3 / 3
僕が作ったんです!!(三郎篇☆男性パート)
しおりを挟む
「こんな仕事があるんだけどどうかな? 」
春菜が求人表を三郎の目の前に差し出した。
三郎は、一瞬色とりどりに塗られスパンコールが散りばめられた彼女の爪に目を奪われたが、すぐに求人票に目を向けた。
未経験者可。システム保守。三十歳ぐらいまで。一週間に三日は夜勤。月給十二万円から。正社員としての雇用……
週の半分は夜勤か。
まあ今までもほとんど夜中起きていて朝寝る生活だからあまり抵抗はない。
月給はバイトもしたことのない彼にとってはこの十二万が多いのか少ないのかよくわからず、
いわばどうでも良いことだった。
どうやらパソコン相手の仕事で人にあまり接することも無さそうだから、
自分にもできそうである。
そして正社員としての採用。
これが一番重要であった。
ネットの情報によると働けるなら何でもいいやとバイトや契約社員を始めると、
毎日の忙しさにかまけてフリータを続ける事に甘んじてしまい、
もっと年をとってから焦ることになるから、
何としても正社員になれとの事である。
「是非やらせて下さい」と言った後、
自分があまりに張り切った口調で言ったのに気がつき、
恥ずかしくなり頬のほてりを感じた。
春菜が面接の日程が決まったら連絡するから今日は終わりにしよう、
と言ったので、立ち上がり、お辞儀をして部屋を出る。
ドアの閉まる音を聞いたところで思わずため息がもれた。
白いタイルの床を眺めながら、
廊下を歩き、喫茶室に入るとコーヒーを買って弁当を広げた。
就職支援センターに通うようになって二ヶ月がたつが、
ここで一番好きな時間は面談が終わってからこうやって喫茶室でほっとする一時である。
自分ももう二十七歳。
早く就職したいのはやまやまだったが、
何故だが面接の日程の連絡がなかなか来なければいい、
やはりこの求人は無くなりました、
という連絡が来ればいい、とも思ってしまうのだった。
「今週土曜日のお昼頃から睫毛エクステ百本コースお願いします!」
喫茶室中に若い女の声が響き渡った。
「バースデー月割引と春のときめきキャンペーンのクーポンって一緒に使えますか?」
さっき面談をした支援員の春菜だ。
声が大きいので何を言っているか全部よく聞こえる。
携帯でエステの予約をしているようだった。
彼女は会う度に、三郎が色が白いだの睫毛か長いだの外見の事を言う。
今、大声でエステの予約をしているのを聞いて、
よほど人の見てくれにこだわる人間なんだなと思った。
ふと春菜はいくつなのだろうかと考えた。
若くていかにも軽そうな女だったが、
名刺にはリーダーと書いてあったし、
まさか年下なんてことはあるまい。
予約が済んだらしい春菜がこちらに向かって歩いてきた。
リゾート用のような麦藁帽子を被っている。
三郎の傍らに立つと、三郎君お弁当? と言いながら身をかがめ三郎の弁当を覗きこんだ。
いいな、お母さんのお手製! と春菜が言うので、
いやこれは僕が自分で作ったんです、
とあわてて反論した。
三郎には何も自慢できるものなんか無いけれど、
料理だけは自信があった。
半年前、母親に、家でごろごろしてるなら家事ぐらい手伝ってよ、と言われ、
本を見ながらチャーハンを作ってみたところ、
思いの他よくできた。
それ以来作るのが楽しくなって、
毎日のように料理をするようになった。
最初は母親が買い込んだ食材を使っていたが、
次第に家に材料の無いものも作りたくなり、
マンションの一階の二十四時間営業スーパに買い物に行くようになったのが、
引きこもりをやめたきっかけである。
「いいなー!
うちの母親なんか絶対作ってくれないよ。
超うらやましい!
三郎君のお母さん超優しい!
早く就職して親孝行しなよ! 」
春菜の賞賛の声を胸をときめかせながら待っていたのに、
まるで三郎の話を聞いていない様子である。
あの僕が作ったんです、
ともう一度言おうとしたが、
いつのものように緊張するとなかなか声が出てこない。
三郎が喉の奥から何とか言葉を絞り出そうとしているうちに、
春菜は出口に向かっていき昼時の街へ消えていった。
春菜が求人表を三郎の目の前に差し出した。
三郎は、一瞬色とりどりに塗られスパンコールが散りばめられた彼女の爪に目を奪われたが、すぐに求人票に目を向けた。
未経験者可。システム保守。三十歳ぐらいまで。一週間に三日は夜勤。月給十二万円から。正社員としての雇用……
週の半分は夜勤か。
まあ今までもほとんど夜中起きていて朝寝る生活だからあまり抵抗はない。
月給はバイトもしたことのない彼にとってはこの十二万が多いのか少ないのかよくわからず、
いわばどうでも良いことだった。
どうやらパソコン相手の仕事で人にあまり接することも無さそうだから、
自分にもできそうである。
そして正社員としての採用。
これが一番重要であった。
ネットの情報によると働けるなら何でもいいやとバイトや契約社員を始めると、
毎日の忙しさにかまけてフリータを続ける事に甘んじてしまい、
もっと年をとってから焦ることになるから、
何としても正社員になれとの事である。
「是非やらせて下さい」と言った後、
自分があまりに張り切った口調で言ったのに気がつき、
恥ずかしくなり頬のほてりを感じた。
春菜が面接の日程が決まったら連絡するから今日は終わりにしよう、
と言ったので、立ち上がり、お辞儀をして部屋を出る。
ドアの閉まる音を聞いたところで思わずため息がもれた。
白いタイルの床を眺めながら、
廊下を歩き、喫茶室に入るとコーヒーを買って弁当を広げた。
就職支援センターに通うようになって二ヶ月がたつが、
ここで一番好きな時間は面談が終わってからこうやって喫茶室でほっとする一時である。
自分ももう二十七歳。
早く就職したいのはやまやまだったが、
何故だが面接の日程の連絡がなかなか来なければいい、
やはりこの求人は無くなりました、
という連絡が来ればいい、とも思ってしまうのだった。
「今週土曜日のお昼頃から睫毛エクステ百本コースお願いします!」
喫茶室中に若い女の声が響き渡った。
「バースデー月割引と春のときめきキャンペーンのクーポンって一緒に使えますか?」
さっき面談をした支援員の春菜だ。
声が大きいので何を言っているか全部よく聞こえる。
携帯でエステの予約をしているようだった。
彼女は会う度に、三郎が色が白いだの睫毛か長いだの外見の事を言う。
今、大声でエステの予約をしているのを聞いて、
よほど人の見てくれにこだわる人間なんだなと思った。
ふと春菜はいくつなのだろうかと考えた。
若くていかにも軽そうな女だったが、
名刺にはリーダーと書いてあったし、
まさか年下なんてことはあるまい。
予約が済んだらしい春菜がこちらに向かって歩いてきた。
リゾート用のような麦藁帽子を被っている。
三郎の傍らに立つと、三郎君お弁当? と言いながら身をかがめ三郎の弁当を覗きこんだ。
いいな、お母さんのお手製! と春菜が言うので、
いやこれは僕が自分で作ったんです、
とあわてて反論した。
三郎には何も自慢できるものなんか無いけれど、
料理だけは自信があった。
半年前、母親に、家でごろごろしてるなら家事ぐらい手伝ってよ、と言われ、
本を見ながらチャーハンを作ってみたところ、
思いの他よくできた。
それ以来作るのが楽しくなって、
毎日のように料理をするようになった。
最初は母親が買い込んだ食材を使っていたが、
次第に家に材料の無いものも作りたくなり、
マンションの一階の二十四時間営業スーパに買い物に行くようになったのが、
引きこもりをやめたきっかけである。
「いいなー!
うちの母親なんか絶対作ってくれないよ。
超うらやましい!
三郎君のお母さん超優しい!
早く就職して親孝行しなよ! 」
春菜の賞賛の声を胸をときめかせながら待っていたのに、
まるで三郎の話を聞いていない様子である。
あの僕が作ったんです、
ともう一度言おうとしたが、
いつのものように緊張するとなかなか声が出てこない。
三郎が喉の奥から何とか言葉を絞り出そうとしているうちに、
春菜は出口に向かっていき昼時の街へ消えていった。
0
お気に入りに追加
2
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
台本保管所
赤羽根比呂
大衆娯楽
noteのマガジン『台本保管所』をこちらに引っ越し中です。
【明るめ・優しい感じ】【暗め・責める感じ】【朗読・呟く感じ】【恋文】【掛け合い・演じ分け】の大まかに五つのジャンルで構成してますので、好きな台本を読んでください。
※著作権は【赤羽根比呂】にありますがフリー台本なので、YouTubeやstand.fmなど音声投稿サイトなどでの公開は自由です!使用の際は、ご一報下されば聴きに行きます。
フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜
摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。
ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
片思い台本作品集(二人用声劇台本)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
今まで投稿した事のある一人用の声劇台本を二人用に書き直してみました。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。
※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい
ルール違反はやめてちょうだい!【声劇台本】【一人用】
マグカップと鋏は使いやすい
ライト文芸
あらすじ
告白のセッティングを依頼されたある人物の話
頭良いけど行き過ぎた方に頭の回転が早い人、好きです。
楽しいですね(∩´∀`)∩
普段使わない「~だわ」「~かしら」の語尾はわくわくしますね。
内容が大きく変わらない程度の変更は構いません。
語り主は女子ですが、性別は不問です。
言いやすいように語尾など変更、文章の入れ替えなどしていただいて構いません。
動画・音声投稿サイトに使用する場合は、使用許可は不要ですが一言いただけると嬉しいです。
自作発言、転載はご遠慮ください。
著作権は放棄しておりません。
使用の際は作者名を記載してください。
別所に載せていたものを大幅に書き換えています。
👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。
あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか?
月曜:人懐っこい
火曜:積極的
水曜:年上
木曜:優しい
金曜:俺様
土曜:年下、可愛い、あざとい
日曜:セクシー
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
フリー台本と短編小説置き場
きなこ
ライト文芸
自作のフリー台本を思いつきで綴って行こうと思います。
短編小説としても楽しんで頂けたらと思います。
ご使用の際は、作品のどこかに"リンク"か、"作者きなこ"と入れていただけると幸いです。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる