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出会い
治療~冒険者~
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アルに謝り倒し何とか許してもらったので、エリックたちの元に戻ると騒然としていた。
「あ!戻って来た。アル、本当に強かったんだな。あんなの見たことないぜ」
サムが興奮したように言うと、周りもそれに同意した。
「あれはまぐれだよ。普段はあんな威力は出せないから」
(そんなので誤魔化せるわけないでしょ。‘下等種族’とか‘消えろ’とか言ってたんだから)
私がツッコンでいると、アルがこちらを振り返りニッコリ笑った。
「なんだいサヨ、何か言いたい事でもあるのかな?」
「ヒィッ!何もないないないないない」
「そう?」
私は必死で頷いた。
空気を読んだのか、誰もそれ以上聞いて来なかったから良かった。
その時、オースティンが声をかけてきた。
「それにしても久しぶりだな。アル、サヨ」
(久しぶり?)
「やぁオースティン、久しぶりだね。ルイスたちも元気だったかい?」
(どういう設定?)
「えぇ、お二人も元気そうですね。まだ旅をしているんですか?」
「そうなんだよ。まさか君たちと会えるとは思っていなかったから驚いた」
「ワシらはここを拠点にしとるからな」
「お前たちは宿はどうしてるんだ?よければ今日、飲まないか?」
「ブレイクの選ぶお酒は美味しいからいいよね」
(……………………)
「そうだ!クロードが会いたがってたぞ。今夜にでも会ってくれないか?」
「もちろんだよ!ねぇサヨ」
「………楽しみだなー」
「じゃあ、決まりだね」
さっきの会話だけじゃ、設定が分からなくて考えていると、ダイソンさんが聞いてくれた。
「なんだ、オースティンたちと知り合いだったのか」
「あぁ、アルとサヨは流民でな。仕事の時に会って意気投合したんだ」
初めて聞く単語が気になり、アルに念話で聞いてみた。
{ねぇアル、流民って何?}
{流民は国や組織に属さず生涯、旅をする民族なんだ。だから国、組織の決まりに縛られない、その代わり戸籍がないし国や組織の保障なんかも受けられないけど、僕らがこのまま怪我人たちを無料で治療していけば、必ず調べられるからね。戸籍が無くても多少のカモフラージュになるよ……ってルイスが言ってた}
{ルイスさんが……後でお礼言わないとね。そういうの全然考えて無かったよ}
{そうだね。僕らだけでやってたらどうなってたか……}
私たちは、助けてくれる人たちの有り難さを噛み締めていた。
「へぇ、じゃあたまたま王都に来たのか」
「いや、今回は俺が呼んだんだ。サヨにアンジェラを見てもらおうと思ってな」
「そうなのか、確かにこの嬢ちゃんなら治せるかもな」
(そういうことか!確かにそれなら流れ的に不自然じゃないよね)
設定が分かり、感心しているとダイソンが遠慮がちに聞いてきた。
「サヨ、悪いんだが怪我人の治療をしてもらえんか?報酬は出すから」
「構いませんよ。報酬は必要ありません」
「いくらなんでもそれは駄目だ。ギルドで払うから遠慮なく言ってくれ」
「そう言われても……それじゃあ、アルの魔法でワイバーンの素材とか取れなくなったから、今回はそれで相殺してください」
「ごめんね~イラッとして、やり過ぎたよ」
(アルってば、イラッとしたって言っちゃた。さっきは、まぐれって言ったのに)
「イラッとして全滅出来るのかよ……まぁ俺たちは助かったからそれはいいんだけど、本当にそれでいいのか?」
「はい、さっそく始めるので並んでもらえますか?」
「分かった」
重傷者から順番に治していくと、口々にお礼を言われた。
全員の治療が終わり、ギルドに寄ってくれと言われたので、先にエリックたちと行く予定だった場所に行ってからギルドに寄ると約束して別れた。
ジョンと合流して、患者の治療が終わってから冒険者ギルドに向かい、エリックたちは家に戻ると言ったので別れた。
冒険者ギルドは初めてだったので、内心緊張していたが、入るとすぐにオースティンたちが見えたのでホッとした。
「2人ともお疲れさん。上手くできたか?」
「はい、今のところ問題ないです」
「そういえば、来るのってオースティンだけじゃなかったのかい?ルイスはエヴァンの手伝いがあるんだろ?」
ギルドに入るなり注目されていたが、アルの発言にさらに騒がしくなる。
「おい、あいつオースティン様とルイス様を呼び捨てにしたぞ」
「それだけじゃねぇよ。エヴァンって国王陛下だろ?」
「あんな若造が……何者だ?」
「聞いた話だと、ワイバーンの群れを一瞬で灰にしたらしいぞ。それに女の方は治癒師なんだと」
「バカ言うなよ!一瞬で灰に出来るわけないだろ。女は、治癒師なら教会の人間てことか?」
「だがよ、あの女は無料で治療したらしいぞ?教会の人間がそんな事するわけねぇよ」
などといろいろ言われているが、聞こえないフリをして皆で談笑していると、ダイソンが呼びに来た。
「おい、来たなら教えろよ。取り合えず部屋に案内するから来てくれ」
ダイソンに着いて行くと、当然のようにオースティンたちもついて来た。
「何でお前らまで来るんだよ」
「気にするな。俺たちは、この2人の友人兼保護者みたいなもんだ」
「保護者!?」
「そうですよ。話があるなら私たちを通してください」
「つまらんことはするなよ。2人は俺たちの友人だからな」
「ワシらにとって大切な友人じゃ、言動には気を付けるんじゃな」
「物騒だな!俺たちはそんなに信用ないのか!」
仲良さげに言い合いをしながら、階段を上り2階の一番奥に案内されると、ダイソンがギルドマスターの執務室だと教えてくれた。
ダイソンがノックすると中から女の声が聞こえた。
「客人を連れてきました」
「入りなさい」
中に入ると、深紅の髪に蒼い瞳の綺麗な女が立っていた。
私たちを見るなり、女は頭を下げた。
「あなたたちがアルとサヨですね。私はギルドマスターのルフィーナです。今回は、うちの者を助けて頂きありがとうございました」
「初めまして、サヨです。私たちは出来る事をしただけなので、気にしないで下さい」
「初めまして、僕はアル。サヨの言う通りだよ。むしろ、ワイバーンの素材を駄目にしてしまって申し訳ないくらいだし」
「そう言えば、アルはワイバーンを一瞬で灰にしたとか、サヨも重傷だったダイソンを一瞬で治したと聞きました」
「あれは……見た目ほど悪くなかったんですよ!」
「僕はワイバーンが襲ってきたから、ビックリして魔力を込め過ぎたんだ。火事場のバカ力さ」
あの時言ってた事と違うので、驚いてアルの方を勢いよく見てしまった。
{アル!ダイソンさんたちに言ったのと変わってる!?}
{え?僕、何て言ってた?}
「お前、俺たちには‘イラッとして、やり過ぎた’って言ってたよな?」
「………そうだっけ?」
「はっはっはっは」
アルが首をかしげながら私を見てきたが、乾いた笑いしか出て来なかった。
後ろを見なくても分かる。
オースティンは笑いを我慢して、ルイスは眉間を揉んで、メイソンは呆れ、ブレイクは静かに見守っているだろう。
アルは話を反らすように、ルフィーナに問いかけた。
「それで?わざわざギルドマスターの部屋に呼んだって事は何かあるんでしょ?」
「まずは、ソファにかけてください。話はそれからにしましょう」
それもそうだと、ルフィーナの対面に私とアルが座り左右にオースティンたちが座った。
ダイソンはルフィーナの後ろに立っている。
「単刀直入に言います。あなたたち、冒険者になりませんか?」
「ならないよ」
「なりません」
((今は))
「即答ね……理由を聞いても?」
「僕たちは流民だ。自由気ままに旅をする。どこにも属するつもりはないよ」
「この国に来たのはオースティンさんに頼まれたからです。用が済めば、また旅にでます」
「そう……冒険者なら依頼出来ると……残念ね」
ルフィーナは思い詰めたような顔をして黙り込んでしまい、後ろにいるダイソンも視線を落としていた。
その様子を見てオースティンが尋ねた。
「どうしたんだルフィーナ。お前らしくないぞ」
「実は最近、治療所に関しての苦情やトラブルが多いのよ。冒険者は怪我をしてもお金がないと治せない、治らないから依頼が受けられない、受けられないからお金がない……悪循環が出来てしまってるわ」
「それは……もしかして、人が少ないのはそのせいか?」
「えぇ、最近レベルの高い魔物が目撃されるから、調査隊を出したの。死者こそ出なかったけど、重傷者は出たわ。けど……」
「治療所での治療が受けられないという事ですか?しかし、治療所の料金はそこまで高いはずは」
「ルイスの言う通りよ……前はね。今は骨折を治すのにも金貨1枚よ」
私とアルは知っていたので驚かなかったが、オースティンたちは目を見開いた。
「何だその金額は!?そんなの毎回払えるわけないだろ!」
「そうよ……でも今はそれが当たり前なの」
「何故、国に報告しないのですか?私たちはもちろんエヴァン……陛下は知りませんでしたよ」
「あんたらは家に治癒魔法が使える者がいるから、知らなくて当たり前だ」
「ダイソン……分かっていたなら報告するべきです。いったい、いつから」
「治療所の責任者が変わってからよ。報告しなかったのは……以前、治療所の件で陛下には尽力して頂いたわ。陛下が民を思い教会との間で苦しんでおられたことは皆、知っているのよ……だから今回は自分たちで出来る限りのこをしよう……と」
話しているうちにルフィーナの声がだんだんと小さくなっていく。
「それで状況がこれじゃとな……お前さんはギルドマスターとして引き際を見定めるべきじゃった」
「メイソン殿……私は自分が情けないです」
「皆、陛下を思っての事だろうが、それでお前たちが苦しんでいたと、後から知った陛下がどう思うかは分かっているだろう」
「はい、ブレイク殿の言う通りです」
「陛下へは私から話しておきます」
「……宜しくお願いします」
ルフィーナは落ち込んでいるようで、ずっと項垂れている。
「あの~1つ聞いてもいいですか?そもそも、教会の人以外で治癒魔法を使える方はいないんですか?」
「治癒魔法は光属性がないと使えないし、6歳で受ける教会の鑑定で光属性があった者は教会に入れられるのよ。貴族は例外ですけど」
「成る程ね。それで教会が治癒魔法を独占するわけか……貴族は治癒師なんてしないだろうしね。もしかして、以前教会で見た子どももそうなのかな?」
「アル……でも、あの子たはちは孤児だって言ってたよね?」
私がルイスを見ると教えてくれた。
「確かに教会にいるのは孤児ですが、中にそういった子がいても不思議じゃないですよ」
「そうなんだ。ルフィーナさんは、私に治療をさせたかったんですか?」
「えぇ、正直これ以上冒険者が減るのは困るのよ。依頼は消化出来ないし、調査も終わってないの」
「治療ならしますよ?」
「え……本当!?」
「でも、今はそれでいいかもしれたせんけど、私がいなくなった後のことも考えないと」
「それはこちらで考えますよ。ルフィーナは一度、陛下と謁見してもらう事になると思います」
「うっ……分かりました」
「だが、治療はフェ……サヨに頼むとして、調査はどうするんだ?俺たちが行くか?」
「いえ、今回のワイバーンの件もありますからオースティン殿たちは王都にいてください」
オースティンの提案を断ったが、冒険者の実力も数も前回より少いのは確かで、何が最適なのか考えていると、アルがあっけらかんと言った。
「じゃあそれ、僕が見てこようか?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「あ!戻って来た。アル、本当に強かったんだな。あんなの見たことないぜ」
サムが興奮したように言うと、周りもそれに同意した。
「あれはまぐれだよ。普段はあんな威力は出せないから」
(そんなので誤魔化せるわけないでしょ。‘下等種族’とか‘消えろ’とか言ってたんだから)
私がツッコンでいると、アルがこちらを振り返りニッコリ笑った。
「なんだいサヨ、何か言いたい事でもあるのかな?」
「ヒィッ!何もないないないないない」
「そう?」
私は必死で頷いた。
空気を読んだのか、誰もそれ以上聞いて来なかったから良かった。
その時、オースティンが声をかけてきた。
「それにしても久しぶりだな。アル、サヨ」
(久しぶり?)
「やぁオースティン、久しぶりだね。ルイスたちも元気だったかい?」
(どういう設定?)
「えぇ、お二人も元気そうですね。まだ旅をしているんですか?」
「そうなんだよ。まさか君たちと会えるとは思っていなかったから驚いた」
「ワシらはここを拠点にしとるからな」
「お前たちは宿はどうしてるんだ?よければ今日、飲まないか?」
「ブレイクの選ぶお酒は美味しいからいいよね」
(……………………)
「そうだ!クロードが会いたがってたぞ。今夜にでも会ってくれないか?」
「もちろんだよ!ねぇサヨ」
「………楽しみだなー」
「じゃあ、決まりだね」
さっきの会話だけじゃ、設定が分からなくて考えていると、ダイソンさんが聞いてくれた。
「なんだ、オースティンたちと知り合いだったのか」
「あぁ、アルとサヨは流民でな。仕事の時に会って意気投合したんだ」
初めて聞く単語が気になり、アルに念話で聞いてみた。
{ねぇアル、流民って何?}
{流民は国や組織に属さず生涯、旅をする民族なんだ。だから国、組織の決まりに縛られない、その代わり戸籍がないし国や組織の保障なんかも受けられないけど、僕らがこのまま怪我人たちを無料で治療していけば、必ず調べられるからね。戸籍が無くても多少のカモフラージュになるよ……ってルイスが言ってた}
{ルイスさんが……後でお礼言わないとね。そういうの全然考えて無かったよ}
{そうだね。僕らだけでやってたらどうなってたか……}
私たちは、助けてくれる人たちの有り難さを噛み締めていた。
「へぇ、じゃあたまたま王都に来たのか」
「いや、今回は俺が呼んだんだ。サヨにアンジェラを見てもらおうと思ってな」
「そうなのか、確かにこの嬢ちゃんなら治せるかもな」
(そういうことか!確かにそれなら流れ的に不自然じゃないよね)
設定が分かり、感心しているとダイソンが遠慮がちに聞いてきた。
「サヨ、悪いんだが怪我人の治療をしてもらえんか?報酬は出すから」
「構いませんよ。報酬は必要ありません」
「いくらなんでもそれは駄目だ。ギルドで払うから遠慮なく言ってくれ」
「そう言われても……それじゃあ、アルの魔法でワイバーンの素材とか取れなくなったから、今回はそれで相殺してください」
「ごめんね~イラッとして、やり過ぎたよ」
(アルってば、イラッとしたって言っちゃた。さっきは、まぐれって言ったのに)
「イラッとして全滅出来るのかよ……まぁ俺たちは助かったからそれはいいんだけど、本当にそれでいいのか?」
「はい、さっそく始めるので並んでもらえますか?」
「分かった」
重傷者から順番に治していくと、口々にお礼を言われた。
全員の治療が終わり、ギルドに寄ってくれと言われたので、先にエリックたちと行く予定だった場所に行ってからギルドに寄ると約束して別れた。
ジョンと合流して、患者の治療が終わってから冒険者ギルドに向かい、エリックたちは家に戻ると言ったので別れた。
冒険者ギルドは初めてだったので、内心緊張していたが、入るとすぐにオースティンたちが見えたのでホッとした。
「2人ともお疲れさん。上手くできたか?」
「はい、今のところ問題ないです」
「そういえば、来るのってオースティンだけじゃなかったのかい?ルイスはエヴァンの手伝いがあるんだろ?」
ギルドに入るなり注目されていたが、アルの発言にさらに騒がしくなる。
「おい、あいつオースティン様とルイス様を呼び捨てにしたぞ」
「それだけじゃねぇよ。エヴァンって国王陛下だろ?」
「あんな若造が……何者だ?」
「聞いた話だと、ワイバーンの群れを一瞬で灰にしたらしいぞ。それに女の方は治癒師なんだと」
「バカ言うなよ!一瞬で灰に出来るわけないだろ。女は、治癒師なら教会の人間てことか?」
「だがよ、あの女は無料で治療したらしいぞ?教会の人間がそんな事するわけねぇよ」
などといろいろ言われているが、聞こえないフリをして皆で談笑していると、ダイソンが呼びに来た。
「おい、来たなら教えろよ。取り合えず部屋に案内するから来てくれ」
ダイソンに着いて行くと、当然のようにオースティンたちもついて来た。
「何でお前らまで来るんだよ」
「気にするな。俺たちは、この2人の友人兼保護者みたいなもんだ」
「保護者!?」
「そうですよ。話があるなら私たちを通してください」
「つまらんことはするなよ。2人は俺たちの友人だからな」
「ワシらにとって大切な友人じゃ、言動には気を付けるんじゃな」
「物騒だな!俺たちはそんなに信用ないのか!」
仲良さげに言い合いをしながら、階段を上り2階の一番奥に案内されると、ダイソンがギルドマスターの執務室だと教えてくれた。
ダイソンがノックすると中から女の声が聞こえた。
「客人を連れてきました」
「入りなさい」
中に入ると、深紅の髪に蒼い瞳の綺麗な女が立っていた。
私たちを見るなり、女は頭を下げた。
「あなたたちがアルとサヨですね。私はギルドマスターのルフィーナです。今回は、うちの者を助けて頂きありがとうございました」
「初めまして、サヨです。私たちは出来る事をしただけなので、気にしないで下さい」
「初めまして、僕はアル。サヨの言う通りだよ。むしろ、ワイバーンの素材を駄目にしてしまって申し訳ないくらいだし」
「そう言えば、アルはワイバーンを一瞬で灰にしたとか、サヨも重傷だったダイソンを一瞬で治したと聞きました」
「あれは……見た目ほど悪くなかったんですよ!」
「僕はワイバーンが襲ってきたから、ビックリして魔力を込め過ぎたんだ。火事場のバカ力さ」
あの時言ってた事と違うので、驚いてアルの方を勢いよく見てしまった。
{アル!ダイソンさんたちに言ったのと変わってる!?}
{え?僕、何て言ってた?}
「お前、俺たちには‘イラッとして、やり過ぎた’って言ってたよな?」
「………そうだっけ?」
「はっはっはっは」
アルが首をかしげながら私を見てきたが、乾いた笑いしか出て来なかった。
後ろを見なくても分かる。
オースティンは笑いを我慢して、ルイスは眉間を揉んで、メイソンは呆れ、ブレイクは静かに見守っているだろう。
アルは話を反らすように、ルフィーナに問いかけた。
「それで?わざわざギルドマスターの部屋に呼んだって事は何かあるんでしょ?」
「まずは、ソファにかけてください。話はそれからにしましょう」
それもそうだと、ルフィーナの対面に私とアルが座り左右にオースティンたちが座った。
ダイソンはルフィーナの後ろに立っている。
「単刀直入に言います。あなたたち、冒険者になりませんか?」
「ならないよ」
「なりません」
((今は))
「即答ね……理由を聞いても?」
「僕たちは流民だ。自由気ままに旅をする。どこにも属するつもりはないよ」
「この国に来たのはオースティンさんに頼まれたからです。用が済めば、また旅にでます」
「そう……冒険者なら依頼出来ると……残念ね」
ルフィーナは思い詰めたような顔をして黙り込んでしまい、後ろにいるダイソンも視線を落としていた。
その様子を見てオースティンが尋ねた。
「どうしたんだルフィーナ。お前らしくないぞ」
「実は最近、治療所に関しての苦情やトラブルが多いのよ。冒険者は怪我をしてもお金がないと治せない、治らないから依頼が受けられない、受けられないからお金がない……悪循環が出来てしまってるわ」
「それは……もしかして、人が少ないのはそのせいか?」
「えぇ、最近レベルの高い魔物が目撃されるから、調査隊を出したの。死者こそ出なかったけど、重傷者は出たわ。けど……」
「治療所での治療が受けられないという事ですか?しかし、治療所の料金はそこまで高いはずは」
「ルイスの言う通りよ……前はね。今は骨折を治すのにも金貨1枚よ」
私とアルは知っていたので驚かなかったが、オースティンたちは目を見開いた。
「何だその金額は!?そんなの毎回払えるわけないだろ!」
「そうよ……でも今はそれが当たり前なの」
「何故、国に報告しないのですか?私たちはもちろんエヴァン……陛下は知りませんでしたよ」
「あんたらは家に治癒魔法が使える者がいるから、知らなくて当たり前だ」
「ダイソン……分かっていたなら報告するべきです。いったい、いつから」
「治療所の責任者が変わってからよ。報告しなかったのは……以前、治療所の件で陛下には尽力して頂いたわ。陛下が民を思い教会との間で苦しんでおられたことは皆、知っているのよ……だから今回は自分たちで出来る限りのこをしよう……と」
話しているうちにルフィーナの声がだんだんと小さくなっていく。
「それで状況がこれじゃとな……お前さんはギルドマスターとして引き際を見定めるべきじゃった」
「メイソン殿……私は自分が情けないです」
「皆、陛下を思っての事だろうが、それでお前たちが苦しんでいたと、後から知った陛下がどう思うかは分かっているだろう」
「はい、ブレイク殿の言う通りです」
「陛下へは私から話しておきます」
「……宜しくお願いします」
ルフィーナは落ち込んでいるようで、ずっと項垂れている。
「あの~1つ聞いてもいいですか?そもそも、教会の人以外で治癒魔法を使える方はいないんですか?」
「治癒魔法は光属性がないと使えないし、6歳で受ける教会の鑑定で光属性があった者は教会に入れられるのよ。貴族は例外ですけど」
「成る程ね。それで教会が治癒魔法を独占するわけか……貴族は治癒師なんてしないだろうしね。もしかして、以前教会で見た子どももそうなのかな?」
「アル……でも、あの子たはちは孤児だって言ってたよね?」
私がルイスを見ると教えてくれた。
「確かに教会にいるのは孤児ですが、中にそういった子がいても不思議じゃないですよ」
「そうなんだ。ルフィーナさんは、私に治療をさせたかったんですか?」
「えぇ、正直これ以上冒険者が減るのは困るのよ。依頼は消化出来ないし、調査も終わってないの」
「治療ならしますよ?」
「え……本当!?」
「でも、今はそれでいいかもしれたせんけど、私がいなくなった後のことも考えないと」
「それはこちらで考えますよ。ルフィーナは一度、陛下と謁見してもらう事になると思います」
「うっ……分かりました」
「だが、治療はフェ……サヨに頼むとして、調査はどうするんだ?俺たちが行くか?」
「いえ、今回のワイバーンの件もありますからオースティン殿たちは王都にいてください」
オースティンの提案を断ったが、冒険者の実力も数も前回より少いのは確かで、何が最適なのか考えていると、アルがあっけらかんと言った。
「じゃあそれ、僕が見てこようか?」
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