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第15章 転校

転校(2)

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ちょっと待って!
と私は慌てた。

私はほんの一ヶ月前に
ある私立中学に入学したばかりだった。

家の最寄の停留所から二十分ほどバスに揺られて着いたところにある
ミッション系の男子校だった。

「聖コロンバ学園、白砂町校」といったが、
分校については普段意識になかったから、
ただ「聖コロンバ学園」と呼んでいた。

父も、
二郎叔父も、
従兄弟達ですらみな「聖コロンバ学園」出身だった。

浄土真宗の檀家で白砂神社の氏子の田中家の男子がみなこぞってこのカソリック系の学校に通うのは特に深い意味は無かった。

単に他に家から通える場所に中高一貫の進学校がないという理由からだった。

公立中学に進んだ美登利や正太がいないのは嬉しかった。

ただ五年生ぐらいまで女の子とばかり遊んでいた私は男子校に入るのは不安だった。

いじめられないか友達ができるか不安でいっぱいで入学式を迎えたが、
出席番号が隣の生徒とたまたま気が合った。

彼のおかげで五人組の仲良しグループにも入れてほっとした矢先だったのだ。

「やだよ!
転校だなんて、
友達できたばかりなのに」

今の学校の友達ともこれからも文通とかで仲良くして、
新しい学校でまた友達をつくればいい!
友達は沢山いたほうが楽しいはずだ!
と父は言う。

子供の頃から社交家だったという父には私の気持ちはわからないらしい。

父はパンフレットをめくると
「いいなあ!
この学生寮!
まるでイギリスのパブリックスクールみたいじゃないか。
先生は神父さんで外人さんも多いみたいだ。
イギリスの学校と交換留学もしているらしいよ。
乗馬部があるらしいよ。
フランス語とドイツ語も選択できるぞ!
ああ父さんもこんな学校に通いたかったなあ!
でも父さんがスグルの年の時はまだこの学校はなかったから」

さっきからずっと黙って横目でパンフレットを眺めていた二郎叔父がちょっと貸して、
とパンフレットを取り上げる。

しばらくパンフレットのあるページを読みいった後、
深くうなずいた。

「寮の先生が自習や生活を管理してくれるんだって。
叔父さんももしこの学校に行っていたら医学部に入れたかもなあ!
でも叔父さんの時もまだできてなかったから……」

母も、
この制服イギリスの男の子みたいで、
お洒落ね、
スグルちゃんが着たらきっと似合うわ、
すてきな校舎ね、
こんな所で六年間も過ごせたらロマンチックだわ、
礼拝堂にこんなきれいなステンドグラスがあるのね、
あらこの神父さんまるでスグルちゃんが好きな映画の魔法学校の校長先生みたい、
とすっかり気に入ったようだった。

最後にスグルは甘やかされすぎだから寮に入って少しは自立したらいいんだ、
と叔母が一言添えて、
ほぼ私の転校は確定した。

それから三日程安静にしてゴールデンウィーク明けに一日だけ登校した。

私はロッカーの中と机の荷物を片付けて、
朝のホームルームでクラスメートに別れの挨拶をした。

その日は一時間目の授業にも出席せず、
下校した。

家に帰るとすぐにタクシーを呼び
二郎叔父と一緒に
二三日分の着替えと勉強道具を持って乗り込む。

「お着替え宅配便で送るから、
毎日寮の先生に荷物が来たかどうか聞くのよ!」

次第に小さくなっていく母は
珍しく白い男物のようなぱりっとしたシャツを着ていた。

私はふと良子のことを思い出した。

私は二郎叔父に小虎の検査の結果を尋ねた。

「うん。
大丈夫だったって。
小虎君とは夏休みにまた遊べばいいさ」
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