転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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マシューが留守番中にしたこと!

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 ヴァージニアはマシューに見張られながらサンドイッチを食べた。
 コーディは副ギルド長に呼ばれて奥の部屋に行ってしまったので、ヴァージニアは助けを求められないでいた。

(コーディさんは怪我が治ったから早速仕事の依頼が入ったのかな?優秀な人みたいだし……)

 マシューが作ったサンドイッチは昨日と具材こそ違うが、ヴァージニアは毎日のようにサンドイッチを食べているので流石に飽きはじめている。

「ねぇジニー、サンドイッチおいしい?ぼくがつくった、サンドイッチおいしい?」

 マシューはそれを感じたのか、じとりとした目つきでヴァージニアを見つめている。

(目つきが悪い!美少年だから迫力がある!)
「うん、美味しいよ」

 ヴァージニアはニッコリと笑ってみた。

「ほんとうに?」
「本当だよ」

 笑顔で美味しいと言ったのにマシューはまだ目つきが悪かった。
 ヴァージニアはどうしようかと悩み、サンドイッチを観察した。

「あっ!トマトが挟まってる~。トマトって水分が多いからベチャっとしちゃうのに、マシューが作ったのはなってない~。え~なんで~?」
「フフンッ。しおをふったんだよ!」

 マシューは胸を張って得意気な顔をしている。

「へぇ、そうなんだ~。だからこんなに美味しいんだね。マシュー凄いね。流石だね。ありがと~」
「んもぉ~、ジニーったらほめすぎだよー!」

 マシューの機嫌はよくなったようで、目尻が下がってニコニコしている。

(ククク、マシューちょろいな)



 ヴァージニアがコーディに奢ってもらったジュースを飲み終え、お腹を落ち着かせていると、マシューが何かを思い出したのか大声を出した。

「そうだ!ジニー、みてみて!」

 マシューはズボンの左のポケットから小さな袋を引っ張り出し、ヴァージニアに渡してきた。

「ん、報酬貰ったのか。どれどれ……」

 袋の紐を緩めると、中から前回よりも多い金額が入っているのが見えた。

「あれ?多くない?」
「ジニーのよりおおい?」

 マシューは目を輝かせている。
 なんなら鼻息も少々荒い気がする。

「……流石にそれはないけど」

 そこまで稼ぎは悪くない。
 幸い転移魔法テレポートを出来る人は多くはないので、希少価値があるのだ。

(急ぎの荷物だと給金もよいしね!)

 先ほどの角もちょっといいお値段だろう。
 そうであって欲しいとヴァージニアは願った。

「なぁんだ」

 マシューは唇を尖らせて不満げな顔になった。

(マシューは私がどんだけ貧乏だと思っているんだろ?貧乏だけど)

 全ては家賃のせいだ。
 だが、これでもマリリン達のおかげで少し安くなっている。
 もしそのままの値段だったら、マシューと一緒に暮らせないだろう。
 大きな都市ではないのでアパート等の集合住宅がなく、小さい一軒家を借りるしかないのだ。

「それで、なんでこんなに貰ったの?」
「そりゃ、ぼくが、がんばったからだよ」
「ふーん」

 マシューを気に入ってくれているから少し多めにくれたのだろうか。
 彼らの稼ぎだったらこれくらい大した金額ではないだろうが、お礼は言うべきだろう。

「ブラッドは綺麗になったの?」
「なったよ。ツヤツヤだよ!」
「じゃあ見に行こうかな?」



 ヴァージニアは食器を片付け、マシューと一緒にブラッドがいる庭に向かった。
 庭ではケヴィンとブライアンがギルドの新人達に稽古をつけていた。

「ありがとうございました!」
(ちょうど終わったみたいだね)

 ヴァージニアも新人に毛が生えたぐらいだ。
 彼らと共に訓練すべきだが、根っからの非戦闘員なので武術の訓練はしない。
 武術の訓練をしても、何も会得出来ずに時間と体力気力を消費するだけだろう。
 なのでしない。

「ヴァージニアお帰り」
「お帰り!」

 エイミーとスージーが声をかけてきた。
 心なしかスージーの毛並みがいい。

「先ほど戻りました。マシューの面倒を見てくださりありがとうございました。アリッサさんとブラッドは何処ですか?」
「巡回に行ったよ」

 ヴァージニアは二人がどうやって巡回しているのか気になった。
 二人は並んで歩いているのか、それともアリッサがブラッドの背中に乗っているのか、どちらなのだろう。

「そうでしたか。あの、マシューにお小遣いをありがとうございます。しかも前回より多いですよね。こんなに頂いていいんですか?」
「ああ、スージーもブラッシングして貰ったからね」
「どう?綺麗になったでしょう?」

 スージーが背中を見せてきた。
 よく見ると確かに前に見た時よりも毛が光っている。

「それに加え、たまたまギルドに来た人が連れていたスレイプニルもブラッシングしたの。来るとき見かけなかった?」

 あの立派な馬はマシューがブラッシングしたらしい。

「見ました。ツヤツヤしてました。あれをマシューがやったんですか?」
「ぼくすごいでしょ!」
「うん、すごい。ブラッドもスレイプニルも大きいから大変だったでしょう」
「ぼくのてにかかれば、なんてことないね!」

 なにやらマシューは威張っている。

「そ、そっか……。凄いね」

 ヴァージニアが言うと、マシューは更に威張った。

「ただの推測なんだけどね、マシューは色んな属性の魔法を使える素質があるから、ブラッド達の魔力の波長にも合わせやすいのかも」
「そそ!私とブラッドじゃ属性が違うもの。それなのに二人ともこんなにツヤサラになるんだから、相手に合わせられるんだよ!」
「合わないとゴワゴワになっちゃうもんね」

 ヴァージニアが前に聞いた話によると、使役している魔獣と信頼関係を築くために、わざわざ属性が付与されたブラシを使ってご機嫌を取る人もいるらしい。

(また難しい話だ……)
「んっと、マシューはどうやってブラッシングしてるんですか?」

 波長を合わせると言っていたので、属性が付与されたブラシは使っていないのだろう。

「ごく普通のブラシでやってたよ。それなのに、ホラ!こんなに綺麗なの!」

 スージーは再び背中を見せてきた。

「んー、そうねぇ。ブラシにコーティングしてるんじゃない?」
「コーティング……ですか?」
「そそ!ブラシをオーラで覆ってるの!しかも波長を合わせてね!」

 何やら小難しそうなことをマシューはしているらしい。
 ヴァージニアはいつの間にマシューがその技を習得したのか不思議に思い、彼の顔を見てみた。

「……?そうなの?」

 マシューは自分がやったことなのに、首を傾げた。

「まさかの無自覚かぁ……」

 ヴァージニアはマシューだものなと思った。
 いちいち嫉妬したり羨ましがったりしていたら身が持たない。

「あっ!そうだ!ジニー、これもみてみて!」
「ん?」

 マシューはヴァージニアから少し離れ、地面を転がりはじめた。

「んん?」

 マシューは転がっては立ち上がりを繰り返している。
 前後や左右に転がっては即座に立ち上がっている。

「ああっ!受け身か!」

 マシューは受け身を習ったようだ。

「どう?かっこいい?」
「おー……かっこいいねぇ」

 マシューは何回転がっても大丈夫なようだ。
 三半規管が強いのだろうか。

「おっ!マシュー、早速受け身のお披露目か?」

 ケヴィンとブライアンがやって来た。
 新人達から質問を受けていたが、終わったようだ。

「飲み込みが早かったから助かった」
「ふたりが、おしえるのがじょうずなんだよ!」
「ははっ!お世辞が言えるのか?」
「おせじじゃないよ」

 マシューは新人達に交じって稽古を付けて貰っていたのだろうか。
 大方、剣術などは危険だと判断され暇になったのでサンドイッチを作ったのだろう。

「マシュー、よかったねぇ……ん?」
「なぁに?ジニーどうしたの?」
「ねぇ、マシュー。ズボンの右ポケットに何か入れてる?」

 マシューのズボンを注視すると、右ポケットに茶色いシミが出来ている。

「あああ!わすれてたぁ!」

 マシューは右ポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。

「おやつにもらったの。ジニーにもあげようとおもって、とっておいたんだ」

 マシューは目をキラキラさせて、ティッシュに包まれた何かをヴァージニアに渡してきた。
 ヴァージニアは汚れがつかないように、ティッシュの包みの端を指で摘まんだ。

(ティッシュに包むっておばあちゃんかよ!)
「そっかぁ。ありがとうね。えー……何もらったの?」
「チョコとキャラメルだよ。あっ」

 マシューは手についたチョコを舐めだした。

「おいコラー」
「チョコおいしい」

 ヴァージニアは止めさせようと、マシューの手首を掴んだがビクともしなかった。
 身体強化していると思われる。

「はぁ……。マシューみっともないから止めなさい」
「チョコおいしいからむり」

 マシューはまだ手をペロペロしている。
 しかも真顔でだ。
 おかげで周囲にいる皆が笑っている。

「フヒヒヒッ」
「んふふふふっ」
「あー、もう、おかしすぎっ!」

 ヴァージニアが言われたのではないのに、恥ずかしくなってきた。

「マシュー、そんなことしたってチョコは買わないからね。ほら、早く手を洗って来て」
「ちぇっ」

 やはりマシューはヴァージニアがチョコを買ってあげるから止めろと言うのを待っていたらしい。
 油断も隙もない。

「汚れは魔法で落としてあげるよ」

 マシューのズボンの汚れはエイミーが綺麗にしてくれた。


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