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大切なもの
第100話 決着 ~穂高 1~
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庸儀の兵たちを南浜へ戻すよう、レイファーがジャセンベル兵に指示しているのを隣で見ていた。
マドルにすっかり騙されていたことがショックだったのか、全員が口を閉ざしたままうな垂れている。
徳丸や巧は隊員たちを伴って鴇汰たちのところへ向かうようだ。
岱胡は未だ中央に散らばる敵兵に対応している尾形と加賀野の加勢に出ていった。
岱胡に撃たれても、回復をすれば麻乃のところへ行くに違いない。
クロムたちもいつの間にかいなくなっている。
本当なら穂高も隊員たちを集めて行くべきなのだろうけれど、なにか嫌な予感に足を止めたままでいた。
「上田、中村たちは藤川のところへ行ったようだが、俺は城へ行こうと思う。案内を頼めるか?」
「城へ? なにをしに行こうっていうんだよ?」
「恐らくまだ城内にロマジェリカや庸儀の兵が残っているはずだ。それも捕えてしまわないと……」
「――あんたたち、城へ行くなら俺たちも連れていってくれ」
レイファーの言葉をさえぎり、赤髪の女の側近がそういった。
思わずレイファーと顔を見合わせる。
「きさまたちを連れていってなんになる? 罠でも張ってあるか? だとしても我が兵たちには通用などしないと思え」
「そんなんじゃあない! 城にはまだ俺たちの仲間もいる。抵抗せずに投降するよう説得もできる」
「ちょっとまて。なんだって急にそんなことを?」
交戦にならずに済むのなら、それはありがたいことではある。
とはいえ、穂高としては、庸儀の兵など手放しで信用できないのも事実だ。
レイファーも胡散臭いと言わんばかりの表情だ。
「そうすることが、あの人――藤川の有益になるのなら手を貸したい」
先頭の一人がそういうと、捕えた全員がうなずいている。
「おまえたち、なんだってそんなにも麻乃に対して協力的なんだ? 赤髪の女の側近ならば麻乃は邪魔なはずじゃ……」
「……あの人は、人を人として扱ってくれるからだ」
「え……?」
人を人として扱うこと、ただそれだけで、こんなに心酔するような態度に出るものだろうか?
確かにマドルも赤髪の女も、人の扱いはぞんざいでありそうだけれど……。
穂高は目の前の兵たちを眺め見てから、レイファーに視線を移した。
目が合うと、レイファーは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめている。
なにかしら、思い当たるところがあるのだろう。
「どうする?」
「本当に投降させられるのであれば連れていこう。ただし、できなかった場合の対応は我が軍で判断する。ピーター、ケイン、すぐに準備を」
レイファーに聞くと、数秒考えたあと庸儀の兵たちにそう言い、部下たちに城へ向かう準備をさせた。
ピーターの車にレイファーとともに乗り込み、城へと走る。
拠点から城まではすぐで、あっという間に城門へとたどり着く。
「やっぱりまだ兵は残っているな」
「ああ」
城門の前には十数人のロマジェリカ兵が守りを固めている。
手前で車を止めるだろうと思っていたのが、ピーターだけでなく、後ろのケインもそのままロマジェリカ兵の集団に突っ込んだ。
大陸でロマジェリカ城へ強襲したときも感じたけれど、ジャセンベル軍は本当に出方が強引だ。
数人を跳ね飛ばし、入り口付近でようやく車を止めた。
穂高は槍を手に飛び降りると、城内から出てくる敵兵をなぎ倒していく。
レイファーはピーターとケインを筆頭に、庸儀の兵たちを城内に向かわせた。
ヤツらが本当に庸儀軍を投降させられるのなら、無駄な争いをせずに済むだろう。
半信半疑ではありながらも、拠点に連れられてきたときからの様子では、本心から言っていたように思える。
穂高が打ち倒した敵兵は、レイファーの指示で次々とジャセンベル兵に拘束されていく。
「このぶんだと、そう時間をかけずに一掃できるな……」
「街なかに出ている敵兵も、泉翔に追われて戻ってくるだろう。城の中はピーターとケインに任せて、俺たちはここで対応するぞ」
レイファーに言われ、うなずいて返す。
周囲のジャセンベル兵たちに指示を出すレイファーをみていた。
よく統率が取れているとつくづく実感する。
襲撃をされていたときは、穂高自身も防衛に出たことはあった。
こんなにもまとまっている軍を、良く追い返せていたものだ。
鴇汰は特に、ほぼ毎回だ。
拠点でみた鴇汰は、西浜で再開したときと雰囲気が違った。
なにがどうと言われると、ピンとこないけれど――。
この戦争が終わったら、豊穣に出たあとのことをゆっくり話したい。
きっと鴇汰も、いろいろと話したいことがあるだろう。
どこからか、馬の蹄の音が聞こえてきた。
レイファーも気づいたのか、すぐにジャセンベル兵たちを城門脇の通りに配備し、警戒させている。
西浜の方角から現れたのは、馬に乗ったマドルだ。
「あいつが戻ってきた! 城へ逃げ込むつもりか?」
「長田たちがうまく往なしたようだな。だが、城へ戻らせるわけにはいかないだろう? 上田、ここで阻止するぞ」
「ああ。わかっている」
マドルも穂高たちに気づき、馬を降りた。
レイファーが剣を抜き、穂高も槍を構える。
「この期に及んで逃げてどうなる? 決着をつけようじゃあないか。たった今、ここで……」
レイファーがそういった直後、門前の通りを鴇汰と麻乃が駆けてくるのがみえた。
マドルにすっかり騙されていたことがショックだったのか、全員が口を閉ざしたままうな垂れている。
徳丸や巧は隊員たちを伴って鴇汰たちのところへ向かうようだ。
岱胡は未だ中央に散らばる敵兵に対応している尾形と加賀野の加勢に出ていった。
岱胡に撃たれても、回復をすれば麻乃のところへ行くに違いない。
クロムたちもいつの間にかいなくなっている。
本当なら穂高も隊員たちを集めて行くべきなのだろうけれど、なにか嫌な予感に足を止めたままでいた。
「上田、中村たちは藤川のところへ行ったようだが、俺は城へ行こうと思う。案内を頼めるか?」
「城へ? なにをしに行こうっていうんだよ?」
「恐らくまだ城内にロマジェリカや庸儀の兵が残っているはずだ。それも捕えてしまわないと……」
「――あんたたち、城へ行くなら俺たちも連れていってくれ」
レイファーの言葉をさえぎり、赤髪の女の側近がそういった。
思わずレイファーと顔を見合わせる。
「きさまたちを連れていってなんになる? 罠でも張ってあるか? だとしても我が兵たちには通用などしないと思え」
「そんなんじゃあない! 城にはまだ俺たちの仲間もいる。抵抗せずに投降するよう説得もできる」
「ちょっとまて。なんだって急にそんなことを?」
交戦にならずに済むのなら、それはありがたいことではある。
とはいえ、穂高としては、庸儀の兵など手放しで信用できないのも事実だ。
レイファーも胡散臭いと言わんばかりの表情だ。
「そうすることが、あの人――藤川の有益になるのなら手を貸したい」
先頭の一人がそういうと、捕えた全員がうなずいている。
「おまえたち、なんだってそんなにも麻乃に対して協力的なんだ? 赤髪の女の側近ならば麻乃は邪魔なはずじゃ……」
「……あの人は、人を人として扱ってくれるからだ」
「え……?」
人を人として扱うこと、ただそれだけで、こんなに心酔するような態度に出るものだろうか?
確かにマドルも赤髪の女も、人の扱いはぞんざいでありそうだけれど……。
穂高は目の前の兵たちを眺め見てから、レイファーに視線を移した。
目が合うと、レイファーは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめている。
なにかしら、思い当たるところがあるのだろう。
「どうする?」
「本当に投降させられるのであれば連れていこう。ただし、できなかった場合の対応は我が軍で判断する。ピーター、ケイン、すぐに準備を」
レイファーに聞くと、数秒考えたあと庸儀の兵たちにそう言い、部下たちに城へ向かう準備をさせた。
ピーターの車にレイファーとともに乗り込み、城へと走る。
拠点から城まではすぐで、あっという間に城門へとたどり着く。
「やっぱりまだ兵は残っているな」
「ああ」
城門の前には十数人のロマジェリカ兵が守りを固めている。
手前で車を止めるだろうと思っていたのが、ピーターだけでなく、後ろのケインもそのままロマジェリカ兵の集団に突っ込んだ。
大陸でロマジェリカ城へ強襲したときも感じたけれど、ジャセンベル軍は本当に出方が強引だ。
数人を跳ね飛ばし、入り口付近でようやく車を止めた。
穂高は槍を手に飛び降りると、城内から出てくる敵兵をなぎ倒していく。
レイファーはピーターとケインを筆頭に、庸儀の兵たちを城内に向かわせた。
ヤツらが本当に庸儀軍を投降させられるのなら、無駄な争いをせずに済むだろう。
半信半疑ではありながらも、拠点に連れられてきたときからの様子では、本心から言っていたように思える。
穂高が打ち倒した敵兵は、レイファーの指示で次々とジャセンベル兵に拘束されていく。
「このぶんだと、そう時間をかけずに一掃できるな……」
「街なかに出ている敵兵も、泉翔に追われて戻ってくるだろう。城の中はピーターとケインに任せて、俺たちはここで対応するぞ」
レイファーに言われ、うなずいて返す。
周囲のジャセンベル兵たちに指示を出すレイファーをみていた。
よく統率が取れているとつくづく実感する。
襲撃をされていたときは、穂高自身も防衛に出たことはあった。
こんなにもまとまっている軍を、良く追い返せていたものだ。
鴇汰は特に、ほぼ毎回だ。
拠点でみた鴇汰は、西浜で再開したときと雰囲気が違った。
なにがどうと言われると、ピンとこないけれど――。
この戦争が終わったら、豊穣に出たあとのことをゆっくり話したい。
きっと鴇汰も、いろいろと話したいことがあるだろう。
どこからか、馬の蹄の音が聞こえてきた。
レイファーも気づいたのか、すぐにジャセンベル兵たちを城門脇の通りに配備し、警戒させている。
西浜の方角から現れたのは、馬に乗ったマドルだ。
「あいつが戻ってきた! 城へ逃げ込むつもりか?」
「長田たちがうまく往なしたようだな。だが、城へ戻らせるわけにはいかないだろう? 上田、ここで阻止するぞ」
「ああ。わかっている」
マドルも穂高たちに気づき、馬を降りた。
レイファーが剣を抜き、穂高も槍を構える。
「この期に及んで逃げてどうなる? 決着をつけようじゃあないか。たった今、ここで……」
レイファーがそういった直後、門前の通りを鴇汰と麻乃が駆けてくるのがみえた。
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