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外伝:安部修治 ~生い立ち~
第2話 毎日
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赤ちゃん……麻乃は一歳の誕生日前に歩くようになって、修治が遊びに行くと、後ろをついてくるようになった。
道場へ向かう途中、泣きながら追いかけてくることもある。
置いていけないし、連れて帰ると道場に遅れてしまう。
そんなときは、手をつないで一緒に道場に連れていった。
小幡先生たちも、別に怒ることもないし、麻乃はいつも上座に大人しく座っている。
初めてついてきた日には、麻美おばさんが駆け込んできた。
勝手に連れてきたのを怒られることはなかったし、小幡先生は早く麻乃を通わせたがってるみたいだ。
それがとても不思議だった。
麻乃が二歳を過ぎてしばらく経ったころ、やっと本格的に道場へ通ってくるようになった。
修治はもうすぐ五歳を迎えるころで、最近では主に剣術の鍛錬に力をいれている。
同年代の友だちも何人かは修治と同じで刀を、ほかの数人は槍や弓などに持ち替えたり、自分の使いやすい武器を見つけ始めている。
銃を使いたいという友だちの何人かは、別の道場へ移っていった。
これまでは遊びの延長のような体操や、簡単な体術を習っていたのが、少しずつ本格的になってきたからか。
できることや、やれることも増えてきている。
走らされる距離も時間も長くなってきたけれど、同時に自分が強くなっているのがわかってきた。
麻乃はだいぶ慣れてきて、同じ年の子たちと一緒に体操や勉強をしている。
ときどき、ふと真剣な目で修治たちが先生と稽古しているのを見ていることがある。
その目は正確に先生の動きを追っているようにみえた。
「稽古してるのみてて楽しい?」
道場の帰り道、麻乃と手を繋いで歩きながら聞いてみた。
麻乃は人差し指を口にくわえたまま修治を見あげ、首をかしげている。
目が合うとニコッと笑うのが、かわいかった。
「まあいっか」
習いたての歌を歌いながら、麻乃を家まで送っていく。
麻乃のお父さんとお母さんは、二人とも戦士だけれど、今はどっちかが家にいる。
今日はお父さんのほうだ。
家に続く道の前で、もう待っている。
「あっ! 修治! また麻乃と手を繋いでいるな」
走ってきて麻乃を取りあげるようにヒョイと抱き上げた。
繋いだ手が自然に解かれる。
麻乃のお父さんは、最近ずっとこうだ。
「また明日、迎えにくるね」
バイバイと手を振って帰ろうとすると、麻乃のお父さんが修治の手をとった。
「修治、今日はお父さんもお母さんも、畑が忙しいんだって。夕飯はうちで食べていけ」
三人で手を繋いで家に帰り、麻乃のお父さんが作ってくれたご飯を食べた。
父さんが迎えに来るまでのあいだ、麻乃のお父さんはいつも稽古をつけてくれる。
強くなった気がするのは、これもあるからだと思った。
隣で麻乃も一緒に紙を丸めた剣で素振りのまねっこをしている。
「だいぶサマになってきているな。道場でも頑張っているんだろう?」
「うん! だって俺、ちょっと強くなったんだよ!」
「そうか」
頭を撫でられ、それがちょっと嬉しい。
麻乃をみると、早く強くならないといけない気がする。
強くなって麻乃を守らなければと思う。
いつか、麻乃のお父さんとお母さんのように戦士になりたい。
だからいつも、道場でうまくできなかったことは、ここで教わっている。
ときどき、意地悪なことをいわれたりするけれど……。
「寛治、今日は遅いな……修治、ついでだから風呂も入っていけ」
言われるがまま、三人でお風呂も入る。
鍛錬で疲れて、ご飯も食べて、お風呂まで入った満足感で、すぐに眠くなる。
こんなときには、気づくと朝になっていて、いつの間にか家で目が覚める。
今朝もそうやって目を覚まし、畑仕事に出かけていくお母さんに急かされてご飯を食べると、また麻乃を迎えに行って道場へ向かう。
今日の稽古はなにをするんだろう?
今は毎日、それが楽しみで仕方がなかった。
道場へ向かう途中、泣きながら追いかけてくることもある。
置いていけないし、連れて帰ると道場に遅れてしまう。
そんなときは、手をつないで一緒に道場に連れていった。
小幡先生たちも、別に怒ることもないし、麻乃はいつも上座に大人しく座っている。
初めてついてきた日には、麻美おばさんが駆け込んできた。
勝手に連れてきたのを怒られることはなかったし、小幡先生は早く麻乃を通わせたがってるみたいだ。
それがとても不思議だった。
麻乃が二歳を過ぎてしばらく経ったころ、やっと本格的に道場へ通ってくるようになった。
修治はもうすぐ五歳を迎えるころで、最近では主に剣術の鍛錬に力をいれている。
同年代の友だちも何人かは修治と同じで刀を、ほかの数人は槍や弓などに持ち替えたり、自分の使いやすい武器を見つけ始めている。
銃を使いたいという友だちの何人かは、別の道場へ移っていった。
これまでは遊びの延長のような体操や、簡単な体術を習っていたのが、少しずつ本格的になってきたからか。
できることや、やれることも増えてきている。
走らされる距離も時間も長くなってきたけれど、同時に自分が強くなっているのがわかってきた。
麻乃はだいぶ慣れてきて、同じ年の子たちと一緒に体操や勉強をしている。
ときどき、ふと真剣な目で修治たちが先生と稽古しているのを見ていることがある。
その目は正確に先生の動きを追っているようにみえた。
「稽古してるのみてて楽しい?」
道場の帰り道、麻乃と手を繋いで歩きながら聞いてみた。
麻乃は人差し指を口にくわえたまま修治を見あげ、首をかしげている。
目が合うとニコッと笑うのが、かわいかった。
「まあいっか」
習いたての歌を歌いながら、麻乃を家まで送っていく。
麻乃のお父さんとお母さんは、二人とも戦士だけれど、今はどっちかが家にいる。
今日はお父さんのほうだ。
家に続く道の前で、もう待っている。
「あっ! 修治! また麻乃と手を繋いでいるな」
走ってきて麻乃を取りあげるようにヒョイと抱き上げた。
繋いだ手が自然に解かれる。
麻乃のお父さんは、最近ずっとこうだ。
「また明日、迎えにくるね」
バイバイと手を振って帰ろうとすると、麻乃のお父さんが修治の手をとった。
「修治、今日はお父さんもお母さんも、畑が忙しいんだって。夕飯はうちで食べていけ」
三人で手を繋いで家に帰り、麻乃のお父さんが作ってくれたご飯を食べた。
父さんが迎えに来るまでのあいだ、麻乃のお父さんはいつも稽古をつけてくれる。
強くなった気がするのは、これもあるからだと思った。
隣で麻乃も一緒に紙を丸めた剣で素振りのまねっこをしている。
「だいぶサマになってきているな。道場でも頑張っているんだろう?」
「うん! だって俺、ちょっと強くなったんだよ!」
「そうか」
頭を撫でられ、それがちょっと嬉しい。
麻乃をみると、早く強くならないといけない気がする。
強くなって麻乃を守らなければと思う。
いつか、麻乃のお父さんとお母さんのように戦士になりたい。
だからいつも、道場でうまくできなかったことは、ここで教わっている。
ときどき、意地悪なことをいわれたりするけれど……。
「寛治、今日は遅いな……修治、ついでだから風呂も入っていけ」
言われるがまま、三人でお風呂も入る。
鍛錬で疲れて、ご飯も食べて、お風呂まで入った満足感で、すぐに眠くなる。
こんなときには、気づくと朝になっていて、いつの間にか家で目が覚める。
今朝もそうやって目を覚まし、畑仕事に出かけていくお母さんに急かされてご飯を食べると、また麻乃を迎えに行って道場へ向かう。
今日の稽古はなにをするんだろう?
今は毎日、それが楽しみで仕方がなかった。
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