病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第22話

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俺達は二人で文化祭の屋台やら展示やらを練り歩くことになった。

「竹中君。あそこ行きましょう!」
「ちょ、清水さん、はしゃぎすぎじゃ…」
「竹中君!早く早く!!」
清水さんが射的屋の屋台の前でぴょんぴょんと飛び跳ね俺に手招きをする。

「おい。あれ、ナイキュのセンターだろ」
「さきなちゃん、今日、ハーフアップだ!
かわぃぃ」
「髪の毛サラサラ」
「文化祭、メイド服とか着てくれないかなー」
「コスプレとかしたら絶対にカワイイよな」
そんな声が道行く人から聞こえてくる。
そして、通り過ぎざまに、視点が俺に移る。


「てか、あいつ、誰だ?」
「あー。転校生じゃね?」
「同じクラスの奴が言ってたわ。さきなちゃん、クラス委員じゃん?だから、担当が、転校生の事、色々助ける役回りを押し付けられたんだってさ」
「2-Aの担任って、あれか。」
「そうそう。あの面倒くさがりな九重先生」
「うわ。さきなちゃん、転校生のお守りさせられているのか。かわいそー」
「さっさきーな。優しいもんね」
「あんな、デブでブスな転校生にも優しいとか、さすがアイドル。尊敬するわ」

道行く人から良い意味でも、悪い意味でも注目を集める。

ったく.....。
昔からコイツは自分がアイドルって自覚がなさすぎるんだ。

けれど、周囲の野次馬には目もくれず清水さんは俺の手を引っ張りながら、文化祭を満喫していった。

■■■■■

「正直、びっくりした。清水さんがあそこまでハメを外すとは…」

「ふふ。楽しかったですね」
あれから、一通り屋台を一周した。
綿あめ、焼きそば、フランクフルト。
射的、金魚すくい、早押しクイズ。
色々やったし、色々食べた。


そして随分と文化祭ムードに満たされた俺達は、一旦休憩しようと休憩スペースとして開放されている自分達の教室へ戻ってきた。
クラスメイトは午後からの舞台発表の準備とか、部活動の出し物とか、文化祭を楽しんでいるみたいで、教室は誰も使っていなかった。
清水さんは自分の席に腰を落ち着かせると、俺も彼女に習うように隣の自分の席へ腰かけた。
「竹中君、射的、意外と上手いですね」
見事、一等、当てましたね。
「ああ。昔から射的は得意なんだ」
「そうなんですね。凄いです」
ですが、本当にいいんですか?竹中君が命中させたのに私が景品をいただいても…。
清水さんが紙袋の中から射的の一等景品の茶色の箱を取り出す。
「いいよ。別に。俺は射るのが楽しかっただけで、景品とかべつにどーでもいいから」
あげるよ。いつも、俺、迷惑かけてるしな。
「ありがとうございます。けど、迷惑だなんて、思ってませんよ?竹中君には助けてもらってばかりです」
いつ、どこで竹中君が迷惑をかけたと言うんですか?

「いや、まぁ。転校生ってだけでも相当迷惑かけてるし、それに、俺、見た目、こんなんじゃん?」
俺は自分の丸々とした顔を触る。
デブで、ブスで、醜いじゃんか。
そんな俺と、人気アイドルのセンターの清水さんが一緒に歩くってだけで、色々、言う人もいるし…。な、俺、清水さんに超迷惑かけてる人間だろ?

俺はうつ向いていた顔をあざけわらって見せるように上に向けた。
その時、清水さんと目が合った。
俺は、一瞬、理解ができなかった。

彼女はなぜか、眉を吊り上げていた。
彼女はなぜか、泣きそうな顔をしていた。
彼女はなぜか、唇をきゅっと結んで子犬みたいな顔をしていた。



「竹中君…」
彼女が俺を呼ぶ声色で、俺はこれから、怒られるんだと認識した。

「竹中君。私が、いつ、竹中君を迷惑な存在だと言いましたか?私がなぜ、竹中君の隣を歩いたらいけないんでしょうか?」
「竹中君はそんなに私以外の人の声に耳を傾けるんですか?」
「私の言った事はそんなに信用ならないですか?」
「竹中君は優しい人です....。見ていて悲しくなるくらいに優しすぎます。たまに、竹中君の気遣いの笑顔が痛々しいくらい叫んでいます。『助けて』と。けど、自分には常に卑下していて…。私、竹中君はもっと、自分にも優しくていいと思うんです。竹中君が過去に何があったのか、自分の自信を失うきっかけの出来事があったのかなんて知りません。けど、今の竹中君は自分を低く見積もりすぎです。今日だって…今日だって…あんなに、必死になって私を守ろうとしてくれたじゃないですか…」
「他の人は、私をアイドルとして一線を引いて接してきますが、竹中君はそんな事関係なく、一人の人間の女の子として、接してもらっている気がします。これ、竹中君の凄いところなんですよ?」
「たまには、自分に甘い審判を下してみてはどうですか?」
言葉の最後に彼女は優しく微笑んだ。
それは久しぶりに見た彼女の本当の笑顔だった。
ずっと見たいと願っていたはずなのに、泣くように笑う彼女の顔を今は見たくないと思ってしまった。
そして、タイミングを見計らったかのように文化祭実行委員の招集を告げる校内放送が鳴った。『私、仕事をしてきますね。竹中君はここでゆっくりしていて下さい』と静かに言うと教室から消えていった。

どうして怒られるんだと思った。けど、同時に、彼女が俺の事に怒っているんだと思って何故だか胸が熱くなった。
自分にもう未来は無いと思っていたけど、まだ、自分を見てくれようとしている人が居るのかもしれない。そう思うと、目の奥が霞んできて…、鼻先がツンとした。

秋の涼しい風が教室いっぱいに広がった。

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