病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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14話

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彼女は日生遼を好きだったと言った。
昔の俺を好きだと言った。
そっか。
昔は両想いだったのか…。
こいつも俺の事好きだったのか...。
なんで今、こいつの気持ちに気付いてしまったんだろう。知らなかったら、知らなければよかった。
ひと昔前の俺なら、お互いの恋愛感情を把握し、舞い上がるところだ。けれど、今は違う。
俺は今でも彼女を大切にしたいと思っている。けど、彼女はどうだ?
今、ここで俺の正体をばらしてしまいたい欲はある。
けど...。
正体をばらしてどうしたい?俺はもうあの時の俺じゃない。彼女を直接守ることなんてできないのに。陰で見守る事しかできない、クズ野郎だ。
困らせるだけだ。
その何十倍もの恐怖が俺をしり込みさせてくる。
彼女の好きだった彼。日生遼を俺は今、演じることなんて無理だ。
不細工になってしまったのは何も外見だけじゃなかった。心もすさんで不格好になっていた。
いや、俺の心は昔から不細工だったな。ブスな心を隠すのが上手くなっていただけだ。
ははは。
やばいな。さっきから自嘲が止まらないや。

俺は悶々とする感情に飲み込まれそうになるのを誤魔化すために、手先だけはパンフレットを折るのに集中させる。

お前の好きだった日生。お前の前にいるぞ。そう言いたい気持ちと、言って拒絶の目で見られたときの恐怖が俺の天秤に重くのしかかっていた。



■■■■■
文化祭の準備と並行して体育祭の練習も入ってくる。
「お前ら、文化祭にばっか目いってるんじゃないぞ!次の日には体育祭もあるんだからな!ほら、ストレッチ始めー」
「1限から体育とか…頭おかしいだろ…」
「じゃ、次、本番のペアになって二人三脚の練習を各自行うように。最後に模擬リレーするからそのつもりでな」
肉体派の体育教師だけが熱く燃えていた。

「なぜ、こんなにイベントを凝縮するんだ。体育祭は文化祭の1か月後とかでいいじゃんか…」
疲れるし...。
二人三脚はクラスの男女ペアで行われる。
勿論、俺も参加予定だ。
ペアは...。
「くすくす。そうだね」
振り向くと磯崎愛が笑っていた。
俺の愚痴を聞かれていたのか。
「けど、これがうちの特徴だよ。イベント前ってソワソワして勉強に身が入らない生徒が多いから、その回数をなるべく減らしたいんじゃないかな?」
うちって意外と進学校だしね。
初めて会話を交わすはずだが、磯崎さんは見た目以上に社交的みたいだ。
「勉強に専念させたいっていう学校側の魂胆が丸見えだな」
「そうだね」
「それに、うちは、生徒数も多いから一人当たりの出る種目の数も少ないし、文化祭と体育祭が連ちゃんでも意外といけるよ?」
体育祭は体育祭で楽しいし、大丈夫、大丈夫。
「そんなもんか…」
「竹中君、もしかして、運動嫌い?」
「や、別に嫌いってわけでは...」
昔は体を動かすのが生きがいだったぐらいだ。
ただ、今は体力的にきついってだけで...。
「炎天下に立たされるのがちょい気に食わない感じだな」
「日焼けしたくない的な?」
「そうだな。取り敢えず、熱いのは嫌いだ」
「意外だなぁ。男子って割と太陽好きそうなのに」
「太陽が好きってなんか語弊があるんじゃ?」
「多分、汗だくになって好きな事に熱中する事が好きな男が多いだけだと思う」
「汗をかくのが好き....なるほど...」
貴重な男子目線のご意見ありがとうございます...。
磯崎さんはポケットからメモ帳を取りだしメモを取る。
清水さんが文芸部の部長だと言っていた。
話のネタにでもされるのだろうな。

所で、
「竹中君の出場種目は何?二人三脚は私と出るのは知ってるんだけど...。それ以外は?」
「俺?俺は全員参加種目の二人三脚だけだな」


「そっかぁ。種目決めの時、まだいなかったもんね。仕方ないかぁ。来年はもっと色々な競技に参加できると言いね」
磯崎さんは残念そうに言うが、九重先生の粋な計らいで、体力面に不安のある俺は、事前に一種目だけって事にしてもらっていた。なんて言えるわけない。

来年、来年か....。
「竹中君、なんとなく、応援合戦とか好きそう」
応援歌の熱唱ダンスとか!
「そうか?」
ダンスと言われて少しドキッとした。
「うん」
「その心は?」
「なんとなく?」
つかみどころの無い人だな。
けれど、少しは体育祭を楽しみにしても良さそうだ。そう思った。

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