目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお

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冒険者~修行~

迎え撃つ者

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アルベルトが町についた頃、ベルナルドとカルロッタはメイド長の後を着けていた。

{今のところ誰とも接触はしてないな}
{オークションに来てるなら、護衛がいるはずだよ。もしかして、気付かれたんじゃ}
{どうやらその様だ。まんまと誘き寄せられたな。囲まれてる}

ベルナルドとカルロッタが、自分たちの周りの気配に気付き立ち止まると、先を歩いていたメイド長が立ち止まり振り向いた。

「出てきなさい。そこにいるのは分かっています」

「「……………」」

無言で姿を現したベルナルドとカルロッタを見て、メイド長の顔が嫌悪に歪む。

「あなた方には聞きたい事があります。何故、自由になっているのですか?」

「あんたに答える義理はねぇな」

「獣風情が生意気な!答えなさい!」

「獣風情か……あんたは変わんないね。あたしらは、違法奴隷だった。だから解放されたのさ」

「昼間……アレを見ました。アレは死んだ筈です。何故、この国にいるのですか?あなた方が助けたのですか?」

メイドの‘アレ’と呼ぶ言葉に、2人は怒りを感じて顔をしかめながらも、冷静に返答した。

「あんたの言うアレがなんの事かは分からんが、仮に俺たちが助けたとしたら何なんだ?」

「だとすれば、あなた方には聞かなければいけない事があるのです」

「何を聞きたいのさ」

「あの日……アレが死んだ日に、あの方の宝が消えました。大事な大事な切り札になる宝が。あなた方の仕業では?」

「宝?……それじゃあ分からんな」

「あの方に献上されたブラックドラゴンです」

「「ブラックドラゴン!?」」

「……その反応……どうやら違うようですね。仕方ありません。アレを捕らえて尋問しましょう」

「ふざけるな!これ以上、あの子を苦しめるなんて許さないよ!」

「許さない?アレは我が主の所有物です。それに、アレの心配をしている暇はありませんよ」

殺気立つ2人に、メイド長が手を挙げると囲んでいた者たちが姿を現した。
人数は20人位いるが、全員が隷属の首輪をした者たちで、獣人やエルフもいる。

「奴隷か……お前たちには悪いが、あの子を守るために倒させてもらう!」

「手加減はしないよ!」

「守る?……フフフ……どうやって守るのです?」

「何?」

「私には護衛がいました。ですが、今は別行動をしています。さて、護衛はどこにいるのでしょうね」  

「まさか!?」

「さぁ、お前たち!その2人を殺しなさい!」

「クソッ!」

ベルナルドとカルロッタが応戦しようとした時、一斉に襲いかかった奴隷たちが倒れ込み空気が変わった。
メイド長は、冷たく暗い場所に閉じ込められた様な感覚に陥り冷や汗を流し、ベルナルドとカルロッタがホッとして辺りを見回すと、近くの建物の屋根に酷く冷たい顔をしたアルベルトがいた。
アルベルトの不穏に光る金眼を見たベルナルドとカルロッタは、自分たちに向けられたものでもないのに、冷や汗を流した。

{うわ……どこから聞いてたんだ?}
{気配は感じなかったんだけど、あれはヤバそうだね。ほんと、何者なんだか}

唖然としているメイド長を見ながら、アルベルトは口を開いた。

「貴様……誰が誰の所有物だと?あの子は我が守る者……手を出せば、貴様の主諸とも国が滅びると思え!」

「ヒィッ!?」

怯んだメイド長を見て、ベルナルドがアルベルトに叫んだ。

「そうだ!おい、急いで戻ってくれ!あの子が危ない!」

「そ、そうよ……私に手を出せば、アレを始末するわ!」

焦るベルナルドたちを見たメイド長は、余裕を取り戻し蔑んだ目をしたが、アルベルトは淡々と答えた。

「それは無理だ。貴様はあの子を侮り、ろくに調べもしなかったのだろう?」

「そ、それが何だと言うのですか!」

「あの子が今いる場所は、この国で一番安全な場所だ。あの家の者たちは、魔族には遅れを取ったが、この程度の連中に負けるなどありえんし、癪だがあいつが側にいるからな」

「な、何を言っているのです?」

その頃のファウスト邸の敷地内に、怪しい人影が動いていた。
どうやら、メイド長の護衛と奴隷たちの様だ。
彼等は二手別れ、警備の薄い玄関と裏側の鍵を開け、静かに侵入した。
玄関からの侵入者たちは順調に進んでいたが、目の前に佇むサマンサに動きを止めて警戒した。

「こんばんは。どちら様かしら?貴方たちを招待した覚えはないのだけど」

「………………」

「あら、答えてくれないの?しょうがないわねぇ。それじゃあ、答えたくなるようにしてあげるわね。……捕らえなさい!」

サマンサの命令に、何処からともなく執事とメイドが数人現れた。
すると、侵入者たちの先頭にいた男が笑いながら口を開いた。

「フンッ……嘗められたものだな。執事にメイドが相手とは……」

「貴方……ここが誰の邸か分かっているのかしら?」

「知らねぇな。俺たちは雇い主に、ここにいる銀髪の女のガキを連れて来いと言われただけだ」

「目的を話してくれてありがとう。でも、ごめんなさい。それを聞いて見逃せる人は、この邸にはいないのよ」

侵入者の目的を聞いたサマンサの瞳は剣呑に光っていて、そしてそれは執事とメイドも同じだった。
双方殺気立つ中、ガイがその真ん中に数人の男たちと転移してきた。

「お?もう始まったのか?」

「まだよ。その人たちは?」

「裏から入って来たから連れて来たよ」

侵入者の男は、いきなり現れたガイと自分たちの仲間に驚いた。

「どうなってる!?おい、何やってんだ!」

「俺にも分からねぇよ!あの男が現れたと思ったらここにいたんだ!」

「いったい何なんだこの邸は!」

「調べないで来たのか?バカだなバカ!」

焦る男たちに、場違いな明るさの声が聞こえた。
男たちが声の方を見ると、階段の上に少年と少女たちがいた。

「声が大きいよ兄上」
「アホにバカと言われるなんて、私なら屈辱です」
「こんな時間に非常識だぞ」
「せっかく盛り上がってたのに!あんたら覚悟しなさいよ!」
「だから、声が大きいよ」
「わたしは助かりましたけど、不法侵入は駄目です」

「この邸に侵入して、生きて出られると思わない事だな」

「あらあら、部屋から出て来たの?」

「叔母上!俺たちにもやらせてくれ!良い訓練になる!」

アダムが叫ぶと、全員上から下に飛び降りた。

「こんなガキどもに………殺れ!」

侵入者約30人を相手に戦いが始まった。
アダムたちは邸を壊さないために、魔法を使わず手足に魔力を纏わせ戦っていた。

「見ろよミゲル!俺とディランもできるようになったぞ!」

「……魔力操作がまだまだだろ」

「うるさいな~。お前ら!俺はまだ慣れてないから手加減できんぞ!死にたい奴はかかって来い!」

「アダム様すご~い。そういうセリフ、ドラマとかで聞くよね~」

アダムが敵を殴り倒しながら宣言していると、足元から無邪気なフェリーチェの声が聞こえてきた。

「………‘どらま’って何だ?」

「そこじゃないだろ!フェリ、何でここにいるんだ?ライリーとオリビアははどうした?」

ミゲルの問い掛けに、フェリーチェは呑気に答えた。

「ん?トイレに起きたけど、ライリーとオリビアが出ちゃダメって言ったの。でも、我慢できないから転移しちゃった」

「部屋にもあるはずだが……それはしょうがないな。なら、早く行っておいで」

「うん」

ミゲルとフェリーチェのやり取りを、‘え?この状況で?’と唖然と見ていた男が、トイレに向かおうと離れたフェリーチェを見て、奴隷たちに指示を出した。

「そ、そのガキだ!捕まえろ!」

命令された奴隷の1人が襲いかかるが、ガイたちが動く前にフェリーチェは足に魔力を纏い飛び上がった。

「とぉ~!」

奴隷の顔にフェリーチェの回し蹴りが入ると、ぶっ飛んだ奴隷は壁に頭を埋め込み動かなくなった。

「できた!えっと……私は手加減できないので、死にたくないなら来ないでください!……あれ?何か違う?」

フェリーチェと埋まった奴隷を見比べたミゲルたちは思った。

(もうできるのか。負けてられないな)
(体術も様になってますね)
(さすがフェリーチェ、良い蹴りだな)
(僕たちも、うかうかしてられないね)
(あれ、死んでないか?)
(ちょっ!?な、何あれウケる!あれは天然系ね。笑いたいけど、今は駄目!我慢我慢)
(か、可愛い。それにしても、ケイティったらプルプルしてるけど、笑わないでよ?)
(凄い。わたしも頑張らないと)

微妙な空気が流れる中、フェリーチェはある事に気付き焦った。

「あっ!お母様ごめんなさい!穴開けちゃった!」

「後で直すから大丈夫よ。それよりトイレに行かないと」

「そうだった!漏れちゃう~」

フェリーチェが転移で去ると、口元を引き吊らせながらガイが口を開いた。

「女の子が漏れるとか言うなよ。さて、面倒だから取り合えず眠れ」

ガイがそう言うと、バタバタと侵入者たちが倒れた。
アルベルトの方も、手っ取り早く済ませるために、同じ方法を取っていた。

「今頃、貴様の仲間は捕らえられている事だろう。貴様も少し眠っていろ」

アルベルトが、手を翳すとメイド長は崩れ落ちたので下に降りた。

「ベルナルド、カルロッタも助かったよ」

「いや、こっちこそ助かった」

「こいつらは、どうするんだい?」

「どうしようか……ねぇ、オークションの参加者って捕まえるの?」

「違法オークションならな。参加者も捕縛されて裁かれるし、それは国外の人間でも同じだ。その国の法で裁かれる」

「ただし、よっぽどの証拠がなけりゃあ現行犯じゃないと罪に問えないんだよ」

「成る程ねぇ……よし、こいつにはオークションに参加してもらおう」

「「はぁ?」」

「まぁ、父様たちに相談してからだけどね。オークションはいつあるの?」

「明後日だ。話が纏まるまで、こっちで預かるか?」

「そうしてまらえる?こいつらは、僕が魔法を解除しないかぎり目覚めないから、大丈夫だと思うけど何かあったら念話してよ」

「分かった。ギルド長には軽く説明しておくからな」

「よろしく。じゃあ戻るよ」

「こっちは任せな。フェリーチェの事は頼むよ」

「もちろんだよ。それじゃあ」

2人にメイド長たちの事を頼み、子どもの姿になってフェリーチェの気配を探ると、他の人たちも広間に集まっていた。
そこに転移したアルベルトが見たものは、落ち込むライリーとオリビアに謝るフェリーチェだった。

「ご、ごめんね。でも、我慢できなくて」

「いいえ、フェリーチェ様。わたしたちの考えが甘かったのです。部屋にもあるのに、お客様用の方に行かれるとは。しかも、声をかけずに転移されるとは思わず」

「ア、アルがいなかったから、使ってると思って」

「もう油断しません。二度とこんな事が無いように、目を離しません。いっその事、部屋にもう1つ作りましょう」

「作らなくて良いよ!」

「何の話?我慢できなかったって何が?何を作るの?」

「トイレだよ。漏れちゃいそ…うで…………アル?」

ギギギッと自分を見たフェリーチェに、アルベルトは満面の笑顔で答えた。

「うん。ただいまフェリ。それで、間に合った?」

「っつ~アルのバカ―――!」

「フェリ!?」

アルベルトに話を聞かれていたと分かったフェリーチェは、顔を真っ赤にすると叫んで逃げた。
残されたアルベルトは、少女たちから冷たい視線を、少年たちからは呆れた視線を向けられた。

「「「最低」」」

「何で!?」

「「「「「あれは無いな」」」」」

「だから何が!?」

「バカ」

「何だと?もういっぺ――」

「はいはい、そこまでよ。大事な話があるんでしょう?早く追いかけなさい」

ガイにバカ呼ばわりされ、言い返そうとしたアルベルトは、サマンサに止められた。

「母様……分かったよ。フェリ~」

アルベルトは、逃げたフェリーチェの元に転移した。

「今更だけど、おチビたち2人とも転移魔法が使えるのね」

「ああやってポンポン使われると、できるのが普通みたいな気がしてくるよね」

「それにしても、いったい何処にいたんですかね?外でしょうか?」

「夜に子ども1人で危ないな」

事情を知らないケイティたちの言葉に、ミゲルたちは‘何て説明するんだ?’と、思いながら遠い目をしていた。





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