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大切なもの
第111話 旅立ち ~巧 1~
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三国同盟との決着はついたものの、麻乃はいなくなり、鴇汰は目を覚まさない。
襲撃で荒らされた住居や店舗は、ジャセンベルや反同盟派も手を貸してくれて修繕は早く進んでいるけれど、巧たちはもちろんのこと、第七部隊の隊員たちは心穏やかでないだろう。
そんな中、レイファーが訪れてきて、麻乃をジャセンベルへ迎え入れると言いだした。
麻乃がそれを望んでいるというのも驚きだけれど、レイファーが麻乃を妻として迎えるつもりだと宣言したことに、さらに驚いた。
さすがにそんなことを許すわけがないだろうと思っていたのに、修治は好きにさせればいいという。
出航は明日の朝九時だといってレイファーは帰っていった。
突然すぎて、まずなにを考え、どうするべきなのか、判断のしようもないというのに、修治はなにか思い当たることがあるのか、巧の止める声に耳も貸さず会議室を飛び出していった。
「弱ったな……なにをどう考えりゃあいいってんだ? 手を打とうにも、当の麻乃がいなけりゃあ話しになりやしねえぞ」
「もう時間もないしね。僕も式神を飛ばしてみたけど、気配を感じないから探しようがなくて……」
「それより穂高、さっきレイファーが麻乃を妻に、って言ったとき『やっぱりそうか』って言ったわよね? あんた、なにか知っていたの?」
大陸を離れるときから穂高はずっとレイファーと一緒だった。
途中、なにか話しを聞いているんじゃあないだろうか。
「ああ……うん。ほら、ジャセンベル城でレイファーが言っていただろう? 手に入れたいものがある、って」
「そういえば言っていたわね。まさか、それが麻乃だったっていうの? 植物や苗の話しだとばかり……」
「俺は戻ってくるときにずっとあいつと一緒にいて、少しばかり話しをしたんだけど……あいつ、ずっと変に麻乃にこだわっていたからさ、もしたしたら、って思っていたんだ」
「だからって……いきなり妻にするなんて……」
また、コツコツとノックが響いた。
今度はドアを開けたのはクロムだ。
「みんな揃っているね。あれ? 修治くんと麻乃ちゃんがいないか……」
「ええ、ちょっといろいろと……」
「二人がいないと、なにか問題があるんですか?」
クロムの問いに梁瀬と穂高が答えた。
「いや、問題があるわけじゃあないんだ。というより、なにか問題があったようだね?」
クロムは部屋を横切り、窓を開けると一羽の鳥を迎え入れた。
もう何度も目にしている、若草色の鳥だ。
「……麻乃ちゃんがジャセンベルへ行こうとしているからかな?」
「なぜそれを……」
鳥の式神がふっと消えた。
式神で麻乃とレイファーのやり取りを確認していたのか。
「あまりにも突然すぎて、私たちもどうしていいのかわからないんです」
「そうだね。私もそこまで思いつめているとは思わなかったよ。高田は薄々わかっていたようだけれど」
クロムの話しでは、高田も修治と同じで、麻乃の好きにさせるつもりでいるようだ。
親同然の人だというけれど、その立場として本当にそれでいいと思っているんだろうか?
もしも自分の娘が大陸へ行くといいだしたら、巧はきっと止めずにはいられない。
「ところで、これからの件なんだけれど」
「これから? これからなにかあるんですか?」
「麻乃ちゃんがジャセンベルへ行くことについて、キミたちはどう思う?」
巧自身は、止めなければという気持ちと、止められないだろうという思いが交錯している。
どうしたらいいか、などと言いながら、会議室にとどまったままでいるみんなも同じ気持ちなんだろう。
「俺は……やっぱり納得がいかないよ。みんなはどうかわからないけど……」
穂高はうつむいてそういってから、この場にいる全員に訴えてきた。
豊穣の少し前から今日までのあいだ、ろくに口もきいていなければ顔も合わせていない。
これまで蓮華として一緒にやってきた時間はなんだったのか、と。
「レイファーが悪いヤツじゃあないのはわかっていても、連れていきます、はいそうですか、なんて受け入れられるわけがない」
「そりゃあ……俺だって穂高さんのいうことはわかりますけど、会うことさえできていないのに、正直、止められるとも思えないっス」
「だから黙っていかせるのかい? みんなそれで本当にいいのかい? 鴇汰だってまだ目も覚まさないっていうのに……それにきっと鴇汰は止めるっていうよ」
穂高のいうとおりで、鴇汰は止めるだろう。
けれど、それができるのは麻乃が目の前にいてこそで、岱胡がいうように会うこともできないのでは、止めようがない。
堂々巡りする思いに言葉が継げず、答えがでない。
「止められるかどうかは置いておいて、まずは行かせること、それに対してはどうだろう?」
巧の思いを汲んだかのように、クロムはそう問いかけてきた。
それに対する答えは一つだ。
「反対です」
巧が口を開くより早く、徳丸と梁瀬が同時に答えた。
「この先、戦争がなくなったとしても、それがずっと続くとは限りません」
「現に僕らの蓮華の印は残ったままです。戦士たちの三日月も同じです」
過去の記録のように、いつかまた大陸で泰平の世が崩されるかもしれない。
印が消えないのは、そのときのために、これからも防衛のための鍛錬は続けろということではないだろうか。
「麻乃は蓮華の一人です。だからあいつは、島に残って未来を守るための戦士を育てていくべきなんです」
襲撃で荒らされた住居や店舗は、ジャセンベルや反同盟派も手を貸してくれて修繕は早く進んでいるけれど、巧たちはもちろんのこと、第七部隊の隊員たちは心穏やかでないだろう。
そんな中、レイファーが訪れてきて、麻乃をジャセンベルへ迎え入れると言いだした。
麻乃がそれを望んでいるというのも驚きだけれど、レイファーが麻乃を妻として迎えるつもりだと宣言したことに、さらに驚いた。
さすがにそんなことを許すわけがないだろうと思っていたのに、修治は好きにさせればいいという。
出航は明日の朝九時だといってレイファーは帰っていった。
突然すぎて、まずなにを考え、どうするべきなのか、判断のしようもないというのに、修治はなにか思い当たることがあるのか、巧の止める声に耳も貸さず会議室を飛び出していった。
「弱ったな……なにをどう考えりゃあいいってんだ? 手を打とうにも、当の麻乃がいなけりゃあ話しになりやしねえぞ」
「もう時間もないしね。僕も式神を飛ばしてみたけど、気配を感じないから探しようがなくて……」
「それより穂高、さっきレイファーが麻乃を妻に、って言ったとき『やっぱりそうか』って言ったわよね? あんた、なにか知っていたの?」
大陸を離れるときから穂高はずっとレイファーと一緒だった。
途中、なにか話しを聞いているんじゃあないだろうか。
「ああ……うん。ほら、ジャセンベル城でレイファーが言っていただろう? 手に入れたいものがある、って」
「そういえば言っていたわね。まさか、それが麻乃だったっていうの? 植物や苗の話しだとばかり……」
「俺は戻ってくるときにずっとあいつと一緒にいて、少しばかり話しをしたんだけど……あいつ、ずっと変に麻乃にこだわっていたからさ、もしたしたら、って思っていたんだ」
「だからって……いきなり妻にするなんて……」
また、コツコツとノックが響いた。
今度はドアを開けたのはクロムだ。
「みんな揃っているね。あれ? 修治くんと麻乃ちゃんがいないか……」
「ええ、ちょっといろいろと……」
「二人がいないと、なにか問題があるんですか?」
クロムの問いに梁瀬と穂高が答えた。
「いや、問題があるわけじゃあないんだ。というより、なにか問題があったようだね?」
クロムは部屋を横切り、窓を開けると一羽の鳥を迎え入れた。
もう何度も目にしている、若草色の鳥だ。
「……麻乃ちゃんがジャセンベルへ行こうとしているからかな?」
「なぜそれを……」
鳥の式神がふっと消えた。
式神で麻乃とレイファーのやり取りを確認していたのか。
「あまりにも突然すぎて、私たちもどうしていいのかわからないんです」
「そうだね。私もそこまで思いつめているとは思わなかったよ。高田は薄々わかっていたようだけれど」
クロムの話しでは、高田も修治と同じで、麻乃の好きにさせるつもりでいるようだ。
親同然の人だというけれど、その立場として本当にそれでいいと思っているんだろうか?
もしも自分の娘が大陸へ行くといいだしたら、巧はきっと止めずにはいられない。
「ところで、これからの件なんだけれど」
「これから? これからなにかあるんですか?」
「麻乃ちゃんがジャセンベルへ行くことについて、キミたちはどう思う?」
巧自身は、止めなければという気持ちと、止められないだろうという思いが交錯している。
どうしたらいいか、などと言いながら、会議室にとどまったままでいるみんなも同じ気持ちなんだろう。
「俺は……やっぱり納得がいかないよ。みんなはどうかわからないけど……」
穂高はうつむいてそういってから、この場にいる全員に訴えてきた。
豊穣の少し前から今日までのあいだ、ろくに口もきいていなければ顔も合わせていない。
これまで蓮華として一緒にやってきた時間はなんだったのか、と。
「レイファーが悪いヤツじゃあないのはわかっていても、連れていきます、はいそうですか、なんて受け入れられるわけがない」
「そりゃあ……俺だって穂高さんのいうことはわかりますけど、会うことさえできていないのに、正直、止められるとも思えないっス」
「だから黙っていかせるのかい? みんなそれで本当にいいのかい? 鴇汰だってまだ目も覚まさないっていうのに……それにきっと鴇汰は止めるっていうよ」
穂高のいうとおりで、鴇汰は止めるだろう。
けれど、それができるのは麻乃が目の前にいてこそで、岱胡がいうように会うこともできないのでは、止めようがない。
堂々巡りする思いに言葉が継げず、答えがでない。
「止められるかどうかは置いておいて、まずは行かせること、それに対してはどうだろう?」
巧の思いを汲んだかのように、クロムはそう問いかけてきた。
それに対する答えは一つだ。
「反対です」
巧が口を開くより早く、徳丸と梁瀬が同時に答えた。
「この先、戦争がなくなったとしても、それがずっと続くとは限りません」
「現に僕らの蓮華の印は残ったままです。戦士たちの三日月も同じです」
過去の記録のように、いつかまた大陸で泰平の世が崩されるかもしれない。
印が消えないのは、そのときのために、これからも防衛のための鍛錬は続けろということではないだろうか。
「麻乃は蓮華の一人です。だからあいつは、島に残って未来を守るための戦士を育てていくべきなんです」
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