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第4章

俺の功績を横取りされたぜ!!ヽ(`Д´)ノプンプン

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私とコウスさまは武人たちの後をつけていった。

武人達は昨日宴の開かれた、
桧皮葺ひわだぶきの高床式の大広間へと登る階段を、
上がっていった。



私たちは、
近くの蔵から適当にそれらしい鎧を見つくろう。

彼らの護衛の兵士を真似て変装し、
階段を上る。

柱の影から大広間を覗く。

クマソの武人たちは、
広々とした部屋の端から端まで、
長い長い二つの列を作り、
向き合って座っていた。

喧々諤々けんけんがくがくの論争をしている。

どうやら彼らは、
クマソタケルが亡くなった今、
クマソタケルの領地や権益をどうやって分け合うかの相談をしているらしい。



話の風向きがクマソタケルの暗殺者に向かった。

「クマソを狙う外国勢力とのつながりのある者の仕業かと思われます。
早く探し出し、拷問にかけ、
黒幕をつきとめるべきです。

その勢力はいまにもクマソに襲い掛かってくるかもしれません。
一番怪しいのはこの前負かしたばかりの、
ヤマトですが、それだと単純すぎるので、
じつはまったく別の国の可能性も高いです……」

武人達は皆向き合って真剣な面持ちで話し合っている。

色が黒く、げじげじまゆげで、
唇がぶあつく、手足も顔も刺青だらけだった。

しかしその野蛮の趣のある顔の下には様々な思惑が潜んでいそうだった。

クマソタケルが現れクマソの王になるまで、
クマソにはクマソ全体を統べる権力者はいなかったそうだ。

それまで、クマソは親族単位ごとの無数の小集団が争ったり和平を結んだりしていたという。

ということは今後この中の誰かがクマソタケルに取って代わるかもしれない。

ここに集まった武人達の中には「我こそは!」と思っている者もいるに違いない。

当初は私の目には武人達は皆良く似て見え、
区別がつかなかった。

しかし、しだいに一塊ひとかたまりごとに髪型や装飾品、
顔の刺青の模様や色が違うことに気がついた。

おそらく氏族ごとに身なりが違うのだろう。

私達のいる場所からは、
二つの氏族集団から来たらしき、
武人達が語り合っている様子がよく観察できた。

向こう側の武人達は皆、
髪を下げみずらにして、
両の耳たぶにメノウの耳飾をしている。

顔の刺青は目を中心に紺色の輪を何十にも描いていた。

こちら側の武人達は、
両耳の下でお下げに結い、
左耳に二つの青いわっかをぶら下げていた。

刺青は頬の辺りに赤い直線を何本も走らせていた。

それぞれ集団の中で、
一番威厳のありそうな武人二人が、
対面し語り合っている。

和やかに少し話した後、
急に瞳を怒らせて語調が荒くなる。

そうかと思うと、また表情が和らいだりする。

紺の刺青の武人が
お揃いの装束、
髪型の武人の耳元に
髭にうずもれた口元を近づける。

なにやら囁いている。

赤の刺青の武人も同族のものと顔を見合わせる。

意味ありげにうなづいている。

謀略うずまく……
という言葉がぴったりの雰囲気の中に、

「くせものをとらえました!」

という、よく通る気持ちのよい声が駆け巡った。

よどんだ空気を払うかのような若々しい、
男の声だった。

木の手かせ足かせをはめられて連れてこられたのは、
昨晩、私の仕事仲間だったあの娘だった。

「こいつめが女に化けて、
クマソタケルを殺したのです。
こいつとクマソタケルが共に座を外すのを見たものが何人もいます」

「違います!
私はただの村娘です!
だいたい私は女に化けているんじゃなくて本当に女です!
ああ!
お米一俵欲しくて来ただけなのになんでこんなことに!」

クマソの武人たちは一斉に娘を指差して、
獣の鳴き声のような音をだして、
娘を非難している。

娘はカブトムシのような両手で顔を覆って嘆いている。

すぐ隣でうめき声がした。

「ちがう!
クマソタケルをやったのは俺だ!」

今にも武人達の間に出て行って名乗りを上げようとなさるコウス様だった。

わたしは左手をコウス様の口に入れて、
右足をコウス様の脚に釣り針のようにひっかけて、
必死で制止した。

クマソの武人達の娘を攻めたてる声が聞こえる。

「おまえのようなごつい女がいるわけないではないか!」

「はやく吐け!
誰がお前にクマソタケル兄弟を殺すように命じたのだ!?」

しばらく続いた野次のおかげでコウス様が私に抵抗して、
手足を床に打ち付ける音や、

「はなせ! クマソタケルをやったのはこの俺だ」という声がかき消されたのは幸いだった。

野次がはたとやんだ。

目をこらすと娘がすっぱだかになっている。

色は黒いけれど、
まるでこの地で信仰されている地母神のようなふくよかないい体つきだった。

娘の足元には脱いだ着物や腰巻が小山をつくっていた。

「その娘を放しなさい!」

先の若者の声と好対照の成熟しきった男の声が大広間に響きわたった。

「クマソタケルを殺したのは私じゃ!」

声の主は昨晩、
私の為にマイヒコを呼んでくれたあのおきなだった。

少年のおつきが二人いるだけで、
護衛の武装の男は一人もつれていない。

おきなが太刀に手をかけた。

武人達は自らの刀柄に手を添えたり、
弓を構え矢先をおきなに向けた。

おきなは皆さん勘違いをなさるな……
とゆっくりと大きなしぐさで、
左手で太刀の唾の下を握った。

太刀を鞘ごと腰帯から外す。

膝を落すと、
床の上を滑らせるように太刀を投げた。

太刀はおきなの足元から身の丈の二倍ほど離れた所で止まった。

丸腰のおきなは堂々とした声で、

「私はかねてからクマソタケルの暴政に苦しむ民を見て、
早くなんとかせねばと思っていた。
それで自分の命はかえりみずにこのたびこのようなことをした。

皆さん、私を殺したければ殺してよい! 
どうせ老い先短いのだから。
しかし……」

おきなはクマソの武人の一人に近づくと、

「どうかあなたに嫁いだ、
わが娘だけは罰しないでください。
私はどうなってもかまいませんが、
あのは何も知らないのです。

あなたとあのの子供も母親がいなくては可哀想でしょう……」

クマソの男達がまた獣のように吼え始めた。

皆、おきなを指差してわめいている。

しかし先ほど娘に対して飛ばしていた罵声とは違う種類のものに思われた。

と思っていると、皆立ち上がり、
おきなの所にいっせいに集まってきた。

おきなに抱きついたり、
頬に口付けたり、おきなの両手を自分の両手でぱああんと強くひっぱたいたりした。

刺青にうずもれた目を糸のように細くして、
髭の合間の分厚い唇の端を上げていた。

「あなたは英雄だ!」

「皆がやりたくても怖くてできなかったことをやりとげられたのだ!」

「こんなお義父さんをもって私は誇りに思います!」

豪快な笑い声が鳴り響いた。

手を打ち鳴らす音とめでたや! めでたや! という大合唱が次第に大きくなる。

「おれがああっ! おれがああっ!」

コウス様が床に押し付けられた手足を泳ぐようにばたつかせた。

私はコウス様の口に解いた帯を押し込むと抱きかかえるように、
コウス様をひきずって、
階段を降りた。


☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡


もとの所に戻るとまだ芸人達が輪になって嘆きあっていた。

「どうしようどうしよう」

「外国に出稼ぎにいこうか?」

「でもその国の人たちにいじめられないだろうか?」

「友達も親戚もいない所にいくなんて心細くていやだ!」

    
「しかしこの国でくすぶっていてもらちが明かないじゃないか!」

私はマイヒコの肩をぽんとたたいて、
こう声をかけた。

「心配しなくてもいい、
仕事ならあるぞ」
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