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「兄さんあの小さい若様はいったいどうしたんだい?
さっき迄あんなに機嫌が良かったのに」
ミゲルにそう聞かれたが、
もちろんカルロスにも何故若様があんな態度をとったのかは解らなかった。
族長がカルロスに向かって謝る。
「すまない。
息子が何故だか急におかしなことを言い出したのだ」
「若様は何とおっしゃっていたのですか?」
カルロスがそう聞くと族長は若様が急にあの猫は今に大きくなって僕たちを食い殺してしまう、
などと言いだしたという。
「子供の妄想だ。
気にしないでくれ。
息子はちょっと変わっているのだ。
小さい頃から幽霊が見えたり他の人には見えない友達がいたりしたのだ」
族長がすまなそうに話すのを、
カルロスは
「そんなこと何でもありません、
弟も若様ぐらいの頃はそんな風だったんですよ」
とミゲルを指差した。
*
しばらくしてこの騒ぎも忘れた頃、
料理を載せた皿を持った召使たちが次々と部屋に入ってきた。
新しい料理の皿が運び込まれるたびにミゲルが歓声をあげる。
「おお豚の丸焼き!」
「見ろよ果物の模様が人の顔みたいだ!」
ミゲルは最初は運ばれてくる料理にいちいち驚いていたがしばらくすると、
料理について馬鹿にしだした。
「動物の丸焼きと生の果物ばかりじゃないか?
この野蛮人どもは丸焼きしか料理の仕方を知らないんだな」
「やめろ、案外俺たちの言葉のわかる人もいるかもしれないぞ」
とカルロスは注意する。
「ミゲルさんはどうされたのですか?」
族長がカルロスに聞いた。
カルロスはこう言ってほほ笑んだ。
「弟はご馳走の素晴らしさに感動して思わず声を上げたのです」
カルロスの言葉を聞いた族長は満足してほほ笑む。
カルロスと族長が話す時に使っている、
この辺り一帯の商業用の共通語のできないミゲルは、
今迄ほとんどカルロスの側に黙って座っていただけで、
ずっと目立たなかったが、
今日は先程カルロスに指差されたり、
ご馳走を見て歓声をあげたりしたので、
急に族長の関心を引いたようだった。
族長がミゲルに話しかける。
「ミゲルさんはハンサムですね。
お年はいくつですか?
奥様はもういらっしゃるのですか?」
ミゲルは族長に見つめられて声を掛けられても、
意味が解らないようできょとんとしているばかりだ。
カルロスはミゲルは未だにこんな簡単な質問も理解できないのか、
とあきれながら弟に変わって答える。
「弟は今年で二十四になります。
奥さんをもらうのはもう少し仕事ができるようになってからですね」
「そうか、まだ奥様はいらっしゃらないのか、それは良かった」
族長は満面の笑みを浮かべると、
召使にそっと耳打ちをした。
召使は出て行くと、
しばらくして豪華な衣装をまとった若い娘の手をひいて戻ってきた。
「こちらは私の十番目の娘です」
族長はそう紹介して、
娘をミゲルの隣に座らせると、
いきなり彼らの手をつながせて前後に振り、
歌うように騒ぎ出した。
「似合いの夫婦だ!
似合いの夫婦だ!」
娘は下を向いて身に纏った衣装の端で、
顔を隠して恥ずかしがっている。
「兄さんこれは何なの?
さっきから兄さんと族長は何を話しているの?」
カルロスはまさか今日こんな事になるとは思わなかったが悪い話ではないと思った。
「この娘さんは前からお前に惚れていて一度近くで会いたいと思っていたんだって」
カルロスはミゲルに適当なことを言う。
ミゲルは
「ええ?そうなの?」
と照れて頭を掻いている。
「カルロスさん。
弟さんは何と言っているのですか?」
族長が聞いたのでカルロスはこう答えておいた。
「弟はこんな綺麗なお嫁さんが貰え、
こんな立派なお義父さんができるなら嬉しいです、と言っています」
さっき迄あんなに機嫌が良かったのに」
ミゲルにそう聞かれたが、
もちろんカルロスにも何故若様があんな態度をとったのかは解らなかった。
族長がカルロスに向かって謝る。
「すまない。
息子が何故だか急におかしなことを言い出したのだ」
「若様は何とおっしゃっていたのですか?」
カルロスがそう聞くと族長は若様が急にあの猫は今に大きくなって僕たちを食い殺してしまう、
などと言いだしたという。
「子供の妄想だ。
気にしないでくれ。
息子はちょっと変わっているのだ。
小さい頃から幽霊が見えたり他の人には見えない友達がいたりしたのだ」
族長がすまなそうに話すのを、
カルロスは
「そんなこと何でもありません、
弟も若様ぐらいの頃はそんな風だったんですよ」
とミゲルを指差した。
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しばらくしてこの騒ぎも忘れた頃、
料理を載せた皿を持った召使たちが次々と部屋に入ってきた。
新しい料理の皿が運び込まれるたびにミゲルが歓声をあげる。
「おお豚の丸焼き!」
「見ろよ果物の模様が人の顔みたいだ!」
ミゲルは最初は運ばれてくる料理にいちいち驚いていたがしばらくすると、
料理について馬鹿にしだした。
「動物の丸焼きと生の果物ばかりじゃないか?
この野蛮人どもは丸焼きしか料理の仕方を知らないんだな」
「やめろ、案外俺たちの言葉のわかる人もいるかもしれないぞ」
とカルロスは注意する。
「ミゲルさんはどうされたのですか?」
族長がカルロスに聞いた。
カルロスはこう言ってほほ笑んだ。
「弟はご馳走の素晴らしさに感動して思わず声を上げたのです」
カルロスの言葉を聞いた族長は満足してほほ笑む。
カルロスと族長が話す時に使っている、
この辺り一帯の商業用の共通語のできないミゲルは、
今迄ほとんどカルロスの側に黙って座っていただけで、
ずっと目立たなかったが、
今日は先程カルロスに指差されたり、
ご馳走を見て歓声をあげたりしたので、
急に族長の関心を引いたようだった。
族長がミゲルに話しかける。
「ミゲルさんはハンサムですね。
お年はいくつですか?
奥様はもういらっしゃるのですか?」
ミゲルは族長に見つめられて声を掛けられても、
意味が解らないようできょとんとしているばかりだ。
カルロスはミゲルは未だにこんな簡単な質問も理解できないのか、
とあきれながら弟に変わって答える。
「弟は今年で二十四になります。
奥さんをもらうのはもう少し仕事ができるようになってからですね」
「そうか、まだ奥様はいらっしゃらないのか、それは良かった」
族長は満面の笑みを浮かべると、
召使にそっと耳打ちをした。
召使は出て行くと、
しばらくして豪華な衣装をまとった若い娘の手をひいて戻ってきた。
「こちらは私の十番目の娘です」
族長はそう紹介して、
娘をミゲルの隣に座らせると、
いきなり彼らの手をつながせて前後に振り、
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「ええ?そうなの?」
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