上 下
22 / 62
第11章 先客

先客(2)

しおりを挟む
それから一週間ぐらい後、
私はまた小虎の家に遊びに行った。

足元にはダンボールが置かれていた。

ダンボールの蓋は開けられている。

中には柿の実がぎっしりと、
こぼれんばかりに詰まっていた。

奥から人の声が聞こえる。

赤ら顔の背が高く、
堅太りの男が仁王のように立っていた。

部屋着のような、
薄い灰色のジャージの上下だった。

年の頃は青年と中年の間ぐらいだった。

全体的に赤みがかった皮膚が油を塗ったように艶々としている。

絵本に載っていた赤鬼を思わせる。

ぎょろ目の上のげじげじ眉毛を吊り上げている。

「その言い方ねえだろ!
こっちは親切で言ってやっているのに!」

良子が柳眉を逆立て、
珍しく声を荒げている。

小虎を決して人には渡すまいとでもいう風に、
両腕で抱きしめていた。

「もう帰って下さい!
二度と来ないで下さい!」

大きな舌打ちの音がした。

大男は、
リブ編みから伸びた小山のような裸足の脚で、
古びた畳を踏みしめるように玄関にやって着た。

私は恐ろしくて体が凍りついた。

どけよ!
と怒声がした。

体が前に向かって跳ね飛ばさた。

弁慶の泣き所を玄関の角にぶつけたようだ。

痛さに顔をひきつらせていると、
物凄いドアの閉まる音がする。

背中を冷たい風がぶわりと襲った。

良子が縦長のタッパーを持って何も言わずに近づいて来る。

いつもなら優しい言葉をかけてくれる彼女が、
私など見えていないかのように脇を通り過ぎた。

大きな目の下にクマができていて、
眉間には深い皺がよっている。

唇は血の気が無い。

癖毛はほぼほつれていて、
銀のバレッタが今にも落ちそうに肩の辺りの毛束にしがみついていた。

私は雪女を目撃したような気分になった。

良子はドアを開けるとタッパーの中に大理石のように青白い二の腕をつっこんだ。

何かを握り締めながら腕をタッパーから出す。

手を高々と上げると、
細長い花弁の白い花のように良子の指が開いた。

白い粉が粉雪のように空を舞っている。

良子が白い粉上のものを、
踊り場に向かってばら撒いている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

水やり当番 ~幼馴染嫌いの植物男子~

高見南純平
青春
植物の匂いを嗅ぐのが趣味の夕人は、幼馴染の日向とクラスのマドンナ夜風とよく一緒にいた。 夕人は誰とも交際する気はなかったが、三人を見ている他の生徒はそうは思っていない。 高校生の三角関係。 その結末は、甘酸っぱいとは限らない。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

High-/-Quality

hime
青春
「…俺は、もう棒高跳びはやりません。」 父の死という悲劇を乗り越え、失われた夢を取り戻すために―。 中学時代に中学生日本記録を樹立した天才少年は、直後の悲劇によってその未来へと蓋をしてしまう。 しかし、高校で新たな仲間たちと出会い、再び棒高跳びの世界へ飛び込む。 ライバルとの熾烈な戦いや、心の葛藤を乗り越え、彼は最高峰の舞台へと駆け上がる。感動と興奮が交錯する、青春の軌跡を描く物語。

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

処理中です...