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外伝:長田鴇汰 ~あれから~
第8話 楽しい一日
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翌日は朝のうちから七番の連中が来て、庭で準備を整えている。
野菜などの食材は、昨日のうちに手分けをしてカットしたり皮をむいたりしたという。
小坂の段取りが良かったおかげで昼前にはすべての準備が終わり、気づけば修治の隊員たちや鴇汰の隊員たちも集まり始めていた。
「さすがに三部隊もいると、壮観だね?」
「食い終わった順に帰ってもらうほうがいいかもしれねーな」
麻乃と二人、集まった人数の多さに閉口したけれど、それぞれが積極的に動いてくれるから、鴇汰の負担がほとんどない。
作ったものと飲みものを出したきりで、あとは全部、隊員たちがそれぞれやってくれている。
人をかき分け、鴇汰は相原や古市たちと合流した。
「西区に来たきり、全然中央に行かれなくて悪かったな」
「それは別に構わないですけど、俺たちが知らないあいだに、七番とうまくやっているようでホッとしましたよ」
相原に言われ、鴇汰は苦笑いで返すしかなかった。
果たしてうまくやっていると言えるのかが、疑問でしかないんだから。
「あとで麻乃もなにか言うだろうけど、来週早々に式を挙げることになったのよ」
「そうらしいですね」
「俺たち、中央にいたんで、すぐに連絡が来ましたよ」
古市と橋本の話では、昨日、鴇汰たちが中央を出たあとすぐに、神殿から通達が来たそうだ。
修治たちのところへの連絡といい、本当に早い。
「日がないじゃんか? おまえらみんな、予定とか都合とか大丈夫なのかよ?」
「そりゃあ、襲撃がない今、俺たちに特別な予定なんてありやしませんよ」
「そうですよ。以前と違ってどこに行くのも自由ですしね?」
確かに以前は持ち回りがあって、ある程度の行動が制限されていたけれど、今はそれがない。
「いざ、なんでもできるとなると、意外となにをしていいやら迷います」
隊員たちも最初はあちこち出かけたり遊んだりしていたようだけれど、今は暇を持て余すことも多いという。
最近では、訓練生たちの演習を手伝いに出ることが増えたそうだ。
「そんならさ、穂高んトコと示し合わせて、俺たちも害獣の駆除依頼を請けてみるか? 東区、今は誰もやってないだろ?」
麻乃たちが角猪駆除の依頼を請けていることを話すと、みんな興味を示してくる。
「いいですね、それ。上田隊長のところも暇そうにしているやつが多いですし、誘えば乗ってくると思います」
「そうか? そうしたら八番のやつらには、相原のほうから話を通しておいてくれよ。穂高には俺から話すから。岱胡のところも一緒だと楽になりそうだけど、アイツらは……」
「長谷川隊長のところは、猟師たちの依頼で山間部の獣の調査に出ているそうですから、忙しいと思いますよ?」
「へぇ……アイツら銃だもんな。そういう依頼は得意だろうな」
みんな少しずつ以前の暮らしと変わってきている。
鴇汰自身もそうだ。
これが当たり前の生活になるには、まだ時間が必要のようだけれど……。
全員の腹も満ちてきたころ、修治と多香子に呼ばれ、麻乃と一緒に改めて式を挙げる話をした。
やっぱり七番と四番の隊員たちも、既に神殿から連絡を受けて知っていた。
誰も驚きはしなかったけれど、喜んで盛りあがってくれているのはわかる。
「それじゃあ、次に会うのは来週の式のときになるけど、落ち着いたら中央に行くから、さっきの話、早いうちに回しておいてくれよな?」
「わかりました。なにかあったら連絡を入れますので」
日が傾きかけたころ、みんなであっという間に片づけを済ませ、帰っていくのを麻乃と二人で見送った。
賑やかだったのが嘘のように静かだ。
あれだけ人数がいたのに、まだ少しだけ肉が残っていた。
多香子と作った煮物や汁物は全部なくなっているし、小坂たちが持ってきた野菜も残っていない。
そう思うと、貰った肉の量は考えていた以上だったということか。
「なんか慌ただしかったけど、楽しかったね」
「そうだな」
「さすがに人数は多かったけど、五番もみんな来たから、鴇汰もいろいろ話せて良かったよね?」
「ああ。久しぶりだったからな。急だったのに呼んでもらえてありがたかった。俺たちも穂高のところと東区で依頼請けようか、って話もしたよ」
「いいね。そのときは、あたしも行きたい」
「経験者がいると助かるな。そこらへん、式の後に落ち着いたら中央で話し合おうぜ」
眠るまでのわずかな時間に、麻乃と二人で角猪退治のことを思い返しながら、罠のかけかたや追い込みかたを教わった。
野菜などの食材は、昨日のうちに手分けをしてカットしたり皮をむいたりしたという。
小坂の段取りが良かったおかげで昼前にはすべての準備が終わり、気づけば修治の隊員たちや鴇汰の隊員たちも集まり始めていた。
「さすがに三部隊もいると、壮観だね?」
「食い終わった順に帰ってもらうほうがいいかもしれねーな」
麻乃と二人、集まった人数の多さに閉口したけれど、それぞれが積極的に動いてくれるから、鴇汰の負担がほとんどない。
作ったものと飲みものを出したきりで、あとは全部、隊員たちがそれぞれやってくれている。
人をかき分け、鴇汰は相原や古市たちと合流した。
「西区に来たきり、全然中央に行かれなくて悪かったな」
「それは別に構わないですけど、俺たちが知らないあいだに、七番とうまくやっているようでホッとしましたよ」
相原に言われ、鴇汰は苦笑いで返すしかなかった。
果たしてうまくやっていると言えるのかが、疑問でしかないんだから。
「あとで麻乃もなにか言うだろうけど、来週早々に式を挙げることになったのよ」
「そうらしいですね」
「俺たち、中央にいたんで、すぐに連絡が来ましたよ」
古市と橋本の話では、昨日、鴇汰たちが中央を出たあとすぐに、神殿から通達が来たそうだ。
修治たちのところへの連絡といい、本当に早い。
「日がないじゃんか? おまえらみんな、予定とか都合とか大丈夫なのかよ?」
「そりゃあ、襲撃がない今、俺たちに特別な予定なんてありやしませんよ」
「そうですよ。以前と違ってどこに行くのも自由ですしね?」
確かに以前は持ち回りがあって、ある程度の行動が制限されていたけれど、今はそれがない。
「いざ、なんでもできるとなると、意外となにをしていいやら迷います」
隊員たちも最初はあちこち出かけたり遊んだりしていたようだけれど、今は暇を持て余すことも多いという。
最近では、訓練生たちの演習を手伝いに出ることが増えたそうだ。
「そんならさ、穂高んトコと示し合わせて、俺たちも害獣の駆除依頼を請けてみるか? 東区、今は誰もやってないだろ?」
麻乃たちが角猪駆除の依頼を請けていることを話すと、みんな興味を示してくる。
「いいですね、それ。上田隊長のところも暇そうにしているやつが多いですし、誘えば乗ってくると思います」
「そうか? そうしたら八番のやつらには、相原のほうから話を通しておいてくれよ。穂高には俺から話すから。岱胡のところも一緒だと楽になりそうだけど、アイツらは……」
「長谷川隊長のところは、猟師たちの依頼で山間部の獣の調査に出ているそうですから、忙しいと思いますよ?」
「へぇ……アイツら銃だもんな。そういう依頼は得意だろうな」
みんな少しずつ以前の暮らしと変わってきている。
鴇汰自身もそうだ。
これが当たり前の生活になるには、まだ時間が必要のようだけれど……。
全員の腹も満ちてきたころ、修治と多香子に呼ばれ、麻乃と一緒に改めて式を挙げる話をした。
やっぱり七番と四番の隊員たちも、既に神殿から連絡を受けて知っていた。
誰も驚きはしなかったけれど、喜んで盛りあがってくれているのはわかる。
「それじゃあ、次に会うのは来週の式のときになるけど、落ち着いたら中央に行くから、さっきの話、早いうちに回しておいてくれよな?」
「わかりました。なにかあったら連絡を入れますので」
日が傾きかけたころ、みんなであっという間に片づけを済ませ、帰っていくのを麻乃と二人で見送った。
賑やかだったのが嘘のように静かだ。
あれだけ人数がいたのに、まだ少しだけ肉が残っていた。
多香子と作った煮物や汁物は全部なくなっているし、小坂たちが持ってきた野菜も残っていない。
そう思うと、貰った肉の量は考えていた以上だったということか。
「なんか慌ただしかったけど、楽しかったね」
「そうだな」
「さすがに人数は多かったけど、五番もみんな来たから、鴇汰もいろいろ話せて良かったよね?」
「ああ。久しぶりだったからな。急だったのに呼んでもらえてありがたかった。俺たちも穂高のところと東区で依頼請けようか、って話もしたよ」
「いいね。そのときは、あたしも行きたい」
「経験者がいると助かるな。そこらへん、式の後に落ち着いたら中央で話し合おうぜ」
眠るまでのわずかな時間に、麻乃と二人で角猪退治のことを思い返しながら、罠のかけかたや追い込みかたを教わった。
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