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第1部 鬼人の王国《紅蓮》
10 : 対策は念入りに
しおりを挟む秘密を共有したことで何か変わったかと言えば、それほどのことはない。
エンヤルトは相変わらず好き勝手にしていて、最近はハチス邸内に専用の休憩室まで造られたぐらいだろうか? 何度となく当主クランドと、転移陣の設置場所についての攻防の末に空き部屋へ強制的に陣を固定されてしまったエンヤルトが、腹いせに部屋を私物化したのが真相だ。
お父様って武人かと思ってましたが、転移陣を固定する呪を使えるなんて最高ですわ。尊敬いたします!
高度な術式で組まれた他人が創った転移呪文を固定するなどと簡単ではない。もっとも、クランドが手こずるほど難解な呪を組んだエンヤルトこそが凄いのか。
とりたてて変わらない関係を維持しつつも、信頼関係は高く。
エンヤルトと知恵を持ち寄ることにも慣れた。
「来月から入学ですわね」
エンヤルトの休憩室で紅茶を飲みながら、話題は学園生活のことだ。
「俺は鬼士科に進むつもりだ」
普通科、魔鬼士科、鬼士科のいずれかへ席を置くことになるのだが、エンヤルトは既に鬼士科に決めているという。
「普通科に進むのでは?」
王族だから一般教養の普通科に進むとばかり思っていたと、クロエは首を傾げる。
「う~ん、普通科の授業は王宮ですべて修了してるからなぁ、それに普通科に進まなければ接点減るだろ?」
編入するヒロインは普通科だ。
校門から向かって右翼が普通科の校舎、中央に教員室、講堂、図書室などの施設がある本校舎、左翼に鬼士と魔鬼士の科がある校舎となっている学園で、そうそう遭遇はしづらいだろう。少なくとも授業の合間の休憩時間では片道だけでも足りない。
「わたくしも魔鬼士科を志望してますわ」
同じことを考えていたようで、なんとなくおかしい。
「ついでにアクランは鬼士科、イズナルは魔鬼士科だぞ」
「…………誰も普通科にはおりませんのね」
優秀なイズナルはともかく、アクランには一般教養は必要なのでは、と顔に出ていたのだろう。
「鬼士科にも一般教養の授業はそれなりにある。ついでにアクランには王宮で定期的にお勉強だ」
「………暴れそう」
くすくすと笑みがこぼれる。さぞアクランは嫌がることだろう。エンヤルトも人の悪い笑みを浮かべている。
「ちなみに、イズナルには近衛鬼士の訓練に週一で参加してもらう」
「…………あら、災難ですわね」
普通科と異なり身体訓練は魔鬼士科にはないため、仕方ないのかもしれない。イズナルには泣いてもらいたい。
どうやらエンヤルトは着々と対策を練っているようだ。側近二人もヒロインから遠ざけにかかっている。
「《蒼嵐》の方は普通科だろうから、ターゲットを連中にしてくれるとありがたいな」
そうしてくれると未来の《蒼嵐》の人材を減らせるし、と悪い顔見せる。
「ああ、お前に渡すものがあった」
ポイッと投げられたものをクロエは受け取る。金の枠にエンヤルトの瞳と同じ濃い紅の石が埋め込まれたペンダントで、台座には複雑な紋様が刻まれている。
「これは?」
「護符みたいなもんだ。ガイマンと共同で創った」
「護符ですか」
「そうだ。必ずそれを身につけておけよ。いつか役にたつ」
効果は教えてくれないらしいが、護符と聴いたら素直に受け取っておく。
「わたくしは負けませんわ」
とれるだけの対策は練った。
必ず乗り越えて見せますわ!
クロエは誓いも新たに、学園生活を共に過ごす心強い味方へと力強く笑うのだった。
ほんの少しだけ、悪役令嬢っぽく見えるのは顔立ちのせいだな、とエンヤルトがこっそり考えたのは秘密である。
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