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第3章 マーシア、タラア王妃となる
11、招かれざる客
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結婚式から二月後。
招かれざる客がタラア島にやってきた。
クラークの妻であり、マーシアの従妹で寄宿学校の後輩である、ピア・アーリングスだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結婚式の翌日、マーシアがピアから届いた、結婚祝いのカードを開くと、ひらりとピンク色の便せんが舞い落ちた。
マーシアがおそるおそるそれを開くと、甘ったるいパヒュームの香りがして……
「タラア王家に嫁いだなんて、面白そう!!
マーシア姉さまがどんな暮らしをしているか見たいから、遊びに行っていいわね? お姉さまもきっとホームシックでロイデン王国から誰か遊びに来てほしいと思っているんじゃないの?
それには私がぴったり!!
……」
マーシアは青ざめる。
もともとマーシアは、ピアとは親戚のよしみで仲良くしていただけで、気が合わなかった。
彼女がクラークの妻となった今は、ことさら会いたくなんかない。
けれどもピアからの手紙が、マーシアがピアを歓迎するのが前提のような、書きぶりだったので、マーシアは、
「では、楽しみに待っているわ」
と返事を書かざるをえなかった。
手紙には書かれていなかったが、きっとクラークもピアと一緒に来るだろう。
二人は夫婦なのだから。
マーシアは、やっと忘れかけていたクラークに対面しなければならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボーッと汽笛の音が鳴る。
マーシアは心を波立てながら、波止場にピアを迎えにいく。
白いドレスをまとい、ハイヒールをかつかつさせながらピアが現れた。
ピアの後ろから山のようなトランクを抱えた、ボーイ達がついてくる。
ピアは産後ダイエットがうまくいったらしく、もとどおりのほっそりしたウェストだ。
髪はWoooチューブでのクラークとの結婚発表の時のレインボーカラーではなく、地毛のダークブロンド。
やはり結婚報告動画でのあの突飛なキャラは、作られたもののようだった。
マーシアはしばらく、目を皿のようにして波止場を見回したが、クラークはいない。
彼はこなかったようだ。
能天気な彼も、さすがにマーシアには会いにくかったのだろうか?
「それならよかった」とマーシアが安堵のため息をついていると、ピアがマーシアの前に立った。
ひどく汗をかいたためか、右のつけまつげが取れて頬に貼り付いているのが見えた。
化粧崩れがひどいのだろう。
右の顔と左の顔が大きく違う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピアは開口一番「もう、やんなっちゃう、船酔いがひどくて。それにムシ暑いし」と大袈裟にため息をついた後、さっそくマウンティングを始める。
「マーシア姉さまみたいなアラサーが結婚できるなんて、どんな国の王様かと思ったら、こんな原始時代に毛が生えたような国だったのね。
なっとくなっとく」
とか……
「クーラーもないから毎日汗をかいてダイエットできるんじゃない。
うらやましーい」
とか……
「この国に住んでいればお店もないし、ネットで買い物もできないから、節約できそう。
お金も貯まるんじゃない?
あ! でもいくら貯めても使うとこないか?」
とか……
かなり嫌な感じだ。
「私はもともと、あなたみたいに無駄なものをポンポン買ったりしないから、どの国にいても節約できるわ」
と言い返してやろうかと思ったけれど、マーシアはすぐにこう思い直した。
「私は昔から彼女より美人だと言われてきた。
それに学校の成績や習い事も、彼女よりできたから、普通にしていても、彼女からはいつもマウンティングしていると、思われてきたのかも……
今日はその腹いせにマウンティング返しされただけかもね。
気にしないことにしましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マーシアの夫のタラア王は心配そうに眉をたれて、マーシアの耳元でこそっとささやく。
「お姉様……あの方は本当にお姉様の親戚の方ですか?
なんだか僕たちのことをとてもバカにしているみたいで、嫌な感じです」
「ごめんなさい陛下。
もともとピアはああいう、人に平気で失礼なことを言う子でしたの。
しばらく会っていなかったから私はすっかり忘れていて、ついつい彼女をこの国に招いてしまいました。
今度彼女がこの国に来たいと言ったときは必ず断りますから、どうかお許しあそばして」
招かれざる客がタラア島にやってきた。
クラークの妻であり、マーシアの従妹で寄宿学校の後輩である、ピア・アーリングスだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結婚式の翌日、マーシアがピアから届いた、結婚祝いのカードを開くと、ひらりとピンク色の便せんが舞い落ちた。
マーシアがおそるおそるそれを開くと、甘ったるいパヒュームの香りがして……
「タラア王家に嫁いだなんて、面白そう!!
マーシア姉さまがどんな暮らしをしているか見たいから、遊びに行っていいわね? お姉さまもきっとホームシックでロイデン王国から誰か遊びに来てほしいと思っているんじゃないの?
それには私がぴったり!!
……」
マーシアは青ざめる。
もともとマーシアは、ピアとは親戚のよしみで仲良くしていただけで、気が合わなかった。
彼女がクラークの妻となった今は、ことさら会いたくなんかない。
けれどもピアからの手紙が、マーシアがピアを歓迎するのが前提のような、書きぶりだったので、マーシアは、
「では、楽しみに待っているわ」
と返事を書かざるをえなかった。
手紙には書かれていなかったが、きっとクラークもピアと一緒に来るだろう。
二人は夫婦なのだから。
マーシアは、やっと忘れかけていたクラークに対面しなければならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボーッと汽笛の音が鳴る。
マーシアは心を波立てながら、波止場にピアを迎えにいく。
白いドレスをまとい、ハイヒールをかつかつさせながらピアが現れた。
ピアの後ろから山のようなトランクを抱えた、ボーイ達がついてくる。
ピアは産後ダイエットがうまくいったらしく、もとどおりのほっそりしたウェストだ。
髪はWoooチューブでのクラークとの結婚発表の時のレインボーカラーではなく、地毛のダークブロンド。
やはり結婚報告動画でのあの突飛なキャラは、作られたもののようだった。
マーシアはしばらく、目を皿のようにして波止場を見回したが、クラークはいない。
彼はこなかったようだ。
能天気な彼も、さすがにマーシアには会いにくかったのだろうか?
「それならよかった」とマーシアが安堵のため息をついていると、ピアがマーシアの前に立った。
ひどく汗をかいたためか、右のつけまつげが取れて頬に貼り付いているのが見えた。
化粧崩れがひどいのだろう。
右の顔と左の顔が大きく違う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピアは開口一番「もう、やんなっちゃう、船酔いがひどくて。それにムシ暑いし」と大袈裟にため息をついた後、さっそくマウンティングを始める。
「マーシア姉さまみたいなアラサーが結婚できるなんて、どんな国の王様かと思ったら、こんな原始時代に毛が生えたような国だったのね。
なっとくなっとく」
とか……
「クーラーもないから毎日汗をかいてダイエットできるんじゃない。
うらやましーい」
とか……
「この国に住んでいればお店もないし、ネットで買い物もできないから、節約できそう。
お金も貯まるんじゃない?
あ! でもいくら貯めても使うとこないか?」
とか……
かなり嫌な感じだ。
「私はもともと、あなたみたいに無駄なものをポンポン買ったりしないから、どの国にいても節約できるわ」
と言い返してやろうかと思ったけれど、マーシアはすぐにこう思い直した。
「私は昔から彼女より美人だと言われてきた。
それに学校の成績や習い事も、彼女よりできたから、普通にしていても、彼女からはいつもマウンティングしていると、思われてきたのかも……
今日はその腹いせにマウンティング返しされただけかもね。
気にしないことにしましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マーシアの夫のタラア王は心配そうに眉をたれて、マーシアの耳元でこそっとささやく。
「お姉様……あの方は本当にお姉様の親戚の方ですか?
なんだか僕たちのことをとてもバカにしているみたいで、嫌な感じです」
「ごめんなさい陛下。
もともとピアはああいう、人に平気で失礼なことを言う子でしたの。
しばらく会っていなかったから私はすっかり忘れていて、ついつい彼女をこの国に招いてしまいました。
今度彼女がこの国に来たいと言ったときは必ず断りますから、どうかお許しあそばして」
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