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外伝:レイファー・フロリッグ ~馴れ初め~
第8話 偉くなれ
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翌年、十七歳になったレイファーは、また森を訪ねてきた。
この年、フジカワが言ったとおりで、ナカムラがやってきた。
改めて、ハヤマが亡くなったことを聞き、本当に、もう二度と会うことができないのかと、喪失感に襲われた。
ナカムラは誰かを伴ってきているようなのに、レイファーはその相手に引き合わされることはなかった。
「あんたも軍属になったことだし……これからは、私が教えられるのは植物のことだけよ」
キッパリといい切られ、初めて疑問に思った。
ハヤマもナカムラも、去年来たフジカワも、どこからやってきているんだろうか?
ずっとジャセンベル国内のあちこちを訪れているんだと思っていたけれど、ひょっとすると、泉翔から来ているんじゃあないだろうか?
思いきって聞いてみようか迷う。
泉翔だとすると、敵国の人間だ。
それが、どうしてわざわざ植林などを?
「どうかした?」
ナカムラに問われ、レイファーは首を振った。
どこから来ているにしても、これまで多くのことを学ばせてもらったことに変わりはない。
ジャセンベルを脅かすような行為もないし、逆に緑を増やしてもらっている。
このまま、知らないふりをして、もっと植物のことを教えてもらおう。
いずれ敵として対峙することがあるかもしれない。
けれど、そのことは、そのときに考えればいい。
「そういえば、去年来ていたフジカワという子ども、どうしている?」
レイファーがそう聞くと、なぜかナカムラは、大声で笑った。
なにがそんなに、おかしいというのか。
「子どもって……フフッ……あの子なら、元気でやってるわよ。それがどうかしたの?」
「いや……苗木を持ち上げられなくて、根を引きずって運んでいたんだよ。幼いのに頑張っていたけれど、あれじゃあ、せっかくの苗木が駄目になってしまう」
「そうね……気をつけるように言っておくわ」
笑いをこらえながら、ナカムラはそういった。
毎年、帰るときには持ち帰る肥料を、今年はレイファーのためにと、置いていってくれた。
ナカムラと別れてから、レイファーは肥料を小屋にしまい、城へと戻った。
この年から、レイファーは時折、戦場に出た。
チャールズたちがいなくなったことで、一時は軍全体が落ち着かない雰囲気だったけれど、王の仕切りですぐにまた、まとまりをみせていた。
王はチャールズがレイファーを襲うことを知っていたんだろうか?
知っていたとして、チャールズたちが戻らないことを、どう思っているんだろう。
レイファーが返り討ちにしたと、思っているんだろうか?
あんなにも近しいと思っていた相手だ。
レイファーは今、ケインとブライアンのことも、信じ切れないでいる。
新たに、比較的、年齢が近いピーターとジャックとも、よく話をするようになったけれど、この二人とも一線を引いて接していた。
王とは別の部隊で戦場に詰めているときも、周りのすべての人間が敵かも知れないと、常に気を張っていた。
あるとき、庸儀軍との戦闘中に、どさくさに紛れるつもりだったのか、ジャセンベル兵に襲われた。
レイファーは交戦中で、このままでは、やられてしまう、そう思った。
振りかぶったジャセンベル兵を倒したのは、ケインとピーターだった。
同じように、レイファーを狙おうとする仲間を倒したのが、ブライアンとジャックだ。
「おまえたち……どうして……?」
「こんなことがあるんじゃあないかと……ずっと一緒に行動していて良かった……」
「ルーンさまが心配されています。この戦争が済んだら、無事な姿をお見せください」
ルーンは四人がレイファーと歳が近いこともあり、常にレイファーの側にいるように、言いつけていたらしい。
そんなこととは思いもしないで、レイファーはこの四人さえ、敵だと考えていたのに。
「すまない。助かった」
気づけばいつでも側にいて、兄たちの手のものが近づくと、レイファーを助けてくれる。
未だ、完全には信用できないけれど、この四人の存在が、今は心強かった。
毎日を軍の中で過ごし、年月は忙しなく流れていく。
兵たちとともに体を鍛え、剣の腕をあげ、戦場に出たときにはほとんど必ずといっていいほど、勝どきをあげた。
そんな中でも、できる限り自由な時間を作って、森へ通うようにはしていた。
二年もすると、徐々にレイファーを慕ってくれる仲間が増えてきて、大隊を任されるほどに腕をあげていた。
兄たちが性懲りもなく刺客を送ってきても、誰の手を借りなくても倒せるほどに。
この日も大柄の男たちを倒し、剣を収めて倒したヤツらの顔をみた。
どの顔も、見覚えはあるけれど、ジャセンベル軍の兵ではない。
兄たちそれぞれににつけられている、近衛兵だ。
不意にフジカワを思い出した。
今ならば、庇われることなく、襲われても自分で対処できる。
腕を上げた自分の姿をみてほしいと思ったし、なによりもっと、いろいろなことを話したい。
普段はなにをして過ごしているのか、どんな食べものが好みなのか、それに剣術の話も……。
泉翔にいるとなると、会うことは叶わない。
会えるとするなら、ジャセンベルが泉翔を手に入れたときになる。
以前から、ジャセンベルだけでなく、ロマジェリカも庸儀もヘイトも、緑の豊かな泉翔を欲していると聞く。
レイファー自身は、まだ泉翔を目にしていないけれど、どうやら小さな島国らしい、ということは知っている。
王はこの大陸の中で他国と戦い、領土も増やしているのに、泉翔にだけは敵わないようだ。
レイファーも戦果を挙げることが増えてきて、ようやく王の覚えが良くなり始めている。
先日は王の直下の部隊を取りまとめている軍将から、王の補佐役としての打診がきた。
ナカムラのいう「偉くなれ」が目前に迫った。
断る理由もなく、まもなくレイファーは王の補佐役として軍を取り仕切る力を手に入れた。
この年、フジカワが言ったとおりで、ナカムラがやってきた。
改めて、ハヤマが亡くなったことを聞き、本当に、もう二度と会うことができないのかと、喪失感に襲われた。
ナカムラは誰かを伴ってきているようなのに、レイファーはその相手に引き合わされることはなかった。
「あんたも軍属になったことだし……これからは、私が教えられるのは植物のことだけよ」
キッパリといい切られ、初めて疑問に思った。
ハヤマもナカムラも、去年来たフジカワも、どこからやってきているんだろうか?
ずっとジャセンベル国内のあちこちを訪れているんだと思っていたけれど、ひょっとすると、泉翔から来ているんじゃあないだろうか?
思いきって聞いてみようか迷う。
泉翔だとすると、敵国の人間だ。
それが、どうしてわざわざ植林などを?
「どうかした?」
ナカムラに問われ、レイファーは首を振った。
どこから来ているにしても、これまで多くのことを学ばせてもらったことに変わりはない。
ジャセンベルを脅かすような行為もないし、逆に緑を増やしてもらっている。
このまま、知らないふりをして、もっと植物のことを教えてもらおう。
いずれ敵として対峙することがあるかもしれない。
けれど、そのことは、そのときに考えればいい。
「そういえば、去年来ていたフジカワという子ども、どうしている?」
レイファーがそう聞くと、なぜかナカムラは、大声で笑った。
なにがそんなに、おかしいというのか。
「子どもって……フフッ……あの子なら、元気でやってるわよ。それがどうかしたの?」
「いや……苗木を持ち上げられなくて、根を引きずって運んでいたんだよ。幼いのに頑張っていたけれど、あれじゃあ、せっかくの苗木が駄目になってしまう」
「そうね……気をつけるように言っておくわ」
笑いをこらえながら、ナカムラはそういった。
毎年、帰るときには持ち帰る肥料を、今年はレイファーのためにと、置いていってくれた。
ナカムラと別れてから、レイファーは肥料を小屋にしまい、城へと戻った。
この年から、レイファーは時折、戦場に出た。
チャールズたちがいなくなったことで、一時は軍全体が落ち着かない雰囲気だったけれど、王の仕切りですぐにまた、まとまりをみせていた。
王はチャールズがレイファーを襲うことを知っていたんだろうか?
知っていたとして、チャールズたちが戻らないことを、どう思っているんだろう。
レイファーが返り討ちにしたと、思っているんだろうか?
あんなにも近しいと思っていた相手だ。
レイファーは今、ケインとブライアンのことも、信じ切れないでいる。
新たに、比較的、年齢が近いピーターとジャックとも、よく話をするようになったけれど、この二人とも一線を引いて接していた。
王とは別の部隊で戦場に詰めているときも、周りのすべての人間が敵かも知れないと、常に気を張っていた。
あるとき、庸儀軍との戦闘中に、どさくさに紛れるつもりだったのか、ジャセンベル兵に襲われた。
レイファーは交戦中で、このままでは、やられてしまう、そう思った。
振りかぶったジャセンベル兵を倒したのは、ケインとピーターだった。
同じように、レイファーを狙おうとする仲間を倒したのが、ブライアンとジャックだ。
「おまえたち……どうして……?」
「こんなことがあるんじゃあないかと……ずっと一緒に行動していて良かった……」
「ルーンさまが心配されています。この戦争が済んだら、無事な姿をお見せください」
ルーンは四人がレイファーと歳が近いこともあり、常にレイファーの側にいるように、言いつけていたらしい。
そんなこととは思いもしないで、レイファーはこの四人さえ、敵だと考えていたのに。
「すまない。助かった」
気づけばいつでも側にいて、兄たちの手のものが近づくと、レイファーを助けてくれる。
未だ、完全には信用できないけれど、この四人の存在が、今は心強かった。
毎日を軍の中で過ごし、年月は忙しなく流れていく。
兵たちとともに体を鍛え、剣の腕をあげ、戦場に出たときにはほとんど必ずといっていいほど、勝どきをあげた。
そんな中でも、できる限り自由な時間を作って、森へ通うようにはしていた。
二年もすると、徐々にレイファーを慕ってくれる仲間が増えてきて、大隊を任されるほどに腕をあげていた。
兄たちが性懲りもなく刺客を送ってきても、誰の手を借りなくても倒せるほどに。
この日も大柄の男たちを倒し、剣を収めて倒したヤツらの顔をみた。
どの顔も、見覚えはあるけれど、ジャセンベル軍の兵ではない。
兄たちそれぞれににつけられている、近衛兵だ。
不意にフジカワを思い出した。
今ならば、庇われることなく、襲われても自分で対処できる。
腕を上げた自分の姿をみてほしいと思ったし、なによりもっと、いろいろなことを話したい。
普段はなにをして過ごしているのか、どんな食べものが好みなのか、それに剣術の話も……。
泉翔にいるとなると、会うことは叶わない。
会えるとするなら、ジャセンベルが泉翔を手に入れたときになる。
以前から、ジャセンベルだけでなく、ロマジェリカも庸儀もヘイトも、緑の豊かな泉翔を欲していると聞く。
レイファー自身は、まだ泉翔を目にしていないけれど、どうやら小さな島国らしい、ということは知っている。
王はこの大陸の中で他国と戦い、領土も増やしているのに、泉翔にだけは敵わないようだ。
レイファーも戦果を挙げることが増えてきて、ようやく王の覚えが良くなり始めている。
先日は王の直下の部隊を取りまとめている軍将から、王の補佐役としての打診がきた。
ナカムラのいう「偉くなれ」が目前に迫った。
断る理由もなく、まもなくレイファーは王の補佐役として軍を取り仕切る力を手に入れた。
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