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僕が作ったんです!!(三郎篇☆男性パート)

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「こんな仕事があるんだけどどうかな? 」

春菜が求人表を三郎の目の前に差し出した。

三郎は、一瞬色とりどりに塗られスパンコールが散りばめられた彼女の爪に目を奪われたが、すぐに求人票に目を向けた。 



未経験者可。システム保守。三十歳ぐらいまで。一週間に三日は夜勤。月給十二万円から。正社員としての雇用……



週の半分は夜勤か。

まあ今までもほとんど夜中起きていて朝寝る生活だからあまり抵抗はない。

月給はバイトもしたことのない彼にとってはこの十二万が多いのか少ないのかよくわからず、
いわばどうでも良いことだった。

どうやらパソコン相手の仕事で人にあまり接することも無さそうだから、
自分にもできそうである。

そして正社員としての採用。

これが一番重要であった。

ネットの情報によると働けるなら何でもいいやとバイトや契約社員を始めると、
毎日の忙しさにかまけてフリータを続ける事に甘んじてしまい、
もっと年をとってから焦ることになるから、
何としても正社員になれとの事である。



「是非やらせて下さい」と言った後、
自分があまりに張り切った口調で言ったのに気がつき、
恥ずかしくなり頬のほてりを感じた。

春菜が面接の日程が決まったら連絡するから今日は終わりにしよう、
と言ったので、立ち上がり、お辞儀をして部屋を出る。

ドアの閉まる音を聞いたところで思わずため息がもれた。



白いタイルの床を眺めながら、
廊下を歩き、喫茶室に入るとコーヒーを買って弁当を広げた。

就職支援センターに通うようになって二ヶ月がたつが、
ここで一番好きな時間は面談が終わってからこうやって喫茶室でほっとする一時である。



自分ももう二十七歳。

早く就職したいのはやまやまだったが、
何故だが面接の日程の連絡がなかなか来なければいい、
やはりこの求人は無くなりました、
という連絡が来ればいい、とも思ってしまうのだった。

「今週土曜日のお昼頃から睫毛エクステ百本コースお願いします!」

喫茶室中に若い女の声が響き渡った。

「バースデー月割引と春のときめきキャンペーンのクーポンって一緒に使えますか?」 

さっき面談をした支援員の春菜だ。

声が大きいので何を言っているか全部よく聞こえる。

携帯でエステの予約をしているようだった。

彼女は会う度に、三郎が色が白いだの睫毛か長いだの外見の事を言う。

今、大声でエステの予約をしているのを聞いて、
よほど人の見てくれにこだわる人間なんだなと思った。

ふと春菜はいくつなのだろうかと考えた。

若くていかにも軽そうな女だったが、
名刺にはリーダーと書いてあったし、
まさか年下なんてことはあるまい。



予約が済んだらしい春菜がこちらに向かって歩いてきた。

リゾート用のような麦藁帽子を被っている。

三郎の傍らに立つと、三郎君お弁当? と言いながら身をかがめ三郎の弁当を覗きこんだ。



いいな、お母さんのお手製! と春菜が言うので、
いやこれは僕が自分で作ったんです、
とあわてて反論した。

三郎には何も自慢できるものなんか無いけれど、
料理だけは自信があった。

半年前、母親に、家でごろごろしてるなら家事ぐらい手伝ってよ、と言われ、
本を見ながらチャーハンを作ってみたところ、
思いの他よくできた。

それ以来作るのが楽しくなって、
毎日のように料理をするようになった。

最初は母親が買い込んだ食材を使っていたが、
次第に家に材料の無いものも作りたくなり、
マンションの一階の二十四時間営業スーパに買い物に行くようになったのが、
引きこもりをやめたきっかけである。

「いいなー! 
うちの母親なんか絶対作ってくれないよ。
超うらやましい! 
三郎君のお母さん超優しい! 
早く就職して親孝行しなよ! 」


春菜の賞賛の声を胸をときめかせながら待っていたのに、
まるで三郎の話を聞いていない様子である。

あの僕が作ったんです、
ともう一度言おうとしたが、
いつのものように緊張するとなかなか声が出てこない。

三郎が喉の奥から何とか言葉を絞り出そうとしているうちに、
春菜は出口に向かっていき昼時の街へ消えていった。

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