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仕事だ!(1)
しおりを挟む翌朝、マシューはご機嫌でコロッケパンを食べた。
その後、ヴァージニアとマシューはギルドに行った。
マシューはもちろん、昨日マリリンから貰ったセーラーカラーの服を着ている。
彼のために作られたのではないかと思うぐらい、とてもよく似合っている。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「はい、おはよう。マリリンから話は聞いているわよ。マシュー君、今日はヴァージニアと別々よ」
「しょうがないよね…」
マシューが嫌がらないのは、昨晩必死に言い聞かせたからだ。
「そうよ、しょうがないのよ。お仕事だからね」
看板娘はにっこりと笑顔を作った。
皺が増えたとかは思ってはいけない。
ヴァージニアもいずれそうなるのだから。
「そうだね、しょうがないよね…」
マシューは残念そうに床を見ている。
明らかに落ち込んでいるようだ。
(何度も言わなくてもいいでしょうに…)
「はい。マシューをお願いします」
「ええ、任せておいて。マシュー君は学校行ってみたくない?」
「がっこう?」
「そうよ、今はちょうど体験入学をやっているのよ」
「へぇ…」
いいですね。とヴァージニアは続けようとしたが、すでにマシューは魔法を使えるようになっている。
それがバレたらどうなるだろうか。
お偉方の子どもなら幼い頃から家庭教師を雇って魔法を習っているが、マシューは違う。
変な注目は浴びたくない。
「いえ、ここで預か――」
「ぼく、いってみるよ!」
マシューは明るい顔で言った。
「え」
「あら、いいお返事ね。連絡しておくわね。連れて行くのも私がするから、ヴァージニアは安心して仕事に行ってらっしゃいな」
「えっと、あの…」
断れなくなってしまったので、ヴァージニアは焦った。
「大丈夫よ。マシュー君にもいい気晴らしになるんじゃない?」
(ああ、そんな設定だったね…。ジェイコブが大変な環境で育ったとでも言ったのかな?)
「じゃ、じゃあお願いします」
「おねがいします!」
相変わらずマシューは元気いっぱいだ。
「マシューちょっと…」
ヴァージニアはマシューと一緒に部屋の隅に移動した。
昨日も同じ事をしたなと思った。
「なぁに?」
「マシュー、魔法はあんまり使っちゃ駄目だよ?みんなは多分使えないだろうから、魔法を使ったら目立っちゃうと思うんだ」
「めだつのダメなの?」
マシューは容姿がいいので、すでに十分目立っている。
ギルドに来るまでも道行く人達の視線の的になっていた。
「もしかしたら一緒に暮らせなくなっちゃうかもしれないよ」
「…わかった。ぼく、めだたないようにするよ」
「約束だよ。他の子と同じようにするの。先生に教わった以外の事はしちゃ駄目だよ」
「わかったよ。やくそくだね」
「マシュー、いい子だね」
ヴァージニアはマシューを抱きしめて背を撫でた。
「ジニーいってらっしゃい!」
マシューはいい笑顔だ。
「遅くても夕方には戻れると思うから、学校の体験入学が終わったらギルドにいるんだよ」
「わかった!」
マシューを預けて、依頼先の教会に行った。
もちろん転移魔法でだ。
「すみません。ギルドに運搬依頼をされたのはこちらの教会でしょうか?」
小さな教会だが歴史がありそうだ。
ボロいわけではなく、昔の建築様式で建てられているようだった。
「ああ、貴女がヴァージニアさんですね。私はここの教会の責任者です。早速ご案内いたします」
「はい。お願いいたします」
責任者に案内され倉庫に行くと、ヴァージニアがギリギリ背負えそうな大きさの箱が置いてあった。
その箱には兵士が立って見張っている。
(角って言うからそんなに大きくないと思ったのに…)
「これがその荷物ですね」
「はい。魔力封じがなされておりますので、魔法を使用する際に妨害されないと思います」
「それは有り難いです」
パッと見ではただの古い箱だった。
それなのに王都で調べなければならないほどの、怪しい物が入っている。
「こちらが通行許可証です」
「分かりました」
王都は結界が張られているので門の外に転移魔法しなければならない。
当然、身元を調べられるので身分証が必要だ。
それに加え、何の用で訪れたのかも言わねばならないし、今回のヴァージニアのように大きな荷物を持っている人物は通行許可証が必要なのだ。
「では箱を背負って頂こうと思うのですが…大丈夫でしょうか?大きさもですが、重さもあるんですよ」
「やってみます…」
ヴァージニアは人の手を借りて、何とか角入りの箱を背負えた。
マシューより重いとヴァージニアは奥歯を噛んで思った。
「では、行ってきます」
「よろしくお願いします」
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