蓮華

釜瑪 秋摩

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大切なもの

第86話 計略 ~穂高 1~

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 巧とレイファーとともに城へと向かった。
 隊員たちとジャセンベル兵、反同盟派を混ぜた小隊をいくつか作り、隊員たちに先導するよう指示をした。
 城門へ続く道を少しずつ近づいていく。
 庸儀の兵がちらほらと見える。

「まだ使えないな……」

 穂高は何度かメモに術式を書いて飛ばそうと試みたけれど、ハトに変わる気配はない。

「式神で見れば城門の中まで状況がわかるのに……」

「それは仕方がないわよ。まずは城門を囲っている敵兵を倒す。騒ぎが起これば、城内の兵たちも出てくるはずよ」

「ここまで来たらあとは力で捻じ伏せるだけだ。もう三国同盟も数はいないだろう。我々の兵力を持ってすればたやすい」

 巧とレイファーにうなずいて返した。
 二人の言うように、今はそうするしかないんだろう。

 それに……。

 こちら側で騒ぎが起これば、岱胡の向かった用具入れのほうが手薄になるだろう。
 そうなれば岱胡の計画も事が運びやすくなる。
 城へと続く通りは数本あり、そのどれも庸儀の雑兵が控えていた。
 こちらの手を逃れ、城へとたどり着いただろうロマジェリカやヘイトの兵もある。

「やはり数としてはそう多くないな」

「だいぶ警戒はしているように見えるから、やる気はありそうだね」

「ここでジッとしていても仕方がないわね。もう日も落ちるし、ここで一気にたたくわよ」

 各小隊がそれぞれ城へ続く通りへ向かう。
 夕暮れ時ではあるけれど、まだ味方と敵兵を間違えるほど視界が悪いわけではない。

「まずは城門までの通りを一掃しましょう」

「巧さん、城内はどうする?」

「迂闊に入ると、あるいはロマジェリカの軍師が出てくるかもしれないだろう」

「それはまずいわね。岱胡の計画に支障がでてしまう」

「となると、城門前で様子をみたほうがいいか……」

 穂高と巧が考えあぐねていると、レイファーが痺れを切らしたように言いきった。

「ここで悩んでもたついているのは時間の無駄だ。攻めるのは城門まで。その先は状況をみて判断すればいい」

「……そうね。今はレイファーの言うようにしましょう」

 うなずいて、それぞれ別の通りへ向かう。
 巧が手をあげて合図をしたのと同時に、一気に攻め込んだ。
 警戒をしていたようだけれど、この時間に動くと思っていなかったのか、敵兵は慌てふためいたようにみえる。
 泉翔だけではなく、ジャセンベルがいることも、同盟三国を驚かせる要因になっているのだろう。

梶川かじかわ豊田とよだ、おまえたちは敵兵を捕らえたら、ジャセンベルと協力して敵兵の拘束を頼む」

「わかりました!」

 向かってくる敵兵の剣を槍で弾き飛ばし、柄で打ち倒しながら先へ進んだ。
 通りの向こうからは、騒ぎを聞きつけたのか、ロマジェリカ兵が集まってくるのがみえる。
 思ったより多いけれど、想定を超えるほどではないのは、各通りにばらけているからだろう。

 倒すのはたやすい。
 レイファーには甘いだの温いだのと言われるだろうけれど、穂高はできるだけ生かして捕らえるように敵兵を倒した。
 もちろん、それが通用しない場合もあるけれど……。
 穂高の倒した敵兵は、あっという間にジャセンベル兵に拘束されていった。

「城門まであと少しだ! みんな気を抜くな!」

 正面に見える城壁に沿って、巧の部隊が駆けていくのがみえた。
 そのおかげか、通りに入ってくる敵兵がいなくなり、穂高の通りにいた敵兵をすべて無事に拘束できた。
 通りを抜けると、城門前ではもう交戦が始まっている。
 穂高は城壁に身を寄せ、もう一度、メモに術式を書いて飛ばした。
 ひらりと舞ったメモが落ち、地面に着く寸前でハトに姿を変えて飛び立った。

「――通った!」

 二本隣の通りから飛び出してきた巧が、それを見あげてから駆け寄ってきた。

「穂高! 術が使えるようになったのね?」

「うん、ここからが正念場だと思う。油断しないでいこう」

 隣の通りからレイファーも姿を現し、示し合わせて城門へと向かった。
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