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第10話
しおりを挟む教室の左前。窓際の席。
真剣な表情で机に向かっているのショートヘアに眼鏡をかけた女子が視界に入った。
「彼女は磯崎《いそざき》愛《めぐ》。文芸部の部長さんです」
ミュージカル劇は彼女のオリジナルでやるんです。
清水さんは嬉しそうに眼をきらきらさせていた。
「凄いな」
「はい。彼女の物語はいつも面白くて、深いんですよ。」
演劇部の台本なんかも携わった事があるんです。
清水さんはさんはまるで、妹を自慢するみたいに嬉しそうだった。
「それで、もちろん主役は清水さんなんだろ?」
俺は当たり前の事を冗談ぽく振る。
すると、その答えは斜め上の回答だった。
「私は表舞台には出ませんよ。」
くすりと小さく笑ってみせた。
「え?」
だって、アイドル...。
「お仕事ではアイドルをしていますが、中身はただの恥ずかしがり屋な女子高生ですよ?」
あざとらしさを残しつつ上目遣いで口も元に指を添えてきた。
恥ずかしがり屋...。そんなわけないだろ。
そう突っ込みたいところをごくりと飲み込む。表情が隠しきれていなかったようで、清水さんは俺の顔を見て言った。
「なんて、嘘です。私が文化祭で表舞台に立っちゃうと、色々面倒事が増えるので、毎年、文化祭は全力で裏方に徹しているんですよ。」
意地悪な事言ってすみません。
彼女は恥ずかしそうにぺろりと舌を出して見せた。
「なるほどな。確かに、大変な事になるな...」
俺は、有名アイドルグループのセンターが文化祭の出し物を総なめして、マスコミが押し寄せる光景を思い浮かべ苦笑いする。
「はい。大変です。文化祭はアイドルが輝く場所じゃないですし、そのあたりはわきまえていますよ。」
私は息を潜め、舞台裾からこっそりと楽しみます。
少し残念そうに眉を顰めるのは、きっと自分も出たかったという我慢の現れなんだろう。俺はその気持ちを察しつつも、話題の方向性を変えた。
「じゃ、裏方って何するんだ?」
俺たちのクラスがミュージカルの劇をする事は分かった。
けど...。
『舞台で使う小道具や衣装を作ったりしますよ。』
後ろからそんな小さな声が聞こえてきた。
声のするほうへ振り向くと、さっきまで机に座って、舞台用の台本を書いていた磯崎愛が立っていた。
「初めまして。ひゃ...竹中佐君」
何故か噛みながら俺の名前を呼んでくれた。
物静かで穏やかそうに見えたのに意外に天然キャラなのかもしれないな。
俺はその時、そう彼女を認識した。
「磯崎愛です。よろしくね?」
首筋が少し覗くくらいの髪の長さ。
清水さんとは少し違った雰囲気の彼女はそう言ってふわりと笑った。
突然やってきた彼女の行動力の意外さに驚きつつも俺は挨拶を交わす。
「ああ。よろしく」
そういって俺は頭をペコリと下げた。
「文化祭の話してたでしょ?」
「ええ。愛は舞台台本作成どうなの?」
あと少しとは聞いていたけど...。
清水さんは親しげに磯崎さんに話す。
それがね...。
「じゃじゃ~ん!」
そう言って元気よく原稿用紙を高々と掲げて見せた。
「たった今、完成しましたぁ!!」
「添削と校正済みの正真正銘、完成版原稿なんだ!」
「皆のご要望にお応えして、歌とかダンスとか多めな喜劇にしてみたよ」
どうやら、彼女は文章を自由自在に操る才能があるらしい。
「最後に、出来上がりを文化祭実行委員の沙希菜ちゃんに確認してもらいに来たんだぁ」
「凄い。いい感じだと思う。本当に凄い。愛ちゃんありがとう。お疲れ様」
「へへ」
「これ、今すぐに先生に複製してもらってきますね。午後までに間に合わせたいから」
そう言って清水さんは職員室へ向かっていった。
俺は突然、磯崎さんと2人きりとなる。
「えっと...。」
これ、何か話さないといけないのか?
けど、そもそも磯崎さんが俺たちのところに来たのは清水さんに用があっての事...。
俺に用事なんてないよな...。
じゃっかんの気まずさを覚え、俺はちらりと磯崎さんの顔を見た。
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