5 / 11
獅子と猫(※R18無し・BL要素あり)
4 執着
しおりを挟む
※ようやくここまで進みました。
気まずくなって以降来ることを避けていたレオンの隠れ家に、ジュレルはひとりで来ていた。
鍵をもらった時はものすごく嬉しかった。でも、週末はいつでもレオンがここにいるから、ジュレルが使用したことはなかった。
初めて連れて来られた日から何度となく足を運んだ部屋なのに、ひどくよそよそしいのはレオンが居ないからだろう。いつだって「やあ、来たね」と出迎えてくれる人物が不在なだけで、こんなにも寂しい。
窓辺のどっしりした大きめなひとりがけのソファは、レオンの定位置だ。ここに座り、葉巻や酒を愉しみながら書類に目を通している。
ジュレルはそこに腰を下ろし、目を瞑った。
ラモンド公爵邸で偶然耳にした、レオンの言葉を思い出す。
『つきあう価値はないからね、いらないかな』
『不要品を抱えるほどお人好しじゃないよ。あれは、いらない』
そう言い切った声は、先日のレオンと同じ響きだった。
離れていたし噴水の音で声は途切れ途切れだったが、確かにそう聞こえた。
レオンとおそらくギリアムらしき二人が立ち去った後、夜風に躰が冷え切るほどジュレルはその場から動けずにいた。
───レオに嫌われた
その抱え切れない絶望感に、打ちのめされていた。
何とか馬車に乗り込んで、向かったのがこの部屋だった。
◇◇
ジュレルにとって、レオンは絶対の存在だった。
初めて五公爵家の嫡男が揃ったのは、四歳の時だ。
茶会の場に座っていた三公の息子たちは、既に威圧感たっぷりの、およそ子供らしくない子供たちだった。
幼すぎるジュレルは三対の瞳に一斉に見つめられ、恐怖で泣き出しかけた。
その恐慌状態にあったジュレルの肩に、ポンと手を乗せ、
『みんな顔が恐すぎ。そんなんじゃジルが怯えるでしょ!』
そう言ったのがレオンだ。
仰ぎ見たそこには、甘い飴のような橙の瞳があった。にっこり微笑まれ、耳慣れない呼ばれ方にきょとんと首をかしげた。
『………ジル?』
とうさまとかあさまはジュレとよぶよ? そう云おうと思ったけれど、
『うん。ジルって呼ぶね。僕はレオンだから、レオって呼んでね』
にこにこと微笑むレオンに、「うん」と引き込まれるように頷いていた。
すぐにレオンが大好きになった。何回経験しても中々馴染みにくい子供たちだけの茶会も、レオンが来るからと頑張って参加をした。
病弱で月の大半を部屋にこもっているような孤独な日々は、レオンに出会ってから変貌した。
見るもの聞くもの、レオンと共に行動するすべてが楽しかった。
それがいつからか。
自分以上にレオンに近い立ち位置の存在へ対抗心を覚えた。
最初は、レオンの親友であるギリアム。
次は学園の友人。
そして、最も嫌いで目障りだったのが、レオンの最初の妻だった。
援助目当てでレオンの妻になった女が愛を求め、彼を苦しめていると知ったときはこの手で始末してやりたかった。
二番目の妻と三番目の子供を産んだ女はレオンを苦しめはしなかったが、ジュレルにとって嫌いであることには違いはない。
三人共に、ジュレルの知らない間に忍び寄り、わがもの顔でレオンに触れ、抱かれた事実に吐き気がした。
『ジュレ、それは独占欲っていうのよ』
とても大切なひとはそう言った。
『あなたはレオン様を独り占めしたいの。心も体も全部』
『できないよ。私達には責任もあるから』
『あら、だってあなたはそうしたいからレオン様にお相手を薦めるのでしょ』
自分の知らない女じゃなく、思いどおりにできる女を──そんなことを思ってもいなかったけれど。否定もできなかった。
「レオンはもう僕をいらないんだって」
ここには居ないひとに問いかける。
『あら、だったら奪ってしまえば?』
言われそうな台詞が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。
「………奪う、か」
レオンの自由も、レオンの人生も、全部ジュレルが奪ってしまう。そうすればもう、失う不安はなくなる。たとえレオンが疎んじたとしても。
とても良い考えに思えて来た。
レオンはどんな顔をするだろう?
ジュレルは主の居ない部屋で朝まで一睡もせず、レオンのことをただ考える。
◇◇
ジュレルはある部屋の前で脚を止めた。軽食を載せたトレイをいったん床に置き、ドアノブに幾重にも巻いた鎖を外す。それから鍵も開錠する。
「───ジユレ…ル」
驚きに目を開いたレオンへ、
「ご機嫌よう、レオ」
ジユレルは微笑んだ。
気まずくなって以降来ることを避けていたレオンの隠れ家に、ジュレルはひとりで来ていた。
鍵をもらった時はものすごく嬉しかった。でも、週末はいつでもレオンがここにいるから、ジュレルが使用したことはなかった。
初めて連れて来られた日から何度となく足を運んだ部屋なのに、ひどくよそよそしいのはレオンが居ないからだろう。いつだって「やあ、来たね」と出迎えてくれる人物が不在なだけで、こんなにも寂しい。
窓辺のどっしりした大きめなひとりがけのソファは、レオンの定位置だ。ここに座り、葉巻や酒を愉しみながら書類に目を通している。
ジュレルはそこに腰を下ろし、目を瞑った。
ラモンド公爵邸で偶然耳にした、レオンの言葉を思い出す。
『つきあう価値はないからね、いらないかな』
『不要品を抱えるほどお人好しじゃないよ。あれは、いらない』
そう言い切った声は、先日のレオンと同じ響きだった。
離れていたし噴水の音で声は途切れ途切れだったが、確かにそう聞こえた。
レオンとおそらくギリアムらしき二人が立ち去った後、夜風に躰が冷え切るほどジュレルはその場から動けずにいた。
───レオに嫌われた
その抱え切れない絶望感に、打ちのめされていた。
何とか馬車に乗り込んで、向かったのがこの部屋だった。
◇◇
ジュレルにとって、レオンは絶対の存在だった。
初めて五公爵家の嫡男が揃ったのは、四歳の時だ。
茶会の場に座っていた三公の息子たちは、既に威圧感たっぷりの、およそ子供らしくない子供たちだった。
幼すぎるジュレルは三対の瞳に一斉に見つめられ、恐怖で泣き出しかけた。
その恐慌状態にあったジュレルの肩に、ポンと手を乗せ、
『みんな顔が恐すぎ。そんなんじゃジルが怯えるでしょ!』
そう言ったのがレオンだ。
仰ぎ見たそこには、甘い飴のような橙の瞳があった。にっこり微笑まれ、耳慣れない呼ばれ方にきょとんと首をかしげた。
『………ジル?』
とうさまとかあさまはジュレとよぶよ? そう云おうと思ったけれど、
『うん。ジルって呼ぶね。僕はレオンだから、レオって呼んでね』
にこにこと微笑むレオンに、「うん」と引き込まれるように頷いていた。
すぐにレオンが大好きになった。何回経験しても中々馴染みにくい子供たちだけの茶会も、レオンが来るからと頑張って参加をした。
病弱で月の大半を部屋にこもっているような孤独な日々は、レオンに出会ってから変貌した。
見るもの聞くもの、レオンと共に行動するすべてが楽しかった。
それがいつからか。
自分以上にレオンに近い立ち位置の存在へ対抗心を覚えた。
最初は、レオンの親友であるギリアム。
次は学園の友人。
そして、最も嫌いで目障りだったのが、レオンの最初の妻だった。
援助目当てでレオンの妻になった女が愛を求め、彼を苦しめていると知ったときはこの手で始末してやりたかった。
二番目の妻と三番目の子供を産んだ女はレオンを苦しめはしなかったが、ジュレルにとって嫌いであることには違いはない。
三人共に、ジュレルの知らない間に忍び寄り、わがもの顔でレオンに触れ、抱かれた事実に吐き気がした。
『ジュレ、それは独占欲っていうのよ』
とても大切なひとはそう言った。
『あなたはレオン様を独り占めしたいの。心も体も全部』
『できないよ。私達には責任もあるから』
『あら、だってあなたはそうしたいからレオン様にお相手を薦めるのでしょ』
自分の知らない女じゃなく、思いどおりにできる女を──そんなことを思ってもいなかったけれど。否定もできなかった。
「レオンはもう僕をいらないんだって」
ここには居ないひとに問いかける。
『あら、だったら奪ってしまえば?』
言われそうな台詞が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。
「………奪う、か」
レオンの自由も、レオンの人生も、全部ジュレルが奪ってしまう。そうすればもう、失う不安はなくなる。たとえレオンが疎んじたとしても。
とても良い考えに思えて来た。
レオンはどんな顔をするだろう?
ジュレルは主の居ない部屋で朝まで一睡もせず、レオンのことをただ考える。
◇◇
ジュレルはある部屋の前で脚を止めた。軽食を載せたトレイをいったん床に置き、ドアノブに幾重にも巻いた鎖を外す。それから鍵も開錠する。
「───ジユレ…ル」
驚きに目を開いたレオンへ、
「ご機嫌よう、レオ」
ジユレルは微笑んだ。
5
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
貧乏令嬢と笑わない令息 ~ヴィクトル様、お顔がとっても恐いです~
西尾六朗
恋愛
貧乏貴族令嬢のエメリアはお家存続のため、冷血・酷薄と噂のヴィルワ家の庇護を得るべく令息ヴィクトルに嫁いだ。迎えてこそくれたものの、聞いた通りの無表情。何を考えているか分からない未来の夫にどう接するべきかエメリアは戸惑うが、どうやら彼はエメリアを笑わせたいようだ。いったいなぜ?
【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる