのだ。

「煽ってるようなものですよ。余計に私への態度が悪化するでしょうね」

 局長はフンと鼻で笑った。

「でしたら、少年を見たことがある人達に彼の様子を聴取するのはどうでしょうか?」
「幼気な子について聞き回ったら、それこそ不審がられます。少年に何かあると言っているようなものです。混乱を招く恐れがあります。ぐたぐた言っていないで、さっさと少年に会って来てください」
「えー……」

 局長は彼がこんなに腰の重い人間だっただろうかと思い、長めのため息を吐いた。
 子どもがやりたくないと駄々をこねているように見えた。

「……ところで、いつの間に髪型を変えたのです?」

 局長は左右非対称になったヒューバートの髪型を指摘した。

「いやっ、そのっ、これはですねぇ……あの、その……」
「大方、ジェーン氏に無礼な発言をした報いなのでしょう。顔を潰されなくてよかったですね。肉弾戦専門でなければ頭が吹き飛んでいたかもしれません」
「えっ……」

 ヒューバートの顔は一気に真っ青になっていった。

「現役を退いて長いのに、あれだけ巨大な魔獣を一撃で仕留められるのは流石ですねぇ」
「ええ、はい。魔獣の頭蓋骨は砕けておりました……」

 ヒューバートは魔獣の憐れな姿を思い出してどんよりとした表情になった。

「それを見ていたのに、ですか……。かのギルドに行きたくないのはジェーンさんに会いたくないからではないですか?」
「……」
「私はは子どもを秘書に雇ったつもりはないのですがねぇ……」

 局長はにっこりと微笑んだ。
 こんなに薄ら寒い笑顔はなかなかお目にかかれない。

「都合をつけて行きます」
「今週中にお願いします」
「報告書などがございますし……、それに調べ物もありますので……」

 ヒューバートも頑張って笑顔を作って見たが、引きつった笑顔になっていた。

「調べ物は他の人にやらせなさい」
「はい……」

 ヒューバートはこれ以上局長相手に言い争っていると、何をされるのか分からないので観念してヴァージニアとマシューがいるギルドに行く事にした。
 そのギルドには局長とは別の恐ろしさを持つ人物がいるので嫌なので、ヒューバートはとても胃が痛くなっていた。


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