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アリッサとブラッド!
しおりを挟む現在、アリッサとブラッドは町の周囲の巡回をしている。
ブラッドはアリッサの陰に入らずにそのまま歩いていた。
陰に入らないのは、近隣の町に魔獣が出没したばかりなので、ブラッドの匂いをつけておくためだ。
ブラッドはマシューにブラッシングをして貰ったのでいつもより毛並みが良くなっており、彼はとってもご機嫌だった。
だが、ブラッドは浮かれた素振りは見せずにのっしのっしと町の周りを歩いていた。
「うーん、もういいかなぁ?」
アリッサは辺りを見渡して周囲に異常がないか確認した。
「弱い奴の匂いしかしないから大丈夫だろう」
皆ブラッドの匂いを恐れて近寄らないだろう。
ブラッドは木々に体を擦りつけて匂いを付けた。
「折角、毛並みが良くなったのにごめんね。私が後で軽く梳かしてあげるよ」
「頼む」
アリッサはいつもならブラッドの背に乗って移動するが、そうするとツヤツヤになった毛並みが乱れてしまうので騎乗しなかった。
「マシュー君って小さいのにすごいよね。魔力量もだけど、それに加えて器用みたいだし」
「ああ、器用だな。魔力量だが……あいつが本気を出したらここら辺一帯、全て吹き飛ぶだろうな」
「え?そんなに?」
マシューはそんなに魔力を持っていただろうかとアリッサは首を傾げた。
そもそも彼はそんな大規模の魔法を使えるだろうか。
「よく分からんが、魔力を押さえ込んでいるようだ」
「そんな印象は受けなかったけどなぁ……」
魔力を押さえ込んでいても、その人の気配などから分かる人には分かるのだ。
「見た目に騙されているんじゃないか?子どもだと皆油断するだろう」
「その言い方だと、マシュー君が何か悪い事をしようとしているみたいじゃない」
無邪気に笑ったり驚いたりするマシューが悪事を働くとは思えない。
「そこまで言っていない。何者か分からないから言っているんだ。邪気や悪意の類いは感じられなかったから悪人ではないだろうが、だからこそ、どう転ぶか不安なんだ」
「ふふっ、そんな危険人物にブラッシングさせたんだ」
「悪い奴じゃなさそうだからな」
ブラッドは目を逸らせた。
「素直に気持ちよかったからでいいのに」
「フンッ」
ブラッドは照れたのかそっぽを向いた。
「フフッ。……だけど、スージーはマシュー君が危ないなんて一言も言ってなかったよね」
そんな雰囲気も出していなかった。
「野に生まれた俺と違って、あいつは人に作られた生き物だろう。だから感知出来ないんだと思う」
「一理あるね」
野生の生き物は生存本能からか感知能力が高い。
「ヴァージニアさんはどうなの?」
「ごくごく普通だな。魔力量も身体的にも。転移魔法が出来る以外、そこら辺の人間とさほど変わらん。何故マシューと一緒にいるのかさっぱり分からんな」
二人は何の共通点もない。
それほど二人は全然違うのだ。
「聞いた話によると二人は遠い親戚らしいけど……」
「二人はどこも似ていないんだから、親戚ってのはないだろう」
「遠い親戚らしいし、なんなら血が繋がっていない親戚なのかもよ。だったら外見もオーラも似ていなくてもおかしくないでしょう」
「人間は血縁関係がなくても世話をする生き物だからな」
魔獣のブラッドからしたら不思議でならない。
「そうそう、何だったら種族が違っても世話をしちゃうしね」
「俺は世話をされた覚えはない」
「えー、別にブラッドのことを言ったんじゃないけど」
「チッ」
ブラッドは不機嫌そうに、どしどしと歩きだした。
アリッサは苦笑しながら彼の隣を歩き、ギルドに向かった。
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