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冒険者~始まり~
準備万端
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誘拐事件が発生した翌朝、ブランカ冒険者ギルドのマスターサンドロの執務室にフルーが訪ねて来ていた。
「どうした?今日は非番だっただろ?」
「はい。朝早くに申し訳ありません。マスターに相談したい事がありまして」
「相談?言ってみろ」
「実は、実家の母が急病で帰って来て欲しいと連絡がありました。申し訳ありませんが退職させてください」(な~んてウソだけどね~新人だから引き止める事は無いでしょうし、早いとこ町から出なきゃ)
「分かった……と言ってやりたいが今は許可できん」
「え?何故ですか?」(どうしてよ!?もしかして……わたしを手放したくないの?ウフフフ)
「人手が足りないからだ」
「人手が?何かありました?」(そんな事言って、わたしを引き止めたいなら素直に言えば良いのに……まぁ残る気はないけど)
「実は公爵家の者が誘拐されたらしい。ガイと公爵家の子息令嬢だ。お前も知っているだろ?」
「っ!?」(うそ……)
「3人以外にも孤児院出身の冒険者も行方が分からなくなっている。どうやら彼等はガイたちと同じ依頼を受けたらしくてな。彼等も誘拐された可能性があるから調査しているんだ」
「……本当に誘拐されているんですか?他の可能性……ただ依頼に手間取っているだけではないですか?」(まさか……)
「依頼は子守りだ。それに依頼者の住所に行ったら空き家だった。依頼書を調べなおしたら依頼発行日と住所を書き換えた痕跡があった。おそらく過去の依頼書を使ったんだろ。これが何を意味するか分かるかフルー?」
「……いいえ」(まさか、まさか……)
「依頼書を細工し利用した者がいる。依頼書の管理をしているのはギルドだ。つまり、ギルド職員が誘拐に関わっているという事だ」
「そんな!?いったい誰が……」(調べが速すぎる!)
「それは調査中だ。お陰で人手が足りん」
「そうてすか……ですがっ」(ホッ……まだわたしだとは気付かれてない。やっぱり早く町を出ないと!)
「ギルマス!失礼します!」
このままでは自分が関わっている事がバレると焦ったフルーが言い募ろうとした時、ギルド職員の青年がノックもせずに部屋に飛び込んで来た。
「どうした?何かあったのか?」
「そ、それがっ!こ、公爵家のミゲル様が来られました!」
「すぐ行く。フルー、お前も来てくれ」
「は、はい」
フルーは足取り重くサンドロの後ろを着いていった。
ミゲルは冒険者たちに遠巻きに見られていたが、気にする事なくひとり静かに佇んでいる。
足早に近付いたサンドロはミゲルに声をかけた。
「ミゲル様、お待たせしました」
「いや、突然すまない。実は急ぎ伝えたい事があってな」
「伝えたい事ですか?」
「あぁ、実は弟たちが帰って来た」
「それは良かった!しかしそれでは誘拐の話は?」
「誘拐はされていた。最近この辺りに出ていた盗賊にな。だが自力で戻って来た。捕らえた盗賊どもは外に連れて来ている」
「……自力」
「うそ……」
ミゲルとサンドロが話している間、始終うつ向いていたフルーは聞こえた内容に勢いよく顔を上げた。
ミゲルはそれをチラッと見た後、外に向かって声をかけた。
「アル、フェリ、ガイ、入りなさい」
「「は~い」」
「やれやれ」
「見ての通り3人とも無事だ。捜索は打ち切ってくれ」
「分かりました」
話の流れでフェリーチェたちが貴族だと知った周りの冒険者たちがザワつく中、フルーはみるみる顔色が悪くなっていて、そんな自分が冷めた目で見られている事に彼女は気付いていなかった。
一方、表面上和やかに朝食を食べていた領主邸にネイサンを訪ねて来た者がいた。
その者から渡された手紙に目を通したネイサンがクスッと笑ったのでザランは気になり声をかけた。
「ネイサン様、何か良い事でも?」
「えぇ、弟たちが戻ったそうです」
「……え?」
「どうやら最近この辺りに出没している盗賊に捕らえられたので討伐して来たようですね」
「……は?」
「幸い死人も無く全員連行しているそうです」
「……全員」
「冒険者ギルドにいるみたいだな。すぐ向かおうネイサン。ザラン、世話になったな」
「お世話になりました。失礼します」
「……は、はい」
すっかり青ざめたザランを放置してネイサンたちは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドで再会した面々はサンドロの執務室に移動して一息ついた。
「はぁ~……これで良かったんですか?」
「茶番に付き合わせて申し訳ないが、もうしばらく付き合って貰えるか?」
「それは構いません。この件はギルドも無関係じゃないですから」
「それで依頼書の方は?」
「確証はありませんでしたが、あの様子を見ると間違いなくフルーが関わっているかと」
「そうだな。ネイサンはどうだった?」
「面白いくらい色々出て来ましたよ。盗賊との契約書、違法奴隷の売買に裏帳簿、あと例の孤児院の神父との取引もありましたね。どうやら孤児院の助成金を横領したり、成長した孤児を売っていたようです」
「……そうか。孤児院の方でも取引きの証拠があった」
部屋にいる者たちが怒りや嫌悪に顔を歪める中、どうしても気になる事があったサンドロが口を開いた。
「それにしてもそれだけの証拠を良く集められましたね」
「自分が誘拐に関わった家の者が訪ねて来ているのに、警戒するでも対策を講じる事もせず安眠を貪る無能しかいませんでしたからね。ゆっくり探せましたよ」
「見張りはいなかったんですか?」
「いても関係ありません。魔道具を使い姿を消していたので」
「魔道具ですか?」
「そうそう、フェリが付与して作った姿を完全に消す魔道具だ。あれ便利だよな~。ほんと全然気付かないから」
「あれのお陰で私たちも神父の不正の証拠を集められたからな」
「まぁ、俺みたいに耳や鼻のきく獣人がいなかったのもあるがな。匂いや音で気付かれる」
「やっぱり匂いと音か~改良が必要かな?今回は上手くいったけど、ブレイクさんの言う通り匂いとかでバレたら危ないもんね」
「でも何を付与するの?」
「う~ん……『消臭』と『消音』?」
「良いかも。幸い仲間同士は姿が見えるし、やり取りは念話か通信魔道具で問題ないしね」
「確か『隠密』の効果で魔力探知も防げたよな?あとは見破られるスキルや魔法だけど、そうそうそ持ってる奴はいないだろ。完成したら暗殺しほうだいしゃねぇか」
「「「「「「確かに」」」」」」
ガイの物騒な言葉に首肯くフェリーチェたちを見て、サンドロは口をパクパクしていた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!じゃない、待ってください!そんな魔道具聞いた事ありませんよ!しかも作った!?その子がですか!?」
「はい!」
「そんなに驚く事?もしかして欲しいの?」
「そうじゃない!」
「フェリなら数分もかからないが、流石に誰にでもは渡せないからな」
「当たり前だ!そんか国宝もの……ちょっと欲し……いや、欲しくないわ!そうじゃなくて!」
「ハッ!もしかして……私、暗殺なんかしませんよ!」
「分かってる!が、それも違う!」
「「「えぇ~?」」」
「え?俺がおかしいのか!?」
フェリーチェは真面目に言っているが、アルベルトとガイは明らかにサンドロの反応を見て遊んでいる。
不憫に思ったブレイクがサンドロの肩に手を置きフルフルと首を横に振った。
「深く考えるな。お前は正常だ。大丈夫、すぐ慣れる」
「……慣れたくない」
「サンドロ、人生ときには諦めも大事だ」
妙に実感のこもったブレイクの言葉にサンドロはガクッと力無く頭を下げた。
そんな彼をよそにフェリーチェたちは今後の確認をしていた。
「ミゲルお兄様、後は王都の警備隊が来るのを待つんだっけ?」
「本来なら事件が起こった場所の者が取り調べをするが、今回は彼等の中にも関わりある者がいるみたいだからな」
「残念ですが、私たちにはその権限はありませんからね。えぇ本当に残念ですが」
「二回言った。権限がないっていっても盗賊のアジトでクロードが殆ど聞き出してたよな」
「父様、イキイキしてたよね~。こう……生きるか死ぬかをギリギリで見極めながらジワジワと絶望を味わわせつつ希望をチラつかせ必要な情報を喋らせてたよ」
アルベルトが盗賊に対するクロードの所業を喋り出す前に嫌な予感のしたガイがフェリーチェの耳を塞で聞こえないようにしていた。
それを確認したオースティンが眉を潜めながら尋ねた。
「おいおい、まさかフェリに見せてないだろうな?」
「大丈夫だオースティン。フェリはモフるのに夢中だったからな」
「……毛玉め」
「どうして耳塞ぐの?ガイ~?」
「悪い悪い。それで、警備隊が到着したら領主邸で関係者を集めて殺るんだろ?」
フェリーチェの耳から手を離したガイが楽しそうに言った言葉に、オースティンが呆れたように答えた。
「殺らないからな。証拠を突き付け自白させて王都に連行してから裁くんだからな」
「それから家で色々します。色々」
「ネイサン……」
「大丈夫ですよ叔父上。人数は絞ります」
「ミゲル……」
「僕も参加するよ」
「アル……」
「俺も~。フェリはヴィーと遊んでやってくれ」
「良いの!わ~い!」
「僕やっぱい良いや。フェリといる」
「「「アル……」」」
「ププッ……よ、余裕なしっ……」
「うるさいよ!」
「アルもモフモフしたいんだね!」
「ま、まぁね………クソ毛玉め」
アルベルトがボソッと呟いた同時刻、ガイに命じられ別の場所で待機していたヴィルヘルムが微睡んでいたが、毛を逆立て飛び上がったので、近くで木陰に同じく待機していたゾーイが声をかけた。
「どうかしたのか?」
「いや……今一瞬寝てたみたいで夢を見た」
「夢?」
「あぁ、恐ろしく禍々しい者に毛という毛を毟りとられる夢だ。はぁ~夢で良かった」
「……夢か……正夢じゃないと良いな」
フェリーチェが彼の毛皮に埋もれていた時の、アルベルトの様子を思い浮かべながら言ったゾーイの最後の言葉は、ヴィルヘルムには届いていなかった。
それから暫くしてミゲルに連絡が入り、今回の事件の関係者を連れてフェリーチェたちは領主邸に向かった。
「どうした?今日は非番だっただろ?」
「はい。朝早くに申し訳ありません。マスターに相談したい事がありまして」
「相談?言ってみろ」
「実は、実家の母が急病で帰って来て欲しいと連絡がありました。申し訳ありませんが退職させてください」(な~んてウソだけどね~新人だから引き止める事は無いでしょうし、早いとこ町から出なきゃ)
「分かった……と言ってやりたいが今は許可できん」
「え?何故ですか?」(どうしてよ!?もしかして……わたしを手放したくないの?ウフフフ)
「人手が足りないからだ」
「人手が?何かありました?」(そんな事言って、わたしを引き止めたいなら素直に言えば良いのに……まぁ残る気はないけど)
「実は公爵家の者が誘拐されたらしい。ガイと公爵家の子息令嬢だ。お前も知っているだろ?」
「っ!?」(うそ……)
「3人以外にも孤児院出身の冒険者も行方が分からなくなっている。どうやら彼等はガイたちと同じ依頼を受けたらしくてな。彼等も誘拐された可能性があるから調査しているんだ」
「……本当に誘拐されているんですか?他の可能性……ただ依頼に手間取っているだけではないですか?」(まさか……)
「依頼は子守りだ。それに依頼者の住所に行ったら空き家だった。依頼書を調べなおしたら依頼発行日と住所を書き換えた痕跡があった。おそらく過去の依頼書を使ったんだろ。これが何を意味するか分かるかフルー?」
「……いいえ」(まさか、まさか……)
「依頼書を細工し利用した者がいる。依頼書の管理をしているのはギルドだ。つまり、ギルド職員が誘拐に関わっているという事だ」
「そんな!?いったい誰が……」(調べが速すぎる!)
「それは調査中だ。お陰で人手が足りん」
「そうてすか……ですがっ」(ホッ……まだわたしだとは気付かれてない。やっぱり早く町を出ないと!)
「ギルマス!失礼します!」
このままでは自分が関わっている事がバレると焦ったフルーが言い募ろうとした時、ギルド職員の青年がノックもせずに部屋に飛び込んで来た。
「どうした?何かあったのか?」
「そ、それがっ!こ、公爵家のミゲル様が来られました!」
「すぐ行く。フルー、お前も来てくれ」
「は、はい」
フルーは足取り重くサンドロの後ろを着いていった。
ミゲルは冒険者たちに遠巻きに見られていたが、気にする事なくひとり静かに佇んでいる。
足早に近付いたサンドロはミゲルに声をかけた。
「ミゲル様、お待たせしました」
「いや、突然すまない。実は急ぎ伝えたい事があってな」
「伝えたい事ですか?」
「あぁ、実は弟たちが帰って来た」
「それは良かった!しかしそれでは誘拐の話は?」
「誘拐はされていた。最近この辺りに出ていた盗賊にな。だが自力で戻って来た。捕らえた盗賊どもは外に連れて来ている」
「……自力」
「うそ……」
ミゲルとサンドロが話している間、始終うつ向いていたフルーは聞こえた内容に勢いよく顔を上げた。
ミゲルはそれをチラッと見た後、外に向かって声をかけた。
「アル、フェリ、ガイ、入りなさい」
「「は~い」」
「やれやれ」
「見ての通り3人とも無事だ。捜索は打ち切ってくれ」
「分かりました」
話の流れでフェリーチェたちが貴族だと知った周りの冒険者たちがザワつく中、フルーはみるみる顔色が悪くなっていて、そんな自分が冷めた目で見られている事に彼女は気付いていなかった。
一方、表面上和やかに朝食を食べていた領主邸にネイサンを訪ねて来た者がいた。
その者から渡された手紙に目を通したネイサンがクスッと笑ったのでザランは気になり声をかけた。
「ネイサン様、何か良い事でも?」
「えぇ、弟たちが戻ったそうです」
「……え?」
「どうやら最近この辺りに出没している盗賊に捕らえられたので討伐して来たようですね」
「……は?」
「幸い死人も無く全員連行しているそうです」
「……全員」
「冒険者ギルドにいるみたいだな。すぐ向かおうネイサン。ザラン、世話になったな」
「お世話になりました。失礼します」
「……は、はい」
すっかり青ざめたザランを放置してネイサンたちは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドで再会した面々はサンドロの執務室に移動して一息ついた。
「はぁ~……これで良かったんですか?」
「茶番に付き合わせて申し訳ないが、もうしばらく付き合って貰えるか?」
「それは構いません。この件はギルドも無関係じゃないですから」
「それで依頼書の方は?」
「確証はありませんでしたが、あの様子を見ると間違いなくフルーが関わっているかと」
「そうだな。ネイサンはどうだった?」
「面白いくらい色々出て来ましたよ。盗賊との契約書、違法奴隷の売買に裏帳簿、あと例の孤児院の神父との取引もありましたね。どうやら孤児院の助成金を横領したり、成長した孤児を売っていたようです」
「……そうか。孤児院の方でも取引きの証拠があった」
部屋にいる者たちが怒りや嫌悪に顔を歪める中、どうしても気になる事があったサンドロが口を開いた。
「それにしてもそれだけの証拠を良く集められましたね」
「自分が誘拐に関わった家の者が訪ねて来ているのに、警戒するでも対策を講じる事もせず安眠を貪る無能しかいませんでしたからね。ゆっくり探せましたよ」
「見張りはいなかったんですか?」
「いても関係ありません。魔道具を使い姿を消していたので」
「魔道具ですか?」
「そうそう、フェリが付与して作った姿を完全に消す魔道具だ。あれ便利だよな~。ほんと全然気付かないから」
「あれのお陰で私たちも神父の不正の証拠を集められたからな」
「まぁ、俺みたいに耳や鼻のきく獣人がいなかったのもあるがな。匂いや音で気付かれる」
「やっぱり匂いと音か~改良が必要かな?今回は上手くいったけど、ブレイクさんの言う通り匂いとかでバレたら危ないもんね」
「でも何を付与するの?」
「う~ん……『消臭』と『消音』?」
「良いかも。幸い仲間同士は姿が見えるし、やり取りは念話か通信魔道具で問題ないしね」
「確か『隠密』の効果で魔力探知も防げたよな?あとは見破られるスキルや魔法だけど、そうそうそ持ってる奴はいないだろ。完成したら暗殺しほうだいしゃねぇか」
「「「「「「確かに」」」」」」
ガイの物騒な言葉に首肯くフェリーチェたちを見て、サンドロは口をパクパクしていた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!じゃない、待ってください!そんな魔道具聞いた事ありませんよ!しかも作った!?その子がですか!?」
「はい!」
「そんなに驚く事?もしかして欲しいの?」
「そうじゃない!」
「フェリなら数分もかからないが、流石に誰にでもは渡せないからな」
「当たり前だ!そんか国宝もの……ちょっと欲し……いや、欲しくないわ!そうじゃなくて!」
「ハッ!もしかして……私、暗殺なんかしませんよ!」
「分かってる!が、それも違う!」
「「「えぇ~?」」」
「え?俺がおかしいのか!?」
フェリーチェは真面目に言っているが、アルベルトとガイは明らかにサンドロの反応を見て遊んでいる。
不憫に思ったブレイクがサンドロの肩に手を置きフルフルと首を横に振った。
「深く考えるな。お前は正常だ。大丈夫、すぐ慣れる」
「……慣れたくない」
「サンドロ、人生ときには諦めも大事だ」
妙に実感のこもったブレイクの言葉にサンドロはガクッと力無く頭を下げた。
そんな彼をよそにフェリーチェたちは今後の確認をしていた。
「ミゲルお兄様、後は王都の警備隊が来るのを待つんだっけ?」
「本来なら事件が起こった場所の者が取り調べをするが、今回は彼等の中にも関わりある者がいるみたいだからな」
「残念ですが、私たちにはその権限はありませんからね。えぇ本当に残念ですが」
「二回言った。権限がないっていっても盗賊のアジトでクロードが殆ど聞き出してたよな」
「父様、イキイキしてたよね~。こう……生きるか死ぬかをギリギリで見極めながらジワジワと絶望を味わわせつつ希望をチラつかせ必要な情報を喋らせてたよ」
アルベルトが盗賊に対するクロードの所業を喋り出す前に嫌な予感のしたガイがフェリーチェの耳を塞で聞こえないようにしていた。
それを確認したオースティンが眉を潜めながら尋ねた。
「おいおい、まさかフェリに見せてないだろうな?」
「大丈夫だオースティン。フェリはモフるのに夢中だったからな」
「……毛玉め」
「どうして耳塞ぐの?ガイ~?」
「悪い悪い。それで、警備隊が到着したら領主邸で関係者を集めて殺るんだろ?」
フェリーチェの耳から手を離したガイが楽しそうに言った言葉に、オースティンが呆れたように答えた。
「殺らないからな。証拠を突き付け自白させて王都に連行してから裁くんだからな」
「それから家で色々します。色々」
「ネイサン……」
「大丈夫ですよ叔父上。人数は絞ります」
「ミゲル……」
「僕も参加するよ」
「アル……」
「俺も~。フェリはヴィーと遊んでやってくれ」
「良いの!わ~い!」
「僕やっぱい良いや。フェリといる」
「「「アル……」」」
「ププッ……よ、余裕なしっ……」
「うるさいよ!」
「アルもモフモフしたいんだね!」
「ま、まぁね………クソ毛玉め」
アルベルトがボソッと呟いた同時刻、ガイに命じられ別の場所で待機していたヴィルヘルムが微睡んでいたが、毛を逆立て飛び上がったので、近くで木陰に同じく待機していたゾーイが声をかけた。
「どうかしたのか?」
「いや……今一瞬寝てたみたいで夢を見た」
「夢?」
「あぁ、恐ろしく禍々しい者に毛という毛を毟りとられる夢だ。はぁ~夢で良かった」
「……夢か……正夢じゃないと良いな」
フェリーチェが彼の毛皮に埋もれていた時の、アルベルトの様子を思い浮かべながら言ったゾーイの最後の言葉は、ヴィルヘルムには届いていなかった。
それから暫くしてミゲルに連絡が入り、今回の事件の関係者を連れてフェリーチェたちは領主邸に向かった。
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