砂漠の中の白い行列

宇美

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第一章

(五)妹弟子は手を握られるにまかせ、 満面の笑みでお金持ちを上目遣いで見つめている。

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鼻の下を伸ばしながら、
おまえ柳音紅より上手いじゃないかと褒めている。

妹弟子は手を握られるにまかせ、
満面の笑みでお金持ちを上目遣いで見つめている。

赤青の縞々にポンポンのついた帽子をかぶった小さな男の子が
おじいちゃん、
つまらないよ、
帰ろうよ、
と細身のお年寄りの腕を引っ張っていた。

白い髭をたらした上品で優しそうなおじいちゃんは、
よしよし、
と孫息子のおでこを撫でる。

今おじいちゃんは立つからね、
と杖を構えると、
どっこいしょ! 
と立ち上がった。

男の子に手を引かれ杖をつきながら出口へと歩いていった。

老人と少年が戸の後ろに隠れた。

彼らから伸びていた長い影法師が消えた。

私が舞台に現れたとき、
大慌てで居眠りしていた友達を起こした男も、
起こされた男もすっかり眠り込んでいた。

痩せた方の頭が、
太った方の肩にもたれかかっている。

太った方は痩せた方の頭に、
頭を乗せていた。

男達はいびきで二重奏を奏でていた。

太った相棒に頭の上にのしかかられた痩せた男は、
眉を顰め歯ぎしりをしている。

暗い中、
乳白色のものが反射した。

それは水を含んだようにぬめぬめとしていた。

闇に溶け込む黒地のチャイナドレスの裾から露になった大腿だった。

どじょう髭のだんなの奥方がショウ兄さんと抱きあって口を吸い合っている。

ショウ兄さんは奥方に体をぴったりと密着さている。

奥方の細い腕がショウ兄さんの首を羽交い絞めにしていた。

奥方のガーターベルトのはめられた太ももが左右に動く。

ぴちゃぴちゃというキスの音が時折大きく響く。

どじょう髭の亭主と言えば、
妹弟子の歌に夢中でいっこうに気がつくようすもない。

今にも餅のような頬が落っこちそうに顔を蕩けさせている。

にたにたと妹弟子の手をもみ続けていた。

妹弟子の笑顔が時折引きつる。

「乾杯!」

玉杯のぶつかる音がする。

酒を飲んだ後のため息が聞こえた。

五人組の男だった。

右端の背の低い若い男が酒瓶を持つ。

へこへこと歩いて左端の男の所まで行き、
左から右に順に相手にすみません、
すみませんとおじぎをしながらお酌をする。

四人の杯に注ぎ終わると、
ごめんなさい、
すぐに済みますので、
と謝りながら、
慌てた様子で自分のにも注ぐ。

貫禄の良い赤ら顔に髭の男が玉杯を持った。

その他の男達もその男に続く。

髭の男が、
それでは柳音紅の引退を祝って乾杯! 
と玉杯を高々と掲げた。

大きな音をたてて玉杯が重なる。

男達は杯に口をつけるといっせいに首を後ろに倒す。

何かに驚いたような真ん丸くした瞳で、
天井を仰ぎ見る。
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