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花咲か爺さんの日常
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人は彼を花咲か爺と呼ぶ。ポチの遺灰を枯れ枝に蒔いたら、満開の花が咲いた。ちょうど側を通りかかった殿様が大喜び。褒美をたんまりもらった。今でも彼は枯れ枝に花を咲かせ続ける。褒美が貰える棚ぼたは流石にもう無い。しかし、面白いのだ。
隣の家の意地悪爺が真似をして、殿様の目に灰を入れてしまい、厳罰を受けた。元からこの爺さんは何かと花咲か爺を目の敵にして、対抗意識を燃やす。勝手にやってくれと言いたいところだが、さすがにポチを殺されたり、臼を燃やされた時は腹に据えかねた。殿様からの罰もいい薬だ、と思う。しかし、ぼろぼろになって帰宅した後、あまりにも落ち込んだ隣の爺を見ると、なんだか気の毒になった。それで、お節介を承知で、隣の家の枯木にせっせと灰を蒔いた。当然花が咲く。まあ、隣の爺のことだ。それでお礼を言って和解するほど一筋縄にはいかない。案の定、「嫌味か?」とか、「余計なお世話だ!」と苦情を言われた。だけど花咲か爺も引き下がらない。しつこく枯木に花を咲かせ続けた。散々絡まれたのだ。これくらいの意趣返しは当然だ。そして、どうなったか。皆が寝静まった深夜、隣の爺が花を咲かせた木に縁台を引っ張り出して、ひっそりと晩酌をしている。用を足しに起きて、偶然隣の庭を見た花咲か爺がそれを見つけた時、人生捨てたもんじゃないと思った。心なしか隣の爺の嫌味な口調に、以前のような活気が戻ってきた。決して友好的とは言いがたいが、これで良いと花咲か爺は思っている。
今日、街道沿いに親子連れらしき人を見た。老母に付き添った男がため息をついている。
「おっ母さんの腰が良くなるのを待って花見がしたかったのに。」
どうやら、桜は老母の腰の回復を待ってくれず、散ってしまったらしい。
「気にするな。また、来年来りゃいい。」
そう老母は笑うが、息子は複雑そうだ。無理もない。年老いた親を持つと、ついいつまで彼らが元気でいるのか不安になるものだ。花咲か爺は親子連れから少し離れた場所にある木に、例の灰をふりかけた。途端にぱあっと花が咲く。
「ありゃ、こんなところに狂い咲があるわい。」
わざとらしく大声を上げると、親子連れが気づいた。やはり花見がしたかったらしい。老母の顔が華やぐ。歓声を上げる彼らを後に、花咲か爺はその場をさる。
今夜も月が綺麗だ。酒がうまい。花咲か爺は独りごちながら手酌で酒を飲んだ。不意にガタゴトと派手な音がする。何事かと見ると、隣の爺が縁台を引っ張りだしていた。今夜はまだ早いのに珍しいこともあるもんだ。ふと、目が合う。花咲か爺がにっこり笑うと、隣の爺がふん、と、そっぽを向いた。でも引っ張り出した縁台に座り、彼も黙々と酒を飲む。垣根を挟んで、2人の爺が酒を飲んでいる。会話はない。でも不思議と嫌な気がしない。隣の爺も同じ気持ちだろう。黙って飲み続けるのが一番の証拠だ。
ポチが死んだ置き土産。不思議な灰はさらに不思議なことに尽きることはない。褒美は貰えなくても、人生面白い景色が見える。それが何よりの宝だと花咲か爺は思う。
隣の家の意地悪爺が真似をして、殿様の目に灰を入れてしまい、厳罰を受けた。元からこの爺さんは何かと花咲か爺を目の敵にして、対抗意識を燃やす。勝手にやってくれと言いたいところだが、さすがにポチを殺されたり、臼を燃やされた時は腹に据えかねた。殿様からの罰もいい薬だ、と思う。しかし、ぼろぼろになって帰宅した後、あまりにも落ち込んだ隣の爺を見ると、なんだか気の毒になった。それで、お節介を承知で、隣の家の枯木にせっせと灰を蒔いた。当然花が咲く。まあ、隣の爺のことだ。それでお礼を言って和解するほど一筋縄にはいかない。案の定、「嫌味か?」とか、「余計なお世話だ!」と苦情を言われた。だけど花咲か爺も引き下がらない。しつこく枯木に花を咲かせ続けた。散々絡まれたのだ。これくらいの意趣返しは当然だ。そして、どうなったか。皆が寝静まった深夜、隣の爺が花を咲かせた木に縁台を引っ張り出して、ひっそりと晩酌をしている。用を足しに起きて、偶然隣の庭を見た花咲か爺がそれを見つけた時、人生捨てたもんじゃないと思った。心なしか隣の爺の嫌味な口調に、以前のような活気が戻ってきた。決して友好的とは言いがたいが、これで良いと花咲か爺は思っている。
今日、街道沿いに親子連れらしき人を見た。老母に付き添った男がため息をついている。
「おっ母さんの腰が良くなるのを待って花見がしたかったのに。」
どうやら、桜は老母の腰の回復を待ってくれず、散ってしまったらしい。
「気にするな。また、来年来りゃいい。」
そう老母は笑うが、息子は複雑そうだ。無理もない。年老いた親を持つと、ついいつまで彼らが元気でいるのか不安になるものだ。花咲か爺は親子連れから少し離れた場所にある木に、例の灰をふりかけた。途端にぱあっと花が咲く。
「ありゃ、こんなところに狂い咲があるわい。」
わざとらしく大声を上げると、親子連れが気づいた。やはり花見がしたかったらしい。老母の顔が華やぐ。歓声を上げる彼らを後に、花咲か爺はその場をさる。
今夜も月が綺麗だ。酒がうまい。花咲か爺は独りごちながら手酌で酒を飲んだ。不意にガタゴトと派手な音がする。何事かと見ると、隣の爺が縁台を引っ張りだしていた。今夜はまだ早いのに珍しいこともあるもんだ。ふと、目が合う。花咲か爺がにっこり笑うと、隣の爺がふん、と、そっぽを向いた。でも引っ張り出した縁台に座り、彼も黙々と酒を飲む。垣根を挟んで、2人の爺が酒を飲んでいる。会話はない。でも不思議と嫌な気がしない。隣の爺も同じ気持ちだろう。黙って飲み続けるのが一番の証拠だ。
ポチが死んだ置き土産。不思議な灰はさらに不思議なことに尽きることはない。褒美は貰えなくても、人生面白い景色が見える。それが何よりの宝だと花咲か爺は思う。
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