上 下
24 / 166
出会い

問い

しおりを挟む
フェリーチェが完全に眠ったのを確認して、フィアフルは彼等に視線を向けた。
その目にはフェリーチェに向けていた暖かみは無く、そこには何の感情も浮かんではいなかった。
その目を見て彼等に緊張が走った。

「クスッ……そんなに緊張しなくても取って喰いやしないさ」

オースティンが警戒しながら尋ねた。

「お前は何者だ……その子は本当に妹なのか?」

オースティンの質問に、フィアフルの雰囲気が変わり始め表情が無くなった。

「妹じゃないとしたらどうするのだ?コレは貴様等とは何の関係もない者だろう」

「そんな事は関係ない!その子に何かするつもりなら許さない!」

「許さない?可笑しなことを言う……コレは我のものだ。それをどうしようと指図される謂れはない」

「なら力づくでも離してもらう!」

オースティンの言葉を合図にルイス、メイソン、ブレイクが攻撃体勢に入った。

「ククッハーハッハッハ……笑わせるな!貴様等ごときに我がどうこう出来ると思っているのか!戦いにもならん!攻撃した瞬間……死ぬぞ」

フィアフルの瞳は怪しく光り、瞳孔は獣の様に縦長になり全身を黒いオーラが炎の様に包んでいた。
そんなフィアフルを見てロバートは震え、アンジェラがエヴァンを庇い、オースティン、ルイス、メイソン、ブレイクが前に出て構えた。
フィアフルの殺気に圧倒されながらも、一歩も引かずオースティンが叫んだ。

「嘗めるな!俺たちはこれでもS級パーティーだ!そう簡単に殺せると思うなよ!」

「分からんな……人間とは傲慢で他者を見下し、苦しめる、自分のことしか考えぬ生き物だろう?エルフやドワーフ、獣人もたいして変わらんがな。何故、会ったばかりのコレに拘る?戦えば貴様等の主も死ぬ……今、引き下がれば見逃してやるぞ?」

フィアフルが言った言葉に、オースティンが反応する前にエヴァンが答えた。

「有難い申し出だが断らせてもらおう。貴様の言葉を信用する事は出来ん。それに、助けられる可能性があるなら子どもを見捨てる事など出来ない」

エヴァンの言葉に頷き、オースティンたちがフィアフルを見ると、呆れた様に肩をすくめていた。

「やれやれ、どうあっても引かぬか……ならば死ぬがいい」 

そう言ってフィアフルは魔力を高め始めた。
その膨大な魔力に自分たちの死を感じたが、誰一人逃げる者はおらず、それどころかフィアフルを睨み付けていた。
それを見てフィアフルは口元に笑みを浮かべ魔力をかき消した。

「ごめんごめん……ちょっと試させてもらったよ。心配しなくても君たちは殺さないから安心して。僕たちの事情は特殊だから誰でもは話せないんだ」

「お前……」

オースティンたちはフィアフルの言葉に緊張を解き座り込んだ。

「なんだい君たち、さっきまでの威勢はどうしたの?」

「煩い!あんな殺気当てられて平気な訳あるか!本当に何者なんだよ!」

オースティンの問いにフィアフルはあっけらかんと答えた。

「僕はただの黒龍だよ」

「「「………はぁ!?」」」

エヴァン、オースティン、ルイスが驚きの声をあげ、他の者は目を見開き固まっていた。

「あれ?どうしたの?」

フィアフルが不思議そうに聞いたが誰も答えなかった。
いち早く正気を取り戻したのは、意外な事にロバートだった。

「皆様、一度落ち着きましょう。お茶を用意しますので。フィアフル様たちの事情を聞かなければいけませんし」

ロバートと言葉に無言で従い元の場所に座り直した。
フィアフルはというと抱えてたフェリーチェの寝顔を愛おしそうに見ていた。
ロバートが用意したお茶を飲み一息ついたところで、フィアフルがきりだした。

「僕らの事情を話す前に、君たちの事をちゃんと話してくれないかい?さっきも言ったけど誰にでも話せる事ではないんだ」

「では私からだな……私はエヴァン・ディアネス、ディアネス共和国の現国王だ」

「俺はオースティン・ディアネス、王弟だが城を出て冒険者をしている。階級はS級だ」

「わたしはアンジェラ・ディアネス、オースティンの妻で教会のシスターをしていますが、B級の冒険者でもあります」

「私はルイス・フォスター、ディアネス共和国エルフ族代表の長子でA級冒険者です」

「俺はブレイク・ロペス、ディアネス共和国獣人族代表の弟でA級冒険者だ」

「ワシはメイソン・タイナー、ディアネス共和国ドワーフ族代表の叔父だがA級冒険者で鍛冶屋でもある」

「私はロバート、マライカ商会の会頭をしています」

6人が順番に自分の素性を話したので、フィアフルも自分たちの事を話し出した。

「僕は龍神の一角、黒龍のフィアフル。そして、……アンブラー帝国辺境伯ベイリー家の長子フェリーチェだ」

「「「「「「!?」」」」」」

驚きつつもエヴァンが問いかけた。

「まさか龍神とは……しかし、フェリーチェがベイリー家の娘というのが本当なら、何故一緒に行動しているのだ?」

「話す前にもう1つ、君たちは何処から戻って来たんだい?」

「私たちはトラスト王国にいたのだが、第1王子と他にも何人か拐われてな、国に戻るよう言われたんだ。手伝うと提案したんだが、断られてな」

「なら話は早いかなその件も関係あるし……フェリーチェはね存在を消された子どもなんだ」

「存在を消された?……もしかして、双子か!?あの国は、まだそんなことをしているのか!」

「そう、フェリは名も与えられず生まれた時からずっと暗い地下室で監禁され、食事もまともに与えられず過ごしていた。家族はフェリに1度も会わず、メイド長が食事を運んではフェリが動かなくなるまで叩いていたし、最近は毒や薬の実験台にされてた」

「………………」

あまりの事に誰も声が出なかったが、話は終わらない。

「でも、フェリに転機が訪れたんだ。フェリの食事を運ぶ役に1人下級兵士が加わったんだけど、その兵士はトラスト王国の諜報員が変化した者で、フェリはスキルでそれを見破った。諜報員は拐われた仲間を探しに潜り込んでたけど、見つけられなくてフェリに協力を頼んだ……フェリの脱出に手を貸す事を条件にね」

「第1王子たちを拐ったのは帝国だったのか」

「フェリは協力する事にした。フェリにとっても最後のチャンスだったから」

「最後?」

「領主が帰還したら、開発した魔物を呼び寄せる魔道具の実験をする事になってたんだ……フェリに持たせてね。そんな事すれば、フェリは死ぬ。だから協力したのさ生きるために」

「それでどうなったんだ?」

「フェリは無事役目を果たした。そのまま逃げれば良かったのに、魔道具の情報を得るためフェリは地下室に戻った。情報を集めるために屋敷内を探っていた時に捕らえられていた僕と会ったんだ。結局、魔道具も手に入れ、僕も助けた。そして、旅に出たんだ。奴らはフェリの事、死んだと思ってるよ」

「帝国はそんな物まで……しかも、自分の娘に持たせるなどっ!」

エヴァンは込み上げる感情を抑えるように手を握りしめた。
それは、他の者たちも同じだったが、オースティンがある疑問を口にした。

「しかし、どうやって獣人たちやお前を助けたんだ?フェリーチェは子どもだぞ……そんな力」

「魔法だよ……フェリは魔法を自分で覚え、更にオリジナルの魔法を作ってたんだ」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

全員が驚く中、ルイスが唖然と呟いた。

「オリジナル魔法ですか……子どもがどうやって」

「フェリがいた地下室には本が大量にあってね。フェリにはスキルがあったから教えられなくても読む事が出来た。でも、外の事を知らないから自分の凄さに気付いてないし、皆が同じ様に出来ると思ってるよ」

「そんなこと……」

ルイスが言葉を詰まらせると、オースティンが質問した。

「だが、いくら助けられたとはいえ龍神のお前がその子と一緒にいる理由は何だ?」

「理由か……フェリが僕の前で泣いたからかな」

「泣いた?」

「そう……僕はフェリが泣き出した時、理由が分からなくて記憶を見たんだ。見た限りフェリは声をあげて泣いたことは無かった。なのに僕が枷と首輪のことを聞いたら、声をあげて泣いたんだ」

「それは……」

「フェリは手枷と足枷、隷族の首輪つけられ魔道具を持たされた。そんなフェリに父親が何て言ったと思う?」

「何て言ったんだ」

「‘これで厄介者を処分出来る’と言ったんだよ……フェリはそれでも泣きもせず、魔道具を手に入れ僕の元のまで来てくれた。でも限界だったんだろうね」

「何だよそれ!父親がすることでも、言うことでもねぇだろ!」

憤るオースティンの横でアンジェラが静かに泣いていた。

「酷すぎます……せっかく授かった子に何故っ……」

「彼にとってフェリは子どもじゃなかったのさ……フェリは自分て考えて行動出来るし、魔法のセンスもあるから時々忘れてしまうけど、まだ4歳の子どもだ……僕はもうフェリがあんな風に泣く姿を見たくない……幸せにしたいと思ったんだ。だから‘フェリーチェ’と名付けた」

「フェリーチェ‘幸せに’という意味でしたね」

「これが僕たちの事情だよ。ねぇエヴァン……君はディアネス共和国国王として、僕たちを受け入れられるかい?」

フィアフルの問いにエヴァンは直ぐには答えられなかった。
エヴァンには国王として、国と民を護る責任がある。
黒龍のフィアフルはもちろん、存在を消されたとしてもアンブラー帝国の貴族の血を引くフェリーチェは争いの種になる恐れがある。
それでも、エヴァンには2人を切り捨てることが出来ず悩んでいた。
他の者はエヴァンを見守ることしか出来ず沈黙が続いたところで、フィアフルが口を開いた。

「答えは直ぐに出さなくてもいいよ。帰って誰かに相談してもいいし、断られても何もしない……それは約束するよ。ただ、フェリを利用しようとしたり、傷付けて泣かせたら……何をするか分からない。それだけは忘れないでエヴァン」

フィアフルはそう言うと立ち上がり歩き始めた。

「どこに行くのだフィアフル」

「少し離れて休むよ。この辺りには結界を張ってるから安心して休んで大丈夫だ……おやすみ」

フィアフルの姿が見えなくなっても、誰も休もうとはしなかった。
しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...