上 下
27 / 166
出会い

王都

しおりを挟む
門番が合図して10秒位で到着を知らせる声が聞こえてきた。

「こんにちは!こちらはディアネス共和国王都ルーセントです。私は転移門門番のネロと申します。到着地に間違いはないでしょうか?」

「はい間違いありません」

「では、使用許可者の方をお願いします」

門番の言葉を聞いてオースティンが馬車から降り、身分証を出した。
身分証の確認が終わり、オースティンが戻ってくると、門番が魔力を記録する魔道具を持って人数を確認した。

「人数は7人と1匹で間違いないですね。どうぞお進みください」

馬車が動き出したので、ルイスに疑問に思ったことを聞いてみた。

「ルイスさん、何でこっちの門番の人は人数を知ってたんですか?」

「それはですね、記録の魔道具を門に嵌め込む事は言いましたよね?」

「はい」

「出発した門に嵌め込まれた魔道具の情報は、到着する門に自動転送される仕組みなんですよ」


「自動転送……凄いですね」

(メールみたいな物かな)

私が感心していると、エヴァンが自慢気に話し出した。

「実はな、この馬車と転移門の仕組みを考えたのは我が国の宮廷魔術師たちだ!この国は種族の違いを越えて、力を合わせより良い生活を国民が送れるように私が皆と力を合わせここまで育ててきたのだ。まだまだ改善する事はあるが――」

「エヴァン様!その話はそれくらいでいいでしょう」

「何だルイス、まだ話す事はあるぞ?」

「いいえ、終わりです……はぁ~」

エヴァンの話を無理やり終わらせたルイスは疲れたように溜め息を吐き、他の者もやれやれと肩をすくめていた。

{アル、もしかしてエヴァンさんて結構偉い人なの?}

{そうだよ。まぁ気にしなくていいよ。本人が名乗ってないんだから}

{……うん。さっきのは聞かなかった事にする}

{さて、そろそろ人型になろうかな}

「あの、アルはもう人型になってもいいですか?」

私が、聞くとルイスが頷いたのでアルを下に降ろすと、アルが光に包まれた。
人型になったアルが私の隣に腰かけ、私を抱えて膝の上に乗せた。
それからしばらくして、馬車が止まりロバートが顔を覗かせた。

「皆さま、フィアフル様たちの滞在先に到着しました」

馬車の外に出ると、そこには屋根がオレンジで壁は白の2階建てで、木の柵に囲まれた一軒家があった。
ロバートに案内され玄関に向かうと、エヴァンたちも着いてきた。

「何で着いてくるのさエヴァン」

「ロバートの薦めとはいえ、気になるからな」

「ふ~ん」

結局、全員で中に入る事になった。

「どうぞお入りください。先ずは1階ですが玄関を入ると直ぐにリビングと台所があります。玄関から見て左側に1部屋と、右側にトイレがあります」

ロバートに案内されながら、見て確認していく。
部屋には家具等は無く、自由に使っていいそうだ。
トイレは意外なことに水洗で驚いたので聞いてみると、まだこの国でしか使われていないと教えてもらった。
実は地下室の時に苦労したので、トイレが一番嬉しかったが、お風呂は無いそうで少しガッカリした。

「では2階に行きましょう。台所の横の階段で上がります。2階には2部屋ありまして、うち1部屋には屋根裏部屋がありますよ。どちらも日当たりがいいですので安心してください」

部屋にはそれぞれ机と椅子、ベットが置いてありクローゼットもあった。
私は昔から屋根裏部屋に憧れていたので、後でアルと部屋割りを相談する事にした。
最後に案内されたのは、裏庭で結構広めのスペースがあり、家庭菜園も出来そうだ。
一通り説明が終わり、エヴァンたちは戻るという事なので、ここで別れる事になった。

「では我々は戻る。なるべく早く結論を出すから、待っててくれ。それと、これを渡しておくから必要な物を買っておけ」

「ありがたく使わせてもらうよ。ちゃんと返すからね。僕たちの事は、迷惑をかけるけど宜しく頼むよ」

アルが、エヴァンと話してる横で私はオースティンたちにお礼を言っていた。

「皆さんいろいろ教えてくれて、ありがとうございました。アンジェラさん、ごはん美味しかったです」

「ありがとう……わたしは近くにある教会で手伝いをしていますから、何かあれば来てくださいね。わたしも会いに来ますから」

「俺は、だいたい依頼受けてるか、ギルドにいるから何かあれば遠慮なく来いよ」

「俺もオースティンと同じだな」

「わしは、依頼がなければ鍛冶屋にいるからな。武器や防具が必要ならわしが作るから言ってくれ」

「私は残念ながら暫くはエヴァン様と一緒にいますので、なかなか会えそうに無いですね」

「おいルイス!何だその‘残念ながら’って!」

「なるべく時間を作って様子を見に来ますから、無理をしてはいけませんよ」

ルイスの言葉にツッコムが無視されたエヴァンが落ち込んでいたので、声をかけた。

「あの、大丈夫ですか?エヴァンさんもありがとうございました」

「フェリーチェ!私を気遣ってくれるのはお前だけだ!」

エヴァンは私に抱き付こうとしたが、アルに防がれた。

「何をしようとしたのかな……エヴァン」

アルが笑みを浮かべながら低い声でそう言うと、エヴァンは立ち上がり早口にしゃべり出した。

「なっ、何もしておらん!お前たち早く戻るぞ!」

そう言うと馬車に乗り込んだ。
他の者も呆れながら馬車に乗り込んだところで、ロバートが挨拶に来た。

「本当に食事は2人で大丈夫ですか?なんでしたらエヴァン様たちを送った後、こちらに寄りますよ?」

「ありがとうロバート。いろいろ見て回りたいし、僕たちだけで行ってみるよ。お金もエヴァンから貰ったしね」

「そうですか……何かありましたらマライカ商会に来てくださいね。私の名前を出してもらってもかまいませんから」

そう言って、街に行く道やお薦めの店の名前を教えて、ロバートたちは去って行った。

「いい人たちだねアル」

「フェリの事がほっとけないみたいだね。さて、ロバートが教えてくれた店に行ってみようか」

「うん!」

いつもどおり私を抱えられながらアルが歩き出した。

(王都のごはん楽しみだな~……でも、何か忘れてるような……)

「う~ん?」

「どうかしたの?フェリ」

思い出そうと唸っていると、アルが聞いてきた。

「何か大事な事を忘れてる気がするんだけど……う~ん……ダメだぁ思い出せないよ」

「それって、チェ………まぁそのうち思い出せるよ」

アルが何か言いかけたが、思い出せないので保留する事にした。
何故そこで、思い出すまで考えなかったのか後悔する事を知らず、私の頭はごはんの事で一杯になっていた。
しばらく歩くと、建物が見えてきた。

「アル、建物だよ。鐘があるからアンジェラさんが言ってた教会かな?」

「みたいだね。あれ?……フェリ見てごらん。木の影から子どもがこっちを見てるよ」

アルに言われ見てみると、私と同じくらいの女の子が私たちをジッと見ていた。
目が合うと、一瞬目を見張ったが直ぐに私を睨み付け走って行った。

「えっと……どうしたんだろう?」

「さぁ?子どもの考える事は、僕には分からないからね」

「私も子どもですけど」

「フェリは子どもだけど前世の記憶もあるし、考えが顔に出てるから分かりやすいよ。」

その言葉に、私はむくれてそっぽを向くとアルが笑い出した。

「ハハッ……ごめんごめん、機嫌直してよフェリ……フフッ」

「アル、謝る気ないでしょ!お腹が鳴った時だって――――」

私たちがそんなやり取りをしながら歩いて行くのを、さっきの女の子が見ていたがアルに怒っていた私は気付かなかった。
しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...