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人間以外!
しおりを挟むヴァージニア達はヒューバートの言葉に驚いていた。
「すみません。今思い出したもので。昔はサイクロプスの角を粉末にして燃やし、魔獣避けとして使っていた地域があったそうです。現在流通しているのはその匂いに似せたものです。ハーブなどの材料を調合して作っているそうですよ」
「あれって、大きな力を持つ者の匂いをさせていたのか。ただ単に奴等の嫌いな匂いなのかと思ってた」
ヴァージニアもそうだと思っていた。
「他にはドラゴン等もあるそうですよ。鱗など体の一部を同じように使用するのだと先代から聞きました」
今度は教会の長が別の大きな力を持つ種族の話をしだした。
「ドラゴン……」
ヴァージニアは驚きのあまり思わず口に出してしまった。
彼女の中では伝説上、あるいはおとぎ話の中の生き物だ。
と言うか、サイクロプスもそうだと思っていた。
「ここの教会の先代は、ジェーンさんと同等の力を持った人物だった聞いておりますよ」
「やあねぇ。そんな人はいっぱいいるでしょう」
ジェーンは謙遜でもなく、本当にそう思っているような笑顔をした。
「え……」
だが、ジェーンの言動に教会の長以外の全員が固まっていた。
「んー、国王から直接頼み事される人なんてごく少数だろう」
「そうかしら?私の仲間はみんな呼び出されていたと思うけど?いつも急なのよね。そっちの仕事を早急に片付けて大至急来いっておっしゃるのよ?」
ジェーンの仲間は皆かなり優秀な人達だったのだろう。
「信頼されていたんですね」
「信頼はお金で買えないって言うけど、お礼にいつも沢山貰ってたわね」
王命であっても慈善活動ではないらしく、ちゃんと報酬が出ていたようだ。
「ああそうだわ。それで魔獣避けに必要なサイクロプスの角ってどうやって手に入れてたの?まさかやっつけて奪ったとかじゃないでしょう?」
「ああ、分けて貰っていたそうですよ。彼らの角の手入れの際に出た削り滓を貰っていたそうです」
ヴァージニアは大きなサイクロプス達の角の手入れをする姿はなんだか微笑ましい光景な気がした。
それと同時にドラゴン等も脱皮とか換毛期とか歯の生え替わりの時に出た物を貰っていたのか気になっていた。
「無料ではなく等価交換なんだろうから、人間の物と交換とかか?」
「ええそうです。彼らのために専用の武具を作ったり、料理や酒を振る舞ったり個人によって違ったようです」
「交流があったんですね」
異種族の人達との交流はどんな感じだったのだろう。
それこそおとぎ話のような気がしてしまう。
「ですが、彼らは何処かに行ってしまったのですよね……」
「はい。絶滅したと言う人もいますが、目撃者もたまに出るので人間が入れない場所に移動したのだろうとの説があります」
偶然彼らの場所に入り込んでしまった人が目撃者になったのか、隠れ里からうっかり出てきたサイクロプスがいるのか、どちらだろうか。
「一緒に暮らせなくなった理由があるってわけか」
「はい、おそらく。勇者と魔王の時代以降に見られなくなったそうですよ。なので何らかの影響があったのでしょう」
また勇者と魔王かよ、とヴァージニアは思った。
「この角の持ち主の安否は分かりませんが、この地を守ろうとしてくれたのは確かでしょう。実際、このような教会もあるのですし」
「教会を建てた女性を調べれば何か分かるかもな」
「あの像の人よね」
ジェーンが言うと一斉に女性の像を見た。
「あの方は、千年ほど前のこの地の有力者の娘さんだそうですよ。しかし、それ以外は不明なのです。家名も分かりませんし」
「近隣の地域の有力者との繋がりもないのですか?」
ヴァージニアの頭には太った坊ちゃんの顔が浮かんだ。
彼もいい家の出身だ。
「ええ、彼らはせいぜい数百年ほどのようです」
「家は途絶えちゃったのね」
せいぜいと言われているが、数百年でも十分名家だろう。
「あるいは引っ越したとかはどうでしょう。力がある人だったら、王都に行ったとかですかね?」
余程の道楽をしない限り滅多に家は潰れないはずだとヴァージニアは考えた。
「んー、それはこちらで調べましょう。この地からの有力者……、いや、王都から見たら突然現れた風に書かれるかもしれませんし、もしかしたら、宮廷に引き抜かれたというのもあるでしょうね」
ヒューバートは真剣に考えながら言ったが、コーディは飽きてきているような顔をしていた。
「んまぁ、俺達には関係のないことだよな。もう帰っていいか?」
ヴァージニアは飽きてはいないが、すでに彼女が調べられる範疇を超えており帰りたいと思っていたのでコーディに賛成である。
「そうですね。古代文字の解読と、教会を建設した女性の素性はこちらで調べます。多分ですが、サイクロプスの変異個体についても何かしらの記述は見つかるでしょう」
「じゃ、帰りましょうね。あらやだっ、もうこんな時間なの?」
ジェーンの持つ時計の針は午後1時近くを指していた。
「どーりで、小腹が減ったと思ったら」
コーディは顔をしかめて自身の腹を撫でた。
「食事はギルドで食べるの?それともこの町で食べていく?」
「俺はギルドに戻る」
「私もマシューが心配なので帰ります」
マシューは頼もしい人達が面倒を見てくれているので、何かが起きて機嫌を損ねてはいないだろうが、一応心配は心配なのだ。
「あらそう?私はここで何か美味しい物がないか見てくるわ」
「じゃあ、また後で」
ジェーンはこの町に残り、ヴァージニアとコーディはギルドに帰る。
(ジェーンさんは食べた後に走って帰るのかな?)
彼女ならやりかねないなとヴァージニアは思い、その姿を想像していた。
(お腹痛くならないのかな?丈夫なのかな?)
ヴァージニア達が教会から出ようとした時だった。
「ああ、そうだ!ヴァージニアさん、こちらをお返しいたします」
「そんな、わざわざありがとうございます」
ヴァージニアは教会の長から魔力回復薬を貰った。
「教会を守れたのは貴女のおかげです。ありがとうございました」
教会の長は深々と頭を下げた。
つられてヴァージニアも頭を下げた。
「大袈裟ですよ。結界のおかげですよ」
と言いつつ、内心嬉しいヴァージニアであった。
ヴァージニアはコーディと共に転移魔法で戻って来た。
「俺も何か礼をした方がいいか?」
「私、そんなにケチじゃないですよ?」
同じ仕事での移動なので金銭を要求したりしない。
「んー、まあでも昼飯を奢るよ」
「ご馳走様です」
(食費が浮いたぞー!!)
ヴァージニアはお辞儀をし、心の中で小躍りをした。
ヴァージニアが顔を上げると、コーディの様子が変わっていた。
「おお!見ろ!スレイプニルだ!」
ヴァージニアが心の中で踊っていたら、今度はコーディが踊り出しそうなほど喜んでいた。
「本当に足が8本ある……」
スレイプニルとは足が8本もある馬である。
ヴァージニアは絡まらないのだろうかと心配してしていた。
「立派な毛並みだな!」
「ツヤツヤに光ってますね」
スレイプニルもどこか嬉しそうに歩いている。
艶々な毛並みのおかげで筋肉の隆起もよく分かる。
かなり鍛えられた優良馬だと思われる。
「いいなぁ。あいつがいたら移動も楽なんだろうな……。って転移魔法出来る奴に言っても共感して貰えないな」
「ははは」
移動が楽になるだけでなく、あんなに立派な生き物を使役出来る人なら信用度も高くなりそうだ。
アリッサが連れているブラッドもそうだろう。
ブラッドもかなり上級の魔獣のはずだ。
(普通に人間と喋ってるしね)
魔獣には魔獣の言葉があるらしい。
(ガウガウ言うのかな?)
だが、人間が住んでいる国や地域によって言葉が違う様に、魔獣も種族や生息地域で違うのではないか。
そうヴァージニアが考えながら歩いていたら、ギルドに到着していた。
ヴァージニアは即座にコーディに何を奢って貰おうかと考えを切り替えた。
「ジニー!」
ギルドに一歩入ったら、マシューの声がしたが彼の姿は見えない。
声のした方向から考えると、恐らく庭にいると思われる。
「魔力を探知出来るようになったのか」
「そのようですね」
ヴァージニアは考えるのが面倒臭くなり、マシューだものな、で考えるのをやめた。
そんな事は知らずに、マシューは三つ編みを靡かせながら登場した。
「おかえり!」
「ただいま」
マシューが元気そうなので、ヴァージニアは安心した。
「ねぇねぇ。ジニー、サンドイッチたべる?」
マシューは目をキラキラと輝かせて尋ねてきた。
なんだったら頬も紅潮させている。
「んえっ?いや、今日はコーディさんが奢ってくれるから……」
今日はいつもより豪華な昼食を食べるのだ。
すでに口がそうなっている。
「……ぼく、つくった。ジニー、たべて」
(何故片言に……)
マシューは目を細めでじっとヴァージニアを見ている。
「お持ち帰りじゃ……」
「いま、たべて」
マシューは怖い顔をしており、ヴァージニアはたじろいでしまった。
ふとコーディの方を見ると、彼は肩を震わせて笑っていた。
「ふひひっ、今日は飲み物を奢るよ。クククッ」
「ありがとうございます……」
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