641 / 780
大切なもの
第91話 厭悪 ~徳丸 1~
しおりを挟む
レイファーの式神を受けとってから、徳丸はすぐに隊員たちやジャセンベル兵に撤退を指示した。
岱胡はどうやらうまくロマジェリカの軍師を撃ち、巧たちと合流したようだ。
未だ城から湧いてくる庸儀とロマジェリカ兵を相手に、少しずつ城を離れていく。
隊員たちを先に、徳丸はしんがりで敵兵を相手にしていた。
城門が目に入る通りへ差しかかったとき、門からまた庸儀の集団が出ていくのが見え、徳丸は自分の隊員たちを呼んだ。
「深山! 植田! ちょっと待て!」
足を止めた深山と植田が駆け寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「ああ。今、城門から出てきた一団が気になる。おまえたちはこのまま拠点に戻り、加賀野さんたちの指示を仰げ。松浦、篠岡はそのまま小隊を連れて俺と来てくれ」
そう指示を出すと徳丸は数隊を引き連れて、たった今出てきた一団を追った。
先頭を行く数人に見覚えがあるような気がする。
やつらは西浜へのルートに向かっているようだ。
浜に用はないはず――。
(――麻乃か)
修治と鴇汰が七番の隊員たちを連れ、麻乃の中央侵入を阻むために西浜へのルートへ向かっている。
恐らくロマジェリカの軍師の指示で、それを邪魔しに行くのだろう。
であれば、それを放っておくことはできない。
「松浦、篠岡、あの集団をたたくぞ」
二人がうなずいたのを確認して、足を速めた。
まだ街なかで敵兵に備えて待機していた予備隊と行き会い、通りを先回りさせて挟み撃ちにするように言い含めた。
一団が通りの角を曲がったところで、一気に間合いを詰める。
さすがに庸儀の兵たちもこちらに気づき、通りの向こうから回り込んだ予備隊も合わせて戦闘になった。
ここまで残って進軍しているだけあって、なかなか手ごたえのある連中ではある。
それでも、こちらは人数で上回っているうえにジャセンベル兵も伴っているため、時間をかけずに拘束できた。
「松浦、おまえはこのままこいつらを南浜へ戻し、ほかの敵兵と一緒に拘禁しておくように」
「わかりました」
「ケイン、すまないが南浜までジャセンベルの兵にも何人か同行してもらいたい」
「ああ。さっきの森へ戻れば車もある。いいように使ってくれ」
確かに、これまでと違って夜を迎えることになるから、車のほうが都合がいいだろう。
危険も薄くなる。
「きさまら……あの人をどうするつもりだ?」
唐突に庸儀の兵がそう問いかけてきた。
思わずケインと顔を見あわせる。
「あの人……?」
「本物の紅き華のことだ!」
「……紅き華? 麻乃のことか」
どうするつもりとは、一体どういうことだ?
「麻乃がどうしたっていう?」
「取り押さえたそうじゃあないか! まさかあの人に危害を加えようなど……」
「馬鹿なことをぬかすな! そもそもが麻乃に危害を及ぼしたのは、きさまらのほうだろうが!」
赤い髪の女が現れたとき、麻乃に集中して敵兵が襲い掛かってきたというのは、巧に聞いて知っている。
大陸に潜んでいるあいだも、どうやら麻乃がつけ狙われていたらしいということも、サムに聞き及んでいる。
「最初は確かに……だが今はあの人は我らの希望だ!」
「そうだ! 我々の今後はあの人によって大きく変わる!」
まるで麻乃を救世主かのように見ている姿に、徳丸は困惑した。
一体、なにがどうなると麻乃が大陸の希望になるのか。
「きさまらは一体、なにを言っている……? 麻乃が希望ってのはなんのことだ?」
「――野本、こいつらはなにかを知っている。これは一度、おまえたちの仲間のところへ連れていったほうがいい」
ケインが徳丸に身を寄せ、小声でそう言った。
「テントに戻れば、レイファーさまも戻っているはず。場合によっては詳しい話しを聞けるかもしれない」
「わかった。そうしよう」
ここにいる庸儀の兵たちと徳丸たちのあいだでは、麻乃の今の状況に対する思いに差異があるように感じた。
同盟三国は無理やり覚醒させた麻乃を使って、泉翔を潰すのが目的だと思っていた。
やつらの口ぶりだと、それとは少しばかり違いを感じる。
南浜でサムがロマジェリカの軍師の甘言がどうといっていたけれど、そのせいなのだろうか。
(だとしたら、こいつらになにをいいやがった? こうまで心酔した様子になるってのはどうもおかしいじゃあねぇか)
徳丸自身はまだマドルの姿を目にしていない。
けれど、こうまでいろいろと企ててくることに、どうにも嫌悪感が拭えない。
「松浦、こいつらは俺とケインで拠点へ連れていくことにする。すまないが、篠岡とともにもうしばらく近辺を警戒していてくれ」
「はい。敵兵が現れたときはどうしますか?」
「庸儀であれば拘束を。ロマジェリカの軍師が出ていたときは、退くように」
「わかりました」
「拠点に戻り次第、深山をこっちへ寄越す。状況に変化があれば、すぐに退いて知らせてくれ」
松浦たちと別れ、徳丸はケインとともに庸儀の兵たちを拠点へと連れ帰った。
岱胡はどうやらうまくロマジェリカの軍師を撃ち、巧たちと合流したようだ。
未だ城から湧いてくる庸儀とロマジェリカ兵を相手に、少しずつ城を離れていく。
隊員たちを先に、徳丸はしんがりで敵兵を相手にしていた。
城門が目に入る通りへ差しかかったとき、門からまた庸儀の集団が出ていくのが見え、徳丸は自分の隊員たちを呼んだ。
「深山! 植田! ちょっと待て!」
足を止めた深山と植田が駆け寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「ああ。今、城門から出てきた一団が気になる。おまえたちはこのまま拠点に戻り、加賀野さんたちの指示を仰げ。松浦、篠岡はそのまま小隊を連れて俺と来てくれ」
そう指示を出すと徳丸は数隊を引き連れて、たった今出てきた一団を追った。
先頭を行く数人に見覚えがあるような気がする。
やつらは西浜へのルートに向かっているようだ。
浜に用はないはず――。
(――麻乃か)
修治と鴇汰が七番の隊員たちを連れ、麻乃の中央侵入を阻むために西浜へのルートへ向かっている。
恐らくロマジェリカの軍師の指示で、それを邪魔しに行くのだろう。
であれば、それを放っておくことはできない。
「松浦、篠岡、あの集団をたたくぞ」
二人がうなずいたのを確認して、足を速めた。
まだ街なかで敵兵に備えて待機していた予備隊と行き会い、通りを先回りさせて挟み撃ちにするように言い含めた。
一団が通りの角を曲がったところで、一気に間合いを詰める。
さすがに庸儀の兵たちもこちらに気づき、通りの向こうから回り込んだ予備隊も合わせて戦闘になった。
ここまで残って進軍しているだけあって、なかなか手ごたえのある連中ではある。
それでも、こちらは人数で上回っているうえにジャセンベル兵も伴っているため、時間をかけずに拘束できた。
「松浦、おまえはこのままこいつらを南浜へ戻し、ほかの敵兵と一緒に拘禁しておくように」
「わかりました」
「ケイン、すまないが南浜までジャセンベルの兵にも何人か同行してもらいたい」
「ああ。さっきの森へ戻れば車もある。いいように使ってくれ」
確かに、これまでと違って夜を迎えることになるから、車のほうが都合がいいだろう。
危険も薄くなる。
「きさまら……あの人をどうするつもりだ?」
唐突に庸儀の兵がそう問いかけてきた。
思わずケインと顔を見あわせる。
「あの人……?」
「本物の紅き華のことだ!」
「……紅き華? 麻乃のことか」
どうするつもりとは、一体どういうことだ?
「麻乃がどうしたっていう?」
「取り押さえたそうじゃあないか! まさかあの人に危害を加えようなど……」
「馬鹿なことをぬかすな! そもそもが麻乃に危害を及ぼしたのは、きさまらのほうだろうが!」
赤い髪の女が現れたとき、麻乃に集中して敵兵が襲い掛かってきたというのは、巧に聞いて知っている。
大陸に潜んでいるあいだも、どうやら麻乃がつけ狙われていたらしいということも、サムに聞き及んでいる。
「最初は確かに……だが今はあの人は我らの希望だ!」
「そうだ! 我々の今後はあの人によって大きく変わる!」
まるで麻乃を救世主かのように見ている姿に、徳丸は困惑した。
一体、なにがどうなると麻乃が大陸の希望になるのか。
「きさまらは一体、なにを言っている……? 麻乃が希望ってのはなんのことだ?」
「――野本、こいつらはなにかを知っている。これは一度、おまえたちの仲間のところへ連れていったほうがいい」
ケインが徳丸に身を寄せ、小声でそう言った。
「テントに戻れば、レイファーさまも戻っているはず。場合によっては詳しい話しを聞けるかもしれない」
「わかった。そうしよう」
ここにいる庸儀の兵たちと徳丸たちのあいだでは、麻乃の今の状況に対する思いに差異があるように感じた。
同盟三国は無理やり覚醒させた麻乃を使って、泉翔を潰すのが目的だと思っていた。
やつらの口ぶりだと、それとは少しばかり違いを感じる。
南浜でサムがロマジェリカの軍師の甘言がどうといっていたけれど、そのせいなのだろうか。
(だとしたら、こいつらになにをいいやがった? こうまで心酔した様子になるってのはどうもおかしいじゃあねぇか)
徳丸自身はまだマドルの姿を目にしていない。
けれど、こうまでいろいろと企ててくることに、どうにも嫌悪感が拭えない。
「松浦、こいつらは俺とケインで拠点へ連れていくことにする。すまないが、篠岡とともにもうしばらく近辺を警戒していてくれ」
「はい。敵兵が現れたときはどうしますか?」
「庸儀であれば拘束を。ロマジェリカの軍師が出ていたときは、退くように」
「わかりました」
「拠点に戻り次第、深山をこっちへ寄越す。状況に変化があれば、すぐに退いて知らせてくれ」
松浦たちと別れ、徳丸はケインとともに庸儀の兵たちを拠点へと連れ帰った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる