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大切なもの
第112話 旅立ち ~巧 2~
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巧たちは、会議室でクロムに問われ、麻乃を含めた蓮華である自分たちは、これからの泉翔のことを考えて、新たな戦士たちを育てていかなければならないと自覚した。
戦争が終わったからといって、安寧の上に胡坐をかいて過ごしてしまえば、いつかなにかが起きたときに対応できなくなってしまう。
レイファーやサムがいつまでも健在でいられるわけもないし、もちろん自分たちも同じだ。
あとを継ぐものたちの中に、また混乱を起こすやつが現れないとは限らないのだから。
だから印もまだ残っているんだろう。
それに――。
大陸で過ごすうちに、ようやく見えてきた本当の防衛というものを、この先も守って繋いでいくべきだ。
そのためにも、あれほどの腕前を持った麻乃は欠かせない。
「行かせることは反対として、止めるには……出航をやめさせる?」
「そいつは無理ってもんだろうよ。一隻二隻じゃあねぇんだ」
「どの船に乗り込んでいるのかもわからないだろうしねぇ……」
ガタンと椅子が大きな音をたてて穂高が立ちあがった。
「俺……鴇汰を起こしてくる。きっと鴇汰じゃあないと駄目だ」
穂高は無理やりにでもたたき起こすと、鼻息荒くいい切った。
クロムがそれをみて苦笑している。
「穂高くん、無理に起こさなくても大丈夫。明日には目を覚ますよ」
「本当ですか!」
「ただ……時間まではさすがに読めないからね」
出航には間に合わないかもしれないけれど、追いつけないほど遅い時間ではないだろう。
それでも、もたついていると外海に出てしまい、さすがに追うことができなくなる、といった。
「だからキミたちは、鴇汰くんがここへ来たら、なるべく早く追いかけるように促してやってほしい」
「それは構いませんけど、私たちよりクロムさんが伝えたほうがいいのでは?」
「私がいると、鴇汰くんはきっと当てにして、あまり焦らないと思うんだよ。式神で追えば、直接船に乗り込める。下手をすると無駄な争いが起こるかもしれないしね」
「確かに、その可能性はありますね……」
「それに本気で麻乃ちゃんを止めたいのであれば、鴇汰くん自身が自分の足で追って止めなければならない。麻乃ちゃんの人生を左右することになるんだから」
クロムのいうことは最もで、全員がそれにうなずいた。
クロムは今回の出航で、ヘイトの船に乗り、一度大陸へ戻るという。
今後、泉翔と関わりを持つうえで、ハンスやサムとともにヘイトの手助けをしたり、ジャセンベルでルーンに手を貸したりと、なにかと忙しいらしい。
それと一緒に、ロマジェリカや庸儀の状況をみつつ、泉翔の国王さまたちへも進展を報せに来るそうだ。
「だから当分は、私も行ったり来たりになってしまう。この国へ来ても、鴇汰くんと会う時間も思うように取れないかもしれない」
「そうですか……」
「みんなには迷惑をかけると思うけれど、これからも鴇汰くんのことを見守ってもらえるだろうか?」
「それはもちろんです。俺たちはこれまで通り、なにも変わりません」
「それに鴇汰さんには、俺たちも世話になってますから」
穂高と岱胡がそういうと、クロムは安心したようにほほ笑んだ。
もう子どもじゃあないとはいえ、鴇汰はクロムにとってたった一人の身内だ。
心配する気持ちもわかる。
「それともう一つ。ちょっと意地悪ではあるけれど、明日は鴇汰くんを焦らせてやってほしい」
「焦らせるっていうんですか? なんだってまた、そんなことを……」
徳丸が不思議そうに問いかけると、クロムは今度はいたずらを仕掛けるような笑みを浮かべた。
「本気度をあげてやらないとね。まあ、レイファーくんが麻乃ちゃんを妻にしようとしているなんて聞いたら、相当焦るんだろうけれど」
「――クロムさん、相変わらずですね」
穂高が笑った。
さっきまでは、止めようもなくて手をこまねいていたのが嘘のようだ。
出航には間に合わなかったとしても、鴇汰は必ず麻乃を連れて帰ってくる。
予感ではなく、確信として巧の胸を占めていた。
その後、クロムはヘイトの船に乗船するため、南浜へ向かった。
夜になって修治が戻ってくると、巧たちはクロムと話したことを修治にも伝えた。
「そうか。鴇汰のやつが間に合うなら、鴇汰に任せれば問題はないだろう」
「修治さんもそれでいい? さっきは麻乃さんの好きにさせろっていっていたけど」
「好きにさせることと、島を出ていけるかどうかは別の話しじゃあないか」
「なによそれ? どういうこと?」
梁瀬の問いに変な答えを返した修治に、巧が思わず口をはさんだ。
「麻乃が出ていきたいと思ったところで、鴇汰がそれを許すわけがないのは、わかりきっていることだ。それに介入するのが鴇汰なら、麻乃も無下にはできないはずだしな」
なんだ――。
修治は最初から、麻乃が出ていくなんて思ってもいなかったのか。
麻乃を探して飛び出していったのは、もしも鴇汰が間に合わなかったときにどうするか、考えるためだといった。
「焦らせて本気度をあげてやるってのは正解だろうな。間に合わないようじゃあ困るんだ。せいぜいケツを引っぱたいてやろうじゃあないか」
腕を組んでそう言った修治は、いつものように鼻で笑った。
戦争が終わったからといって、安寧の上に胡坐をかいて過ごしてしまえば、いつかなにかが起きたときに対応できなくなってしまう。
レイファーやサムがいつまでも健在でいられるわけもないし、もちろん自分たちも同じだ。
あとを継ぐものたちの中に、また混乱を起こすやつが現れないとは限らないのだから。
だから印もまだ残っているんだろう。
それに――。
大陸で過ごすうちに、ようやく見えてきた本当の防衛というものを、この先も守って繋いでいくべきだ。
そのためにも、あれほどの腕前を持った麻乃は欠かせない。
「行かせることは反対として、止めるには……出航をやめさせる?」
「そいつは無理ってもんだろうよ。一隻二隻じゃあねぇんだ」
「どの船に乗り込んでいるのかもわからないだろうしねぇ……」
ガタンと椅子が大きな音をたてて穂高が立ちあがった。
「俺……鴇汰を起こしてくる。きっと鴇汰じゃあないと駄目だ」
穂高は無理やりにでもたたき起こすと、鼻息荒くいい切った。
クロムがそれをみて苦笑している。
「穂高くん、無理に起こさなくても大丈夫。明日には目を覚ますよ」
「本当ですか!」
「ただ……時間まではさすがに読めないからね」
出航には間に合わないかもしれないけれど、追いつけないほど遅い時間ではないだろう。
それでも、もたついていると外海に出てしまい、さすがに追うことができなくなる、といった。
「だからキミたちは、鴇汰くんがここへ来たら、なるべく早く追いかけるように促してやってほしい」
「それは構いませんけど、私たちよりクロムさんが伝えたほうがいいのでは?」
「私がいると、鴇汰くんはきっと当てにして、あまり焦らないと思うんだよ。式神で追えば、直接船に乗り込める。下手をすると無駄な争いが起こるかもしれないしね」
「確かに、その可能性はありますね……」
「それに本気で麻乃ちゃんを止めたいのであれば、鴇汰くん自身が自分の足で追って止めなければならない。麻乃ちゃんの人生を左右することになるんだから」
クロムのいうことは最もで、全員がそれにうなずいた。
クロムは今回の出航で、ヘイトの船に乗り、一度大陸へ戻るという。
今後、泉翔と関わりを持つうえで、ハンスやサムとともにヘイトの手助けをしたり、ジャセンベルでルーンに手を貸したりと、なにかと忙しいらしい。
それと一緒に、ロマジェリカや庸儀の状況をみつつ、泉翔の国王さまたちへも進展を報せに来るそうだ。
「だから当分は、私も行ったり来たりになってしまう。この国へ来ても、鴇汰くんと会う時間も思うように取れないかもしれない」
「そうですか……」
「みんなには迷惑をかけると思うけれど、これからも鴇汰くんのことを見守ってもらえるだろうか?」
「それはもちろんです。俺たちはこれまで通り、なにも変わりません」
「それに鴇汰さんには、俺たちも世話になってますから」
穂高と岱胡がそういうと、クロムは安心したようにほほ笑んだ。
もう子どもじゃあないとはいえ、鴇汰はクロムにとってたった一人の身内だ。
心配する気持ちもわかる。
「それともう一つ。ちょっと意地悪ではあるけれど、明日は鴇汰くんを焦らせてやってほしい」
「焦らせるっていうんですか? なんだってまた、そんなことを……」
徳丸が不思議そうに問いかけると、クロムは今度はいたずらを仕掛けるような笑みを浮かべた。
「本気度をあげてやらないとね。まあ、レイファーくんが麻乃ちゃんを妻にしようとしているなんて聞いたら、相当焦るんだろうけれど」
「――クロムさん、相変わらずですね」
穂高が笑った。
さっきまでは、止めようもなくて手をこまねいていたのが嘘のようだ。
出航には間に合わなかったとしても、鴇汰は必ず麻乃を連れて帰ってくる。
予感ではなく、確信として巧の胸を占めていた。
その後、クロムはヘイトの船に乗船するため、南浜へ向かった。
夜になって修治が戻ってくると、巧たちはクロムと話したことを修治にも伝えた。
「そうか。鴇汰のやつが間に合うなら、鴇汰に任せれば問題はないだろう」
「修治さんもそれでいい? さっきは麻乃さんの好きにさせろっていっていたけど」
「好きにさせることと、島を出ていけるかどうかは別の話しじゃあないか」
「なによそれ? どういうこと?」
梁瀬の問いに変な答えを返した修治に、巧が思わず口をはさんだ。
「麻乃が出ていきたいと思ったところで、鴇汰がそれを許すわけがないのは、わかりきっていることだ。それに介入するのが鴇汰なら、麻乃も無下にはできないはずだしな」
なんだ――。
修治は最初から、麻乃が出ていくなんて思ってもいなかったのか。
麻乃を探して飛び出していったのは、もしも鴇汰が間に合わなかったときにどうするか、考えるためだといった。
「焦らせて本気度をあげてやるってのは正解だろうな。間に合わないようじゃあ困るんだ。せいぜいケツを引っぱたいてやろうじゃあないか」
腕を組んでそう言った修治は、いつものように鼻で笑った。
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