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9 国を離れて~2~遠隔操作
しおりを挟むシャルル・カラントだ!
聞いてくれ、素振りが千回出来るようになったぞ!
すべての指に豆が出来て潰れるを繰り返し硬くなったころ、とうとう念願の千回達成した時は護衛騎士と共に抱きあって泣いてしまったほどだ。
脱・殻のついたヒヨコ、ただのヒヨコになった!
次は剣術の技を学ぶ段階に入ったが、奥が深い。騎士たちは両手で使うブロードソードも操るが、まだ躰の出来てない私は非力なので、まずはサーベルをとなった。
サーベルは騎兵が片手で扱うに適した軽くて長めの刀剣だ。半円形の大きな鍔がついていて拳を守る。私に与えられたのは半曲刀タイプで、刺突も斬撃も可能な優れもの──と熱く説明されたが、だがその良さを感じとるにはまだまだ私には剣術の理解は遠い。つまり、なんだかわからん!
『シャルルへ
剣術の訓練を真面目にやっているようで何よりだ。先日ロゼリア嬢に会ったのでその話しをしたら感心していたぞ。そうそう、その時に「シャルル様には剣術だけでなく人を思いやれる視野の広さをお持ちになると素敵ですわ」と言っていた。話は変わるがマルタンの庶民は子供も働かねば暮らし向きは厳しいという。我が国にも貧しさ故に働かねばならない子供もいる。兄たちは市井に出かけることもままならん。アーリン兄上も心を痛めているし、お前の力を借りたい。何か話を聞きだせれば良いのだがな。躰には気をつろ。それではまた。
兄、エスターより』
エスター兄様からの手紙だ。
舞い上がりそうなほど嬉しい!
ロゼリアに褒めてもらえたんだ。それにしても兄様は素晴らしい方だ。やはり四歳の年齢差は大きいな。人を思いやれる…まさに体現されているではないか! かくなる上はなんとしてもロゼリアに振り向いてもらえる男にならねばな!
──と誓いを新たにしたは良いが、子供も働くのか? ……知らなかった。
「子供のできる仕事とはなんだ?」
何かと私の従者は詳しいのだと最近見直した。先にリサーチをすることを私は筋肉痛と共に学んだのである。
「靴磨き、ゴミ拾い、雑用、賢い子は奉公とか何でもありますよ。中には肉体労働をしたり。あとは悪事に手を貸したり」
「………子供は元気であればよいのではないのか? 私は正妃様と兄上たちにそう言われて育ったぞ」
「それはシャルル様が働かなくても贅沢できるお立場だからですよ。パン一つ買うお金もなければ生きるために普通は働くしかないんですよ」
「……パンの値段を知らない」
「シャルル様の靴一足の代金で考えると五年はパンを毎日一つ買えます」
「──!?」
衝撃だった。私はパンの値段も、靴の値段も気にしてこなかったのだ。気がつけば必要な時にあるから。そこで思う。パンとはどうやって作られるのかと。
「……何も知らない私に話をしてもらえるだろうか」
「無理ですね。私なら嫌です。なので─」
ガサゴソと胸ポケットから紙を取り出すと眼鏡をかける。マルス……お前準備いいね? 兄様の手紙を読み聞かせる前に常に先回りして情報収集しているとは!
「明日からは庭で作物を育てるところから学びましょう」
まずは食べ物は最初から食べ物ではないことを身をもって知るのです──マルスの言葉に私は頷いた。
その夜、生まれて初めて王子ではない私を想像し哀しくなった。きっとひ弱な私にはパンを買う金を稼ぐことは何も出来ないだろうと。
翌日から鍛錬の一つに作物を育てることが加わった。
花壇の一つを潰し、そこで育てるのだ。ここでも護衛騎士が教師になってくれた。
「我々は自給自足も多いのです。それに剣術をする上でも足腰の強化に繋がります」
うんうんと頷きながら土を耕す。作物を育てやすいよう土を柔らかくするというが……掘る毎に恐怖体験が待ちかまえているとは──
「うわあぁぁぁ、ウネウネしてるッ!?」
「ミミズごとき恐れてはなりません! 手で抓んで何処かに逃がして!」
「ひゃあぁぁぁッ!!」
ぬめぬめする長いものを抓み、気持ちの悪さに背にゾゾゾと怖気が走る。初めての虫! 初めて触る虫!!
「ぎゃあぁぁぁ!!」
足! 足がいっぱいある長い虫!! 何これ、何だこれ!!!!
「ああ、ムカデですね! さあ、これも抓んでくださいっ」
い、嫌です。無理です。許して!
じりじりと後退する私をマルスが羽交い締めし、護衛騎士が私の手首を掴んだ。
な、何する気だ! 嫌な予感しかしない。
「はい、シャルル様!」
掌にポンと置かれたムカデが、私の掌に──!!
その後のことはわからない。
だって……気絶したから……
ロゼリア…逢いたいよぉ…しくしく
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