779 / 780
外伝:長田鴇汰 ~あれから~
第8話 楽しい一日
しおりを挟む
翌日は朝のうちから七番の連中が来て、庭で準備を整えている。
野菜などの食材は、昨日のうちに手分けをしてカットしたり皮をむいたりしたという。
小坂の段取りが良かったおかげで昼前にはすべての準備が終わり、気づけば修治の隊員たちや鴇汰の隊員たちも集まり始めていた。
「さすがに三部隊もいると、壮観だね?」
「食い終わった順に帰ってもらうほうがいいかもしれねーな」
麻乃と二人、集まった人数の多さに閉口したけれど、それぞれが積極的に動いてくれるから、鴇汰の負担がほとんどない。
作ったものと飲みものを出したきりで、あとは全部、隊員たちがそれぞれやってくれている。
人をかき分け、鴇汰は相原や古市たちと合流した。
「西区に来たきり、全然中央に行かれなくて悪かったな」
「それは別に構わないですけど、俺たちが知らないあいだに、七番とうまくやっているようでホッとしましたよ」
相原に言われ、鴇汰は苦笑いで返すしかなかった。
果たしてうまくやっていると言えるのかが、疑問でしかないんだから。
「あとで麻乃もなにか言うだろうけど、来週早々に式を挙げることになったのよ」
「そうらしいですね」
「俺たち、中央にいたんで、すぐに連絡が来ましたよ」
古市と橋本の話では、昨日、鴇汰たちが中央を出たあとすぐに、神殿から通達が来たそうだ。
修治たちのところへの連絡といい、本当に早い。
「日がないじゃんか? おまえらみんな、予定とか都合とか大丈夫なのかよ?」
「そりゃあ、襲撃がない今、俺たちに特別な予定なんてありやしませんよ」
「そうですよ。以前と違ってどこに行くのも自由ですしね?」
確かに以前は持ち回りがあって、ある程度の行動が制限されていたけれど、今はそれがない。
「いざ、なんでもできるとなると、意外となにをしていいやら迷います」
隊員たちも最初はあちこち出かけたり遊んだりしていたようだけれど、今は暇を持て余すことも多いという。
最近では、訓練生たちの演習を手伝いに出ることが増えたそうだ。
「そんならさ、穂高んトコと示し合わせて、俺たちも害獣の駆除依頼を請けてみるか? 東区、今は誰もやってないだろ?」
麻乃たちが角猪駆除の依頼を請けていることを話すと、みんな興味を示してくる。
「いいですね、それ。上田隊長のところも暇そうにしているやつが多いですし、誘えば乗ってくると思います」
「そうか? そうしたら八番のやつらには、相原のほうから話を通しておいてくれよ。穂高には俺から話すから。岱胡のところも一緒だと楽になりそうだけど、アイツらは……」
「長谷川隊長のところは、猟師たちの依頼で山間部の獣の調査に出ているそうですから、忙しいと思いますよ?」
「へぇ……アイツら銃だもんな。そういう依頼は得意だろうな」
みんな少しずつ以前の暮らしと変わってきている。
鴇汰自身もそうだ。
これが当たり前の生活になるには、まだ時間が必要のようだけれど……。
全員の腹も満ちてきたころ、修治と多香子に呼ばれ、麻乃と一緒に改めて式を挙げる話をした。
やっぱり七番と四番の隊員たちも、既に神殿から連絡を受けて知っていた。
誰も驚きはしなかったけれど、喜んで盛りあがってくれているのはわかる。
「それじゃあ、次に会うのは来週の式のときになるけど、落ち着いたら中央に行くから、さっきの話、早いうちに回しておいてくれよな?」
「わかりました。なにかあったら連絡を入れますので」
日が傾きかけたころ、みんなであっという間に片づけを済ませ、帰っていくのを麻乃と二人で見送った。
賑やかだったのが嘘のように静かだ。
あれだけ人数がいたのに、まだ少しだけ肉が残っていた。
多香子と作った煮物や汁物は全部なくなっているし、小坂たちが持ってきた野菜も残っていない。
そう思うと、貰った肉の量は考えていた以上だったということか。
「なんか慌ただしかったけど、楽しかったね」
「そうだな」
「さすがに人数は多かったけど、五番もみんな来たから、鴇汰もいろいろ話せて良かったよね?」
「ああ。久しぶりだったからな。急だったのに呼んでもらえてありがたかった。俺たちも穂高のところと東区で依頼請けようか、って話もしたよ」
「いいね。そのときは、あたしも行きたい」
「経験者がいると助かるな。そこらへん、式の後に落ち着いたら中央で話し合おうぜ」
眠るまでのわずかな時間に、麻乃と二人で角猪退治のことを思い返しながら、罠のかけかたや追い込みかたを教わった。
野菜などの食材は、昨日のうちに手分けをしてカットしたり皮をむいたりしたという。
小坂の段取りが良かったおかげで昼前にはすべての準備が終わり、気づけば修治の隊員たちや鴇汰の隊員たちも集まり始めていた。
「さすがに三部隊もいると、壮観だね?」
「食い終わった順に帰ってもらうほうがいいかもしれねーな」
麻乃と二人、集まった人数の多さに閉口したけれど、それぞれが積極的に動いてくれるから、鴇汰の負担がほとんどない。
作ったものと飲みものを出したきりで、あとは全部、隊員たちがそれぞれやってくれている。
人をかき分け、鴇汰は相原や古市たちと合流した。
「西区に来たきり、全然中央に行かれなくて悪かったな」
「それは別に構わないですけど、俺たちが知らないあいだに、七番とうまくやっているようでホッとしましたよ」
相原に言われ、鴇汰は苦笑いで返すしかなかった。
果たしてうまくやっていると言えるのかが、疑問でしかないんだから。
「あとで麻乃もなにか言うだろうけど、来週早々に式を挙げることになったのよ」
「そうらしいですね」
「俺たち、中央にいたんで、すぐに連絡が来ましたよ」
古市と橋本の話では、昨日、鴇汰たちが中央を出たあとすぐに、神殿から通達が来たそうだ。
修治たちのところへの連絡といい、本当に早い。
「日がないじゃんか? おまえらみんな、予定とか都合とか大丈夫なのかよ?」
「そりゃあ、襲撃がない今、俺たちに特別な予定なんてありやしませんよ」
「そうですよ。以前と違ってどこに行くのも自由ですしね?」
確かに以前は持ち回りがあって、ある程度の行動が制限されていたけれど、今はそれがない。
「いざ、なんでもできるとなると、意外となにをしていいやら迷います」
隊員たちも最初はあちこち出かけたり遊んだりしていたようだけれど、今は暇を持て余すことも多いという。
最近では、訓練生たちの演習を手伝いに出ることが増えたそうだ。
「そんならさ、穂高んトコと示し合わせて、俺たちも害獣の駆除依頼を請けてみるか? 東区、今は誰もやってないだろ?」
麻乃たちが角猪駆除の依頼を請けていることを話すと、みんな興味を示してくる。
「いいですね、それ。上田隊長のところも暇そうにしているやつが多いですし、誘えば乗ってくると思います」
「そうか? そうしたら八番のやつらには、相原のほうから話を通しておいてくれよ。穂高には俺から話すから。岱胡のところも一緒だと楽になりそうだけど、アイツらは……」
「長谷川隊長のところは、猟師たちの依頼で山間部の獣の調査に出ているそうですから、忙しいと思いますよ?」
「へぇ……アイツら銃だもんな。そういう依頼は得意だろうな」
みんな少しずつ以前の暮らしと変わってきている。
鴇汰自身もそうだ。
これが当たり前の生活になるには、まだ時間が必要のようだけれど……。
全員の腹も満ちてきたころ、修治と多香子に呼ばれ、麻乃と一緒に改めて式を挙げる話をした。
やっぱり七番と四番の隊員たちも、既に神殿から連絡を受けて知っていた。
誰も驚きはしなかったけれど、喜んで盛りあがってくれているのはわかる。
「それじゃあ、次に会うのは来週の式のときになるけど、落ち着いたら中央に行くから、さっきの話、早いうちに回しておいてくれよな?」
「わかりました。なにかあったら連絡を入れますので」
日が傾きかけたころ、みんなであっという間に片づけを済ませ、帰っていくのを麻乃と二人で見送った。
賑やかだったのが嘘のように静かだ。
あれだけ人数がいたのに、まだ少しだけ肉が残っていた。
多香子と作った煮物や汁物は全部なくなっているし、小坂たちが持ってきた野菜も残っていない。
そう思うと、貰った肉の量は考えていた以上だったということか。
「なんか慌ただしかったけど、楽しかったね」
「そうだな」
「さすがに人数は多かったけど、五番もみんな来たから、鴇汰もいろいろ話せて良かったよね?」
「ああ。久しぶりだったからな。急だったのに呼んでもらえてありがたかった。俺たちも穂高のところと東区で依頼請けようか、って話もしたよ」
「いいね。そのときは、あたしも行きたい」
「経験者がいると助かるな。そこらへん、式の後に落ち着いたら中央で話し合おうぜ」
眠るまでのわずかな時間に、麻乃と二人で角猪退治のことを思い返しながら、罠のかけかたや追い込みかたを教わった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】妃が毒を盛っている。
井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる