転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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質問してみた!

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 夕食になり、マシューはコロッケを美味しそうに食べた。
 ヴァージニアがその様子を観察しているのにマシューは気付いていなかった。

(マシューはソースの量も研究しているようだ……)

 マシューは最初の1個目はソースを少しだけかけて食べていた。
 しかし、2個目3個目とソースの量を少しずつ増やしていった。

「おやすいソースもわるくないね!」
(いや、何様だよ!お子様だよ!)

 ヴァージニアは野菜も食べるようにマシューに勧めた。

「ソースはやさいからつくっているらしいから、たべなくてもいいんじゃないかな?」
「マシュー、怒るよ?」
「ジニー!ぼうりょくはよくないよ!」
「ねぇ、マシュー。本当にソースだけで野菜の栄養素が摂れると思っているのかな?」

 ヴァージニアはマシューの顔をじっと見た。
 マシューはいつものように口の周りにコロッケの衣とソースを付けている。

「やさいにソースかけるね……」

 野菜炒めにはすでに塩胡椒がしてある。
 なのでソースをかけたら、かなりしょっぱくなる。

「塩分摂りすぎになっちゃうから駄目!生活習慣病になっちゃうよ。マシューの食生活は、塩分も糖質も脂質もぜーんぶ摂りすぎだからね」
「……だっておいしいんだもん」

 マシューは頬を膨らませて怒っている。
 また可愛いアピールだろうか。
 しかし、そんなのに騙されないヴァージニアだった。

「健康のためには栄養のバランスよく食べないとね」
「むぅ」

 マシューはあからさまに不機嫌な表情になった。

「そんな顔をしたって、野菜を食べなくていい理由にならないからね」
「ぼくはコロッケしょくなんだ」
「何、肉食みたいに言ってるの。野菜嫌いなんじゃないでしょ?」
「うん。だけど、やさいもたべたら、おなかいっぱいになっちゃうでしょ?」

 マシューはよい考えを思いついたかのような顔をしている。
 駄目だから、とヴァージニアは思った。

「コロッケの量が多いんだよ。そんなに食べたらお腹いっぱいになるに決まってるじゃないか」
「だって、たくさんたべたいんだもん」

 マシューは頬を膨らませている。
 可愛いが駄目なものは駄目なのだ。

「好きな物だけ食べるのは駄目だよ。マシューは栄養の本を読んだんでしょう?」
「やさいがはいったコロッケつくらなきゃ……」
「揚げ物ばっかり食べていたら、太っちゃうよ。丸くなっちゃうよ」
「……あいつみたいになっちゃう?」

 あいつとはもちろん、ぽっちゃりお坊ちゃんであろう。

「なっちゃうよ~」

 ヴァージニアは眉間に皺を寄せ、マシューを脅かした。

「……コロッケがまんするよ」
「たまに食べる事で、美味しさを再確認出来るんじゃないかな?」
「そういう、たべかたもあるのか……」

 マシューは納得したようで、残りのコロッケ2個を明日に回すようだ。



 入浴後、マシューはせっせと三つ編みをしていた。
 マシューの小さな手では長くて毛量の多い髪の毛を三つ編みにするのは大変そうだった。
 何とか三つ編みが終わった時、ヴァージニアは本の存在を思い出した。

「そうだ。メイクオーバーの本に三つ編みについて何か書いてあるかな?」
「みてみよう!」

 二人は早速、本を見てみた。

「えーっと……、お洒落好きな妖精の力を借りる……ってなんだこれ?」

 妖精と言うと、ださい妖精のクソ生意気な顔が頭に浮かび、ヴァージニアは少し嫌だった。

「ようせいさん、ちからをかしてください」
「……」
「……」
「なにもおきないね……」

 魔力が高いマシューで何も起きないのなら、ほとんどの人はこの本の内容を実行出来ないと思われる。

「えーっと、他には念動力サイコキネシスで動かすって書いてある」

 こちらの方が現実的だろう。
 ちなみに、念動力サイコキネシスも魔法の一部だ。

「さいこきねしすって?」
「物を動かすんだよ。スプーンを曲げたりね」
「パッといどうするんじゃないんだね」
転移魔法テレポートではないね。ヘアメイクってことは、かなり繊細な動きが必要だろうね」

 魔法で皿を洗えないヴァージニアには無理そうだ。

「マシューなら出来るんじゃない?私より器用だし」

 マシューはお皿洗いもあっという間にやってしまう。
 魔力の操作が上手いのだろう。

「やってみる!」

 マシューが髪をほどいて、念じてみるとマシューの髪の毛が四方八方に広がった。
 静電気が起きたみたいになっている。

「……ふふっ」
「ジニー!わらわないでよ!」

 マシューの髪の毛がうにょうにょ動き出した。

「お?」
「わー、あたまがひっぱられるー」

 どうやら頭皮が引っ張られているようだ。

念動力サイコキネシスやめたらどうだい?」
「そっか」

 マシューは念動力サイコキネシスをやめたようで、髪の毛が元に戻った。
 誰もがうらやむ真っ直ぐで艶やかな髪の毛だ。

「けっこうむずかしいね。コツとかあるのかな?」
「この本によると、どうなりたいのか強くイメージするんだって」
「ほうほう」

 マシューは再び念動力サイコキネシスを使った。

「三つ編みだよ」
「みつあみ!」

 マシューが言うか言わないかのタイミングで、彼の髪の毛が三等分された。

「おおっ?」
「みつあみ-!」

 マシューが言うと、三等分された髪の毛が動き出した。

「みつあみになれー!」
「頑張れ、マシュー!」

 うにょうにょ動き出した。
 左側の毛束が内側に入り、今度は右側が内側に入った。
 これを何回も繰り返し、三つ編みが完成した。

「どう?かっこいい?」
「うん、格好いいね」

 立派な三つ編みが完成していた。

「ジニーにもやってあげるよ!」
「気が向いたらやってもらおうかな?」
(もう少し慣れたらお願いしよう。頭皮が引っ張られるの嫌だし)
「いつでもいってね!」

 マシューは本当に何でも出来るんだなとヴァージニアは感心した。
 ヴァージニアは羨ましいやら、怖いやら、なんやらと色んな感情が出てきたが、大きな力は良いことに使って貰いたいと考えた。

「じゃあ、もう寝よう」

 現段階ではマシューはコロッケ屋になると言っているので心配しないでいいだろうか。

「ねよ-!」

 ヴァージニアは明かりを消し、マシューと一緒にベッドに横になった。

「ジニー、おやすみのハグしないと」
(なんだそれ?)

 と思いつつもハグ程度ならやってもやらなくてもさほど問題はない。
 流石にちゅーは嫌だが。

「はい、ハグ」

 ヴァージニアはマシューの小さな体に抱きついた。
 よく走り回ったりしているからか、少し筋肉がついてきたようだ。

「んふふっ」

 マシューは照れているのか嬉しいのか笑い声を出した。

「いつもぼくがさきにねるのに、きょうはジニーもいっしょにねるんだね」
「早起きは疲れるからねぇ」
「ジニー、おつかれさま」
「うん。ありがとう」

 ヴァージニアは寝ようと思っているのだが、マシューが話しかけてくるので眠れなかった。
 今日はやたらマシューが睡眠の邪魔をしてくる。

「サンドイッチおいしかった?」
「美味しかったよ」

 ヴァージニアがそう答えた時にコーディの言葉を思い出した。

「そうだ。マシューはサンドイッチを作るときに何を考えていたの?」
「んっとねぇ、つかれがなくなりますようにと、げんきになりますようにと、わるいところがなくなりますようにっておねがいしたよ」
「そうなんだね」

 おそらくコーディが食べたのは最後の悪いところがなくなりますようにのサンドイッチだろう。
 これで解呪され、元気になりますようにのサンドイッチで怪我が治ったのだろうとヴァージニアは考えた。

「内緒の話なんだけどね、コーディさんの怪我が良くなったのはマシューのサンドイッチのおかげなんじゃないかって言ってたよ」

 ヴァージニアはどうしてマシューに伝えようとしたのか分からないが、これだけは言っておきたいと思った。

「ほんとう?」
「本当だよ。マシューすごいね!」
「ジニーは?ジニーはげんきになった?」
「うん。食べてなかったら仮眠をとっただけじゃ午後は活動出来なかったと思うよ」
「えへへ、よかったぁ」

 マシューは嬉しそうに言った。
 暗くてよく分からないが、多分頬を赤くして照れているのだろう。

「マシュー、ありがとう」
「またつくるね!」
「楽しみにしてるね」

 そう言い終えてヴァージニアの頭には昼間の出来事が浮かんだ。
 マシューが本を借りてきた際の会話だ。

「……ねぇ、マシューは勇者と魔王を知っているの?」

 マシューと勇者と魔王は同じ時代にいたのだろうかとヴァージニアは考えていた。

「うん。しってるよ!だってぼくの――だもん!」
「え?」

 上手く聞き取れなかった。
 マシューはなんと言ったのだろうかとヴァージニアが困惑した顔をしていると、見かねたマシューが再び何かを言った。

「だからね、ふたりはぼくの――だよ」
(ん?)

 マシューはもう一度言ってくれたが、ヴァージニアは聞き取れなかった。
 聞こえなかったのではなく、聞いたことのない音だったのだ。

「そうなんだね」
「そだよ」

 相変わらずマシューが何と言ったのかさっぱり分からなかったが、ヴァージニアは分かったふりをした。

「それで勇者と魔王に詳しかったんだね」
「くわしくはないよ。ちょっときいただけだよ」
「そうなんだね」

 ヴァージニアは血の気が引いていた。
 マシューが何を言ったのかは分からないが、流れから考えると汗が出てくる。
 更にマシューが昼間に言っていた内容と、図書館で目にした文字から考えるととんでもない事実が浮かび上がってきた。

(いや、あくまで可能性だしね。うん……。古代文字が正しいとは限らないし、たまたまそれっぽい言葉になっただけかもしれないしね)


 ヴァージニアは必死に言い聞かせ、眠りにつく努力をした。


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