病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

文字の大きさ
上 下
6 / 27

第0.4話

しおりを挟む
その日はここ最近で一番スケジュールがタイトで、一番体調が悪かった日だった。
最高に最悪な日が重なると黒い渦に飲まれる事を知った。


朝起きると、息苦しくて肩で息をしていた。
寝不足で頭が痛いのは日常茶飯事だし、そのせいなのだろう。
少し熱っぽい気もするが体温計を手に取る暇もなかった。俺は歯磨きだけを済ませると玄関で待っているマネージャーの車に乗り込んだ。
「おはよう!遼!」
「はろ。」
先に拾われていたメンバーが手をひらひらと出迎えてくれた。


「うっす!」
俺はアイドルなんだから、こんな事でへこたれるなと自分を押し殺し、いつも通りの元気を心掛けた。


「うぅぅ。ワクワクするぅ。今日、すごいよね!」
僕、興奮して眠れなかったよ!
隣でテンションMaxな、自称ショタ天使が騒ぐ。

「逆に俺は爆睡だった」
まだ眠そうな口ぶりでとろんとした目を閉じる。


「「りょうは?」」
2人そろって俺を見てきた。
「俺はー、寝たんだと思う。多分」
「何それ。」
「やー、実はこの前撮ったブロマイドのサイン、まだ半分しか終わってなくてさ、急いでやってたら朝日が見えた。」
少しでも疲れを見せない為に明るく笑い飛ばす。
「遼、最近、個人の仕事増えたもんね。大変だよね。」
僕らはこの前、楽屋で終わらしたけど…。
「で、サイン書き終わったのか?締め切り近かった気がする。」
「ああ。なんとかな…。最後のほうは字が潰れてたりするけど、それもデザインって事で…。」
俺は目を泳がす。
「ぷはっ!遼君っぽいや!」
根は真面目なのに、たまにがさつになるとこ僕、好きー!
「根は真面目…ね。これ、褒められてる、のか?」
「寿。もっと遼の良いところもっと上げて。俺は思いつかない。けど、それじゃ、遼が悲しむ。」
「楓真。お前の言葉が一番辛辣だ…。」
と、突っ込まずにはいられなかった。フォローしようとしてくれるのは分かってるけどさ…。
俺は何とも言えず気まずさを覚えため息をついた。

「皆さんいつも通りな様子で安心しました。」
俺たちのじゃれあいを母親のような眼差しで見てくれていた運転手兼、マネージャーのまどかさんとミラー越しに目が合った。

「今日は大御所の方々とご一緒するので緊張でがちがちになっていたらどうしようと思っていたんです。」
「ははは。緊張なんて文字、僕の脳みそ?にはないよ!」
「寿。それを言うなら、辞書な?」
俺はしっかりと突っ込みをいれる。
「緊張はしてない。むしろ、落ち着いている。」
楓真も安定の淡々した顔をして呟いた。


「俺は…。どうだろ…。緊張してんのか分かんねぇけど、ふわふわはしてる。」
体調が悪いからなのか、本当に緊張とかをしているのか分からなくて抽象的になった。
まだ、始まってもないのに、座背にもたれる背中は鉛のように固く、足は足枷でもつけられているんじゃないかってくらい重く感じた。
「それ、僕と同じなんだよ!きっと興奮してるんだね!」
そう嬉しそうに同意を求めてくる寿に俺はああ。と適当に返事を返した。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...