蓮華

釜瑪 秋摩

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外伝:藤川麻乃 ~成長~

第4話 やっぱりうまくいかない

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 行ったり来たりの日々が続き、気づけばあっという間に一カ月が過ぎていた。
 リュのところへ顔を出すたび、少しずつ庸儀の話を聞いた。

 土地は荒れ、作物も育ちにくく、国全体が困窮しているらしい。
 大陸の各国は、泉翔に侵攻してくるだけじゃあなく、それぞれの領土を狙って戦争が繰り返されているそうだ。
 今はジャセンベルが強く、ジャセンベルの領土が広がり続けている、とリュは言った。

「とんでもない話しだよね? 戦争ばっかりしてるんじゃあ、そりゃあ土地も荒れるよ」

「まったくだな。それにしても麻乃、おまえ、よくそんなに細かな話を聞いてこられたな?」

 会議のあと、軍部の会議室で蓮華のみんなと雑談をしていた。
 麻乃が報告書をまとめながら、リュから聞いた話をみんなに話すと、徳丸が感心したようにいった。

「僕が聞いた話では、あの庸儀のヤツ、上層に対しては、だんまりだったそうだよ」

「俺もそう聞いている。あの上層たちが、頭を抱えていたからな」

 梁瀬と神田も同じことをいう。
 上層がなにも聞けていなかったとは知らなかった。
 話を聞きだす、という意味もあって、麻乃が見張りに選ばれたんだろうか?

「そうなの? 結構、ベラベラ喋っていたよ。一カ月も経って、少し慣れたんじゃあない? 足の怪我もひと段落ついて、気が緩んできたんだと思うよ」

「ああ、そうか。それはあるかもしれねぇな」

 徳丸も梁瀬も神田も、互いに納得してうなずき合っている。
 今の話しを聞いてか、三人は豊穣ほうじょうで大陸に渡ったときに、見てきた状況を話し始めた。

 徳丸と梁瀬は、庸儀の話を、神田はロマジェリカの話をしている。
 どちらもやっぱり、土地が相当荒れているという。
 緑は少なく、水も汚れている場所が多いそうだ。

 麻乃はいつも渡るヘイトと、一度だけ行ったジャセンベルを思い出していた。
 どちらも荒れてはいたけれど、そこまでではないように思えた。
 ただ、泉翔を基準に考えると、比じゃあないほど荒れているけれど。

「さて……と。あたし、報告書を提出して、そのまま帰るね。みんな、持ち回り気をつけて」

 会議室を出て上層のところへと向かい、報告書を提出して軍部を出た。
 麻乃と修治は、今週は休みだけれど、ほかの部隊はそれぞれの持ち回り先へと移動している。
 比佐子も今日から麻乃と入れ替わりで、北区へ向かった。

 結局、あのあと、比佐子と話しができていない。
 気にはなるけれど、すれ違ってばかりだ。

「麻乃!」

 宿舎に入る手前で、鴇汰と穂高に声をかけられた。

「なに? あんたたち、今週は西浜でしょ? 今から出るの?」

「うん。麻乃は? 休みなら、これから一緒に昼ご飯でもどう?」

 穂高の後ろで黙ったままの鴇汰をみた。
 不機嫌な様子ではないから、行きたいのはやまやまだけれど……。

「ごめん、あたし今週は東で隊員たちの訓練があるから、すぐに出なきゃあいけなくて……」

「そっか……じゃあ、仕方ないな。鴇汰、二人で行こう」

「ホント、ごめん。また誘ってよ」

 入り口のガラス戸を開けようとした手を、鴇汰に掴まれた。

「おまえ、まだあの庸儀の野郎の見張り、やらされてんのか?」

「あー……うん、まあね。足も治って動けるようになったから、これからちょっと面倒かも」

「……医療所、行くときは隊員を誰か連れていけよ?」

「それ、小坂と葛西にうるさく言われているんだよ。いつも二人を連れていってるから、大丈夫だよ」

「だったらいいけどよ、おまえ、本当に気をつけろよな」

 念を押すように真顔で、麻乃の目をしっかり見ている。
 鴇汰は本気で麻乃がリュに敵わないと思っているんだろうか?

 鴇汰だけじゃあない。
 修治も小坂も、葛西もそうだ。

「このあいだから、みんなそういう。なんなの? あたしがあんなヤツに後れを取ると思っているわけ?」

「だから、そういうんじゃあねーんだって」

「だったらなんだってのよ? みんな、あたしを見くびってるんじゃ……」

「違うっていってるだろ! あいつは男で――」

「だから男だからって、あたしが負けるわけないって言っているでしょうが!」

「その『気をつけろ』じゃねーんだって、言ってんだろう!」

 見下されているような物言いに、麻乃は苛立って鴇汰の手を振りほどいた。

「ちょっと待てよ! 麻乃も鴇汰も、落ち着いて!」

 穂高が割って入り、麻乃も鴇汰も黙った。
 気まずさに沈黙が流れる。

「取り敢えず……麻乃、訓練、気をつけて。鴇汰、行こう」

「うん……ありがとう」

 手を振り、二人と別れた。
 まただ。
 また、やってしまった。

「どうしてこうなるかな……」

 少し前までは、ようやく鴇汰とも普通に話せるようになったと思ったのに、最近はまた険悪になることが増えてきた。
 車に乗り込む姿を見つめ、ため息を漏らすと、麻乃は宿舎の部屋へ向かった。
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