780 / 780
外伝:長田鴇汰 ~あれから~
第9話 これから
しおりを挟む
翌日から、麻乃と二人で改めてあちこちへ挨拶に回った。
来て欲しいと思った人たちのところへは、やっぱり既に連絡が行っている。
中央の軍部へも行き、ほかの蓮華たちとも話をし、梁瀬にはクロムへの連絡も頼んできた。
「なんか思っていたのと違う……」
軍部を出て中央を離れる車の中で、麻乃は困惑した様子でつぶやいた。
考えていたよりも規模が大きいのが気になるみたいだ。
「でもまぁ、修治と多香子さんのときも、こんなモンだったろ?」
「そうだけど、あたしはもっと……家族と高田先生と、鴇汰の叔父さんだけで良かったのに」
「それじゃあさすがに少なすぎるだろ? 衣装を大切に保管していてくれたおクマさんだって、七番のやつらだって、呼ばないわけにはいかねーじゃん?」
「ん……それはわかるけど……」
「イツキさまにも言われたんだし、あとのことは神殿に任せておけばいいんだよ。もう、なるようにしかならねーんだからな?」
「そんな気楽に言わないでよ」
「麻乃こそ、そんなに思いつめるなって。当日の状況がどうあれ、おまえはあの衣装を、ご両親に見せるつもりでいればいいんじゃねーか?」
「……そっか……うん、そうだね」
助手席のシートに深く身を沈めた麻乃は、大きなため息をついてから、そう答えた。
翌日からは、神殿から呼び出されて、儀式の詳細を聞かされたり衣装合わせをしたりと、なんだかんだで忙しい。
気づけばあっという間に時が過ぎていった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
爽やかな風が、泉の森を吹き抜けた。
良く晴れた空の下、陽の光は木々と一緒に揺れている。
カサネを始め、イツキやサツキ、巫女たちの祝詞がゆっくりと流れていく。
祭壇の前に立った鴇汰は、隣に立つ麻乃へ目を向けた。
真っ白な花嫁衣装は巫女たちの衣にも似ている。
少し伸びた紅い髪が、風が吹くたびに揺れていた。
祭壇に火が灯されて、カサネの言葉が響く。
――泉の森の女神はじめ、八百万の神々よ、ご加護を願い、謹んで申し上げます。
ここに、長田鴇汰と藤川麻乃が、
誓いのもと、結婚の儀を執り行うことをお許しください。
新郎、鴇汰、新婦、麻乃、この度の結婚により、新たなる家族を築き、
共に助け合い、喜びも悲しみも分かち合い、互いに支え合いながら、
永遠に続く愛を育んでいくことを誓います。
どうか、神々のご加護を賜り、新郎新婦が健康で、幸福に満ち、
家庭が繁栄し、末永く安寧なる日々が続きますよう、
ここに、謹んでお願い申し上げます。
また、両家の先祖の御霊も、この喜びの場を見守り、
新たな絆を祝福し、二人の道を照らしてくださることを願います。
新郎新婦の未来が、光り輝くものでありますように。
どうか、泉の森の女神よ、そのご守護とお導きを賜りますよう、
お願い申し上げます。
以上、謹んで祝詞を奏上いたします――
麻乃の手を取り、その指に指輪をはめた。
同じように麻乃は鴇汰へ指輪をはめてくれる。
たったそれだけのことで、胸がいっぱいになるほどの感動を覚えた。
背後ではおクマが感極まったのか、号泣しているのが聞こえてくる。
「おクマさん、泣きすぎ」
「しょうがねーよ、楽しみにしててくれたんだから」
小声で麻乃と笑いを漏らした。
恙なく式が進んでいく中、ザッとこれまでより強い風が吹き抜けていき、大きく揺れた木々が葉を落としている。
それはまるで花吹雪のように辺りに広がり、幻想的な雰囲気に包まれた。
みんながその様子に沸きあがる中、鴇汰は風を避けるふうを装って、麻乃の肩を抱き寄せた。
誰も見ていないのをいいことに、そっと口づけを交わして抱きしめた。
「絶対に幸せになろうな」
「そうだね」
以前は照れくさくて言えなかった言葉も、お互いに口にするようにしている。
届かなかった思いも気持ちも、今はとても近くて暖かい。
-完-
来て欲しいと思った人たちのところへは、やっぱり既に連絡が行っている。
中央の軍部へも行き、ほかの蓮華たちとも話をし、梁瀬にはクロムへの連絡も頼んできた。
「なんか思っていたのと違う……」
軍部を出て中央を離れる車の中で、麻乃は困惑した様子でつぶやいた。
考えていたよりも規模が大きいのが気になるみたいだ。
「でもまぁ、修治と多香子さんのときも、こんなモンだったろ?」
「そうだけど、あたしはもっと……家族と高田先生と、鴇汰の叔父さんだけで良かったのに」
「それじゃあさすがに少なすぎるだろ? 衣装を大切に保管していてくれたおクマさんだって、七番のやつらだって、呼ばないわけにはいかねーじゃん?」
「ん……それはわかるけど……」
「イツキさまにも言われたんだし、あとのことは神殿に任せておけばいいんだよ。もう、なるようにしかならねーんだからな?」
「そんな気楽に言わないでよ」
「麻乃こそ、そんなに思いつめるなって。当日の状況がどうあれ、おまえはあの衣装を、ご両親に見せるつもりでいればいいんじゃねーか?」
「……そっか……うん、そうだね」
助手席のシートに深く身を沈めた麻乃は、大きなため息をついてから、そう答えた。
翌日からは、神殿から呼び出されて、儀式の詳細を聞かされたり衣装合わせをしたりと、なんだかんだで忙しい。
気づけばあっという間に時が過ぎていった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
爽やかな風が、泉の森を吹き抜けた。
良く晴れた空の下、陽の光は木々と一緒に揺れている。
カサネを始め、イツキやサツキ、巫女たちの祝詞がゆっくりと流れていく。
祭壇の前に立った鴇汰は、隣に立つ麻乃へ目を向けた。
真っ白な花嫁衣装は巫女たちの衣にも似ている。
少し伸びた紅い髪が、風が吹くたびに揺れていた。
祭壇に火が灯されて、カサネの言葉が響く。
――泉の森の女神はじめ、八百万の神々よ、ご加護を願い、謹んで申し上げます。
ここに、長田鴇汰と藤川麻乃が、
誓いのもと、結婚の儀を執り行うことをお許しください。
新郎、鴇汰、新婦、麻乃、この度の結婚により、新たなる家族を築き、
共に助け合い、喜びも悲しみも分かち合い、互いに支え合いながら、
永遠に続く愛を育んでいくことを誓います。
どうか、神々のご加護を賜り、新郎新婦が健康で、幸福に満ち、
家庭が繁栄し、末永く安寧なる日々が続きますよう、
ここに、謹んでお願い申し上げます。
また、両家の先祖の御霊も、この喜びの場を見守り、
新たな絆を祝福し、二人の道を照らしてくださることを願います。
新郎新婦の未来が、光り輝くものでありますように。
どうか、泉の森の女神よ、そのご守護とお導きを賜りますよう、
お願い申し上げます。
以上、謹んで祝詞を奏上いたします――
麻乃の手を取り、その指に指輪をはめた。
同じように麻乃は鴇汰へ指輪をはめてくれる。
たったそれだけのことで、胸がいっぱいになるほどの感動を覚えた。
背後ではおクマが感極まったのか、号泣しているのが聞こえてくる。
「おクマさん、泣きすぎ」
「しょうがねーよ、楽しみにしててくれたんだから」
小声で麻乃と笑いを漏らした。
恙なく式が進んでいく中、ザッとこれまでより強い風が吹き抜けていき、大きく揺れた木々が葉を落としている。
それはまるで花吹雪のように辺りに広がり、幻想的な雰囲気に包まれた。
みんながその様子に沸きあがる中、鴇汰は風を避けるふうを装って、麻乃の肩を抱き寄せた。
誰も見ていないのをいいことに、そっと口づけを交わして抱きしめた。
「絶対に幸せになろうな」
「そうだね」
以前は照れくさくて言えなかった言葉も、お互いに口にするようにしている。
届かなかった思いも気持ちも、今はとても近くて暖かい。
-完-
0
お気に入りに追加
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
この話すごく好みです。
いづみやしゃさま
コメントありがとうございます。
とても励みになります。
読んでいただきありがとうございました。