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外伝:長田鴇汰 ~あれから~
第4話 贈りもの
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重い足取りでおクマの店にやってきた鴇汰は、数分、ドアを開けるのを躊躇っていた。
(麻乃に内緒で、なんの話があるっていうんだよ……?)
心当たりがないわけじゃあない。
ただ……正直、あまり聞きたくない。
とはいえ、無視することもできず、仕方なしにドアを開けた。
「遅いっ!」
薄暗い店内に、おクマの野太い声が響く。
奥の席にはネエさんたちまで揃っていて、妙に殺気立って見える。
「んなコト言われても……帰ってすぐに来たんだぜ?」
ボヤく鴇汰に、おクマは人差し指で手招きをした。
恐る恐る近づき、カウンターに腰をおろした途端、胸ぐらをつかまれた。
「アンタ、麻乃ちゃんが式を挙げないって、一体、どういうことなのヨ?」
――やっぱりその話しか。
「しょうがないだろ? 麻乃が絶対に嫌だっていうんだから」
「そこは鴇汰ちゃんが、うまくその気にさせないとダメでしょうが! 一生に一度のことなのに……隆紀と麻美も泣くわヨ!」
「いや、そうなんだろうけどさ……俺だって、ちゃんとわかっているんだよ? ただ、無理強いはできねーだろ? あんなことがあってさ、島を出ようとまでして……最近になってやっと外にも出るようになったのに」
麻乃は式を挙げない理由を『目立ちたくないから』だと言った。
身内だけで済ませれば目立つこともないと、修治や多香子、高田もご両親も説得したのに、麻乃は頑として受け入れず、結局、神殿で籍を入れただけで済ませてしまった。
神殿では、カサネもイツキも特になにも言わなかったから、式を挙げなくても問題ないと思っていたけれど、ここでおクマにごねられるとは……。
どうせなら、麻乃を呼んで説得してくれたらいいのに。
「そうねぇ……ま、鴇汰ちゃんの言うのもわからないでもないわネ……麻美に似て頑固な子だものねェ……」
「ママったらぁ~、早くアレを渡したらぁ?」
店の奥でネエさんたちが騒ぎ出した。
自分たちも頑張ったとか、麻乃の反応を早く知りたいとか、好き勝手に喋っている。
「アンタたち! うるさいわね! 早く持っていらっしゃい!」
鴇汰は、奥にいたネエさんたちが持ってきた大きな箱を、受け取った。
大きさの割には、軽い。
「鴇汰ちゃん、それを持って帰って、麻乃ちゃんに渡してちょうだい。必ず二人で一緒に開けるのヨ?」
「そりゃあ構わねーけど、なによ? これ?」
「だから、帰ってから麻乃ちゃんと確認したらいいのヨ」
おクマは煙草に火をつけてフーッと息を吐き、ニヤリと笑う。
なにを企んでいるのか、鴇汰にはまったくわからない。
「それから、これはアタシたちからネ」
渡された箱の上に、もう一つ、小さめの箱を乗せられた。
それも箱の重み程度しか感じないけれど、中身はなんなんだ?
「なんか良くわかんねーけど……帰ったらすぐ開けていいんだよな?」
鴇汰の問いに、全員が「もちろん」だという。
開けて確認したい衝動を抑えつつ、鴇汰は家に戻った。
「ただいま」
「おかえり……って……買い忘れたもの、そんなにあったの? だったら、あたしも一緒に行ったのに」
玄関に迎えに出てくれた麻乃が、鴇汰の荷物を見てしかめっ面をした。
麻乃にドアを開けてもらい、リビングのテーブルに荷物を置いた。
「これな、おクマさんから預かったんだよ。麻乃に渡してくれ、ってさ。必ず二人で開けろ、って言われたよ」
「おクマさんに? なんだろう……こんなの貰う心当たりがないんだけど?」
「どうする? もう、開けてみるか?」
「うん。中身がなんなのか、気になるし」
包みを剥がし、箱のふたを開けると、中から出てきたのは、巫女さまたちの衣装に似た真っ白な衣だ。
その上に封筒が置かれていて、麻乃はそれを手にして中を確認した。
「おクマさんから手紙だ……」
そこには、この衣装は、麻乃の母親が結婚式で着たものを、麻乃のサイズに手直ししたものだ、と書かれていた。
ずっとおクマが預かっていたらしい。
これを着て式を挙げて欲しいと、ある。
「鴇汰……あたし、これ……どうしよう?」
「どう、って……麻乃はどうしたい?」
「これ、着たいかもしれない」
声を震わせた麻乃の頬に、涙が伝ってこぼれた。
「式、挙げるか?」
「でもさ、あたしなんかが、式を挙げてもいいのかな、って思う」
「駄目なわけがねーだろ? みんなにも言われただろ? さっきだっておクマさん、式を挙げないなんてどういうことだ、ってイカってたしな」
「……こんなものが残っていたなんて、凄く嬉しい」
箱の中から衣を取り出し、胸に抱いた。
麻乃の両親のものは、多香子が襲撃の前に持ち出してくれた、ほんの少しのものだけしか残っていない。
だから、一つでも多く、なにかが残っているのが嬉しくてたまらないんだろう。
ふと、もう一つの箱が目に入った。
衣を見入っている麻乃の邪魔をしたくなくて、鴇汰は一人でその箱の包みを剥がし、ふたを開けた。
「――――!!!」
中に入っていたものの衝撃に、すぐにふたを閉じて包みなおす。
「……鴇汰? どうしたのさ? あ、そっちの箱、中、見たの?」
「ん、いや、これは違った。ネエさんたちが間違えて持たせてくれたっぽい。麻乃、俺、ちょっとコレ返しに行ってくるから。それ、一応、着てみろよ。サイズ本当に合っているのか確認したほうがいいだろ?」
「そうだね。あ、おクマさんに、ちゃんとお礼を言っておいてくれるかな? あたし……今さらこんなこと言って悪いんだけど、これを着て、式、挙げたいと思う。いいかな?」
「駄目なわけがないって言っただろ? これを返しがてら、おクマさんにもちゃんと伝えてくるよ」
箱を脇に抱えてすぐさま家を出ると、車に乗って柳堀へと向かった。
(麻乃に内緒で、なんの話があるっていうんだよ……?)
心当たりがないわけじゃあない。
ただ……正直、あまり聞きたくない。
とはいえ、無視することもできず、仕方なしにドアを開けた。
「遅いっ!」
薄暗い店内に、おクマの野太い声が響く。
奥の席にはネエさんたちまで揃っていて、妙に殺気立って見える。
「んなコト言われても……帰ってすぐに来たんだぜ?」
ボヤく鴇汰に、おクマは人差し指で手招きをした。
恐る恐る近づき、カウンターに腰をおろした途端、胸ぐらをつかまれた。
「アンタ、麻乃ちゃんが式を挙げないって、一体、どういうことなのヨ?」
――やっぱりその話しか。
「しょうがないだろ? 麻乃が絶対に嫌だっていうんだから」
「そこは鴇汰ちゃんが、うまくその気にさせないとダメでしょうが! 一生に一度のことなのに……隆紀と麻美も泣くわヨ!」
「いや、そうなんだろうけどさ……俺だって、ちゃんとわかっているんだよ? ただ、無理強いはできねーだろ? あんなことがあってさ、島を出ようとまでして……最近になってやっと外にも出るようになったのに」
麻乃は式を挙げない理由を『目立ちたくないから』だと言った。
身内だけで済ませれば目立つこともないと、修治や多香子、高田もご両親も説得したのに、麻乃は頑として受け入れず、結局、神殿で籍を入れただけで済ませてしまった。
神殿では、カサネもイツキも特になにも言わなかったから、式を挙げなくても問題ないと思っていたけれど、ここでおクマにごねられるとは……。
どうせなら、麻乃を呼んで説得してくれたらいいのに。
「そうねぇ……ま、鴇汰ちゃんの言うのもわからないでもないわネ……麻美に似て頑固な子だものねェ……」
「ママったらぁ~、早くアレを渡したらぁ?」
店の奥でネエさんたちが騒ぎ出した。
自分たちも頑張ったとか、麻乃の反応を早く知りたいとか、好き勝手に喋っている。
「アンタたち! うるさいわね! 早く持っていらっしゃい!」
鴇汰は、奥にいたネエさんたちが持ってきた大きな箱を、受け取った。
大きさの割には、軽い。
「鴇汰ちゃん、それを持って帰って、麻乃ちゃんに渡してちょうだい。必ず二人で一緒に開けるのヨ?」
「そりゃあ構わねーけど、なによ? これ?」
「だから、帰ってから麻乃ちゃんと確認したらいいのヨ」
おクマは煙草に火をつけてフーッと息を吐き、ニヤリと笑う。
なにを企んでいるのか、鴇汰にはまったくわからない。
「それから、これはアタシたちからネ」
渡された箱の上に、もう一つ、小さめの箱を乗せられた。
それも箱の重み程度しか感じないけれど、中身はなんなんだ?
「なんか良くわかんねーけど……帰ったらすぐ開けていいんだよな?」
鴇汰の問いに、全員が「もちろん」だという。
開けて確認したい衝動を抑えつつ、鴇汰は家に戻った。
「ただいま」
「おかえり……って……買い忘れたもの、そんなにあったの? だったら、あたしも一緒に行ったのに」
玄関に迎えに出てくれた麻乃が、鴇汰の荷物を見てしかめっ面をした。
麻乃にドアを開けてもらい、リビングのテーブルに荷物を置いた。
「これな、おクマさんから預かったんだよ。麻乃に渡してくれ、ってさ。必ず二人で開けろ、って言われたよ」
「おクマさんに? なんだろう……こんなの貰う心当たりがないんだけど?」
「どうする? もう、開けてみるか?」
「うん。中身がなんなのか、気になるし」
包みを剥がし、箱のふたを開けると、中から出てきたのは、巫女さまたちの衣装に似た真っ白な衣だ。
その上に封筒が置かれていて、麻乃はそれを手にして中を確認した。
「おクマさんから手紙だ……」
そこには、この衣装は、麻乃の母親が結婚式で着たものを、麻乃のサイズに手直ししたものだ、と書かれていた。
ずっとおクマが預かっていたらしい。
これを着て式を挙げて欲しいと、ある。
「鴇汰……あたし、これ……どうしよう?」
「どう、って……麻乃はどうしたい?」
「これ、着たいかもしれない」
声を震わせた麻乃の頬に、涙が伝ってこぼれた。
「式、挙げるか?」
「でもさ、あたしなんかが、式を挙げてもいいのかな、って思う」
「駄目なわけがねーだろ? みんなにも言われただろ? さっきだっておクマさん、式を挙げないなんてどういうことだ、ってイカってたしな」
「……こんなものが残っていたなんて、凄く嬉しい」
箱の中から衣を取り出し、胸に抱いた。
麻乃の両親のものは、多香子が襲撃の前に持ち出してくれた、ほんの少しのものだけしか残っていない。
だから、一つでも多く、なにかが残っているのが嬉しくてたまらないんだろう。
ふと、もう一つの箱が目に入った。
衣を見入っている麻乃の邪魔をしたくなくて、鴇汰は一人でその箱の包みを剥がし、ふたを開けた。
「――――!!!」
中に入っていたものの衝撃に、すぐにふたを閉じて包みなおす。
「……鴇汰? どうしたのさ? あ、そっちの箱、中、見たの?」
「ん、いや、これは違った。ネエさんたちが間違えて持たせてくれたっぽい。麻乃、俺、ちょっとコレ返しに行ってくるから。それ、一応、着てみろよ。サイズ本当に合っているのか確認したほうがいいだろ?」
「そうだね。あ、おクマさんに、ちゃんとお礼を言っておいてくれるかな? あたし……今さらこんなこと言って悪いんだけど、これを着て、式、挙げたいと思う。いいかな?」
「駄目なわけがないって言っただろ? これを返しがてら、おクマさんにもちゃんと伝えてくるよ」
箱を脇に抱えてすぐさま家を出ると、車に乗って柳堀へと向かった。
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