上 下
4 / 5
第4話 誰が何をしているかはっきりさせよう

誰が何をしているかはっきりさせよう(1)

しおりを挟む
ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここからは次のテーマ「誰が何をしているかはっきりさせよう」に入りたいと思います。

まずは下の小説のワンシーンを読んでみてください。

*********************

ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。

「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」

「さっき、道でばったりあったからだよ」

「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」

からかわれた少年は照れ臭そうにしていたが、少女はなぜか青ざめていた。

「なんか変だよね、この時間に校門の前に三人しかいないなんて」

「そういえば……」

そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。

その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。

2秒おいて、雷鳴がとどろきわたる。

(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……あっあの子あいつにしがみついている。こいつらやっぱり付きあっているのかな? くそー!)

********************

以上長々とすみません。

ところでみなさん、終わりのほうで(今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……)と思っているのは誰だかわかるでしょうか?

またいったい誰が誰にしがみついているのでしょうか?

ちょっとすぐには答えられませんよね。

この小説のワンシーンは、途中から誰がそう思っているのか、誰がその動作をしているのかが、わかりにくくなってしまっています。

今の場面だけなら三人の少年少女が校門で雷を怖がっている、というだけですので、まだそれほど混乱せずに済んでいますが、この調子のまま話が進んでいくとどうでしょう?

読者は筋を追えなくなります。

小説を読んでいてあらすじが追えなくなったらもう終わり。

読者はその時点で嫌になって読むのをやめてしまいます。

こういうWEB小説は結構多いです。

他にもセリフが延々と続いて、どれが誰のセリフだかわからなくなる、なんていうのもよく見かけます。
**********************

ではどのように解決したらよいでしょう?

それは多少不自然になっても、主語をきちんと入れることです。

一度書いたものを読み返してみて、「読者がこれは誰の動作や会話、心理描写だろうと疑問に感じないかな?」とちょっとでも思ったら、その前に主語を入れるようにしましょう。

本当は主語を入れすぎないほうが日本語としては綺麗ですし自然です。

でも誰が何をしているかわからないような小説になってしまったら元も子もない。

文章のこなれ度よりも、わかりやすさを優先させるべきです。

************************

先ほどのシーンを書き直してみました。

************************

ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。

「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」とヒロシが驚くと、スグルがいいわけをする。

「さっき、道でばったりあったからだよ」

「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」

ヒロシがそうからかうと、スグルは照れ臭そうにしていたが、ミサトはなぜか青ざめていた。

ミサトは小刻みに震えながらこう言った。

「なんか変だよね。この時間に校門の前に三人しかいないなんて」

「そういえば……」とヒロシとスグルもあたりを見回す。

そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。

その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。

2秒おいて雷鳴がとどろきわたる。

(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミサトちゃんとばったり会えたというのに……あっミサトちゃんスグルにしがみついている。ミサトちゃんとスグルってやっぱり付きあっているのかな? くそー!)とヒロシは運命をのろった。

*********************

だいぶわかりやすくなりましたね。

主語をマメに書いたほかにも少年、少女、この子、こいつら、といった言葉を登場人物の名前に書き換えています。

また書き直し前はヒロシはミサトのことを「ミッちゃん」と愛称で呼んでいましたが、書き換え後は「ミサトちゃん」と本名にちゃんづけに変えました。

わかりやすい小説を書くためには、一人の登場人物を複数の呼び名でよばないほうが吉です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[技術書連載]デジタルカラーイラストの描き方ーアニメ塗り、厚塗りのやりかたー

小豆このか@女性向け・全作品
エッセイ・ノンフィクション
カラーイラストの描き方です。

アルファポリス投稿インセンティブを確定申告

克全
エッセイ・ノンフィクション
小説で得た収入を確定申告をした話を書いていきます。

まったくの初心者から長編小説が書けるようになる方法|私の経験をすべてお話します

宇美
エッセイ・ノンフィクション
小説を書いてみたい!! 頭の中は壮大なイマジネーションやアイディアが溢れていて、それを形にしてみたい!! けれども書き始めてはやめての繰り返し…… そういう人は多いと思います。 かくゆう、私も数年前まではそうでした。 頭の中のイマジネーションを書き始めるけど、書いては消しての繰り返しで短編1本仕上げられない…… そんな私でしたが、昨年50万字超の作品を完結させ、今では2万字程度の短編なら土日を2回ぐらい使えば、書き上げられるようになりました。 全くのゼロからここまで書けるになった過程をご紹介して、今から書き始める人の道しるべになればと思います。

初めて書いた二次創作小説が某サイトでルーキーランキング1位を取った話

のり丸
エッセイ・ノンフィクション
二次創作って難しいんでしょ?→いえいえ!めちゃくちゃ手軽にできるんです!!みなさんもLet's 二次創作! 二次創作をしようと思ったきっかけから、実際にやってみて大変だったこととか思ったことをメモ代わりに残していく予定。自分の経験を通して、とりあえず二次創作楽しいよってことを伝えたいです!

誰にも読まれない小説だからこそ書ききりなさい

フゥル
エッセイ・ノンフィクション
一話目次 ●小説書きに唯一必要な技術と、その三つの理由 ●創作ノウハウ三つの落とし穴 ●「よく読むこと」と「よく書くこと」、どちらの方がより困難か ●執筆で承認欲求は満たされない ●利他で小説を書けるか? ●「書くこと」とは、あなただけに与えられた使命である ●読まれない小説でも、書く意味はある 「小説を投稿したのに誰も読んでくれない」 「苦労して書いた小説が全く評価されない」 「誰も読んでくれない小説を書くのに意味はあるのか」 そう、問い続けて10年が経った。 いまだに多くの人に読まれる小説は書けていない。 もちろん、何十冊と創作論の本を読んできたし、可能な限りの努力はした。途方もない時間を小説執筆に捧げた。 それでもつまらない小説しか書けないということは、おそらく、才能がないのだろう。 では、才能がなければ小説を書く意味はないのか。読まれない小説に存在する意味はないのか。 私はそうは思わない。私は確固たる信念を持って「読まれない小説でも、書く意味がある」と断言する。 このエッセイでは、ただひたすら「読者がいない状態で小説を書き続ける技術」と、その必要性について語る。 ※どの話から読んでもわかるように書いてあります。質問等は感想へ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事

天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。 なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。 「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。

お笑い芸人ランキング Sランク・Sランク+編

採点!!なんでもランキング!!
エッセイ・ノンフィクション
お笑い芸人の能力値を項目毎にランク付けし、その実力を解説していきます。

処理中です...