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外伝:藤川麻乃 ~馴れ初め~
第2話 地区別演習
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その年の地区別演習では、やっぱり東区と当たることはなかった。
一戦目は西区と南区、北区と東区で、二戦目は勝ち上がった西区と北区、残った南区と東区の対戦だったからだ。
正直……東区は弱い。
一戦目で当たるか、一戦目で西区が負けない限り、まず当たらない。
「東区、強くなってるって聞いたから、勝ち上がってくるのを期待してたんだけどな……」
「なあ。でもさ、北区相手じゃあ、いくら強くなったっていっても難しいんだろ」
「強いもんねぇ、北区」
西区のどこの道場でも、東区のことは話題になっていたようで、一戦目が終わったあとの休憩で、麻乃《あさの》だけじゃあなく、ほかの道場のヤツらも残念がっていた。
「太刀筋だけでもみたかったな。その強いってヤツら、武器はなにを使ってるんだろう?」
「一人は槍で、もう一人は刀だって聞いたぞ」
矢萩がそういう。
槍はともかく、刀というのは興味をそそられる。
といっても、当たらない以上は見ることができないし、仮に当たったとしても、広い演習場の中で、巡り合えるかどうかもわからない。
「名前は聞いてないの?」
「あ~……名前まで聞いていないなぁ……」
「なんだ、そうなの? それじゃあ探しようもないじゃないか」
麻乃は矢萩の返答に心底がっかりした。
――翌年――
麻乃は十六歳になり、洗礼を受ける年になった。
今年の地区別演習が、最後の演習だ。
修治が地区別演習に出たときから去年まで、四年連続で西区が優勝している。
今年、麻乃が最後の年に、優勝を逃すわけにはいかない。
今年も南区が強いらしいと評判だけれど、絶対に負けやしない。
「おい! 藤川!」
麻乃を呼んで駆けてくるのは、高田の道場から少し離れた道場に通う、豊浦だ。
「どうしたの? なにかあった?」
「今年、一戦目のクジ……東とだってよ!」
「ホント? 抽選やったの誰よ? 凄いじゃないか!」
「だよな? 俺も今年が最後だし、評判の東区とやってみたかったんだよ!」
強かろうが弱かろうが、侮りはしないけれど、強いと言われている相手と対戦できるのは嬉しい。
勝ったとき、自分がこれまでより強くなれたような気がするからだ。
「どこと当たろうが、狙うは優勝だけだけど、最後の年に東区と当たるのは嬉しいね」
「弱いって言われてるけど、実際、俺らは当たったことがないからな」
「実力を計り知れないぶん、余計に楽しみだよねぇ」
豊浦もどこか嬉しそうな表情だ。
麻乃を含め、豊浦も矢萩も、別の道場の戦士を目指している十六歳組は、みんな同じような顔つきをしていた。
みんな、自分より強い相手と対峙するほど、やる気をみなぎらせる。
演習場の入り口で、各道場ごとに集まって、最後の注意を聞かされた。
武器は毎日の稽古と違って、演習用の武器を持たされる。
組紐の代わりに、革のリストバンドが配られた。
リストバンドは色分けをされていて、茶色が十六歳、赤が十五歳、黄色が十四歳だ。
手首を見れば年齢がわかる。
「毎年のことだが……電流は弱いとはいえ、動けなくなる衝撃だ」
具合が悪くなったときには、無理をしないで棄権をするように伝えられる。
体に万が一のことがあってはならないからだ。
演習場内では常に複数の立会人が周回していて、倒された子どもたちを速やかに演習場から運び出してくれる。
麻乃は毎年、自分の足で戻ってきた。
今年もそのつもりだ。
東区がどれだけ強くなっていても、二戦目で北と南とのどちらが勝ちあがってこようとも、麻乃は絶対に演習終了時には、自分の足で戻ってくる。
「まあ、まずないことだが、くれぐれも怪我には注意するように。特に、戦士を目指すものたちは、な」
高田の言葉に、全員が大きな返事をした。
東区の演習場の、右手側の入り口へと移動する。
東区の連中は、左手の入り口へ移動していくのがみえた。
「よし! 時間だ! 全員入れ!」
塚本が号令をかけた瞬間、開始の合図の大太鼓が鳴った。
麻乃は同じ道場の矢萩と一緒に、ほか道場の豊浦や追川、荒田と合流した。
全員が十六歳組だ。
「藤川、どう出る?」
「うん、まずは様子を見よう。東のヤツらが集団ならこのまま、個別で動いていたら、ばらけよう」
「わかった」
所どころで、十四歳組や十五歳組の交戦が始まっている。
分が悪くなりそうなところへは、十六歳組が加勢しているのがみえた。
気配を探りながら、森の奥へと進む。
強いと言われたヤツらは、十五歳組らしいけれど……。
走る先で、木の葉がヒラヒラと舞い落ちるのが目に入った。
麻乃は数メートル手前で足を止め、横を駆け抜けていこうとした矢萩の襟首をつかみ、引き寄せた。
「いきなりなんだ!?」
「――そこか!」
すぐ隣の大木の枝に飛びつき、逆上がりのように枝に登ると、隣の木へと飛び移る。
空を切る弓矢を避け、刀で弾きながら弓を持った相手の潜む枝へと飛んだ。
そのまま振りかぶり、飛び越しざまに相手の背中へと打ち込んだ。
どさりと枝から落ちた弓を持つ子は、リストバンドの色で同じ十六歳組だとわかる。
電流で気を失っているうちに、リストバンドを外し、念のため怪我がないかを確認した。
「怪我、してないみたいで良かった」
「藤川、よく気づいたな? 俺、全然気づかなかった」
「入ってすぐ当たるとは思わなかったね。東区、足が速いのかな?」
「そうかも。さっきの交戦も、もう始まっているとは思わなかったからな」
「これは、ちょっと楽しめそうだね……ここからは、ばらけよう。この子の援護もみえないし、東はばらけて行動しているのかもしれない」
うなずく矢萩や豊浦と別れ、麻乃はさらに森の奥へと進んだ。
一戦目は西区と南区、北区と東区で、二戦目は勝ち上がった西区と北区、残った南区と東区の対戦だったからだ。
正直……東区は弱い。
一戦目で当たるか、一戦目で西区が負けない限り、まず当たらない。
「東区、強くなってるって聞いたから、勝ち上がってくるのを期待してたんだけどな……」
「なあ。でもさ、北区相手じゃあ、いくら強くなったっていっても難しいんだろ」
「強いもんねぇ、北区」
西区のどこの道場でも、東区のことは話題になっていたようで、一戦目が終わったあとの休憩で、麻乃《あさの》だけじゃあなく、ほかの道場のヤツらも残念がっていた。
「太刀筋だけでもみたかったな。その強いってヤツら、武器はなにを使ってるんだろう?」
「一人は槍で、もう一人は刀だって聞いたぞ」
矢萩がそういう。
槍はともかく、刀というのは興味をそそられる。
といっても、当たらない以上は見ることができないし、仮に当たったとしても、広い演習場の中で、巡り合えるかどうかもわからない。
「名前は聞いてないの?」
「あ~……名前まで聞いていないなぁ……」
「なんだ、そうなの? それじゃあ探しようもないじゃないか」
麻乃は矢萩の返答に心底がっかりした。
――翌年――
麻乃は十六歳になり、洗礼を受ける年になった。
今年の地区別演習が、最後の演習だ。
修治が地区別演習に出たときから去年まで、四年連続で西区が優勝している。
今年、麻乃が最後の年に、優勝を逃すわけにはいかない。
今年も南区が強いらしいと評判だけれど、絶対に負けやしない。
「おい! 藤川!」
麻乃を呼んで駆けてくるのは、高田の道場から少し離れた道場に通う、豊浦だ。
「どうしたの? なにかあった?」
「今年、一戦目のクジ……東とだってよ!」
「ホント? 抽選やったの誰よ? 凄いじゃないか!」
「だよな? 俺も今年が最後だし、評判の東区とやってみたかったんだよ!」
強かろうが弱かろうが、侮りはしないけれど、強いと言われている相手と対戦できるのは嬉しい。
勝ったとき、自分がこれまでより強くなれたような気がするからだ。
「どこと当たろうが、狙うは優勝だけだけど、最後の年に東区と当たるのは嬉しいね」
「弱いって言われてるけど、実際、俺らは当たったことがないからな」
「実力を計り知れないぶん、余計に楽しみだよねぇ」
豊浦もどこか嬉しそうな表情だ。
麻乃を含め、豊浦も矢萩も、別の道場の戦士を目指している十六歳組は、みんな同じような顔つきをしていた。
みんな、自分より強い相手と対峙するほど、やる気をみなぎらせる。
演習場の入り口で、各道場ごとに集まって、最後の注意を聞かされた。
武器は毎日の稽古と違って、演習用の武器を持たされる。
組紐の代わりに、革のリストバンドが配られた。
リストバンドは色分けをされていて、茶色が十六歳、赤が十五歳、黄色が十四歳だ。
手首を見れば年齢がわかる。
「毎年のことだが……電流は弱いとはいえ、動けなくなる衝撃だ」
具合が悪くなったときには、無理をしないで棄権をするように伝えられる。
体に万が一のことがあってはならないからだ。
演習場内では常に複数の立会人が周回していて、倒された子どもたちを速やかに演習場から運び出してくれる。
麻乃は毎年、自分の足で戻ってきた。
今年もそのつもりだ。
東区がどれだけ強くなっていても、二戦目で北と南とのどちらが勝ちあがってこようとも、麻乃は絶対に演習終了時には、自分の足で戻ってくる。
「まあ、まずないことだが、くれぐれも怪我には注意するように。特に、戦士を目指すものたちは、な」
高田の言葉に、全員が大きな返事をした。
東区の演習場の、右手側の入り口へと移動する。
東区の連中は、左手の入り口へ移動していくのがみえた。
「よし! 時間だ! 全員入れ!」
塚本が号令をかけた瞬間、開始の合図の大太鼓が鳴った。
麻乃は同じ道場の矢萩と一緒に、ほか道場の豊浦や追川、荒田と合流した。
全員が十六歳組だ。
「藤川、どう出る?」
「うん、まずは様子を見よう。東のヤツらが集団ならこのまま、個別で動いていたら、ばらけよう」
「わかった」
所どころで、十四歳組や十五歳組の交戦が始まっている。
分が悪くなりそうなところへは、十六歳組が加勢しているのがみえた。
気配を探りながら、森の奥へと進む。
強いと言われたヤツらは、十五歳組らしいけれど……。
走る先で、木の葉がヒラヒラと舞い落ちるのが目に入った。
麻乃は数メートル手前で足を止め、横を駆け抜けていこうとした矢萩の襟首をつかみ、引き寄せた。
「いきなりなんだ!?」
「――そこか!」
すぐ隣の大木の枝に飛びつき、逆上がりのように枝に登ると、隣の木へと飛び移る。
空を切る弓矢を避け、刀で弾きながら弓を持った相手の潜む枝へと飛んだ。
そのまま振りかぶり、飛び越しざまに相手の背中へと打ち込んだ。
どさりと枝から落ちた弓を持つ子は、リストバンドの色で同じ十六歳組だとわかる。
電流で気を失っているうちに、リストバンドを外し、念のため怪我がないかを確認した。
「怪我、してないみたいで良かった」
「藤川、よく気づいたな? 俺、全然気づかなかった」
「入ってすぐ当たるとは思わなかったね。東区、足が速いのかな?」
「そうかも。さっきの交戦も、もう始まっているとは思わなかったからな」
「これは、ちょっと楽しめそうだね……ここからは、ばらけよう。この子の援護もみえないし、東はばらけて行動しているのかもしれない」
うなずく矢萩や豊浦と別れ、麻乃はさらに森の奥へと進んだ。
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