病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第11話

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「それでは、午後からの準備、頑張りましょう」
文化祭実行委員である清水さんが現場を仕切り、クラスメイト達はそれぞれの持ち場に移動した。
途中参加の俺はと言うと…。
「竹中君。申し訳ないけれど、一緒について来て欲しいです」
「あ、おう」
清水さんに呼ばれ、彼女の後ろをついて廊下を歩く。
「竹中君は、今年は申し訳ないのですが私と一緒の仕事をお願いしたいです」
文化祭の担当係決めを竹中君がやってくる1週間前に終わらせてしまって…。


それぞれの仕事場で計画的に準備に取り掛かっている最中らしい。今から俺をその場に送りだすことは、受け入れる側も、俺もめちゃくちゃ気まずくなると言う事だろう。だから、世話係として抜擢された清水さんについて回る事が最善の策に思う。清水さん自身もそれを配慮してのことだろう。
「ああ。いいよ。全然。つまり、俺は清水さんの手伝いってことで良い?」
「はい。本当は竹中君がやりたい係をやれるのが一番なんですが…」
「あー。いいよ。いいよ。俺がこんな変な時期に編入してきたのが悪いんだし」
申し訳なさそうな顔をする清水さんに俺は何も気にしていないよと伝えた。
「そうですか?そう言ってくれると少しだけ心が晴れます」
よかったと肩の力を抜いて見えた。
「それで…清水さんの手伝いって言うと、裏方の仕事って事だよな?」
さっき、表舞台には立たないって…。
小道具作ったり、衣装作ったり、音響、照明…裏方の仕事って言っても色々あると思うんだけど…。具体的には何の仕事に携わるんだ?
俺は何か力になろうと、善意のつもりで尋ねたつもりだったが、清水さんはなぜかきょとんと首を傾げた。
「竹中君、詳しいんですね」
やべ。あぶねー。つい、昔の感覚で喋っていた。
昔、お前とアイドルの仕事をしていて舞台とかテレビ番組の裏方の仕事は大体把握していたなんて言えない。
「あ、やー。そうかな?そのへんは常識的な知識じゃね?」
慌てて誤魔化した。
「なるほど。私はアイドルをするまでこういった知識を何も知らなかったので…。博識なんですね!」
凄いと尊敬する目の輝きを俺に向かられたとき、少しだけ良心が傷んだ。
私の文化祭までの仕事ですよね?
何も気にしていないようで、普通に清水さんが話を元に戻す。
「私は文化祭の実行委員もやっているので中々これと決まった仕事をする事はあんまりないんです」
「そっか。忙しそうだもんな」
アイドル活動もやってて、学校では普通に優等生。凄いよな。大変だろ。
「私がやりたいと言って初めた事なので別にその辺は大変だとは思っていませんよ」
「なので、その都度発生した仕事に着手することになってしまいます。」
「なるほどな。臨機応変に仕事に対応するって感じか…。」
「すみません。もしかしたら振り回してしまうかもしれないです...。」
「いや。いいよ。俺、忙しすぎる事って嫌いじゃないから」
「竹中君って優しいんですね」
ほんわりと清水さんが笑った。何も疑っていない目をしている。
「そうでもないよ」
俺は素っ気なく返事をした。
褒められて照れて恥ずかしがったんじゃない。自分の振る舞いに腹が立っただけだ。
優しい訳がない。優しいはずがない。優しい奴はお前をだまして正体を隠すなんて事をしないんだよ。
目の前で嘘臭い笑顔を振りまく奴が皆優しいなんて思いこむなよ。お嬢様。
俺はお前をだましているんだから。


そう、言えたら君はいったいどんな反応をするんだろう。
目を丸くするのか?それとも怒るのか?
これからもその先も俺が彼女に正体を明かすつもりはないけれど、また別の時間軸でまた別の世界で同じ展開があれば、その時は潔く正体をばらし彼女の反応を知ってみたいな。そう思った。
「ふふふ。ご謙遜を…。」
清水さんは、何度も俺の事を優しい人だと言ってくれた。
その時の笑顔があまりにも可愛かったから、この時ばかりは神様に俺の罪を見逃してもらおうと思った。





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