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第9章 スケッチブックの中の友人

スケッチブックの中の友だち(2)

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小虎は鼻歌の音量を上げる。

水澄ましのようにすいすい手を動かす。

スケッチブックには立派な露天風呂が出現した。

お湯の周りには岩が置かれ湯気が立ち上っている。

二人の少年の他に、
もう一人仲間が増えた。

猿である。

子供離れした筆跡だった。

鳥獣戯画の猿のような躍動感がある。

もう画用紙には隙間はなかった。

小虎はページをめくる。

真っ白な新しいページとなった。

小虎は習字の時に筆を半紙に置くように、
クーピーを画用紙に下ろす。

走るように描きだす。

二人の子供は白鳥のような羽をつけて、
白い空に舞い上がる。

おかっぱの子供は天女のような着物を着ていた。

頭には大きなリボン付きのヘアバンドをつけている。

いがぐり坊主の子供は半ズボンにセーターを着ていた。

セーターは丸首のアラン模様だった。

今、
小虎が着ているのとそっくりだった。

秒速で星が描かれていく。

ねえ、
この子男の子じゃなかったの?
私はリボンがついた、
おかっぱを指差した。

小虎はこの子はみいちゃん、
とつぶやく。

でもこの子、
あんなのついていたじゃないか?
と私は笑って聞いた。

おかっぱの頭の上に噴出しが現れた。

「私、男の子に戻りたくなったわ」

小虎はじゃあ、
またお風呂に入ろう、
と独り言を言った。

二人は蛙みたいな格好で野天風呂にジャンプする。

ねえお風呂に入ると男の子になったり女の子になったりできるの?
でもこの子ぱっかり、
女の子になれて、
小虎兄ちゃんはなれないの?
と私が尋ねると小虎はしいーっ!
と口に指をあてた。

おかっぱの両性具有の子供から噴出しが伸びた。

吹き出しには

「なんだか、がやがやうるさいなあ!」
と書かれ、
口をへの字にしている。

スケッチブックの中の小虎が
「スグル君が来ているんだよ」
と訳を説明した。

おかっぱの子供はお風呂から兎のように飛び出すと、
こう言った。

「じゃあ僕はもういらないね」

少年の体にもどったおかっぱは、
宗教画の天使のような羽を頭の上からかかとまで広げる。

稲妻の形の吹き出しには、
じゃあばいばい!
とへろへろの文字で書かれた。

小虎は、
スケッチブックをめくり、
針金の両側が使えるように床に置いた。

スケッチブックを縦にすると、
四等分に線を引く。

線は針金をまたいでいる。

スケッチブックには四つの長い長いコマができた。

一番左の下の露天風呂で、
小虎がぽつねんと湯につかり、
顔を上に上げている。

小虎の頭上からは漫画でよく描かれる早い動きを表す線が描かれた。

線は一番上まで引かれた後、
真ん中の二つのコマの端から端まで疾走した。

小虎は一番右のコマの一番下にクービーを置くと腕を音を立てながらスライドさせた。

線は一番上に少し余白を残して止まった。

一番右端のコマのてっぺんに羽をいっぱいに広げた、
おかっぱの少年と月が描かれた。

また左下の端を見れば小虎が一人寂しげに、
夜空へと旅立った友達を仰ぎ見ている。

「みいちゃん行っちゃったよ、スグル君がうるさいって!」

小虎がこちらを振り向いた。

私は、
悪かったね、
邪魔なら僕は帰るよ、
と部屋を出ようとした。

「みいちゃんは行っちゃったんだよ! もう帰ってこない」

小虎の右手が私の手首を掴んだ。

手は骨ばっていて、
彼が少年と若者の中間の年齢であることを表していた。

私をじっと見つめる大きな瞳は光が無い。

溶岩の溜まった火口のようだ。

小虎は私を強い力で引っ張ると和室の敷居をまたぐ。

私を引きずりながら玄関へと行進する。

良子はテーブルに両ひじをつき、
組んだ手の甲の上に額をのせてうたた寝をしていた。

赤いペンが良子の足元に転がっている。

小虎が左手でドアノブを回して押した。
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