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8 国を離れて~1~遠隔操作
しおりを挟むシャルル・カラントだ。
隣国マルタン王国での留学生活が始まった。
寂しい。家族と離れたことの無い私には、すごく寂しいんだ。
隣の国といってもすぐに帰国できる距離でもないし、文化も異なる。幸い共通言語として我が国の言葉はマルタンでも比較的に通じるし、従者のマルスがついてきてくれたから母国語に飢えることはないけれど寂しいなぁ。
「シャルル様、エスター様からお手紙が届きましたよ」
「兄様から!?」
はい。マルスが手渡してくれるそれを奪うようにして私は読み始める。
『シャルルへ
元気に暮らしているか。お前が旅立ちすでにひと月か。しっかり学んで立派な男になって戻るのを皆待っている。負けずに頑張るように。そう言えば先日ロゼリア嬢に会う機会があって、彼女の好みの男のタイプを聞き出した。伝えるからお前の目標とするがいい。彼女が言うには護衛の騎士の足手まといにならぬレベルの剣術のできる男が好ましいとのことだ。ロゼリア嬢はお前を見直すかもしれんな。
それではまた。
兄、エスターより』
私は感激した。
エスター兄様、ありがとう!
私のためにロゼリアとやり直す術を授けてくれた兄様には感謝しかない。
翌日から私は『目指せロゼリア好みの男化計画』と名付けた修行の日々は始まった。
「午前中の剣術はおやめになった方がよろしいです」
朝から稽古と盛り上がる私をマルスが止めてきた。
「止めるな、マルス! 男にはやらねばならない時があるんだ!」
ちょっと自分で格好いい! と思いながら宣言すると、
「止めてません。午後、すべてのお勉強を終えた後がよろしいのではと愚考しただけでございますよ?」
マルスはそう反論する。
「だが昼ご飯を食べた後では眠くなってよくない! 朝から汗をかいた方が良いのだ!」
逆効果だと思いますがね─マルスはまだごちゃごちゃ呟いていたが、私の意志は強いのだ!
結論から言おう。
マルスが正しかった。意志が固くても、体までそうではないことを、全身を襲う痛みと共に噛み締めている。
「湿布だらけですねー。だから午前中は駄目だと申しましたよねー。あ~あ、午後のお勉強をキャンセルなんて、アーリン殿下とエスター殿下にご報告できませんねー。筋肉痛なんてー」
「……マルス、何故そんなに棒読みなんだ…うっ、痛い」
「お体が弱くてまともに訓練受けたことのないシャルル様が、最初から護衛騎士たちの訓練についていけると思えたことがむしろ凄すぎます」
「う”ッ…痛い、押すなッ…!!」
青あざと筋肉痛でいっぱいの体を容赦なく押され─マッサージというらしいが押されて涙目になる。
「あなた様は孵化したばかりのヒヨコ。お尻に殻をつけたヒヨコでございます。ヒヨコだった記憶が思い出せない兄上様方はあれはあれで不気味ですが、ヒヨコの中のヒヨコ、ヒヨコ王子のシャルル様にはヒヨコなりにピヨピヨと努力されるしか立派なヒヨコにはなれないのですよ?」
八回もヒヨコって言ったな、マルス……。しかもヒヨコ王子ってなんか嫌だ。それになんで努力しても立派なヒヨコなんだよ!?
「……最後は立派な成鳥じゃないの」
「いいえ、シャルル様がまず目指すのは殻のとれた、ただのヒヨコです!」
マルス……、もうちょっとだけずたぼろな男心を理解して……。哀しい気持ちでマルスの小言を聞くのだった。
ヒヨコの姿で剣を振るヒヨコ王子な私の夢を──悪夢を見た。
翌日からは『シャルル殿下剣術鍛錬カリキュラム』なるものをマルスが持ってきて、私はそれに従って特訓を受けることになった。
……いつそんなもの用意したの?
これが、地獄。
基礎訓練として素振り千回。
素振り、千回!?
「まだ二十回しかできてませんよ」
「今日はまだ筋肉痛が……」
「駄目です、千回です!」
カリキュラムに目を通した護衛騎士が、どうしたことか熱血教師となっている。
「……お願い、せめて百回で」
「殿下は立派なヒヨコにおなりになるのでしょう! 己を甘やかしてはなりません! さあ、剣を振る!」
気迫に負けて、筋肉痛で感覚がマヒしている重い腕をあげ剣を振る。
振りながら、どうしてヒヨコを目指していることになっているのか遠い目になった。ちなみに三百回で腕が動かなくなった。
今夜は豆が潰れて、その痛みにシクシクと枕を濡らすのだった……
ロゼリア~、痛いよぉぉ~
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