651 / 780
大切なもの
第101話 決着 ~鴇汰 1~
しおりを挟む
梁瀬の式神を飛び降り、麻乃と一緒に城門へマドルを追った。
城門前にはレイファーと、なぜか穂高がいる。
「なんで穂高がレイファーと一緒にいるんだ?」
「レイファー? 確かジャセンベルの王族だよね? ふうん……あれがそうなのか……」
鴇汰のつぶやきに麻乃が答えた。
穂高がレイファーと行動していることが不愉快ではあるけれど、今はそれどころじゃあない。
まずはマドルだ。
馬を降りたマドルは鴇汰たちにも気づいたのか、こちらを振り返り薄笑いを浮かべた。
城壁に沿って伸びる左右の通りには、ジャセンベル兵たちが道をふさぎ、逃げようもないはずなのに、余裕の態度だ。
「……わざわざ麻乃を連れてきてくれるとは。泉翔人が温いというのは噂通りですか」
「なにを言っていやがる! おまえに麻乃を渡すわけがねーだろ!」
マドルは麻乃に目を向けると、眉をひそめた。
恐らく痣がなくなっているのを確認したんだろう。
「麻乃にはもう入り込めねーよ。おまえの術は解けたんだ」
「ならば……何度でもかけ直すまで。私の邪魔をするというのなら排除するまで!」
マドルがロッドを振った瞬間、麻乃が鴇汰の前に飛び出し、刀で術を防いだ。
さっきは二刀で対応していたけれど、今度はいつも麻乃が帯刀していた刀だけだ。
「あたしも何度も無駄だといったはず。鴇汰はもとより、誰も傷つけさせやしない」
「そうやって庇ったところで、貴女のしたことは消えやしないのに?」
そういってマドルはまたロッドで地面を突いた。
耳鳴りがして鴇汰の体が強張る。
レイファーも穂高も、周囲のジャセンベル兵たちも動かないのは、鴇汰と同じく金縛りにかかっているからに違いない。
「これだけのことをした貴女に、泉翔側が好意的なままでいてくれるとお思いですか?」
そんなはずはないと、誰もが麻乃を憎み、恨んでいるに違いないと、マドルはそういって麻乃を揺さぶる。
惑わせてまた暗示に掛けるつもりでいるのか。
虎吼刀でぶった切ってでもマドルの口を止めたいのに、柄を握った手が微かに震えるだけで身動きが取れない。
麻乃は一気に間合いを詰めると、マドルに斬りつけた。
ロッドで刀を受けたマドルの顔がゆがむ。
「憎まれるのも恨まれるのも承知している……」
「ならば! こんな世など捨て、私と新たな世界を築いてゆけばいい!」
「あたしはそんなことは望まない。ほかの誰もがなにを思おうと、あたしを疎ましく思おうと、そんなことはどうでもいい。あたしは今のこの世界で十分に満足なんだから」
「そんなのはただの綺麗ごとだ。誰だって利用させる側より利用する側になりたいように、疎まれるよりも愛されたいはず……」
「それはあなた自身がそう思っているだけだろう? あたしは違う」
「なぜ否定する! 共に世界を創りかえれば、誰もが貴女に傅くというのに!」
「ここにはあたしが愛している……心から大切だと思える人たちがいるからだ」
麻乃はキッパリと言いきった。
ロッドで強く麻乃の刀を押し返したマドルは、懐から短剣を抜いた。
「ならばもう、貴女の意思などいらない……その体さえあればいい。あとは私の術で城内の兵たちとともにこの国を潰す」
麻乃の腕前は知っていても、術を使うマドルが相手では油断できない。
鴇汰はどうにか麻乃を庇おうともがくも、どうにも動けず声も出せない。
短剣を振りかざしたマドルと麻乃のあいだに、いくつもの影が割って入った。
「残る兵たちは、もう誰もあんたの味方はしないぞ」
「――コウ! 貴方まで私の邪魔をすると?」
灯りに映し出されたのは緑の軍服……庸儀の兵たちだ。
「あんたの目的はさっき聞いた。この人に危害が及ぶなどと、よくも俺たちを騙してくれたものだ」
「そうだ。この人に危害を及ぼしているのは、あんたのほうじゃあないか」
庸儀側は麻乃を邪魔に思っていたんじゃあないのか?
今、目の前にいる雑兵たちは麻乃を守っているようにみえる。
鴇汰は向かい側に立つ穂高とレイファーをみた。
街灯の灯りでは表情までははっきりとみえない。
けれど二人がさほど驚いたようにみえないのは、この雑兵たちが味方であると認識しているからだろうか?
「――次から次へと邪魔ばかり……なぜ誰もかれもこんなにも愚かなのか……!」
マドルは躊躇なく庸儀の兵たちに術を放ち、それをまた麻乃が前に出て止めた。
「加勢は不要だよ。決着はあたしがつける。マドルを倒す……それがあたしの落とし前だ」
麻乃はマドルに向けて刀を掲げた。
その刀身が、街灯の光を映して白く輝いた。
城門前にはレイファーと、なぜか穂高がいる。
「なんで穂高がレイファーと一緒にいるんだ?」
「レイファー? 確かジャセンベルの王族だよね? ふうん……あれがそうなのか……」
鴇汰のつぶやきに麻乃が答えた。
穂高がレイファーと行動していることが不愉快ではあるけれど、今はそれどころじゃあない。
まずはマドルだ。
馬を降りたマドルは鴇汰たちにも気づいたのか、こちらを振り返り薄笑いを浮かべた。
城壁に沿って伸びる左右の通りには、ジャセンベル兵たちが道をふさぎ、逃げようもないはずなのに、余裕の態度だ。
「……わざわざ麻乃を連れてきてくれるとは。泉翔人が温いというのは噂通りですか」
「なにを言っていやがる! おまえに麻乃を渡すわけがねーだろ!」
マドルは麻乃に目を向けると、眉をひそめた。
恐らく痣がなくなっているのを確認したんだろう。
「麻乃にはもう入り込めねーよ。おまえの術は解けたんだ」
「ならば……何度でもかけ直すまで。私の邪魔をするというのなら排除するまで!」
マドルがロッドを振った瞬間、麻乃が鴇汰の前に飛び出し、刀で術を防いだ。
さっきは二刀で対応していたけれど、今度はいつも麻乃が帯刀していた刀だけだ。
「あたしも何度も無駄だといったはず。鴇汰はもとより、誰も傷つけさせやしない」
「そうやって庇ったところで、貴女のしたことは消えやしないのに?」
そういってマドルはまたロッドで地面を突いた。
耳鳴りがして鴇汰の体が強張る。
レイファーも穂高も、周囲のジャセンベル兵たちも動かないのは、鴇汰と同じく金縛りにかかっているからに違いない。
「これだけのことをした貴女に、泉翔側が好意的なままでいてくれるとお思いですか?」
そんなはずはないと、誰もが麻乃を憎み、恨んでいるに違いないと、マドルはそういって麻乃を揺さぶる。
惑わせてまた暗示に掛けるつもりでいるのか。
虎吼刀でぶった切ってでもマドルの口を止めたいのに、柄を握った手が微かに震えるだけで身動きが取れない。
麻乃は一気に間合いを詰めると、マドルに斬りつけた。
ロッドで刀を受けたマドルの顔がゆがむ。
「憎まれるのも恨まれるのも承知している……」
「ならば! こんな世など捨て、私と新たな世界を築いてゆけばいい!」
「あたしはそんなことは望まない。ほかの誰もがなにを思おうと、あたしを疎ましく思おうと、そんなことはどうでもいい。あたしは今のこの世界で十分に満足なんだから」
「そんなのはただの綺麗ごとだ。誰だって利用させる側より利用する側になりたいように、疎まれるよりも愛されたいはず……」
「それはあなた自身がそう思っているだけだろう? あたしは違う」
「なぜ否定する! 共に世界を創りかえれば、誰もが貴女に傅くというのに!」
「ここにはあたしが愛している……心から大切だと思える人たちがいるからだ」
麻乃はキッパリと言いきった。
ロッドで強く麻乃の刀を押し返したマドルは、懐から短剣を抜いた。
「ならばもう、貴女の意思などいらない……その体さえあればいい。あとは私の術で城内の兵たちとともにこの国を潰す」
麻乃の腕前は知っていても、術を使うマドルが相手では油断できない。
鴇汰はどうにか麻乃を庇おうともがくも、どうにも動けず声も出せない。
短剣を振りかざしたマドルと麻乃のあいだに、いくつもの影が割って入った。
「残る兵たちは、もう誰もあんたの味方はしないぞ」
「――コウ! 貴方まで私の邪魔をすると?」
灯りに映し出されたのは緑の軍服……庸儀の兵たちだ。
「あんたの目的はさっき聞いた。この人に危害が及ぶなどと、よくも俺たちを騙してくれたものだ」
「そうだ。この人に危害を及ぼしているのは、あんたのほうじゃあないか」
庸儀側は麻乃を邪魔に思っていたんじゃあないのか?
今、目の前にいる雑兵たちは麻乃を守っているようにみえる。
鴇汰は向かい側に立つ穂高とレイファーをみた。
街灯の灯りでは表情までははっきりとみえない。
けれど二人がさほど驚いたようにみえないのは、この雑兵たちが味方であると認識しているからだろうか?
「――次から次へと邪魔ばかり……なぜ誰もかれもこんなにも愚かなのか……!」
マドルは躊躇なく庸儀の兵たちに術を放ち、それをまた麻乃が前に出て止めた。
「加勢は不要だよ。決着はあたしがつける。マドルを倒す……それがあたしの落とし前だ」
麻乃はマドルに向けて刀を掲げた。
その刀身が、街灯の光を映して白く輝いた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる