762 / 780
外伝:上田穂高 ~成長~
第8話 毎日
しおりを挟む
翌日も、そのまた翌日も、あれからずっと毎日、穂高は比佐子のところへ通い詰めた。
行くたびに比佐子は嫌な顔を見せる。
言い過ぎてしまったせいで、嫌われただろうか?
「またきたんですか? もう……いい加減にしてくださいよ……」
大きなため息を漏らして、比佐子は眉をひそめた。
もう腫れも引きはじめ、痣も薄くなってきている。
切り傷がなかったのは幸いだと思うけれど、ちゃんと治るまでは、まだ掛かりそうだ。
「だって心配なんだよ。それに、いろいろと話もしたいと思っているから」
「私は別に、上田隊長と話すことなんてありませんからっ!」
そっぽを向いた比佐子の頬……。
怪我をした最初のころは、横を向くと、赤ちゃんのほっぺたのように膨れていた。
それが引いた今、やっぱり奇麗な人だと思う。
「そう? 俺はもっと、比佐子のことを知りたいと思っているんだけどな」
比佐子の目がキッとして穂高を睨んだ。
「冗談は結構です!」
「冗談なんかじゃあないよ。本気で好きだし、このまま俺と付き合ってもらえたら嬉しいな、って――」
「あ~……そういえば、上田隊長は、長田隊長と仲がいいんですよね? 遊びたいときは、いつもそうやって口説いているんですか?」
比佐子は嫌味を込めた言いかたで、穂高に冷めた視線を送ってくる。
鴇汰とは仲はいいし、穂高自身、まったくなにもないとは言わないけれど、そこまで遊んではいないし、鴇汰も今は遊んでいない。
「悪いけど、私は遊ぶつもりなんてありませんし、そんな女じゃありませんから」
「俺だって遊ぶつもりなんてないし、さっきも言ったけど、本気で比佐子を好きだよ」
「本気だの好きだのって言いますけど、私のことなんてなにも知りませんよね? 一体、どこを見てそんなことを言うんです?」
「顔だけど?」
「……顔って……最低……」
「どうしてさ? 人を好きになるとき、一番最初に目を向けるのはそこだろう? どんな人なのかは、これから知っていけばいいし、俺のことも知ってもらいたいと思うよ」
「知って、思ったのと違うと思うかもしれないじゃないですか?」
「うーん……その辺はなんとも……でも俺はきっと、思った通りだと感じる気がするけどな」
眉を寄せたまま穂高を見つめる比佐子は、フッと視線を外へと移した。
「上田隊長は、私がこんなふうになったのを見たから、きっと同情しているだけですよ。好きなんじゃあなくて、かわいそうだって、そう思っているだけです」
「そんなことはないよ。同情だけで人の人生を背負おうと思うほど、傲慢じゃあないし、お人好しでもない」
「人生を背負うって……なによ? それ?」
「えっ? だってつき合ったら、俺は結婚するつもりでいるから」
「ばっ…………っかじゃない!? なんでいきなり、そんな話になるのよ!?」
「俺が比佐子を幸せにしたいからだけど? なにか問題でもある?」
「問題しかないわよ! 私の気持ち、まるっきり無視じゃあないの!」
「無視なんてしないよ。どうしても駄目だったときは諦めるけど……俺、そんなにあの男より劣っているかな? あいつよりは、俺のほうが絶対にいいと思うんだけど?」
「は? なにいってるのよ?」
「だってそうだろう? 俺は比佐子に手をあげたりしないよ。顔だって、あいつと比べても、そう悪くないと思っているんだけどな」
「私は別に顔で選んだりしていません! 上田隊長とは違うんです!」
「じゃあ、あいつのどこが良かったの? 人としてそんなにいいやつだった? とてもそうは見えなかったけど?」
比佐子は息を飲んで言葉を詰まらせた。
ここでなにも言えなくなるのは、きっと自分でも、あの男がどんな男なのか、ちゃんとわかっているからだろう。
なにも答えない比佐子の右手を、両手で包んでしっかり握りしめた。
「ちょっと――なにするんですか!」
「とりあえず、考えるだけ考えてみてよ。それから、いろんな話をたくさんしよう? 俺、持ち回りがあるから長くはいられないけど、毎日、来るからさ」
「来なくていいですってば!」
「だって、一人でこんなところにいたら、退屈だろう?」
「だからって、毎日来られても困ります! 花だって……こんなにどうしろっていうんですか!」
比佐子の病室は、穂高が持ってきた花でいっぱいになっている。
花瓶が足りないと思って、一緒に買ってくるけれど、そういわれるともう置き場所がない。
「ああ、花ね。確かに多すぎるか……次からはなにか違うものを持ってくるよ。なにか欲しいものある?」
「なにも欲しいものなんてありませんから! もう――」
「さてと、それじゃあ今日はもう帰るよ。また明日ね。今夜もゆっくり休んで」
来るな、と言われる前に退散することにして、医療所を出た。
あの男と、どのくらいの期間、つき合っていたんだろう?
どうしようもないやつだとわかっているようなのに、未練があるようにもみえる。
次の持ち回りになっている西区へ車を走らせながら、なかなか打ち解けてもらえないジレンマを感じていた。
行くたびに比佐子は嫌な顔を見せる。
言い過ぎてしまったせいで、嫌われただろうか?
「またきたんですか? もう……いい加減にしてくださいよ……」
大きなため息を漏らして、比佐子は眉をひそめた。
もう腫れも引きはじめ、痣も薄くなってきている。
切り傷がなかったのは幸いだと思うけれど、ちゃんと治るまでは、まだ掛かりそうだ。
「だって心配なんだよ。それに、いろいろと話もしたいと思っているから」
「私は別に、上田隊長と話すことなんてありませんからっ!」
そっぽを向いた比佐子の頬……。
怪我をした最初のころは、横を向くと、赤ちゃんのほっぺたのように膨れていた。
それが引いた今、やっぱり奇麗な人だと思う。
「そう? 俺はもっと、比佐子のことを知りたいと思っているんだけどな」
比佐子の目がキッとして穂高を睨んだ。
「冗談は結構です!」
「冗談なんかじゃあないよ。本気で好きだし、このまま俺と付き合ってもらえたら嬉しいな、って――」
「あ~……そういえば、上田隊長は、長田隊長と仲がいいんですよね? 遊びたいときは、いつもそうやって口説いているんですか?」
比佐子は嫌味を込めた言いかたで、穂高に冷めた視線を送ってくる。
鴇汰とは仲はいいし、穂高自身、まったくなにもないとは言わないけれど、そこまで遊んではいないし、鴇汰も今は遊んでいない。
「悪いけど、私は遊ぶつもりなんてありませんし、そんな女じゃありませんから」
「俺だって遊ぶつもりなんてないし、さっきも言ったけど、本気で比佐子を好きだよ」
「本気だの好きだのって言いますけど、私のことなんてなにも知りませんよね? 一体、どこを見てそんなことを言うんです?」
「顔だけど?」
「……顔って……最低……」
「どうしてさ? 人を好きになるとき、一番最初に目を向けるのはそこだろう? どんな人なのかは、これから知っていけばいいし、俺のことも知ってもらいたいと思うよ」
「知って、思ったのと違うと思うかもしれないじゃないですか?」
「うーん……その辺はなんとも……でも俺はきっと、思った通りだと感じる気がするけどな」
眉を寄せたまま穂高を見つめる比佐子は、フッと視線を外へと移した。
「上田隊長は、私がこんなふうになったのを見たから、きっと同情しているだけですよ。好きなんじゃあなくて、かわいそうだって、そう思っているだけです」
「そんなことはないよ。同情だけで人の人生を背負おうと思うほど、傲慢じゃあないし、お人好しでもない」
「人生を背負うって……なによ? それ?」
「えっ? だってつき合ったら、俺は結婚するつもりでいるから」
「ばっ…………っかじゃない!? なんでいきなり、そんな話になるのよ!?」
「俺が比佐子を幸せにしたいからだけど? なにか問題でもある?」
「問題しかないわよ! 私の気持ち、まるっきり無視じゃあないの!」
「無視なんてしないよ。どうしても駄目だったときは諦めるけど……俺、そんなにあの男より劣っているかな? あいつよりは、俺のほうが絶対にいいと思うんだけど?」
「は? なにいってるのよ?」
「だってそうだろう? 俺は比佐子に手をあげたりしないよ。顔だって、あいつと比べても、そう悪くないと思っているんだけどな」
「私は別に顔で選んだりしていません! 上田隊長とは違うんです!」
「じゃあ、あいつのどこが良かったの? 人としてそんなにいいやつだった? とてもそうは見えなかったけど?」
比佐子は息を飲んで言葉を詰まらせた。
ここでなにも言えなくなるのは、きっと自分でも、あの男がどんな男なのか、ちゃんとわかっているからだろう。
なにも答えない比佐子の右手を、両手で包んでしっかり握りしめた。
「ちょっと――なにするんですか!」
「とりあえず、考えるだけ考えてみてよ。それから、いろんな話をたくさんしよう? 俺、持ち回りがあるから長くはいられないけど、毎日、来るからさ」
「来なくていいですってば!」
「だって、一人でこんなところにいたら、退屈だろう?」
「だからって、毎日来られても困ります! 花だって……こんなにどうしろっていうんですか!」
比佐子の病室は、穂高が持ってきた花でいっぱいになっている。
花瓶が足りないと思って、一緒に買ってくるけれど、そういわれるともう置き場所がない。
「ああ、花ね。確かに多すぎるか……次からはなにか違うものを持ってくるよ。なにか欲しいものある?」
「なにも欲しいものなんてありませんから! もう――」
「さてと、それじゃあ今日はもう帰るよ。また明日ね。今夜もゆっくり休んで」
来るな、と言われる前に退散することにして、医療所を出た。
あの男と、どのくらいの期間、つき合っていたんだろう?
どうしようもないやつだとわかっているようなのに、未練があるようにもみえる。
次の持ち回りになっている西区へ車を走らせながら、なかなか打ち解けてもらえないジレンマを感じていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる