病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第4話

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■■■■■



今の俺の不細工な風体のおかげで、編入初日にクラスメイトから囲まれるなんてイベントは発生しなかった。
「ここが、男子のトイレです。ここのトイレは休み時間になると混雑するので、どうしてもって言うときは部活棟のほうのトイレを利用するといいですよ。」



放課後。
俺は清水さんについて回り、学校中を案内してもらっていた。
トイレ、体育館、職員室、多目的ホール。

こんなに自分の足で歩きまわたのは久しぶりだ。
俺の非力な筋肉が喜んでいる。これ、多分、明日と明後日、筋肉痛確定だな。
ははは。
なさけね。
本当にこれ、俺の体かよ。
誰かの体に憑依してんじゃないのか?って思えたら楽なのに。


「次は、選択科目で使う美術室に案内しますね。」
彼女はそう言い、目の前の階段を上り始めた。
「はぁ。はぁ。」
さすがに、きつくなってきた。
病み上がりな奴が一週間分の運動を一気にするもんじゃないな…。
俺は息の上がってきた肩をどうにか抑える。
「大丈夫ですか?」
清水さんにも俺の息遣いの粗さが伝わったらしい。恥ずかしいし、みっともなかった。
彼女の息は一つも乱れてなかったから。

「大丈夫、大丈夫。ちょい、引きこもり体質が根を上げてきてるだけ…。」
「本当ですか?すごい汗ですよ?」
顔色を覗いてこようとする清水さんからシャンプーの甘い香りがした。
「平気平気…。」
「保健室…はここから遠いですね。階段を上った先に音楽室があるのでそこで一休みしましょう。」
階段、登れますか?

俺が大丈夫だと言っても、清水さんから不安げな顔を拭い去る事は出来なかった。
多分、俺、今、相当、顔色悪いんだろうな。

昔、俺が風邪引いて鼻水ずるずるで仕事してた時、『その音、汚いわ。やめてよね。私、もう行くから貴方は近くに来ないで。ここにこもって私の代わりにこの仕事を引き受けなさい。』
そう言って、俺は楽屋でひたすらに画用紙を切ってた事を思い出す。
そう、こいつは人の心配をできる奴じゃない。世間じゃ、清楚系の可憐美少女アイドルって言われているけど、俺には口も態度もデカい超、傲慢な女なんだ。
それなのに、いっちょ前に心配されると、どこか悲しい気持ちになった。
■■■■■
「一旦、ここで休憩しましょう。座ってください。」
寄り道の音楽室へ入ると彼女が椅子をすすめてきた。
「はは。大丈夫だって…。俺、男っだしっ…っつ。ごほっ。」
強がったつもりが裏目に出た。大丈夫だって言ってこれかよ。
「はぁ。はぁ。ごほっ。げほ。げほ。」
まずい。咳が出てきた。
俺は肺を圧迫してくる粘液物に体をくの字に丸め、胸を抑えた。
「あの。先生、呼んできます!」
俺の異変に気付き、清水さんが保健室の先生を呼びに行こうとした。
「まっ、って。」
俺は彼女の手首を引き留める。
「そんな、大事、に…。げほっ。げほっ。しなくてっも、だい、じょぶ、だから。もうちょい、すれば、落ち着く…」
俺は先生を連れてこられるのだけは勘弁と必死にお願いする。
「でも…。」
清水さんは困った顔をした。
確かに、何も知らない人からすれば、肩で息して、汗かいて、咳き込んでたらヤバイ奴って思うよな。

「はぁ。ほら。落ち着いてきた、だろ?」
俺は静まった胸を撫でおろし、ニッと笑った。
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