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まじない!

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 皆で話をしていたら、ギルドの入り口に人影が見えた。

「お!ジェイコブがいる!」
「コーディか」

 今度は怪我をしている人がギルドにやって来た。
 彼も仮眠をとっていたのだろうか。

(名前はコーディさんて言うんだ。……あれ?)
「あれ?コーディさん、怪我は治ったんですか?」

 ヴァージニアの疑問をケヴィンが言ってくれた。
 スカーフで隠れていたが首にコルセットをしているのが見えていたし、片腕にもギプスを付けていたのだ。
 明らかに負傷しているように見えたが、今は包帯も絆創膏すら見当たらない。

「ああ、なんかな。急によくなったんだよなぁ」
「コーディさんが怪我したから、俺達全員が招集されたんですよ」
「そうそう。女2人だけだったのに、男2人も呼ばれたんだもの」

 エミリーの言い方からすると、コーディはケヴィンとブライン2人分の力量があるのだろうか。
 それとも若い2人に経験を積ませるためだろうか。

 いずれにしろ、酷い怪我をしているのに出動した理由がよく分かった。
 怪我をしていても、残った人達よりずっと強いのだ。
 尚且つ、ジェーンが暴走しそうになっても止められる人が必要だったのだろう。

「なんか、よく分からんが、良くなったとしか言えないなぁ」
「回復魔法も効かなかっただろう?」

 ジェイコブがさらりと怖い事を言った。

(え、回復魔法が効かないなんてあるんだ)

 ヴァージニアはマリリンと一緒に食べ終わった食器を片付けるのを手伝った。
 マシューは皆の話を興味深そうに聞いているので、席に残してきた。

「ああ、回復系魔法が効かなくなる呪いをかけられちまったんだよ」
(そんな呪いがあるんだ……。怪我したままなんだから、回復薬も効かないってことだよね。こわっ)

 大怪我をしたままだったのだから、薬も効かないのだろうとヴァージニアは考えた。

「教会に行ったから呪いが解けたとかか?」
「おお、そうかもな。教会が壊れるのを防いだから、あそこの神様が解いてくれたのかもな!」
「よかったね!」
「おう。いい事はするに限るな!」

 コーディはニッと歯を出して笑った。

(うー……神様は私には何かないんですかね?)

 避難させただけではいけないのだろうかとヴァージニアは首を傾げた。
 だが、コーディはジェーンが投げるための石や瓦礫等を集めていただけだと思う。

(釈然とせぬ……)

 ヴァージニアは食器を置いて厨房のスタッフに任せてきた。
 マリリンは厨房に知り合いがいたらしく、話を始めた。
 多分激辛についてだろう。

(私にはまだ来てないだけかな?)

 コーディが呪いを解いてもらったなら、ジェーンと厨房のおじさんはどうなったのだろう。
 ヴァージニアは2人を探そうとギルド内を見渡そうとした。

「ヴァージニア、ちょっといいか?」
「え、はい。なんでしょう?」

 他の皆は談笑しているが、コーディがこそっと抜けてヴァージニアの隣に来ていた。

「なぁ、マシューは何をしたんだ?」
「……え?」

 ヴァージニアの心臓はドクンと大きく鳴った。
 何を聞かれるのか不安に思い、ヴァージニアは身構えた。

「怪我が治ったのはマシューのサンドイッチを食べてからだ。安心しろ、話を聞かれないように音声を遮断している」

 ヴァージニアは知らぬ存ぜぬは出来ないと判断した。

「……前にマリリンが体力回復のまじないをかけたサンドイッチを持って来てくれたんです。多分それを覚えていたんだと思います」
「はぁ、サンドイッチにかけたまじないで解呪と怪我の治療をか。魔力が高いからって簡単に出来るもんじゃないんだがな……」

 コーディは腕を組み、治ったばかりの首を傾げてため息を吐いた。

「はい……」

 ヴァージニアはマシューを見た。
 元気いっぱいに笑っている。
 やたら美形なのを除けば、ごく普通の子どもに見える。
 しかし、ヴァージニアとマシューが出会ってからそんなに経っていないのに、驚かされてばかりだ。
 もしかしたら、マシューの規格外の能力を知ったら怖がる人がいるかもしれない。
 ヴァージニアはマシューが白い目で見られたり、陰口を叩かれたりするのは嫌だった。

 ヴァージニアがマシューの顔を見ていたら、視線を感じたのかマシューがヴァージニアと目が合った。

「ジニー!」

 そしてマシューがヴァージニアの元に駆けてきた。

「なんのおはなししてるの?」
「互いの健闘を称えてたんだよ」
「そっか……」
「おう。真夜中の出動は堪えるなーって話してたんだ」
「ふぅん」

 おそらくだが、マシューがヴァージニアの所に来たのは彼女の声が聞こえなくなったのもあるだろう。
 身体強化で聴力も良く出来るはずなので、聞こうと思えば遠くにいるヴァージニアの声が聞けるのだ。

(迂闊な発言出来ないなぁ)
「血生臭い話をしてたんだ。マシューも聞きたかったかあ?」

 コーディはマシューを驚かすように言った。

「ちなまぐさいのはヤダ」
「でしょ。ここは食事するところだしね」
「そっか!」
(よし、上手く誤魔化せた)

 マシューは納得してくれたようで、ヴァージニアは安心した。

「マシュー、コロッケを買って帰ろうか」
「わーい!」

 マシューはコロッケ定食を食べ損ねたので、大喜びである。
 ヴァージニアとマシューが帰ろうとした瞬間、コーディから声がかかった。

「いや、ちょっと待て。明日、またあの教会に行くぞ。報告した虹についての調査をしたいらしい。んで、発見した俺らの話を聞きたいんだと」
「ジニーがいくなら、ぼくもいくよ」
「えー」

 まだ局長の関係者がいる可能性があるので、出来ればマシューを連れて行きたくない。

「もうわるいまじゅうは、いないんでしょ?」
「いないが、部外者は来ちゃだめだろう」

 コーディはヴァージニアの様子から、マシューを教会に行かせたくないのだと察してくれたらしい。

「ガビーン」
(また変な言葉を言ってるよ。教えるべきかなぁ?)
「……マシューは随分と古い表現をするんだな」

 ヴァージニアが言おうか迷っていたら、コーディが指摘してくれた。

「そうなの?」
「うん、実はそうなんだよ」
「ヴァージニアが言うわけないしなぁ……。あ……」

 コーディは誰がマシューに教えたのか気付いたらしい。

「うんまぁ、とにかくマシューは留守番だな」
「こんごのべんきょうのために、なんとか……」

 マシューは両手を擦り合わせている。
 なんなら、揉み手もしている。

(ギルドには色んな人が来るんだなぁ……)
「コロッケ屋さんになるのに教会に行くの?」
「神頼みか?」
「かみさま、ぼくもきょうかいにいきたいです」
「いや、商売繁盛をお願いしないよ」
「それはじつりょくでしないと。ジニーったら、かみだのみで、どうにかなるとおもってるの?」

 マシューはフンッと鼻で笑った。

(なんか、腹立つなぁ)
「思ってないけど……」
「じつりょくでかちとったほうが、うれしいとおもう」

 マシューは腰に手を当てフフンと言った。

「うん、そうだね」
「マシュー、いい事言うなぁ」

 ケヴィンが話を聞いていたらしい。

「でしょ?」
「そうだ。マシュー君、明日またブラッドのブラッシングをお願いしてもいいかな?」
「ぼくへのいらいだね。もちろんいいよ!」
「ふはははは、終わったら稽古をつけてやろうぞ」

 ケヴィン達はマシューを気に入ってくれているらしい。

「やったー!」
「ありがとうございます」
「いいんですよ。ブラッドも気持ちがいいみたいですし」
「ねぇねぇ!ブラッドはいまどこにいるの?おそと?」

 マシューはキョロキョロしている。
 勢いよく首を左右に振っているので、彼の三つ編みも動いている。

「私の影の中にいますよ」
「かげ?」

 マシューが床を見ると、アリッサの影から熊の手が伸びてきた。
 顔を出さないあたりがブラッドらしい。

「な、なにもないところから、ブラッドのてがでてきた!」

 マシューは目を丸くして驚いている。
 ブラッドの手はもう見えないが、マシューはアリッサの影をしげしげと見つめた。

「スージーも影に入れるんですか?」

 ヴァージニアはアリッサの隣にいたエミリーに質問した。

「スージーは元々私の魔力だから、影に入るというより体内に入る感じかな。言われてみると、うーん、表現しにくいなぁ」
「元に戻る感じかな?」

 エミリーの肩の上にいるスージーが言った。

「へぇ、そうなんですね」
(なるほど、全然分からない!)

 ヴァージニアは、つい分かったような返事をしてしまったが、何も理解出来ていなかった。

「あっ、だけど、元に戻るより一体化する感じかな?」

 スージーは首を傾げた。

「一体化、ですか……」
「うーん、一体化かぁ」

 エミリーもスージーと同じ方向に首を傾げた。

「元々エミリーさんの魔力なのだから、魔力は上がるんですか?」

 ヴァージニアにはさっぱり分からなかった。
 生き物を作ったり、使役したり出来るのは魔力が高い人だけなので、ヴァージニアには無縁の出来事だと思い学んでこなかったのだ。
 大体の人と同じように、ただひたすら、自分に出来る事しかやってこなかった。

「私が作ったとはいえ、もう別の生き物だからなぁ。あ、魔力が上がるかって?」
「そりゃあ、魔力を持った別の生き物を取り込んだら魔力が上がるでしょう」
「その場合は憑依と呼ばれるけどね」
(憑依って幽霊のイメージがある)

 後は悪魔とかあまり良くないイメージのものだ。

「憑依だと肉体はないから違うんじゃない?」
(やはり幽霊かその類いなのかな?)
「ああそっか。スージーは誰でも触れられるもんね」

 ヴァージニアは二人の話を聞きながら、全然分からないと叫びたかった。

「あの、今の言い方だと、特定の人にしか触れない何かがあるみたいなんですが……?」
「単純に魔力が高い人にしか触れなかったり、その何かと共鳴や感応した人にしか触れられなかったり、色々あるの」
「へぇ、そうなんですね」

 先ほどの一体化云々の話よりは分かったのだが、ヴァージニアはさっきと同じ返事をしてしまった。
 少々頭が混乱してきているようだ。

「ジニー、なんのおはなししてるの?」

 マシューには聞こえているはずなので、話に加わりたいので質問してきたのだろう。

「スージーがエミリーさんの中に戻ったらどんな感じなのか聞いてたんだよ」
「どんなかんじなの?」

 マシューは二人の方を向いた。

「表現しにくいって話をしてたんだよ」
「いっしんどうたい?」
「そうだと言われればそうかなぁ?」
「元々一つだったのに?」

 エミリーが首を傾げると、スージーも首を傾げた。

(さっきも見たぞ)
「一卵性双生児みたいな、ですか?」
「ソーセージ?」
「マシューってば、食べ物を思い浮かべてるんでしょ。双生児は双子のことだよ」

 スージーはクスクス笑った。

「し、しってるし。ボケてみたんだしっ!」
(嘘だぁ)

 マシューは頬を真っ赤にし、口を尖らせている。

「えー、本当かなぁ?」
「ほんとうだよ。ソーセージはふたご!」
(合い挽き肉の時みたいな想像してそうだな。ソーセージの双子を想像してそうだ)

 マシューはまだ頬が赤かった。


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