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大切なもの
第109話 潜伏 ~修治 2~
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軍部の会議室で、蓮華が全員集まった。
「駄目ね、全然見つからないじゃない」
巧がお手上げだと言わんばかりに肩を落とした。
「一体、どこに行ったんスかね……鴇汰さんのところでも、様子を窺ってみたんスけど、空振りですし」
この何日か、岱胡が鴇汰の病室に何度か訪れて様子を探ってくれていた。
穂高も比佐子と一緒に、あちこち探しに出てくれている。
徳丸と梁瀬は、反同盟派やジャセンベル軍に話しを通し、各浜から情報を集めてくれた。
「どこにも顔を出した様子はないようだが、寝泊まりもあるだろうに、一体どうしているんだかなぁ」
「ジャセンベルとヘイトがこれまでに出航した中にも、いなかったっていうし……」
修治自身も、何度もジャセンベルには聞き及んだし、麻乃の両親の墓にも、西浜の銀杏の木にも行ってみた。
ただ、どこにも姿は見えなかった。
「鴇汰のほうは? 相変わらずなの?」
「はい。まだ目を覚ましてないッス」
「……そう」
重い空気が会議室を包んだ。
もう一度、周辺をみてこようと腰をあげたとき、コツコツとノックが響いた。
ドアを開けて入ってきたのはレイファーだ。
「取り込み中だったか?」
「別に。どうかしたの?」
「船の準備が整ったからな。明日、一度ジャセンベルへ戻る。ヘイトも同様だ」
「そう。ずいぶんと急なのね」
「まあな……ところで長田の様子はどうなんだ?」
「体はね、特に問題ないようよ。ただ……まだ目は覚ましていないけどね」
「そうか。実は今日、あんたたちに話があって来た」
巧とやり取りをしていたレイファーの視線が修治に向いた。
その目がやけに真剣にみえて、修治もレイファーを見つめたままでいた。
「なによ?」
「――藤川をジャセンベルへ連れていく。本人の望みだ」
「はぁ? あんた一体なにを言ってるのよ!」
巧以外のみんなは驚いた顔で固まっている。
レイファーの視線はまるで挑むように修治に向いたままだ。
「本人の望みっていうのは……あんた、麻乃に会ったのか?」
「ああ。ついさっきまで一緒だった」
「なんですって? だったらどうしてここへ連れてこないのよ! 私たちが探しているって、あんた知っていたわよね!」
「だから本人の望みだといっただろう。とはいえ、さすがに黙っているわけにもいかないから、知らせにきたんだ。それに……」
「それになによ?」
言い淀んだレイファーに、巧は胸ぐらをつかんで詰め寄った。
その手をやんわり退けると、修治の目の前に歩み出てきた。
「藤川はいずれ俺の妻として迎えるつもりだ。そこで兄ぎみの了承を得にきた」
巧は「妻ですって?」と叫び、穂高が「やっぱりそうか……」とつぶやいた。
そんな馬鹿な話しがあるかと思う反面、麻乃がそう決めたのならとも思う。
「……それは麻乃も承知していることなのか?」
「いや。さっきは無下に断られた。だが、ジャセンベルにいるあいだに振り向かせるつもりだ。その自信が俺にはある。藤川は必ず幸せにすると約束しよう」
堂々と言ってのけるレイファーを黙って見つめた。
麻乃を思っていようとは夢にも思わなかったけれど、目の前に立つレイファーは、どうやら本気らしい。
「そうか。だったら俺にはなにも言うことはない。麻乃が決めたのなら、そうすればいい」
「ちょっと! シュウちゃんたら本気で言っているの?」
「あいつが言って聞くやつだと思うか? 好きにさせたらいい」
「だって……」
「どうやら兄ぎみの了承は得られたようだな。出航は明日の朝九時だ。北の浜から出る。俺はちゃんと伝えたからな」
レイファーは挑発的に笑い顔を浮かべ、言うだけ言うと会議室を出ていった。
「明日って……急すぎないか? 鴇汰もまだ目を覚ましてないっていうのに……」
「そうよ……しかも朝だなんて……どうするの? 本当に麻乃を行かせるつもり?」
穂高と巧が呆然としてつぶやいた。
確かに急すぎる。
「レイファーは時間まで知らせてきたけど、僕らが行って麻乃さんは会ってくれるのかな?」
「今、これだけ探しても姿を見せないのに、会ってくれるとは思えないっスね」
梁瀬と岱胡がそういうと、徳丸もそれにうなずいた。
「修治、おまえは本当にこれでいいのか?」
そう問われても、修治には答えようもない。
大陸へ行こうだなんて馬鹿げたことを到底許せるものじゃあないけれど、無理に止めることが修治にはできないのも理解している。
結局は、麻乃自身が決めることだからだ。
ただ――。
本当に出ていけるわけがないと頭ではわかっていても、鴇汰がまだ目を覚ましていないことで不安がよぎる。
修治は巧が止める声も聞かず、急いで麻乃の両親の墓へ走った。
墓前に菊の花が置かれている。
麻乃が来たんだろう。
となると、次に向かうのは西浜だ。
麻乃が使うのは馬しかない。
今からでも、車を飛ばせば先に西浜に入れる。
すぐに車へ飛び乗ると、西浜へ向かった。
詰所の前に車をとめ、気配を殺して砦へと走る。
銀杏の周辺には誰の姿もない。
そのまま可能なかぎり上の枝に潜み、麻乃を待った。
「駄目ね、全然見つからないじゃない」
巧がお手上げだと言わんばかりに肩を落とした。
「一体、どこに行ったんスかね……鴇汰さんのところでも、様子を窺ってみたんスけど、空振りですし」
この何日か、岱胡が鴇汰の病室に何度か訪れて様子を探ってくれていた。
穂高も比佐子と一緒に、あちこち探しに出てくれている。
徳丸と梁瀬は、反同盟派やジャセンベル軍に話しを通し、各浜から情報を集めてくれた。
「どこにも顔を出した様子はないようだが、寝泊まりもあるだろうに、一体どうしているんだかなぁ」
「ジャセンベルとヘイトがこれまでに出航した中にも、いなかったっていうし……」
修治自身も、何度もジャセンベルには聞き及んだし、麻乃の両親の墓にも、西浜の銀杏の木にも行ってみた。
ただ、どこにも姿は見えなかった。
「鴇汰のほうは? 相変わらずなの?」
「はい。まだ目を覚ましてないッス」
「……そう」
重い空気が会議室を包んだ。
もう一度、周辺をみてこようと腰をあげたとき、コツコツとノックが響いた。
ドアを開けて入ってきたのはレイファーだ。
「取り込み中だったか?」
「別に。どうかしたの?」
「船の準備が整ったからな。明日、一度ジャセンベルへ戻る。ヘイトも同様だ」
「そう。ずいぶんと急なのね」
「まあな……ところで長田の様子はどうなんだ?」
「体はね、特に問題ないようよ。ただ……まだ目は覚ましていないけどね」
「そうか。実は今日、あんたたちに話があって来た」
巧とやり取りをしていたレイファーの視線が修治に向いた。
その目がやけに真剣にみえて、修治もレイファーを見つめたままでいた。
「なによ?」
「――藤川をジャセンベルへ連れていく。本人の望みだ」
「はぁ? あんた一体なにを言ってるのよ!」
巧以外のみんなは驚いた顔で固まっている。
レイファーの視線はまるで挑むように修治に向いたままだ。
「本人の望みっていうのは……あんた、麻乃に会ったのか?」
「ああ。ついさっきまで一緒だった」
「なんですって? だったらどうしてここへ連れてこないのよ! 私たちが探しているって、あんた知っていたわよね!」
「だから本人の望みだといっただろう。とはいえ、さすがに黙っているわけにもいかないから、知らせにきたんだ。それに……」
「それになによ?」
言い淀んだレイファーに、巧は胸ぐらをつかんで詰め寄った。
その手をやんわり退けると、修治の目の前に歩み出てきた。
「藤川はいずれ俺の妻として迎えるつもりだ。そこで兄ぎみの了承を得にきた」
巧は「妻ですって?」と叫び、穂高が「やっぱりそうか……」とつぶやいた。
そんな馬鹿な話しがあるかと思う反面、麻乃がそう決めたのならとも思う。
「……それは麻乃も承知していることなのか?」
「いや。さっきは無下に断られた。だが、ジャセンベルにいるあいだに振り向かせるつもりだ。その自信が俺にはある。藤川は必ず幸せにすると約束しよう」
堂々と言ってのけるレイファーを黙って見つめた。
麻乃を思っていようとは夢にも思わなかったけれど、目の前に立つレイファーは、どうやら本気らしい。
「そうか。だったら俺にはなにも言うことはない。麻乃が決めたのなら、そうすればいい」
「ちょっと! シュウちゃんたら本気で言っているの?」
「あいつが言って聞くやつだと思うか? 好きにさせたらいい」
「だって……」
「どうやら兄ぎみの了承は得られたようだな。出航は明日の朝九時だ。北の浜から出る。俺はちゃんと伝えたからな」
レイファーは挑発的に笑い顔を浮かべ、言うだけ言うと会議室を出ていった。
「明日って……急すぎないか? 鴇汰もまだ目を覚ましてないっていうのに……」
「そうよ……しかも朝だなんて……どうするの? 本当に麻乃を行かせるつもり?」
穂高と巧が呆然としてつぶやいた。
確かに急すぎる。
「レイファーは時間まで知らせてきたけど、僕らが行って麻乃さんは会ってくれるのかな?」
「今、これだけ探しても姿を見せないのに、会ってくれるとは思えないっスね」
梁瀬と岱胡がそういうと、徳丸もそれにうなずいた。
「修治、おまえは本当にこれでいいのか?」
そう問われても、修治には答えようもない。
大陸へ行こうだなんて馬鹿げたことを到底許せるものじゃあないけれど、無理に止めることが修治にはできないのも理解している。
結局は、麻乃自身が決めることだからだ。
ただ――。
本当に出ていけるわけがないと頭ではわかっていても、鴇汰がまだ目を覚ましていないことで不安がよぎる。
修治は巧が止める声も聞かず、急いで麻乃の両親の墓へ走った。
墓前に菊の花が置かれている。
麻乃が来たんだろう。
となると、次に向かうのは西浜だ。
麻乃が使うのは馬しかない。
今からでも、車を飛ばせば先に西浜に入れる。
すぐに車へ飛び乗ると、西浜へ向かった。
詰所の前に車をとめ、気配を殺して砦へと走る。
銀杏の周辺には誰の姿もない。
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