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第1章

クマソ軍にメタ負け、でもあきらめきれないコウスさま

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遠目に赤い砂埃を撒き散らしながら近づいてくるクマソ軍を見た時には、
もうこれは相当な苦戦になるな、
と予想がついた。

ただ、
ここまであっという間に、
コテンパに負けてしまうとは、
思いもよらなかった。

日頃ぼろをまとい不良仲間とそこらをほっつきまわっているコウス様だって、
一応は大事な大事な王子様でいらっしゃる。

それに今回のクマソ征伐は、
コウス様にとってはいわば戦の練習のようなものだった。

危険が無いように前線よりずっと奥まった所にいらしたのだ。




しかし一旦クマソ軍が現れたかと思うと、
まるで津波のように押し寄せてきた。

周りの兵は、
次々とクマソの弓矢や刃になぎ倒されていく。

ついにはコウス様の頭上を、
弓矢が飛び交うようになった。

それでもご自分の身の安全なんかちっとも考えないで、
身を乗り出していこうとされる。

側でお守りするのが、
本当に大変だった。



もう目の前に、
コウス様を捕らえようとクマソタケル兄弟がやってきていた。

その顔の眉間に刻まれた皺も、
縮れたひげの一本一本も見える近さにいるという、
土壇場になった時だった。

ある命を惜しまない男が、
慌ててコウス様の着物を着た。

その忠義者は
馬にまたがりクマソタケル兄弟の前に走り出た。

クマソタケルはそれをコウス様だと思い、
まっすぐな矛で影武者の胸を突く。

男は胸から血を吹き出しながら、
馬から落ちた。
 
クマソタケルが偽者の背中に足を乗せ、
両手を挙げ、
喜びの雄たけびを上げる。

私達はその様子をすぐ近くの竹やぶで、
息を殺して見ていた。




「もうこのとおりです。
十分おわかりになったでしょう。
とても太刀打ちできません。
ここはあきらめて帰るか、
お父様の助けを借りましょう」
と私はコウス様を諭した。

しかし歯軋りをなさって、
頭を振って、

「いやだ、
いやだ。
クマソタケルなんか三日で倒してやる、
と親父に言ったのだ。
今更助けを求めるなんて、
恥ずかしくて死んでもできない」
とおっしゃる。

「でもこのとおりですよ。
これでどうやってクマソタケルを倒すというのですか?」

五体満足で残っている兵なんて、
私とコウス様以外、
ほとんどいなかった。

コウス様は、
頭を使うんだよ、
とおっしゃられる。

しかしでは頭を使ってどうするんですか? と聞いても、
答えはないようだった。

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