目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお

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出会い

誕生祭~乱入者~

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突然割り込んできた声に動きを止めて、そちらを向くと50代くらいの男が微笑みながら立っていた。
後ろには数人の兵士もいて、アダムとディラン、ミゲルとネイサンが反応した。

「あっ……ヤバイ」

「報告されてしまいますね兄さん」

「呼び出されるな」

「しょうがないですよ。アルとフェリは、また連れてきましょう」

4人はすでに落ち着きを取り戻したが、ゲロスは睨み付けていた。

「なんだお前は!邪魔をするな!」

「失礼、私は王都警備隊2番隊隊長のライゼンです。不審者が子どもを誘拐しようとしていると、通報があり来ました」

「誘拐だと!?誘拐ではない!ただ野球の才能がある子どもを引き取ろうとしていただけだ。言いがかりも甚だしい!」

「成る程、それがあなたの言い分ですね。あなた方はどうですか?」

ライゼンは表情を変えることなくゲロスの話を聞き、今度はこちらに質問した。
代表してミゲルが答えた。

「彼の言う‘才能ある子ども’はここにいる私の弟です。彼がいきなり‘この子を渡せ’と言って来たので、当然断りましたが‘金を出すから渡せ’と言われました。それも断り、諦めるよう説得しましたが、今度は私の妹と友人の妹まで連れて行こうとされ、今に至ります」

「双方、見解が違うようですね。では、周りの方に聞いてみましょう。君たちは周辺の聞き取りを、私は……薬店の方、話を聞かせてもらえますか?」

ライゼンの指示で兵士は動きだし、ライゼンはルーカスとクレアに尋ねた。

「始めから見ていましたが、この子の言う通りです」

「そっちのゲロスは嘘つきよ!」

「そうですか、では部下が戻るまでしばしお待ちください」

暫くすると兵士が戻って来てライゼンに報告していた。

「待たせました。詳しく話が聞きたいので一緒に来てもらいます。……ゲロスと連れ2名を連行しろ」

「「「「ハッ!」」」」

「何をする!?濡れ衣だぞ!放せ!」

「「旦那様!」」

ライゼンの指示でゲロスたちは兵士に連行されて行き、それを見送ってからライゼンがこちらを向いて表情を和らげた。

「災難でしたね。残念ですが今日は戻られた方がよろしいかと」

「分かっている。世話をかけたなライゼン」

「いいえ、‘家’まで送ります。ご友人たちもご一緒にどうぞ」

「私たちは自分で戻りますので、お気遣いなく」

「あなた方の保護者も待っておられますので、ご一緒に。分かっていると思いますが、拒否権はありませんよ」

「……はぁ~」

ライゼンの言葉に断れないと思いつつも、ミゲルは悪あがきをするが、通じなかった。
ルーカスとクレアに別れを告げて、馬車に乗り‘家’へと送られる事になった。
もちろん‘家’と言うのは王宮の事で、着くなりライゼンと別れエヴァンの私室に案内されたが、エヴァンとルイス、クロードの他に見慣れぬ人がいた。

「ずいぶん早い帰りだったな。もっとゆっくりしてくると思ってたぞ」

「もう知っているのでしょう?父上」

「人が悪いです」

「詳しくは知らんさ。何か問題が起きたと聞いただけだ。グレース、楽しかったか?」

「はい!でも……最後のは怖かったです」

「そうか、さぁお父様の所においで」

エヴァンが膝に乗せるとグレースは安心したように笑った。
それを見ながら男がしみじみ言った。

「やはり女の子は違うな。うちは男ばかりだから、この年頃はこんなことさせてくれんぞ。クロード、お前も分かるだろう?」

「残念だが私には娘がいるからな。フェリ、アルもおいで」

私とアルは一度顔を見合わせてから、クロードに向かい駆けた。
クロードは私たちを膝に乗せ、男を見た。

「はぁ!?いつ産んだんだ!何も聞いてないぞ!」

「産んでない。養子だからな」

「養子……お前がか!?」

男が驚いて叫ぶと、ルイスが口をはさんだ。

「いい加減、自己紹介してはどうですか?アルベルトとフェリーチェは知らないのですから」

「そうだな。俺はトラスト王国国王レグルスだ!」

「アルベルトです」

「フェリーチェです」

(国王ってことはレオーネ様のお父さんか……元気かなぁ?)

私がレオーネのことを考えてると、アダムがレグルスに話しかけた。

「それにしても、到着は明日じゃありませんでしたか?」

「そのつもりだったんだが、途中で魔物に追いかけられて逃げているうちに思ったより早く着いたんだよ」

「魔物ですか?レグルス様の事ですから倒したのでしょう?」

「まぁな。だが、数が多くて参った!こうなりゃさっさと王都に入ろうと急いだんだが、目前でブラックタイガーが出たからさすがに焦った。俺や兵士だけなら問題ないがメイドもいたからな」

「では逃げたんですか?」

「それが、どうするか迷ってたらいきなり奴の頭が弾けたんだよ」

「弾けた!?」

「俺たちもビックリして誰かいないか探したんだが、見つかったのはコレだった」

そう言いながらレグルスが懐から出した物は、とても見覚えがある物だった。

「そ、それは……」

「そう、野球ボールだ!どうやらコレが当たって弾けたらしい」

「ぐ、偶然そこに落ちていただけでは?」

「兄上の言う通りですよ!野球ボールで弾けるなんて!」

「だがな、拾った時は血が着いてたし当たるのを見た者もいてな」

「「そ、そうですか」」

「しかし、不思議なんだよな。いったい何処から飛んで来たんだろうな」

アダムとディランは力なく笑い、ミゲルとネイサンは目を泳がせ、私とアルはわたわたしていた。
もちろん、そんな挙動不審な行動を見逃す筈はなく、クロードにしっかり追求された。

「それは知っている者に聞いた方がいいだろう。なぁ……お前たち」

「「「「「「はい」」」」」」

ガックリと項垂れ、代表でミゲルが話した。
グレースはよく分かっていないみたいなので、不思議そうにしていたが。
ことの経緯を話すと、事情を知らないレグルス以外には‘アルならしょうがない’と苦笑され、レグルスは‘凄いんだな!’と感心しただけだったが、ゲロスの話になると空気が重くなってきた。

「金を出すから渡せ……か、ふざけた奴だ。アダム、そいつらは何処にいるんだ?」

「ライゼンが部下に命じて牢に入ってます」

「そうか……すまんが急用が出来た」

「待ちなさい。行かせませんよ!」

「エヴァンは接待があるだろう。ところで私も急用が出来たので失礼する」

「ズリィぞクロード!」

「貴方もダメですよ!」

「じゃあ俺も急用が出来た」

「「お前は関係ないだろ!」」

「じゃあ……って、貴方ももちろんダメです!」

エヴァンとクロードが部屋から出ようとするが、ルイスに止められているのを見てレグルスも楽しそうに参加していた。
そのやり取りを見ているとアルが話しかけてきた。

「フェリ、小腹すいちゃった。何かない?」

「え~と、ちょっと待って……ん~っと、スイートポテトとクッキーとプリン……フライドポテトもあるよ」

「クッキーとフライドポテト食べたい」

「は~い」

アイテムボックスから要望の物を取り出すと、さっそく食べ始めた。
それを見たミゲルとネイサンが加わり、涎を垂らしそうなアダムが加わり、最後にはディランとグレースを手招きで呼んで、おやつを食べながら大人たちのやり取りを観戦していた。

「何だコレ!美味すーぎる……この塩加減がいいな」

「兄上、クッキーも美味しいですよ」

「甘いな2人とも。ポテトとクッキーは交互に食べるんだ」

「そうなのかミゲル!?」

「さっそく試してみましょう」

「本当に美味しいです。シェフが作られたんですか?」

「いいえ、これはフェリが作ったんですよ」

「本当ですかネイサン!?フェリーチェはすごいのね!」

「そんなことないですよ~」

「むぐむぐ……んーんんむぐむぐむぐむぐ」

「アル、何言ってるか分かんないよ」

「美味しいけど、飲み物が欲しいかも」

「え~?……しょうがないなぁ何がいいの?」

「シュワシュワのやつ!」

「‘ソーダ’だね。はい、どうぞ」

アルにお願いされてアイテムボックスから出したのは私が作ったソーダだ。
魔法さまさまである。
初めて飲んだ時は、吹き出して近付かなかったが、私が平然と飲んでいるのを見て、少しずつ飲んでいるうちに慣れたのか普通に飲めるようになっていた。

「あぁ~!何か癖になるよね~」

「フェリ、私にももらえるか?」

「私もお願いするよ」

ミゲルとネイサンにも渡すと、アダムたちも興味津々に見てきたので渡してみた。
飲む前に注意しようとすると、アルに止められミゲルとネイサンもニヤニヤしていた。
それに気付かず3人は、水を飲むように1口飲んだ。

「「「ブッ!ゴホッゴホッ!」」」

「うわっ!何してるんですか!」

「だってお前たちがゴクゴク飲んでるから!」

「私たちは慣れてるんですよ」

「す、すいません。しかし、これは」

「ディラン様大丈夫ですか?まぁ私たちも最初、同じ事したんですけどね」

そうなのだ、私が飲む前に言おうとするとアルが止めて、2人に一気に飲むよう言ってしまった。
そんなことをすれば当然ああなる。

「ネイサン、余計なこと言わなくていい!」

「セコイぞミゲル!人のこと言えないじゃないか!」

「一緒にするな!私たちはアルに騙されたんだ!」

「だって、僕だけ吹き出すのは不公平じゃないか。何事も体験するのはいいことだよ!」

「‘いいこと言いました’みたいな顔をしているが、それなら何で父上と母上にはしなかったんだ?」

「ライリーとオリビアたち使用人にはしてましたよね?アルならやりそうなのに」

「何か本能が‘やったら最後……’って言ってた!」

「「「「あぁ……確かに」」」」

(納得するんだ……でも分かる気はするかな。想像しただけで震えそう)

騒がしい男たちをよそに、女の子のグレースは顔を真っ赤にさせていた。

「うっ、ごめんなさい。恥ずかしいです」

「大丈夫ですよグレース様。今度はゆっくり少しずつ飲んでみてください」

「はい、コクッ……コクッ……おいしい」

「本当か?グレース」

「はい、アダムお兄様。シュワシュワしてて甘味もあるのでおいしいです」

グレースの言葉を聞いて、アダムとディランが今度はゆっくり飲むと、少し間をあけて‘美味しい’と言ってくれたのだが、視線を感じそちらを見ると大人たちがこっちを見ていた。
何故かルイスが張り付けたような笑顔で近付いて来て、正直怖い。

「貴方たち、何をしているんですか?」

それは静かで、普段通りの声だったが有無を言わせぬプレッシャーを感じてアダムが答えた。

「あっ……おやつです」

「今、私たちが何の話をしていたか分かりますね?」

「……はい」

(真剣な話をしてる時に、当事者たちが呑気におやつ食べてたら怒るよね!)

「ルイスさん!私がっ」

「フェリは悪くないよ!僕が小腹が空いたって言ったから!」

「アルベルトとフェリーチェは悪くありませんよ。もちろんグレースも。こういった場合は年長者の責任です。そうですね、アダム、ミゲル、ディラン、ネイサン」

「「「「はい」」」」

(年長者ってアルもだよ!)

(むしろ僕が最年長!)

「だいたい、今何時だと思っているんですか?後、2、3時間で昼食ですよ」

「「「「はい……はい?」」」」

「食べ盛りの貴方たちはともかく、フェリーチェとグレースのことも考えなさい」

「「「「はぁ……アルベルトは?」」」」

「アルベルトはいいんです」

((いいんだ!まぁそうだけど))

「貴方たちが食べた量は、おやつの域を超えてます。食事前にそんなに食べてはいけません!昼食が食べられなくなりますよ!貴方たちはお兄さんなんだから、しっかりしなさい!ー」

「「「「はい!お母さん!……あっ」」」」

「……………」

悪気は無かった。
4人に悪気は無かったのだ。
しかし、思わず口に出てしまった言葉で事件は起きた。

「ブッハハハ!お母さんって……ブックク……確かにっ……ククッ、よかったなルイス!俺も前から思ってたんだよお母さん!ププッ」

エヴァンが笑いだしたした瞬間、クロードとレグルスが素早く離れた。
ルイスがゆっくりエヴァンの方へ振り向く。

「………あ゛ぁ?」

「ヒィッ、冗談だ!落ち着け、落ち着くんだルイス!俺が悪かった!つい、本音が!」

地を這う低い声で睨み付けられ、何処かで聞いたような台詞が出て来た。

「冗談と本音……ですか。言いたい事はそれだけですか?……歯食い縛りなさい!」

「ギャー!!」

その後、暫くエヴァンの悲鳴が響き渡るが誰も見に来る事もなく、私たちも動かず大人しく見守っていた。
その日の教訓は、
1つ、おやつは適量食べる
1つ、ルイスに‘お母さん’は禁句
1つ、王様よりもルイスが強い(あらゆる意味で)
けして、忘れてはならない。
それから、改めて確信したことがあった。

((アダムは完全に父親に似てる))

アダムは悲鳴をあげるエヴァンを見て笑いを堪えているが、それを横目で見ながら‘笑ってる場合か?お前は明日は我が身だぞ。というか、祭りで同じ目にあっただろ’と他の年長組の少年3人が呆れていることに気付くことは無かった。
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