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冒険者~修行~

事件発生

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ガイは、クロードから伝言を預かっていた。

「‘しばらく動けそうにないから、連絡するまで店でも回るといい。くれぐれも気を付けなさい。くれぐれも。’だって」

「2回言った」

「くれぐれもって2回言ったね。僕たちの信用されてない?」

((無自覚か!?))

「え~?心配してるだけだと思うよ?」

((それもあるだろうけど……))

分かってない2人に、オリビアとガイは内心で突っ込みを入れながらも、決して声には出さなかった。
4人がブラブラ店を回っていると、また人だかりを見付けた。
良く見ると、ミゲルとネイサンが囲まれているようだった。

「ちょっと!あの2人はどこなの?あの魔道具の事を聞こうと思ってたのに!彼を調べられないなら、2人を紹介してよ!」

「却下だ」

「対抗戦まで指導してもらえないか、聞いてくれませんか?」
「むしろ学園で雇用してもらえないか、学園長に進言してくれないか?」

「彼等は流民です。ひとつの国に縛られる事はしませんよ」

「一緒に修業した事があると聞いたが、我々も参加できないだろうか?」

「(死ぬ)覚悟があるならな」
「(自尊心が粉々になる)覚悟があるのなら、直接交渉して下さい」

ここでも、‘サヨ’と‘アル’が原因で騒がしくなっているようだ。

「……さてと、次どこに行く?」

「良いのかな?」

「僕たちが行ってもしょうがないしね。ガイも近付きたくないでしょ?……あれ?」

アルベルトが振り向くが、ガイの姿がなく首を傾げると、オリビアが前方をさりげなく指差した。
そちらを見ると、5m位離れた場所の建物の影からガイが手招きしていた。

「いつの間に」

「彼女の声が聞こえた瞬間に高速移動してました」

「ガイ……すっかりトラウマになっちゃったんだ」

フェリーチェたちがガイと合流した時に、連絡がきたので馬車の所に向かった。
フェリーチェは、その途中で見た事のある少女を見かけ立ち止まった。

「あの子……」

「どうしたの?」

「アル、あの女の子って教会で見た子じゃない?」

「え?……言われてみれば。あの格好からすると、どこかの貴族の養子にでもなったのかな?」

「うん。そうみたい」

フェリーチェが見かけたのは、この国に到着した初日に教会で見た女の子で、彼女は貴族の身に付けるドレスを着ていた。
特に接点もなかったので、フェリーチェたちは馬車に向かった。
馬車の前でクロードたちが待っていたので、急いで乗り込み帰途についたのだが、しばらくして停車したので外に出ると、何故か王宮の前だったのでフェリーチェとアルベルトは嫌な予感がした。

「さぁ、入りなさい。エヴァンの私室で‘お母さん’たちが待っている」

「「やっぱり!?」」

「私はアンドリアと話してくるわ」

「お母様~」

「どうやら助けはないようだね」

フェリーチェとアルベルトは、歩き去るサマンサとオリビアを見送ると、トボトボ歩きだした。
エヴァンの私室の前で立ち止まり、往生際悪く入ろうとしない2人に、クロードがドアを開けて入るように促した。
部屋に入ると、ルイスを始めオースティンとブレイクとメイソンが待っていた。
フェリーチェとアルベルトがソファに座ると、ルイスたちが口を開いた。

「クロードから連絡がきたときは、正直‘またか’と思いましたよ」

「面目ない」
「すいません」

「どこぞのボンクラに絡まれたのは不可抗力ですし、生徒の争いに介入したのも結果的に有力な人物の発見に繋がったので良いでしょう。模擬戦も、ミゲルたちの心情を思えば致し方ないと思います。……が、見た事のない魔道具や武器はいけません」

「「はい」」

「お前たちには武器の扱いを教えたばかりで、使いこなせてないだろ?その上、俺たちでも知らない武器をちゃんと扱えたのか?」

「僕が攻撃に使ったのは剣と体術だけだよ」
「私は槍と弓を使いました。他は脅しで、攻撃には使わなかったです」

「そうか。だが、お前たちが実戦で武器を使うには、まだまだ鍛練が必要だ。明日はその武器を見せてくれ」

「「はい」」

「俺が言いたい事は、オースティンと同じだ。お前たちがいくら手加減をしていても、慣れない武器を使えば死人が出る事もある。それを常に意識して、修業に力を入れろ。分かるな?」

「「はい」」

「ワシが聞きたいのはひとつじゃ。あのグローブを使ったんじゃろ?使い心地はどうじゃった?それと、結界の魔道具もちゃんと発動したかのぉ?試すのはもっと先じゃと思っとったが、こんなに早くなるとはのぉ。ワシは気になって気になって、たまらんかったわい」

「ひとつじゃないし。グローブは使いやすかったよ。あのさ……メイソン、後ろ」
「結界はちゃんと発動しました。あの……メイソンさん、後ろ」

「なんじゃ?後ろがどう…し…た……」

ルイスとオースティンとブレイクからそれぞれ注意を受け、フェリーチェとアルベルトは素直に受け止めていたのだが、メイソンの発言で部屋に不穏な空気が漂い始めた。
興奮気味のメイソンは全く気付かず、フェリーチェとアルベルトに言われ後ろを振り向くと、4人の般若がいた。

「「「「お前かメイソン!」」」」

「……しまったわい」

「しまったわい……じゃありませんよ!貴方、武器と魔道具の事を知ってましたね?」

「知っとるも何も、一緒に作ったんじゃ」

「作ったなら作ったで、俺たちにも言うべきだろ!」

「すまんなオースティン。うっかりしとった」

「お前はいつもそうだな。今回ばかりはしっかり反省してもらうぞ」

「何を言うておるブレイク!ワシはいつも反省しとるぞ!」

「反省してるなら、同じ事を繰り返すな。どっかのアホじゃあるまいし」

「アホと一緒じゃと!?それだけは認める訳にはいかんぞ!」

「でしたら、今後はしっかり報告するように。今度やったら、あのアホと同じ扱いにしますからね!」

「分かったわい!」

「確かに兄、アホと一緒は嫌だよな」

「あぁ、俺でも嫌だ」

矛先がメイソンに向いて、暇になったフェリーチェとアルベルトは、皆から‘アホ’呼ばわりされている部屋の主に視線を向けた。
2人が部屋に入ってから今まで、話に入ってくるでもなく黙々と書類にサインしていた手は止まり、机に突っ伏してしくしく涙を流していた。

((気の毒に))

メイソンへの説教が続くなか、ドアが激しくノックされた。

「陛下!火急の知らせです!お目通りを!陛下!」

ルイスがドアを開けると、兵士が息を切らせて入ってきた。

「いったい何事です」

「も、申し訳ありません!只今、ラディウス学園から連絡がありました!」

「学園から?何があった」

学園と聞いて、エヴァンが立ち上がり兵士に問いかけた。

「お伝えします!‘本日、学園祭閉幕後、アダム様、ディラン様、ミゲル様、ネイサン様及びほか数名の生徒が、何者かに拉致された模様。至急、救援隊の出動を要請する’以上です!」

「何だと……ルイス!」

「分かりました!すぐに編成します!ブレイク、すいませんが学園に向かい正確な情報を!」

「分かった!」

「オースティンとメイソンは来てください」

「アルとフェリはサマンサの所で待っていなさい。ライリーは、邸に戻りヘンリーたちに伝えくれ。ガイは2人と行きなさい」

クロードたちが慌ただしく部屋を出た後、フェリーチェがアルベルトの手をぎゅっと握った。

「アル……大丈夫だよね?お兄様たち、大丈夫だよね?……グスッ」

「フェリ、とにかく母様たちの所に行こう。兄様たちは、きっと大丈夫だから」

泣き出したフェリーチェを慰めながら抱き締めたアルベルトの瞳は、ギラギラと光っていた。
それを見てしまったガイは、悪寒を感じると共に、‘犯人死んだな’と思っていた。
サマンサの元に行くと、アルベルトはフェリーチェを任せた。

「僕も行ってくるよ」

「アル……ごめんなさい」

「母様が謝る必要はないよ。僕がやりたいからやるだけさ」

「本当なら、わたしも行きたいがそれはできん!アルベルト、どうか息子たちを頼む!」

「任せて。フェリ……今回は僕だけで行くよ。待ってて」

「うん。……アル、気を付けてっ……お兄様たちを助けて」

「大丈夫。……ガイ、3人の側にいろ」

「任せろ!」

アルベルトは、ガイの返事を聞くとクロードに通信で伝えてから‘アル’の姿になり、ブレイクの所に転移した。
ブレイクは学園に向かっている途中だった。

「ブレイク!僕も行くよ!」

「アルベルト!いや……アル、クロードたちには?」

「伝えてきた!転移するから掴まって!」

「分かった!」

ブレイクが肩を掴むと同時に、学園の入り口に転移した。
突然現れた2人に門番が警戒するが、ブレイクが名乗ると学園長の元に案内された。
案内された部屋に入ると、どこかエヴァンに似た男と数人の男女がいた。
最初に口を開いたのは、エヴァンに似た男だった。

「来たかブレイク……と、アル殿か?」

「今回、彼も協力してくれる事になった」

「よろしく。流民のアルだ」

「私はリカルド・ディアネス。ここの学園長を任されている。今回の協力、感謝する」

「今回は僕の知り合いもいるからね。ところで、もしかしてエヴァンの兄弟?」

「貴様!何だその言葉遣いは!しかも、陛下を呼び捨てにするなど許されんぞ!」

アルが問いかけると、リカルドが答える前に男が割り込んできた。
アルが不愉快そうに口を開く前に、リカルドが男を止めた。

「止めなさいダイナー。彼は流民であり、国の法には縛られない。それに、陛下の友人だと聞いている。君が口だす事ではない」

「ぐっ……」

(この男、あの子と一緒にいた奴だ。ダイナーって……どっかで聞いたような)

アルが聞き覚えのある名前に記憶を遡っていると、リカルドが声をかけた。

「すまないな。先程の質問だが、私は陛下の2番目の兄だ」

「やっぱり。似てるからそうじゃないかと思ったよ」

「本題に入ろう。状況の説明を頼む」

リカルドの話を整理すると、学園祭が終了した後に祝賀会を行う予定だったが、アダムたちを始め対抗戦に出場する数名が、時間になっても現れなかったそうだ。
教師と生徒会が探したが見付からず、勝手に学園外に出たとも考えられなかったので、王宮に連絡しようとした時、手紙が門番に届いたので中を確認しそうだ。

【拝啓     親愛なるリカルド・ディアネス様
貴公が治める学園の、優秀な生徒は預かっている。安心したまえ、丁重にもてなしている。だが、貴公が私の要求を拒めば憐れな死体が、民衆に晒される事になるだろう。私の要求は以下の通りだ。
1つリカルド・ディアネスの学園長自任
1つ対抗戦への棄権
1つ身代金1名につき白金貨100枚(人質は8名)
期限は明日の正午までとする。
貴公が賢明な判断をすると信じている。】

手紙の内容を見て、急いで王宮に知らせたそうだ。
ブレイクは手紙に目を通しながら、ルイスに通信で内容を伝えた。

「それにしても、どうやって拐ったの?彼らは実力もあるし、警備も厳重なんだろ?」

「それが、分からないのだ。目撃者もいなかった」

「そう……」

{リカルド、話がある。人払いを}

「!?……皆、もう一度生徒たちの聞き込みを頼む。それと、店を出していた者たちへの聞き込みもだ」

「「「「はい!」」」」

リカルドの指示で教師たちが部屋を出る中ただ1人、ダイナーだけがちらちら振り返っていた。

「これでいいか?アル殿」

「あぁ」

「アル、どういう事だ?」

「おかしいと思わないかい?仮にアダムたちが抵抗できなかったとしても、誰にも見られず拐うなんて普通はできない」

「確かに、学園には正門と裏門以外で出入りはできないし、門番も待機している」

「門番を買収したか?」

「もしくは、人を欺くスキルや魔法や魔道具を使った可能性、あるいは何者かが手引きしたか可能性がある」

「それは内通者と言うことか!?私の学園にいると言うのか?」

内通者がいるかもしれないとリカルドが驚くが、アルは話を続けた。

「可能性だよ。対抗戦に出る選手の行動をある程度把握してないと、選手だけを8人も誘拐なんて無理だ」

「確かに、だからアルは人払いさせたのか」

「今の時点で、僕が大丈夫だと思えるのはリカルドだけだ。教師も生徒も信用できない」

「では、どうするのだ」

「僕が単独て様子を見てくるよ」

「「はぁ?」」

アルの発言に、リカルドとブレイクの声が揃った。





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